死を招く「キュルキュル」
それは二年前の夏、たしか、お盆の前後のことですが、私の友人のS君は大学の先輩のAさん、Bさんを誘って、男三人で伊豆七島のひとつのN島に遊びに行きました。
先輩のAさんの親が持っている別荘を借りて、夏休みを満喫する計画を立てたのです。
運がよければ、遊びにきている女の子をナンパできるのではないかという気持ちもあったそうです。
五日間、散々遊びまわり、残念ながら、ナンパのほうは失敗してしまいましたが、それでも島の夏を堪能し、明日はS君とBさんだけが東京に帰り、Aさんは二、三日後にやってくる両親と合流するために別荘に残ることになりました。
最後の夜、三人は海から吹いてくる風を楽しみながらビールを飲んでいました。
すると、夜中の二時ごろ、突然、電話が鳴ったのです。三人とも、まだおきていて話していましたが、Aさんは、昼間海で出会った子に電話番号を教えておいたんだと、勇んで受話器を取りました。
確かに若い女の子の声でしたが、
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
と、何かを尋ねているようなのです。
ところが、肝心の「キュルキュル」の部分が、テープの早回しのようで、よくわかりません。
Aさんが何を言っても、
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
と繰り返すばかりで、最後にはAさんは、
「いたずら電話は止めろよ」
と、怒ったように電話を切ってしまいました。
翌日、SくんとBさんはN島をあとにしたのですが、それから三日後、二人は思いもかけない訃報を受け取りました・
Aさんが島の海で泳いでいる最中に亡くなってしまったというのです。
お通夜にはS君とBさんはそろって顔を出しましたが、それ以降、なんとなく二人は疎遠になり、あまり一緒に遊びに行くこともなくなってしまいました。二人でいると、どうしてもAさんのことが思い出されて辛くなるからだと、S君は言っていました。
ところが、三ヶ月ほどたったある日、突然、Bさんから電話がかかってきました。Bさんは、
「電話がきたんだ。あの電話だ」
と興奮気味に話し始めました。
前の日の夜二時ころ、電話の鳴る音に起こされ、出てみると、いきなり、
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
という声が聞こえてきたのです。
Bさんは、この電話は切ってはいけないのではないか、Aさんの死とこの電話は何か関係があるのではないかと直感し、必死になって電話の相手をしていたのですが、二時間もの間何度も何度も、
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
と繰り返されているうちに我慢ができなくなって、とうとう電話を切ってしまったということでした。
BさんはS君に、
「もし、俺に何かあったら、今度はおまえの番だ。気をつけろ」
と、いいのこして、電話を切りました。
そして、それから三日後、Bさんは交通事故で亡くなってしまったのです。
Sくんは毎日怯えながら過ごすことになりました。留守番電話にして、決して出ないようにしていましたが、電話が鳴るたび、寿命が縮まる思いだったといいます。
そして、三ヶ月後、あんなに気をつけていたにもかかわらず、ガールフレンドに電話をかけた直後にかかってきた電話が、彼女からのものだと勘違いしたS君は、受話器を取ってしまいました。
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
S君は恐ろしさのあまり、満足に受け答えもできませんでしたが、とにかく絶対にきってはいけないと、必死で応答しようとしました。
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
S君が何を言っても、電話の相手は、それしかいいせん。
朝の六時ごろ、やっと外が白みはじめるまで、それは何百回も繰り返されました。S君はもう泣き声になっていました。
外がはっきり明るくなると、
「もしもし、あなた、キュルキュルでしょ?」
の声は急に止まり、女とも男ともつかない、奇妙な間延びした声でこういったのです。
「もしもし、あなた、死にたいんでしょ?」
電話はそれきり、向こうから切れました。
S君は今も元気ですが、もしあのとき、自分から電話を切っていたらと思うと、ゾッとするといっています。