演劇の舞台音響
= 2007年11月 「煙が目にしみる」 =

タイトルはなんか本格的だけど、中身は地方小劇団の音響担当者の独り言に近いものです(笑)

 2007年11月〜25日は堤泰之氏作「煙が目にしみる」の公演。会場は例によって神戸・風月堂ホールだ。

 実は、11月公演は別の作品の予定だったが、都合で「煙が目にしみる」に変更になった。稽古期間は「夜の向日葵」が終わってからだから、約2ヶ月間とこの劇団にしては短期間だ。(稽古日は原則として火木土の週三回で、しかも9月下旬までは「秋月祭」とパラ)

 この芝居、我輩には主要登場人物の一人という大役が回ってきた。しかもいつもの通り、音響デザイン担当。オペは9月公演のオペをお願いしたM氏。

 芝居は火葬場を舞台としたもので、火葬炉の音が重要だ。
  1. 火葬炉に棺を入れる音
  2. 棺が停止する音
  3. 扉を閉める音
  4. 扉をロックする音
  5. 炉の燃える音
 拙者は火葬場に行って実際の音を録音するほどの根性はない。また、たとえ実際の音を録音しても、演劇的にリアルな音になるって保証もない。従って、自分でイメージ通りの音を作るのがいいだろう。

 思い出したくないほどイヤな音ではあるが、悲しさを演出するために気合いを入れて作った。

 我輩、何度か炉前まで付き合ったことがあるが、正直言ってこれらの音を鮮明に覚えているわけではない。ただ、イメージはあるんだが…。
 たぶん、火葬炉の扉は、こんなに荒っぽく閉めないだろう。
 また、最近は炉に火が入っても燃焼音はまったく聞こえないとの話しも聞いた。
 が、しかし、数年前に従兄を亡くした時の火葬炉の印象がかなり強烈だったので、その時の“イメージ”を再現した。

 一連の音は役者の動きに合わせるために別ファイルとした。

 1から4までの音は空き倉庫内の運搬具や扉の音を録音して加工した。ナマ録りしたもののピッチを下げたりリバーブを加えたりしてある。

 ここでは5の炉の燃える音をどうやって作ったかを披露しておこう。
 まず、炉が燃える音だが、これは Adobe Audition の「ブラウン・ノイズ」がベースになってる。ブラウン・ノイズとはピンク・ノイズより更に低音よりのノイズだ。

 これに、石油ヒーターガス・ストーブガス・コンロの燃焼音をオン・マイクで録音したものを加え、シロッコ・ファン方式の換気扇の音をかぶせた。石油ヒーター及び、ガス・ストーブの音は1オクターブほどピッチを下げてある。

 炉に火が入れられると、棺桶が燃えて崩れるのか、なんとも言えない悲しい音を聞いた記憶があるので、そういう感じの音も加えてみた。いくつかの木片を石畳にばらまいた音だ。
 また、炉に着火する音は Adobe Audition で燃焼音をエンベロープ加工した。

 遺体は二人分焼かれるので、あえて時間を置いて2つ作り、本番ではそれを重ね合わせて出して貰うことにした。同じようだがちょっと違う音が重なり合い、迫力を増す効果をねらった。
 ここにサンプルとして挙げたのは、拙者が焼かれる方、右側の炉の音だ。(^^;)

 台本では斎場の管理人のアナウンスが2度入ることになってる。舞台のソデにマイクを準備してナマで入れてもかまわないんだが、ちょっと凝ってみた。(笑)
 歪(ひずみ)を加え、コーン形スピーカをシミュレートし、マイクの入り切りのクリック音とハム音(交流電源からの誘導雑音)を加えた。 こんな音だ。

 まさか、今どきハムやクリックまで入るこんな安っぽいPA設備(拡声装置)なんてないだろうが、あえて…。^^;
 舞台は関東地方の田舎という設定だから、ハム音は当然 50Hz(の高調波)にしてある。
 アナウンスの頭とお尻にチャイムを入れるアイデアもあるが、頭にチャイムを入れる場合は、チャイムをセリフ終わりに重ねるようにでもしないと、芝居の寸法が間延びしてしまうだろ。
 が、一回目のアナウンスをかぶせるセリフは、舞台上にいるこの我輩のセリフなので今回は充分なテストが出来ない。で、チャイムはやめた。


