冥界から呼び出された男
私は小さいころから怖い話の体験をいくつかしていますが、そのなかから高校1年のときに怖い思いをしたお話をしようと思います。
私が通っていた高校では、学期末テストのあとに球技大会が開かれ、全員がどのスポーツでもいいから参加しなければなりませんでした。
私は仲良しグループで相談してバレーボールに出場したのですが、一回戦で負けてしまって、後はほかの同級生の応援をするしかなかったのです。
しばらく見ていたのですが、自分たちの試合でないので退屈してしまい、グループ六人で教室に戻ってしまいました。
はじめは相談していましたが、それも飽きてきて、みんななんだかぼんやりしていると、
一人が、
「誰か、催眠術かけられない?」
といい始めたのです。
するとSさんが、
「私、できるよ」
と答えたので、その場は一気に盛り上がってしまいました。
Sさんを中央に円陣を作ると、「私にかけて」と、一人の子が真中に座りました。
Sさんは、糸に五円玉を縛り付けると、それを振り子のようにもって、真中に座っている子の前でゆっくりと振り始めました。みんな息を呑んでじっと見守っていました。
「あなたは眠くなる・・・・・」
そんなことを何度も繰り返していたように思います。
五円玉を見つめていた子は、少しとろんとした目つきになりましたが、それが催眠術にかかったかどうかはよくわかりません。
そこで、今度は私が五円玉を振ってみることにしたのです。そして、Sさんが私の前に座りました。
もちろん私は、まさか自分に催眠術ができるとは思っても見ませんでした。ほんの遊びの気持ちだったのです。
ところが、それから数分もしないうちに、Sさんは急にがくっとあたまをたれてしまいました。
「あれ?どうしたの?まさか、かかっちゃった?」
このときもまだ冗談半分に、みんなSさんをゆすったり、突っついたりしていたのです。
私はSさんの顔を覗きこみながら、
「あなたは誰ですか?」
と聞いてみました。
返事はありません。
ところが、もう一度、同じ質問をしたときのことです。
「うるさい!誰でもいいだろう!」
Sさんは怒鳴るようにそういうと、顔を上げて私たちを睨み付けたのですが、その顔も声もSさんのものではありません。声は太い男のものだし、顔は青ざめ、目ばかりぎらついています。
「キャーッ!」
私たちは叫び声をあげながら、教室から外へ逃げ出しました。
廊下を出たところで振り返った私は、驚き以上の恐怖を感じて、その場に立ちすくんでしまいました。Sさんのちょうど肩のところに、恐ろしい形相の男の人の顔がくっきりと見えたのです。
そこに、騒ぎを聞きつけた先生が飛び込んでくると、Sさんの肩をつかんで大きく揺さぶりました。
「Sさん!しっかりしなさい!目を覚ましなさい!」
何度も先生が呼びかけると、Sさんはしばらくして、ポカンと目をあけました。
そして、
「どうしたこんなに肩が痛いの?」
といいました。
それは、いつものSさんの声でしたので、まわりで恐る恐る見守っていた私たちも、ほっと胸をなでおろしたのでした。
ところが・・・・・。それだけでは終わらなかったのです。
その日の放課後、私はSさんと学校を出たのですが、ずっと肩が痛いというSさんの様子が気になっていました。
そして、家に帰り着くとすぐに、Sさんから電話がかかってきたのです。
Sさんは、私とわかれてからいつものようにバスに乗って、いつものように右側の前から三番目の座席に座ったそうです。そして、何気なく運転席の後ろにあるルームミラーを見ると、自分の後ろに男の人が映っていたそうです。Sさんは、驚いて後ろを見ました。でも、そこには誰もいなかったのです。
電話を切ってから、私は、あの男の人がSさんについていってしまったのだと直感しました。
私が催眠術で呼び出してしまったのです。
これから何が起こるのか、どうすればいいのか、頭は混乱状態に陥りました。ひどいのどの渇きを覚えてキッチンに行った私は、カウンターの上に置かれた鏡を見て、心臓をつかまれたような衝撃に襲われました。
小さなその鏡の中から、あの男が私を睨み付けていたのです。