<第4章> 港町アレキサンドリア

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太陽が西に傾きかける頃、港町アレキサンドリアは、昼間とは違ったにぎわいを見せ始めていた。 和也達3人が泊まっている宿屋の酒場も、友人や仕事仲間と談笑をしたり、仕事の交渉をする人々の喧噪で活気に満ちている。

その酒場の一角で、1人酒を飲みながら、食事をしている男に和也達は近づいた。

「迅雷のブラークだな?」

「おうよ!迅雷のブラークたぁ、俺サマのことよ。」

男は酒が程良く回って、ほろ酔い加減なせいか、上機嫌でそう答えた。 まるで大きなクマを思わせるようにがっしりとして、鍛え抜かれた体、そして日焼けした赤銅色の肌が、この男の職業をよく表していた。

「仕事を依頼したい。」とラファエルが言うと、ブラークと呼ばれた男は、3人に座るように即した。

「立ち話もなんだから、まあ座んなって。…で、どういう内容だい?」

「我々はこれから、あるものを探しに、炎の洞窟に行くんだが、一緒に同行してもらいたい。」

「報酬は?」

「そちらの言い値を払おう。それと…、目的以外のものは必要ない。洞窟にある宝も、全てそなたの取り分だ。」

ラファエルがそう答えると、ブラークは急に真面目な顔になって沈黙した。

「う〜ん。…確かにあそこは、ち〜っとばかしやっかいな場所だがよ。…それにしても、ちょっと 気前が良すぎやしね〜か?大体、聖騎士と魔導士と…、そっちの普通っぽいアンちゃんって組み合わせも不自然だな…。ワケを話してみろや?」

「それは…、」と和也が答えようとするのをラファエルが制し、ブラークには聞こえないよう小さな声で、和也に言った。

「初対面の人間を、軽々しく信用するな。」

その様子を見ていたブラークは、何かを察したように和也達3人に言った。

「…よほどワケありみたいだな。…ここじゃなんだから、俺っちの部屋にでも行くかい?… おかみ!勘定を頼むわ!」



和也達3人は、ブラークが滞在している部屋に入った。 テーブルを囲んで4人が座ると、ラファエルが真剣な眼差しでブラークに言った。

「これから私が言うことは、絶対に他言無用と、約束できるか?出来ない場合は、例え殺されても 文句は言わせない。」

そんな物騒なセリフが飛び出すとは思わなかった和也とフレイヤの2人は、思わず 顔を見合わせた。ブラークはさして気にもせず、苦笑しながら答えた。

「おいおい!アンタ、聖騎士様のワリに物騒だな〜。…傭兵は、口が堅くないとやっていけないんだぜ。 …まあ話しなって、別嬪さんよ!」

ブラークに「別嬪さん」と言われたラファエルは、露骨にイヤな顔をしたが、何も言い返さず、炎の洞窟に行く理由を話した。

最近、とみに魔物の数が増え、旅の扉が全く使えなくなったことの裏には、昔から言い伝えられている 大魔王の存在があること。そして、それを倒すべく伝説の勇者が現れたこと。

炎の洞窟に行く本当の目的は、魔導士ギルドの長老ヨフィエルから聞いた炎のルーンを探すこと。 それは勇者しか使えない剣と鎧を見つけるために必要なものであること…である。