 台本に指定はないが、炉前ではお経を流した。寺院での荘厳なお経では具合悪いので、小坊主と二人のシンプルなもだ。以前に録らせてもらったものが役だった。これ、般若心経ってのだろうか? たぶん、かなりポピュラーなお経だと思う。ファイルは少し離れたところから聞こえているように加工した。もう一つのお経はこれ。僧侶が咳払いしてるのがリアルで気に入った。
 お経に地方なまりがあるのかどうか知らないが、これは福井県坂井市在住の天台宗の僧侶だ。

 あと、台本に特に指定がないが、上手側の控え室から高校野球の実況中継が聞こえてくることにした。実況中継1実況中継2

 劇団関係者でアナウンスの経験者は拙者しかいないので、しかたなく我輩の声だっ。(^^;)

 上に書いたように、拙者は舞台に出てるんで、舞台上の我輩の声とダブらないかと心配して声のピッチも少し上げたが、余計な心配だった。オペ氏ですら拙者の声だとまったく気がつかなかったそうだ。(以前オペをしてくれてた愛弟子君などにはバレたが ^^;)


 さて、当日のスピーカのセッティングだが、まずメイン・スピーカの CSP12 は舞台奧の黒幕の後ろにした。前の黒幕の後ろにしたかったんだが、その前に衝立があるので、後ろに持って行った。

 また、6インチの CSP6 は1台は上手の奧に後ろ向けにセットしてた。このスピーカは控え室からの音専用で、主に前述の野球中継などを担当する。
 もう一台の CSP6 は客席の下に置き、火葬炉の音の補強だ。これはオペ氏の案。

 炉の燃える音のために、オペ氏はサブ・ウーファーをお持ち下さったが、12インチの CSP12 のみで充分に迫力のある音が出せたので、サブ・ウーファーは使わなかった。

 火葬炉の音はあらかじめ 50Hz から 100Hz 付近を持ち上げて、低音の迫力を出した。50Hz から 100Hz 付近を持ち上げると、それ以下の重低音がなくてもかなりの低音感が得られる。
 どうせスピーカから再生されない 30〜40Hz 以下の重低音はカットした方がいい。(サブ・ウーファーを使ったところで、よほど特殊なものでない限り、低音再生限界は 30〜40Hz 止まり)

 再生されない重低音をスピーカに入れても飽和したり音が濁ったりするだけだ。(メイン・アンプやミキサーなどのローカット・スイッチを利用する手もある)

 そうそう、上に書いた斎場の管理人のアナウンスは、オペ氏の工夫で、このホールの天井にあるスピーカから流された。

 天上スピーカから流すのは音響効果的にもメリットがあるが、この我輩、いきなり流れてきたアナウンスに気付いて上を見上げるって芝居ができた。芝居にアクセントがつくって点からも良かった。


 今回はロクに音を合わせる時間が取れなかったが、オープニング、エンディング、ブリッジ、それにカーテン・コールの音楽も含めて好評だった。(音楽に関してはまぐれ当たりってのもある ^^;)

 特に、何人かの年配の人から「火葬場の音が印象的で胸にずしんと来た」とのコメントを頂いたのが嬉しかった。

 芝居の音ってのは、ファイルを作ってしまえばそれでおしまいってもんじゃない。音響が好評だったのはオペをお願いしたM氏の名オペレーションのおかげが大きい。


ナマ音はすべて Roland R-09 で収録し、Adobe Audition 1.5 で加工した。また、ここに挙げたサンプルは mp3 にし、時間も短くしてある。

「煙が目にしみる」のステージ
照明器具が上手と下手に一対、眼をむいているので
どうせならスピーカも表に出してやれば良かったと思ってる(笑)








ブラウン・ノイズのスペクトラム









「煙が目にしみる」の音響オペ席
オペ氏はただいま音ファイルを加工中
我輩が作った音をオペレートしやすいように加工してるのだろう








「夜の向日葵」のスピーカ配置
(実際には CSP12 はここまで角度をつけなかったと思う)
斎場管理人のアナウンスはホール備え付けの天井スピーカを使用







炉が燃える音
50Hz〜100Hz 付近を持ち上げ低音感を出した














「煙が目にしみる」の冒頭と最後の場面
舞台写真は音響オペのM氏提供

December, 2007



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