1999.6.1(1999.7.10一部改訂)   
1.はじめに
 近年、エイズなどこれまでになかった感染症や、新たに再燃が危惧される結核のような疾患が問題になることが多くなってきた。また、感染経路として医療現場での事故(院内感染)も少ないとはいえない。
 幸い当院ではこれまで大きな事故もなく、スタッフ各々が注意を払うことにより、安全に業務を遂行してくることができていた。1999年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が大幅に改められたことを契機に、我が元町HDクリニックにおいても院内感染を予防することを目的として、また系統化する事によってより一層の安全な透析を目指し、院内感染防止マニュアルを作成する事にした。
2.感染防止対策委員会の設置
1)目的
 院内感染の防止を目的とし、円滑に効率よく各部署が実施できることを目指し、元町HDクリニック感染防止対策委員会(以下、対策委員会)をおく。
2)委員の構成
 対策委員会は医局、看護部、臨床工学技士部、薬局、臨床検査部、事務部の代表を持って構成する。また必要に応じて代表委員以外の人員の参加を求めたり、院外からのオブザーバーの招聘も妨げないものとする。代表委員の任期は特に定めない。
〔委員名〕 (2003年10月現在)
医局  申 曽洙
看護部 高橋 東子
技士部 森上 辰哉
臨床検査部 清水 康
薬剤部 押部 節子
事務部 池田 博文
3)運営
 対策委員会は定期的に開催する(1回/月)、また必要に応じて臨時に開催することもできる。
 決定内容は院長の承認を得て実施する。
4)議事録、他
 ・書類として残す他、院内のコンピュータネットワークを活用し、LAN上でも検索できるものとする。但しここには個別の患者情報は含まない様に配慮する。
 ・感染症対策マニュアル、議事録、各種感染症情報等を掲載し、スタッフの教育の一助とする。
3.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の対象となる感染症の定義・類型(参考文献@より抜粋)
  感染症名等 性 格 主な対応・処置
感染症類型 〔一類感染症〕
・エボラ出血熱
・クリミア・コンゴ出血熱
・ペスト
・マールブルグ病
・ラッサ熱
感染力、罹患した場合
の重篤性等に基づく総
的な観点から見た危険
が極めて高い感染症
・原則入院
・消毒等の対物措置
(例外的に、建物への
措置、通行制限等の措
置も適応対象とする)
〔二類感染症〕
・急性灰白髄炎
・コレラ
・細菌性赤痢
・ジフテリア
・腸チフス
・パラチフス
感染力、罹患した場合
の重篤性等に基づく総
的な観点から見た危険
が高い感染症
・状況に応じて入院
・消毒等の対物措置
〔三類感染症〕
・腸管出血性大腸菌感染症
感染力、罹患した場合
の重篤性等に基づく総
的な観点から見た危険
が高くないが、特定の
業への就業によって感
症の集団発生を起こし
る感染症
・特定職種への就業制

・消毒等の対物措置
〔四類感染症〕
・Bウイルス感染症
・Q熱
・アメーバ赤痢
・エキノコックス症
・黄熱
・オウム病
・回帰熱
・急性ウイルス性肝炎
・狂犬病
・クロストスポリジウム病
・クロイツフェルトヤコブ病
・劇症型溶血性レンサ球菌感染症
・後天性免疫不全症候群
・コクシジオイデス症
・ジアルジア症
・腎症候性出血熱
・髄膜炎菌性髄膜炎
・先天性風疹症候群
・炭疸
・ツツガムシ病
・デング熱
・日本紅斑熱
・日本脳炎
・乳児ボツリヌス症
・梅毒
・破傷風
・発疹チフス
・バンコマイシン耐性腸球菌感染症
・ハンタウイルス肺症候群
・ブルセラ症
・マラリア
・ライム病
・レジオネラ症
・その他定点把握の対象となる27
種の感染症
国が感染症発生動向調
査を行い、その結果等
基づいて必要な情報を
般国民や医療関係者に
供・公開していくこと
よって、発生・拡大を
止すべき感染症
・感染症発生状況の収
集、分析とその結果の
公開、提供
指定感染症 政令で1年間に限定して指定され
た伝染病
既知の感染症の中で上
記一〜三類に準じた対
の必要が生じた感染症
(政令で指定、1年限定
厚生大臣が公衆衛生
審議会の意見の聴い