そして最後に、これらを知っているのは、限られた人間だけであって、一般の人々は全く知らないこと を告げ、かたく口止めした。

「やっぱりな…。通りで最近、魔物退治の依頼が増えたと思ったぜ。…んで〜、その勇者てえのは、 アンタのことかい?」と、ブラークは尋ねた。

「…勇者はこいつだ。」

ラファエルが顎で指し示す和也を見て、ブラークは思わず吹き出した。

「…この兄ちゃんがか?!おいおいおい!アンタ、聖騎士のクセにおもしれ〜ジョーダン言うなあ!!」

ブラークは、ひとしきり大笑いした後、また真面目な表情に戻った。

「真面目に答えろや。こっちだって、体張ってんだぜ?」と言うと、ラファエルはブラーク に負けないぐらい真面目な表情で答えた。

「冗談ではない。本当のことだ。」

「…証拠はあんのか?」

ブラークにそう言われて、3人はちょっと考え込んだ。

「和也様、あの人形…。」

フレイヤは、謎の老人にもらった人形のことを思い出した のである。 和也はザックの中から、黒のビキニを履いたマッチョなオヤジをパロディにした例の人形を取り出した。

「これは、勇者の仲間を探し出す道具で、勇者にしか使えないと言われてるんです。」と、フレイヤは言ったが、ブラークは疑わしげな目で、ジロジロと人形を眺めた。

「この人形が動き出すのは、勇者がネジを巻いた時だけなんです。」

「ホントかよ〜?!…?!お、…動かねえや。…じゃあ、兄ちゃん、やってみろや。」

和也が人形のネジを巻くと、人形は再びへんな踊りを踊り出した。

オイラはマッチョ〜♪マッチョ〜な勇者♪大魔王を倒して、ギャルにモテモテさ〜♪ オイラの新しい仲間を見つけたさ〜♪ブラークも一緒にモテモテさ〜♪

「い〜?!…な、なんだよ?!この人形?!」

だが、こんなふざけた人形 だけで「和也が勇者」だと信じろと言うのが、どだい無理な話である。ラファエルは、それに付け加えるように、ブラークに言った。

「証拠ならまだある。この2人が、アメン・ラーの神殿に来る途中に、悪魔神官が襲ってきた。 “勇者を抹殺する”という理由でな。」

ラファエルの言う通り、和也とフレイヤを襲ってきた魔物は、和也が勇者だということを分かっていたのである。

「悪魔神官?!俺は18の時から、傭兵をやってるけどよ〜。あの大陸で、一度もそんなものにお目にかかったことはなかったぜ!」

「納得したか?…どうやら、そなたも仲間らしいから、どうあっても一緒に行ってもらう。」

「…マジかよ〜。」と、ブラークは頭を抱え込んでしまった。そんなブラークの様子を見かねて、フレイヤが言った。

「ラファエル様、そんな言い方はよくありませんわ。」

「フレイヤ、非常時だ。しかたあるまい。」

「フレイヤ?…嬢ちゃん、フレイヤっていうのか?」と、ブラークはフレイヤをまじまじと見上げて 言った。

ブラークはお世辞にも、人相がいいとは言えない顔である。ハッキリ言うと、小さい子供なら 一発で泣き出しそうな容貌である。そんなブラークにまじまじと見られて、フレイヤは少したじろいだ。

「…ええ、そうですけど…。それが何か?」

「アズラエルって、魔導士知らねえか?」

「それは私のお師匠様ですわ。」とフレイヤが言うと、ブラークは合点が言ったように叫んだ。

「そうか〜!やっぱりな〜!道理で似てると思ったぜ!」

「アズラエル様をご存じですの?」

「お〜よ!知ってるも、知らねぇも、俺がまだ駆け出しのひよっこだった時に、あの親爺さんにはずいぶん世話になってなぁ。 そうか〜!あん時のチビか〜!でっかくなったなぁ!!」

ブラークは、アスワン城の魔導士長アズラエルの傭兵時代を知っていて、何度か一緒に仕事をしたことがあるのである。そして、フレイヤはまだ5歳ぐらいの頃、ブラークに会っているのだが、当の本人は全く覚えていなかった。

「あの親爺さんは強かったぜ〜!魔導士なのに、剣もそこそこ使えたしな。」

「そうなんですか?」

フレイヤは、もっとその話を聞きたそうではあったが、それをラファエルが制した。

「…で、どうなんだ?我々と一緒に来るのか?来ないのか?」

ラファエルがそう言うと、ブラークは頭の後ろをかきながら、考えるようにして言った。

「ん〜。アズラエルの親爺さんには、ヤバいところを何度も助けてもらったしな〜。…ま、しゃあねぇな。やるか!」と、ブラーク が言うと、3人はホッとした顔をした。

「んじゃ、改めてよろしくな!別嬪さん。」

「別嬪さんではない!ラファエルだ。」

「へいへい。…で、そっちのあんちゃんは?」

「…あ、和也です。よろしく。」

「おいおい!アンタ勇者なんだろ?もっとシャキッとしなって!シャキッと!」と、笑いながら肩を軽く叩くと、和也はその拍子によろけそうになった。 ブラークは軽く叩いたつもりであったが、この2人は体格も力も差がありすぎるのである。

「まあ、長い旅になりそうだしな。今日はお近づきの印ってことで、下行って飲み直さねえか?俺が奢るわ。」

「いいですね!」

「そんなことをしている場合ではない。」と言う前に、フレイヤがそう答えたので、 ラファエルは何も言わなかった。

そして翌日…。二日酔いの為に、炎の洞窟へ行くことを1日延期してしまったのであった。

〜続く〜