演劇の舞台音響
= 2005年 10月公演 「黒塚」と「道成寺」 -2- =

タイトルはなんか本格的だけど、中身は地方小劇団の音響担当者の独り言に近いものです(笑)

 今までの公演には Classic Pro CSP6 という 16cm (6.5") のスピーカを使っていたが、今回の「黒塚」では和太鼓や琵琶などの激しい音を活かしたいので、同じ Classic Pro のスピーカ CSP12 (30cm, 12") 2台をメインに使い、それを YAMAHA P2500S でドライブすることにした。

 はっきり言って、この程度の口径のスピーカが演劇用としての最低限だと思う。「ヴァイオリンの胴からコントラバスの音は出ない」と言われるが、まさにその通りだ。
 本当言うと、このクラス以上のスピーカ4台に加えサブ・ウーファーを使いたいところなんだけど、予算やセッティング、それに運搬のことを考えるとチト苦しい。

 10月15日の稽古の時、CSP12 を P2500S でドライブしてみた。パワード・ミキサーの Behringer PMH1000 のメイン・アンプでドライブするより、低音の締まりもよく高音の荒れもおとなしくなる。

 オペ君はこのスピーカ、「中音が薄い」と言うんだね。たぶん、彼女は中高域の張り出したスピーカに馴染んでたんだろう。
 しかし、拙者はこれくらいのバランスの方がナマのセリフをマスクしなくていいと思う。事実、CSP6 を使ってたときよりかなり音量を上げてもセリフがはっきりと聞き取れる。しかし、CSP6 とバランスが違うので、レベルの変更をしなければならない箇所が幾つか出てきた。

 ミキサーを変更すると音のキャラクタに変化があるだろう。しかし、そんな贅沢は今回は出来そうもない。

 誤解のないようにちょっとコメントを書いておこう。通常の演劇(ストレート・プレイ)では、音が主役や準主役になることはない。だから、脇役である音が芝居のジャマをしてはならないのだ。「人の芝居のジャマするな」は芝居(役者)の鉄則なんだ。

 「ここから音が出てますよ」とか「ここにスピーカあり」なんて主張をされるのも困る。舞台上のセリフや演技にうまく解け合うべきなんだ。そのへんがロック・ポップス系の音楽イベント、ミュージカルやバレエのSR、大売り出しや選挙演説、あるいは講演会、冠婚葬祭のPAと大きく違うところだ。
 スピーカをはじめとする機器選びやセッティング、それにイコライジングなどはそのあたりに充分注意したい。

 だが、時として、音にも“演技”を求められることがある。音響担当者としては、そういう要求に充分応えられるだけの体力&表現力を持っていて欲しいと願う。
 今回は、演技を引き立てるため、演技の足を引っ張らないために前回までより大型のスピーカ&アンプの導入を決めたのだ。

 もっと表現力のあるスピーカ、アンプが欲しいね。更に公演内容によって使い分けが出来るといいんだけど、当劇団ではそんな贅沢は許されない。予算だけではなく、稽古場や保管場所などの制約もある。
 そう、芝居の音響は良い音を出すのが第一目的じゃないんだ。貧弱な機械でも芝居をサポート出来るんだ。良い音質や立派な機械なんて音響担当の自己満足に過ぎないのさ。と、もう一度自分自身に言い聞かせておこう。


 当劇団の稽古場は時間借りの公共施設だ。従って稽古を始める前にセッティングを行い、終わったら綺麗に片づけなければならない。だから、機材は出来るだけ点数が少なく小型・軽量なのが有り難い。

 音も稽古の段階から出来る限り本番に近い音を入れるのが望ましいんだが、稽古の初期段階ではキッカケ合わせのみと割り切って、音出し機器(サンプラー等)+小型パワード・スピーカのみを使う。

 しかし、追い込みにはいるとほとんど本番に近いセッティングをしての稽古だ。おおよその音量レベルのチェックもあるが、若いオペ君の稽古&訓練も兼ねてる。ショボい音とちゃんとした音とじゃ役者の芝居も変わってくるしね。

 ま、機材は許可を得て会館内に置かせて貰ってるんだけど、稽古のたびに本番に近いセッティング&取っ払いが発生するんだね。そのため、音響担当者は稽古開始より30分ほど早く来てセッティング開始だ。普段からセッティングの稽古もやってるようなもんだから、劇場でも手際がいいぞ。(笑)
 取っ払いはその日の最終ダメ出しを聞きながらの作業になる。ま、取っ払いは若い役者連中も手伝ってくれるんだけど、8の字巻きを知らなかったりするから…。^^;
CSP12
Classic Pro CSP12
CSP6 より大きくなった分、重量も 3.5倍ほどになったので
運搬やセッティングも大変だ

CSP12 は EV SX300 に比較すると、ホーンの形状が小さいので
クロスオーバー周波数は SX300 の 1.5KHz より高いだろう
つまり SX300 で高音ホーンが受け持つ帯域の一部を
CSP12 はウーファが受け持っていると推定出来る
もしそうなら、その部分(の中高域)が薄くて当然だ

しかし、いやなクセもなく演劇の公演には使いやすいスピーカと見た
新品なのでエージングでどのように音が変化するか
耐久性がどうなのかはまだまだ不明


CSP6
今まで使ってた CSP6





CSP12 はヤマハ P2500S でドライブする
音質的には同価格帯の民生用アンプに負けるだろうな ^^;