上で、一〜三類感染
に準じた入院や消毒
の対物措置を実施。
(適応する規定は政
で規定する。)
新感染症 〔当初〕
都道府県知事が厚生大臣の技術的
指導・助言を得て個別に応急対応す
る感染症
人から人に伝染すると
認められる疾病であっ
て、既知の感染症と症
等が明らかに異なり、
の伝染力及び罹患した
合の重篤度から判断し
危険性が極めて高い感
厚生大臣が公衆衛生
審議会の意見を聴い
上で、都道府県知事
対し対応について個
に技術的指導・助言
行う。
〔要件指定後〕
政令で症状等の要件指定をした後
に一類感染症と同様の扱いをする感
染症
一類感染症に準じた
対応を行う。
 
4.各部署における院内感染対策
1)院内一般
 ・感染症の検査は十分と思われる検査を実施していても、その検査時期、方法で陰性とされることや、未知の感染症があることを留意すべきである。
 ・すべての患者の体液や分泌物は感染症検査が陽性と考え、十分な注意を持って取り扱う事によって上記のような未知の感染源からの汚染も防げる。
 ・結核などの飛沫感染は別の予防方法が必要であるが、B型肝炎ウイルスの感染対策手順(参考文献3,4)によって、ほぼ体液(分泌物)を介する感染症の予防ができると考えて、以下のことをよく理解し、実施する。
 ・院内感染の防止には、十分な手洗いを基本とする。流水と石鹸による手洗いが原則となる。必要時は各種消毒剤(アルコール、ヒビテン等)を使用する。
 ・すべてのスタッフは、感染源(媒介者)にならないように、清潔不潔の概念、手洗いなど、感染対策の基本知識を身につけるようにしておく。
 ・患者さんには定期的に(談話会等を利用して)感染症対策の教育を実施する。
 ・院外からの派遣者(清掃、厨房等)には、医療機関内で就業することを注意し、院内のスタッフ同様感染源(媒介者)とならないように注意していただく。必要があれば院内のスタッフによる教育、消毒材料等の提供も行う。
2)医局
 ・各部署の感染対策に対する、指導を行う。
 ・患者発生時には適切な処置を行い、必要とされる場合には関係諸機関に連絡する。
 ・患者への指導、広報を行う。
3)看護部
 ・医療機器の安全、各種器具(コッヘル等)の確実な消毒及び滅菌。
 ・透析作業時(開始、終了時)にはディスポの手袋を使用し、患者毎に取り替える。
 ・透析時に使用する物品、医薬品の共用は避ける。
 ・ディスポ製品でない、特に穿刺に使用する駆血帯や血圧測定時に使用する聴診器はその汚染に注意をし、必要と認めれば消毒等の処置を行う。
 ・スタッフの安全対策。(特に針事故対策)
 ・医師に協力し、患者への広報を行う。
4)透析技士部
 ・透析機器、ライン等の定期洗浄、消毒を実施し、安全を常に確保する。
 ・透析作業時は看護部と同様の注意をする。
 ・スタッフの安全対策。(特に針事故対策)
 ・医師に協力し、患者への広報を行う。
 ・各種透析療法(P/P HDF等)に伴う感染の危険性を熟知し、必要があればその処置をする。
5)臨床検査部
 ・すべての患者検体(血液等)は感染源であると認識し、予防手段を講じる。
 ・患者検体は医療廃棄物として適切に処理し、感染症の原因とならないように注意する。
 ・検査機器(心電計、エコー等)は、患者さんに直接触れるので、感染源(媒介者)にならないように注意し、必要があれば適切な消毒を実施する。
 ・MRSA・VRA・結核等特殊な病原体が検出されたときは速やかに他部門に連絡すると共に、医局の指示に従い適切に処置する。
 ・検査室内の汚染に注意し、定期的な消毒を実施する。
 ・感染症関連情報について必要があれば資料収集、広報等を実施する。
6)薬局
 ・消毒薬情報、治療薬情報等、感染症関連薬剤の広報を行う。
 ・患者教育のための情報収集を実施する。
7)事務所
 ・医療事故対策(院内労災規定等の整備、マニュアル化)。
 ・医局より依頼のあった場合の保健所届け出マニュアル等の、書類の保管。
 ・外部業者(清掃、食堂他)の安全管理、また感染者発生時の対応方法の指示。
 ・感染対策情報の収集(マスコミ等)。
 ・当院からの緊急患者発生時(第1種及び第2種感染症指定医療機関、保険所等の緊急連絡先)の連絡先の一覧化。
