野生らんの栽培について

ランという植物

・全世界に210,000種もの植物が存在すると言われていますが、ラン科植物は20,000種を越すとされ、植物界でもっとも大きな科の一つと言われています。ランは砂漠と氷河を除く世界の至る所に生育していますが、多くの種が生育しているのは、湿潤な熱帯の山地です。

・日本には80種以上のランが自生しており、世界的に見ても種類が豊富であると言われています。これは日本の国土が、北海道から沖縄まで南北に長く、亜寒帯から温帯、暖帯、亜熱帯までの気候帯を持ち、雨の多い気候や地形が変化に富んでいることが影響しているようです。

着生ランと地生ラン

・ランが自生している場所は、樹幹や岩壁の上に苔などと一緒に張り付いている着生ランと森林や草地などの地上に生えている地生ランがあります。着生ランは温暖な地方ほど多く、熱帯産のいわゆる洋ラン(胡蝶蘭やカトレア、デンドロビウム、オンシジュウムなど)の多くは着生ランです。日本に自生するデンドロビウム(せっこく)は、関東地方の北部が自生地の北限と言われています。

・これに対して、シンビジュウムやパフィオペディラムは地生ランに属し、日本に自生するシンビジュウム(春蘭など)アツモリソウ(パフィオペディラムの遠い親戚)は、北海道の寒い地方にも自生しています。そのほか、日本全国に産するえびねやサギソウ、ねじばななど野生らんの多くは、この地生ランです。このように、着生ランは温暖な地方ほど多いのに対して、地生ランは、寒い地方にまで分布を広げてます。

環境づくり

・植物の栽培は、自生地に学び、自生地の環境にいかに近づけるかが重要だと言われています。東京の住宅地で、北海道から沖縄にまで自生する野生らんを栽培するのですから、自生地の環境を作り出すと言っても、そう簡単なことではありません。当然栽培が不可能で、あきらめなければならない品種もありますが、比較的日陰を好む野生らんは、東京の住宅地がお気に入りのようです。

・要は、野生らんの種類によって、局地的に環境を整えられれば良いわけで、家の東側、北側、南側、軒下、家の中などは、それぞれ日照、通風が異なります。また、季節によって鉢の置き場所をこまめに移動させれば、かなり種類多くの野生らんを栽培できるはずです。

日照

・林床に生える多くの野生らんは、直射日光を好みません。日陰又は半日陰で栽培します。ただ、野生らんも光合成を行って成長しておりますので、倉庫の中のような真っ暗な場所ではいけません。間接光が当たる明るい日陰が最高です。我が家では、1日中直射日光が当たる場所がありませんので、家の南側でもエビネを育てることが可能です。

・サギソウなど湿地帯に自生する野生ランの多くは、比較的日照を好みます。真夏でも直射日光に当てるようにして、栽培します。我が家では、あまり成績が良くありません。

・いろいろやってみましたが、結局のところ、葉焼けぎりぎりまで日照を取るようにすると株が元気に育ち、花がよく咲きます。春の芽出しの時期には、葉焼けを起こさないので、できる限り日を取るように工夫しています。また、真夏でも午前7時くらいまでの朝日であれば、直射光でも葉焼けを起こしません。

温度

・屋久島シュスラン、夏咲きエビネなど九州南部や沖縄地方に自生する野生らんは、冬暖房のない室内に取り込むようにしています。最低温度5度位になります。特に加温設備は必要ないと思います。過保護はよくありません。一定の寒さに合わせて、休眠させることが必要です。

・サルメンエビネ、キンセイラン、アツモリソウなど夏に暑がる野生らんは、東京の熱帯夜が厳しいです。購入した最初の年は、何とか花も咲き、年を越しますが、2.3年後には無くなってしまいます。現在栽培方法を研究中です。

通風・湿度

・しめった空気が、静かに流れる環境が最適です。風が当たることで、葉から水分が蒸散し、より水分を吸収しようと根を伸ばし、株が元気に生育します。

・冬の空っ風は、葉を痛めます。北風のあたらない場所へ移動します。

・フウランなどの着生ランは、成育中には常に風が当たっている状態で、栽培します。私はかごに入れて軒下につるしています。

用土・鉢

・地生ランには、日向土などの水はけの良い軽石のようなものと腐葉土、赤玉土、桐生砂など保水性の良いものを、栽培する野生らんにより、いろいろ混合して使用します。また用土は使用前にふるいにかけ大きさを整え、微塵を取り除くようにします。鉢の上に水苔をひくと、保水性が高まります。鉢と用土の組み合わせ、置き場などによって乾き具合が違うため、用土の混合割合はケースバイケースで考えるようにします。

・元気のないエビネなど、水苔で植えると、よく根を伸ばし元気が回復します。

・乾燥を好むフウランやせっこくなどの着生ランは、素焼き鉢に水苔単用で植え付けています。水苔は、湿っている時と乾いているときのメリハリがよく、着生ランの栽培には最適です。コルクや流木に付けて栽培するのも風情が出て良いと思います。

・鉢は、実用性や観賞上優れている山野草鉢などが一般的に好まれますが、水やりのタイミングを工夫すれば、プラ鉢や素焼きの鉢でもOKです。プラ鉢は乾きにくく、素焼き鉢は乾きやすい性質があります。プラ鉢は、水はけがよいように鉢穴が大きいものを選ぶか、自分で鉢穴を広げて使っています。