 “民生用”で思い出した。イベントの音出しに民生用(家庭用)のアンプやスピーカを使うと言うと、たいてい「そんなっ!飛ばすから絶対やめとけ」と注意されるだろう。
 けど、ライブと違って、あらかじめ録音されたソースだけを再生するストレート・プレイの音響だったらそれほど心配することはない。ピーク・レベルが判ってるからね。
 しかしながら、ミスってフェーダー上げすぎて大切なスピーカをお釈迦にしたりしても我輩は責任持たないぞ。
 また、たいていの場合、業務用の方が運搬もセッティングも楽だ。しかもタフ。丈夫で元気が業務用の取り柄。

 ついでだからここに書いておこう。「もっとデカい出力のアンプでドライブした方が音がしゃっきりするよ」って仰しゃる方がいらっしゃる。
 確かにその通りだ。スピーカの許容入力以上のアンプを持ってきた方がたいていは音が伸び伸びとする。プロはそうする場合が多い。けど、これはやめよう。特にナマ音を扱うライブの場合はね。

 そうそう、アンプの出力がスピーカの許容入力以下でも安心できない。レベル・オーバーで猛烈に歪ませたりしたら高音用スピーカ(トゥイーターあるいはスコーカー)を飛ばすことがある。




2Uラック・ケース入り YAMAHA P2500S  重量 24Kg だ

 本番の一週間前に「道成寺」の音がほぼ決定した。右下のリストだ。ファイル・サイズはそれほど大きくないが、「黒塚」が終わったあとで AKAI Z4 にロードしなければならないので、少しでもロード時間を短縮するためにセリフ・バックの長めの音楽は 22KHz 16bit にしてコンパクト化を図った。

 音数は今のところ28+1(カーテン・コールの第2候補)で29個だ。合計 248MB(260,568,442Bytes)。USB メモリ・カードからロードしても5分ほど。

 クロス・フェードや急速な音切り替えや音楽を流しながら効果音を入れる箇所が幾つかあるので、Z4の複数の OUTPUT を使い分けている。また役者の動きに合わせて出す音も3つほど。

 サンプラーZ4のなんたるかを知ってしまった大御所の演出家氏は、「今まで音造りやオペレートの制約を考えてしまってどーしても色々と遠慮してたんだけど、それを考えなくてすむのが有り難い」と仰せになった。実に嬉しいお言葉だ。

 この芝居はいわゆるSEはほとんど使わない。例えば主人公の清子が大きな衣装箪笥に閉じこもる音&そこから出てくる音も普通なら効果音でと考えるが、今回は音楽を使った。

 効果音はわずかに拳銃の発射音2種類と箪笥をノックする音3種類くらいのものだ。いずれも演技教室で使ったものを少し加工した程度。

 拳銃の音もカスタネットをナマで鳴らすか、何か楽器の音を使うか、とも考えたが演出家の意向で実際の拳銃の発射音に近いSEとした。その拳銃の音1はシチュエーション上、あまり激しい音にしたくなかったので、波形編集ソフトのフェードアウト機能を使って短い音にした。もっと鈍い音でもいいかな?オペ君にも「あまり大きな音で出すな」と言ってある。

 あと、四方鏡張りの巨大な衣裳箪笥の中からの、ヒロイン・清子のものすごい悲鳴。この悲鳴はその次の清子の出現の音(音楽)と共に演出上、非常に重要な音だ。

 演出家から「ナマでマイクにエフェクトを掛けて欲しい」って注文が出た。たぶん、朗読劇「六条のオバハンの巻」で、生き霊となって化けて出た六条御息所の声に派手なエフェクトを掛けたのがお気に召したんだろう。それに悲鳴のタイミングは音響オペ君ではなく、役者に任せたいってのもあったと思う。

 けど、これは断った。(笑) だって、ハウリングやタッチ・ノイズが入る危険性なんかがあるもんね。オペ君はもちろん、たぶん役者さんも喜ばないと思うぞ。

 悲鳴は SP-404 に SM-58 を繋いで稽古の合間にオペ君がサンプリング(録音)した。役者さんが風邪気味なのもあってあわてて録ったから、やっぱり SP-404 のアナログ回路(ヘッド・アンプ)でサチってしまったぞ。(右下の図版) まさか SM-58 が飽和したんじゃあるまい
 Adobe Audition の "Clip Restoration" でなんとか修復したのがこれだ
 それに昔のテープ・エコー風の安っぽいエフェクト+若干のリバーブを掛け、ややピッチを上げた。加工後はこれだ
 リバーブはもっと深くして、ローパス・フィルタで4KHz 以上をカットしてもいいかも知れないな。例えばこんな感じで…。これだと風呂場っぽいかな?(^Q^)

 ナマと言えば、セリ(競売)の場面でオペ君にナマでカスタネットを叩いて貰うことになった。セリフ・バックの音楽を入れてすぐにカスタネットなので、オペ君は相当忙しいぞ。(笑)

 「道成寺」は音を入れての稽古はまだ2回なので、オペ君はタイミング&音量共に不安定だ。が、ゲネまでにはなんとかなるだろう。
 けど、本番までに音の追加&変更があることを覚悟しておかなければならない。^^; また、我輩自身もSE・MEのエフェクトやイコライジング、ダイナミック・レンジなどを変更するだろう。

 「道成寺」は「黒塚」ほどおどろおどろしい音や激しい音はないけど、やはり大型SP&アンプを使う効果は充分にある。…あったりまえだけどね。

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ビット・レート 705kbps のはサイズ節約のための 22KHz 16bit ファイル

これらの音をサンプラーの AKAI Z4 にロードしてパッドに割り付けると共に
バックアップ用のソフト・サンプラー SE Producer のパッドにも割り付けた
また、オペ君の練習用に SP-404 にも





大音量のソースをサンプルするときは
マイクのパッド(減衰器)をONにするなり
音源から離すなりしないと
音量 LEVEL 調節が適正でもこのように飽和を起こすことがある


October, 2005



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