校舎の窓辺にたたずむ女の子
それは夏休みの暑い午後のことでした。
学校には部活動のためにたくさんの生徒が来ていました。私の所属する硬式テニス部も一年生の進入部員を交えて、毎日のように練習に汗を流していました。
炎天下で柔軟体操をし、素振りが終わるころには全員滴るほどの汗です。
私はタオルで顔と汗を拭き、息を整えていたのですが、どこからかじっと見られているような気がして校舎を見上げました。テニスコートのすぐ横にある校舎の五階の窓からおかっぱ頭の女性とがじっとこちらを見ています。
なんだか気になって、ほかのテニス部員に聞いてみると、毎日のようにテニスの練習を見ているといいます。もしかしたら、入部したいんじゃないかしら、そう思った私は、誘ってみることにしました。
ちょうど、休憩に入っていましたので、私はほかの部員に断って校舎の階段を上りはじめました。
その校舎の五階は科学室や物理室などがあって普通のクラスがあるわけではありません。考えてみればそんなところから毎日外を眺めているなんておかしなことだったのですがそのときは何も気づかなかったのです。
ちょうど五階の手前の踊り場まできたとき、私は大きな声をかけてみました。
「ねえ、テニス部に入りたいの?」
「・・・・・・・・・・・・」
返事はありません。
「ねえねえ、入りたいんだったら、見学にくれば・・・・・」
私はそう言いながら、残りの階段を駆け登り、その場に凍りついたように立ちすくんでしまいました。
たしかに、おかっぱ頭の女の子は窓に腕をかけてもたれていたのですが・・・・、彼女には下半身がなかったのです。宙に上半身を浮かせたまま、女の子は無表情な顔をゆっくりこちらに向けました。
そして、
「・・・・・私じゃない・・・・・私じゃない」
といいながら、近づいたきたのです。
「キャー!」
私は悲鳴をあげると、もつれそうになる足で階段を駆け下りました。途中で何度も転びそうになります。頭の中は真っ白で、何階降りたのかもわからないまま、気がつくと、トイレに逃げ込み、一番奥の個室に隠れていました。自分の荒い息遣いが聞こえるのではないかと、生きた心地もしません。
それは、とてつもなく長い時間に感じられました。
誰かが助けにきてくれることだけを祈って、じっとしていた私は、ひゅうと生暖かい風が吹いてきたのを感じて身体を硬くしました。
「ギィィィィ・・・・・・!」
いきなり、トイレの一番入り口のドアの開かれる音がします。そして、
「・・・・ここじゃない」
という細くて不気味な声が聞こえてきました。
「ギィィィィ・・・・・・!」
次のドアが開かれました。
「・・・・ここじゃない」
私は恐怖のあまり、倒れてしまいそうでした。
「ギィィィィ・・・・・・!」
隣のドアが開き、もう一度女の子の声が聞こえたときには、私は坐りこんで、顔を覆ってしまいました。
(次はここだ・・・・見つけられる)
そう思ってただ震えていたのですが、いつまでたっても私のいるところのドアを開けようとする気配はしませんでした。
どのくらい時間がたったでしょう。私は恐る恐る顔を上げてみました。ドアは閉まったままでした。
(・・・・・助かった)
女の子が諦めたのだと思った私は、そっとドアを開けようとしたのですが、そのとき、
「フフフ・・・・」
笑い声が上のほうから聞こえ、見ると、おかっぱ頭の女の子がドアの上から覗いて笑っていたのでした。
その顔を見たとたん私は気を失ってしまいました。
トイレで倒れていた私を見つけてくれたのはテニス部の部員たちでした。私が見たことを最初はみんな信じてくれなかったのですが、何日かあとになってテニス部の先輩にこんな話を聞かされ、私たちはもう一度震え上がったのです。
それは何年か前のことです。おかっぱ頭の女の子が在学していて、文化祭の会計係りをやっていたのですが、会計が合わないことから疑われて、五階の窓から飛び降り自殺をしたというのです。そのとき、彼女の身体は校舎の下のほうに張り出していた屋根にあたり、二つに裂けてしまうという悲惨な死に方だったそうです。そして、したいが発見されたのがテニスコートの上だったそうです。