・同じ種類の野生らんは、用土、鉢、置き場所を統一すれば、水やりや施肥などの管理が楽になります。 

水やり

・エビネなどの地生ランは比較的水を好むランが多いので、強い水切れに会わせないようにします。また潅水するときは、鉢底から水が流れ出て、鉢内の空気が入れ替わるようにたっぷり水をやります。しかし滞水している状態が長く続かないように水はけには気をつけています。

・鉢の表土を見ながら、乾いたらたっぷり水を与えるのが基本です。春から秋は1日1回、朝か夕方に潅水します。夏の乾燥が激しいときは1日2回水をやるようにします。冬場は鉢の表面の用土がなかなか乾わかないので、1週間に1度位になります。

・日中に灌水するときは、葉の付け根などに水がたまり、それがレンズの役割を果たして、葉を焼いてしまうおそれがあります。特に夏は夜又は早朝に水やりをするようにしています。

・意外に冬の乾燥で株を傷めてしまうことがあります。冬でもこまめに観察することが大切です。

・新芽が展開した時期は葉の基部を腐らせる恐れがあるため、芽に水をためないように気をつけます。

・フウランなどの着生ランは、いつもじめじめしめっているようでは、根を腐らせてしまいます。たっぷり水やりして、たっぷり乾かすことの繰り返しがいいようです。 

肥料

・春の芽だしの頃から梅雨明け頃までと、9月後半から11月くらいまでの間の成長期には固形油粕やマグアンプKなどの置き肥を与えます。

・油糟にはナメクジがよってきますので、ナメクジ退治が必要になります。また、油粕には、カビが生えます。カビが肥料効果を高めると注意書きに記載されている物もありますが、そのカビがクモキリソウにうつってバルブを腐らせてしまったことがありました。

・気温の高い7月後半から9 月前半までは油粕などは腐りやすいので取り去り、肥料で根を傷めないように気をつけています。葉面肥料(液肥を葉に霧吹きをする方法)ならば、根を傷めることもなく夏の間でも可能です。

・液肥の利用も効果的です。5000倍くらいに充分薄めて、潅水代わりに毎日(生育期間中)のように与えると非常に高い効果が期待できます。

・休眠中(酷暑、酷寒時)は与えません。与えても肥料を吸収する事はなく、根を傷める原因となります。

・葉芸を楽しむ斑入りのラン(東洋蘭や富貴蘭)には、基本的に肥料を与えません。肥料の窒素成分が葉緑素の発育を促進して、柄が消えてしまうおそれがあるからです。

増やし方

・株分け、芋(バックバルブ)吹かし、実生などがあります。

・株分けは、大きくなった株を適当な大きさに切り分けますが、芋は最低でも1、2個はつけておくようにします。

・芋吹かしは、植えかえや株分けの時に余った芋を2,3個以上つなげて切り、ミズゴケでくるんで、植え付けます。管理は湿度を高く保ち、親株と同じ置き場で構いません。3、4月頃に行うとすぐに新芽が展開することが多く、良い時期だといえます。芽が出た翌年には親株と同じ用土で植え付けます。苗が小さなうちは、水切れに弱いので注意が必要です。エビネ、ガンゼキラン、春ランなどでうまくいきました。開花までには4,5年かかります。

・実生は自分だけのランを作り出す楽しみがありますが、どうもうまくいきません。無菌播種はアマチュアには難しく、私はまだ成功したことがありません。簡単な方法として種子を親株や春ランの鉢に播いて発芽させる方法があります。発芽率のいいランとそうでないものがあるようで、私はエビネで成功しただけです。

・シュスランは、挿し芽で増やすことができます。花のついた芽は、やがて枯れてしまいますので、挿し穂として使います。

病虫害

・ウイルス病が一番の大敵です。特にエビネはウイルスの症状が現れやすく、新芽や花に気持ちの悪いモザイク症状や葉が腐ってきたりします。アブラムシ、葉ダニにより媒介されるウイルスが多いので芽だしや花の時期には特に注意して薬剤散布を行うようにしています。

・鉢底から流れた水が他の鉢に触れないよう工夫したり、再使用する鉢は必ずきれいに洗い、消毒するようにしています。また、株分けの時に使うはさみは、一株ごとにライターの火であぶるなどして、絶対にそのまま次の株に使わないようにします。

・感染株は、薬剤では治らないので、焼却処分又は隔離栽培するしかありません。

・その他の病虫害については通常の薬剤散布をすれば十分です。 ただし、ナメクジについては、薬剤の効果があまり期待できませんので、夜パトロールをして、1匹ずつ捕まえて殺すのが一番確実です。

栽培の参考にしている主な文献

・植物分子生理学入門(学会出版センター)/植物の生命科学入門(培風館)/ビオガーデン入門(農文協)/チャート式シリーズ新生物TB・U(数研出版)ほか

・野生らん種類と栽培(文化出版局)/日本の野生ラン(主婦と生活社)/日本のラン原種・園芸種280(NHK出版)/山野草上手な育て方(光の家協会)/覚えたい山野草テクニック(NHK出版)/バイオテクノロジーおもしろ雑学知識植物編(三心堂出版社)/エビネ育て方咲かせ方(光の家協会)/山野草早わかり百科(主婦と生活社)/山渓カラー名鑑「蘭」「日本の野草」(山と渓谷社)ほか

・「自然と野生ラン」各号(新企画出版局)/「花にんき」各号(流出版)ほか