 ・感染性廃棄物に関する管理。(マニフェスト、契約書等)  
 ・職員の健康診断の記録。 
 ・クリニック全体の各種安全に関する調整、指導、委託等の管理。
5.院内感染事故対策手順
1)針刺し事故等(スタッフ)
 ・事故予防を第一とするため、原則としてリキャップは行わない。何らかの理由によりリキャップをするときは両手でしないなど針刺し事故が起こらないように注意する。
 ・もし事故が起こった場合は、傷害部位をまず流水で十分洗う。針刺し事故の場合、針の刺入部より血液を絞り出しながら、水道水(流水)でさらによく洗い流す。
 ・消毒の可能な部位の場合、局所をイソジン等で消毒し、清潔なガーゼを当てる。
 ・所属長に報告すると共に、診察を受ける。所属長は事故発生報告書を作成し、事務所に提出する。事務所は労災等必要な手続きをする。
 ・診察医は血液検査等必要な処置を実施する。また定期的に検査を実施するための手続きを行う。
 ・免疫グロブリン投与や、インターフェロン治療などは、その薬剤使用の安全性や効果の基準が現在も変わる可能性があるので、ここでは特に規定せず、診察医の判断に委ねる。
2)患者感染症発生時
 ・検査部、及び各透析室の責任者は、患者からの感染症がわかり次第医局に連絡し、必要な指示を受ける。
 ・医局は患者に対して適切な処置を指示し、必要と思われる場合は他の医療機関に、搬送する。
 ・必要があれば、院内の消毒、滅菌を実施する。
 ・届け出の必要な感染症の場合、速やかに指定機関に報告する。
 ・他の透析患者に不安を与えないように、院長の指導の元、情報公開し安全宣言等のアピールを行う。
 ・院内での治療で十分な場合は、感染症が拡大しないように医師、スタッフ共々注意する。
3)既知の感染症検査陽性患者について(特にHCV、HBウイルス検査陽性者)
 ・患者及びその家族に十分なインフォームドコンセントを行う。医師、看護部が中心となるが、必要があればその他の部署も協力する。
 ・具体的な注意事項(参考文献4より)HBs肝炎ウイルス陽性者
 @出血時の注意
  傷、皮膚炎あるいは鼻出血はできるだけ自分で手当をし、また手当を受ける場合には、他人に血液が付かないように注意する。血液の付着物は密封して廃棄し、廃棄できないものは自分で十分に水洗いする。
 A日用品の専用
  かみそり、歯ブラシ、タオルなどは専用とする。
 B供血の禁止
  輸血のための供血をしないように注意する。
 C乳幼児に接するときの注意
  乳幼児に口移しで食べ物を与えないように指導する。
 D月経時の処置
  月経時の処置に際しては、処置後に手指を十分に水洗する。
 E排尿・排便後の処置
  排尿・排便後は手指を十分に水洗する。
 F汚物等の処置
  分泌物などの汚物は、直ちに便所に捨てるか、密封して廃棄する。
 G定期検診
  医師の指示に基づき定期的に肝機能検査を受けるように指導する。
 HHBVキャリア
  その婚約者及び生活を共にする家族で、HBs抗体陰性者についてはHBワクチンによる予防があることを説明する。
 I他院への受診、紹介
  肝炎ウイルスの検査結果を申し出るように指導する。
6.定期検査の実施について(患者及びスタッフ)
・肝炎ウイルスを始め、必要と考えられる検査を定期的に実施する。
・実施時期、必要な項目は毎年見直しをする。
・詳細な項目、検査の時期はここに記載しない。
7.特殊感染症患者搬送先
1)第一種感染症医療機関(神戸市内)
  神戸市立中央市民病院
2)結核病棟を持つ医療機関(近隣分)
  神戸市立西市民病院    
  国立神戸病院
参考文献
1)「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の手引き
  神戸市保険福祉局編(平成11年3月発刊分)
2)感染症の届け出基準及び消毒・滅菌の手引き
  神戸市保険福祉局編(平成11年4月発刊分)
3)ウイルス肝炎対策ガイドライン −医療機関内−
  改訂V版 1995
  監修:厚生省保険医務局エイズ結核感染症課
  ウイルス肝炎研究財団
4)ウイルス肝炎対策マニュアル
  兵庫県透析医会(1999.6)
5)鳴門山上病院「院内感染防止規約」
  インターネットで入手