受話器の向こうで誰かが笑う

 

ジュディ・ハートレー(16歳)は、ミズーリ州セントルイスにある大きな家でベビーシッターのアルバイトをしていた。その家の両親がパーティーで出かけた夜のことだった。ジュディは3人の子供たちを2階で寝かしつけ、いまは1階でのんびりとテレビを見ていた。娯楽番組の笑いに誘われて、彼女も大きな口をあけて笑っていた。
そのとき、ジュディの笑い声を突き破るように電話のベルが鳴った。
「ううん、いいところなのに」
ジュディは口を尖らせて、電話に出た。
「もしもし、どちらさまですか?」
「ヒッヒヒヒ、ヒッヒヒヒ」
ヒステリックな男の笑い声が受話器から聞こえてきた。ジュディは受話器を落としそうになった。先ほどまでの笑い声が嘘のように、けわしい顔つきになる。
「誰なの?悪ふざけはやめなさいよ!」
ジュディはなんとかそう言うと、ガチャンと電話を切った。切った後で、嫌な予感がジュディの脳裏に残った。
ジュディが、不安を抱いたまま、再びテレビを見始めると、また電話が鳴った。ジュディの全身を恐怖が包んだ。
ジュディが恐る恐る受話器を取る。
「ヒッヒヒヒ、ヒッヒヒヒ」
先ほどと同じ無気味な笑いだ。ジュディはすぐに電話を切った。切った後でガタガタと震え始めた。それでもジュディは、まだ冷静さを失ってはいなかった。
ジュディは迷わずオペレーターに電話をかけたのだ。
「はい、電話局です」
「お願い、助けて、実はね・・・」
こうしてジュディが事情を説明すると、オペレーターは「心配しないで」とやさしく言った。そして、こうも言った。
「今度かかってきたら、できるだけ通話を長引かせてちょうだい。そうすれば、逆探知して相手がどこからかけているか調べてあげるから」
「わかった。やってみるわ」
電話を切る。すぐに電話が鳴る。ジュディの顔が青ざめる。
(あいつだわ・・・・)
ジュディは勇気を出して受話器を取る。
「どうして、こんなことをするの?」
震えながらたずねるジュディ。
「ヒッヒヒヒ、ヒッヒヒヒ」
不気味な笑い声を繰り返す男。
「ここの家の人に恨みでもあるの?」
なおもジュディが問い掛ける。
「ヒッヒヒヒ、ヒッヒヒヒ」
電話の向こうからは、いやらしい笑い声が返ってくるだけだ。
それでもジュディは考えられるかぎりの質問をして、通話を長引かせた。しかし、ついに電話が切れた。
へなへなとジュディはその場に座り込んでしまった。
(もう、いやー。誰か助けて!)
ジュディがぐったりうつむいていると、突然、電話が鳴った。
ルルルルル!ルルルルル!
ビクッとジュディの体が反応する。こわごわと手を伸ばし受話器を取る。
オペレーターからの電話だ。ほっ、と全身の力が抜ける。
しかし、それもつかの間。すぐに緊張が切れた。オペレーターの声が、先ほどとはうってかわって高ぶっている。
「すぐに、そこを出るのよ!今すぐよ!」
ただならぬ気配が受話器越しに押し寄せる。
「わ、わかったわ。でも、なぜ?なぜここを出なくちゃいけないの?」
オペレーターのイライラした様子が受話器から伝わってくる。
「あの電話は、あなたの家の2階からかかっていたのよ!」
「!」
ジュディは素早く玄関に向かって走った。そして、外に出ようとしたとき、背後で人の気配がした。反射的に振り返った。
ジュディが見たのは、笑いながら階段を降りてくる若い男の姿だ。しかし、その男はまともではない。手にはギラギラと鈍い光を放つ肉切り包丁が握られている。そして、その包丁の先からは、ポタポタと音が聞こえそうなほど滴る、大量の赤黒い血が・・・・・。
2階で寝ていた3人の子供たちが殺されたことは間違いなかった。
(逃げるのよ、ジュディ!)
ジュディは自分に言い聞かせた。しかし、体が言うことをきかない。
「ヒッヒヒヒ、ヒッヒヒヒ」
背後から近づく男の不気味な笑い声。
(早く、早く逃げるのよ、ジュディ!)
でも、体が・・・・。
そのとき、オペレーターの連絡により駆けつけた警察官が家に飛び込んできた。
男は逮捕され、ジュディは救われた。しかし、ジュディは死んだ人のように気を失ってしまったのだった。

 

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