<第4章> 港町アレキサンドリア
〜4〜
| …あ〜、あの時やめさせとくんだった!!… 和也は昨夜の顛末を思い出し、深くため息をついた。酒場のにぎやかな雰囲気と、一時の息抜きと思って、好きに飲ませておいたのが、そもそもの間違いだった…。 「あ〜!おいしい!!」 先ほどからフレイヤは、並々と杯に葡萄酒を注ぎ、ハイペースで飲み続けている。 「お〜、さすがはアズラエルの親爺さんの弟子だぜ!親爺さんも酒好きだったからな〜。まあ、飲めや!」とブラークもそれを煽るように、どんどん勧めた。 「フレイヤ〜、飲み過ぎだよ〜!」 和也は、ブラークに変な下心がないのは分かっていたが、フレイヤの体調を気遣ってそう言った。だが、当の本人は全く気にしていない。 ブラークは、まだ付き合い程度にしか飲んでないほとんど素面な和也と、一滴も飲んでないラファエルに向かって言った。 「なんだ?おめーら、さっきから全然飲んでね〜じゃねえか?」 「そ〜だ!そ〜だ!飲め〜!」 「私はいい。」 ブラークが葡萄酒を注ごうとするのを、ラファエルはピシャリとはねのけた。 なぜなら、和也とフレイヤがアメン・ラーの神殿に来る途中の村で深夜、魔物達に奇襲を掛けられたのを思い出し、警戒しているのである。そんなラファエルを、ブラークは軽く笑い飛ばした。 「な〜に、かて〜こと言ってるんだよ!大体アレキサンドリアは、魔導士ギルドの本部もあるし、イシス様の神殿もあるんだ。まず魔物どもは入って来れねぇって!…それとも何か〜?聖騎士様っていうのは、酒が入ると全く使いモンにならね〜ぐらい弱え〜のか?」 「なに?!」 ブラークは、ほんの冗談のつもりで言ったのだが、言われた方はそう取らなかった。ラファエルの表情は、みるみる険しくなり、怒りをあらわにイスから立ちあがった。 普通なら、フレイヤがここで、仲裁に入りそうなものだが、完全に酔っぱらっていて、ケラケラと笑っているだけだった。険悪な雰囲気になりそうな中、1人オロオロしている和也を余所に、ブラークはさほど気にせず笑い飛ばした。 「まあまあ、そうマジになんなさんなって!!ホント、アンタ聖騎士のワリに怒りっぽいのな〜。いいじゃね〜かよ。今日ぐらい!」 「それにこんなにのんびりしてられるのも、今日だけかもしんね〜しよ。」 と、ブラークは真顔で付け足した。 「…そう…、だな…。」 この世界で、アレキサンドリアほど強固に守られている街は少ない。だから、これから先の街や村では、町中でも突如魔物に襲われる可能性がある。そして、宿屋で夜を過ごせるときはまだいいが、野宿の可能性も大いにあり得るのだ。だから、ブラークの意見はもっともであり、ラファエルは一応納得して、イスに座り直した。 「…と言うわけだ!まあ、和也も飲めや!」 「そ〜だ!そ〜だ!飲め〜!」とフレイヤは勝手に、和也の杯に溢れんばかりの葡萄酒を注いだ。 「え?!あ〜!!フレイヤ〜!入れすぎだよ〜!!」 和也がビックリしてそう言うと、フレイヤは酔っぱらい独特のトロンとした目つきで、和也の方を見た。 「なんらと〜〜?!あらしの酒が飲めないって言うのか〜?!」 「わ、分かりましたよ〜!飲みます!飲みますよ〜!」 …酔っぱらいに敵なし。… 和也は、そんな言葉を思い出し、今のフレイヤに逆らわない方がいいと思った。 サラリーマンの悲しい性か、いつも酔っぱらいの面倒を見させられてるせいか、他の3人のように、心おきなく酒を飲むことができない。 さらに2時間後…。 「どっひゃっひゃっひゃ!和也、飲め〜!」 フレイヤは完全に人格が崩壊してしまい、いつもとまるっきり別人のようである。その様子に当惑している和也の肩を、突然ラファエルがグッと掴み、これまた酔っぱらい独特の目つきで絡んできた。 「おい、和也〜、分かってるのか〜?!勇者がな〜、そんな出来損ないで、どうするんだ〜?」 …ゲッ!こいつ、酒癖わる〜!!… そして、フレイヤと同じく、ヘタに逆らわない方が無難だと思った。 「はいはい、私が悪うございます〜。」 その様子をブラークは止めるわけでもなく、「こいつ何マジになってんだ〜?!」とゲラゲラ笑いながら見ていた。 「大体、お前はだな〜、いつもいつもスライムと戯れやがって…おい和也〜!聞いてるのか?!何とか言え!!」 気が付くとラファエルは、空の酒瓶に向かって話しかけていた。これでは、酔っぱらいどころか、まるでボケ老人のようである。フレイヤに負けず劣らずのラファエルの崩壊ぶりに、和也はかなり驚いた。 更に2人が崩壊していくのに対し、和也はどんどん素面になっていった。 …まずい!これはすご〜〜くまずい!!… 和也はふと、周りの客の視線が、自分たちの方に注がれているのに気が付いた。ただでさえ目立つ一行が、これだけ騒いでいたら、好奇の目で見られるのも無理はない。 そこで和也は、酔っぱらってはいるが、あまり普段と変わらないブラークと、完全に出来上がっている2人をなだめすかして、ブラークの部屋で飲み直すことにしたのである。 フレイヤはともかく、聖職者に属する聖騎士のラファエルが、これ以上酔っぱらってとんでもないことをしでかしたのでは、シャレにならない。 そして、そのドンチャン騒ぎは明け方、フレイヤとラファエルが突っ伏したところで、やっとお開きになったのである。 翌朝、4人はブラークの部屋で、雑魚寝状態で朝を迎えた。 厳しい日差しが容赦なく照りつけ、かなり外の気温が上がった頃、フレイヤとラファエルはやっと起きあがることが出来た。そんな2人の為に、和也は宿屋の料理場で冷水にレモン汁を絞った飲み物や、新鮮な果物をもらってきたり、せっせと1人で働いていたのである。 「すまない…。」 「いやぁ、…あ、あははは…。」 珍しく素直に礼を言うラファエルに、和也はかなり驚いていた。そして、昨日のラファエルの豹変ぶりを思い出し、複雑な笑みを浮かべながら、後ずさっていた。 だが、幸か不幸かラファエルの方は、昨夜のことはほとんど記憶にないらしい。ただでさえ、二日酔いで自己嫌悪に陥っているのに、自分の崩壊ぶりを知った日には、和也と共に旅をする使命がなければ、自害しそうである。 「お!気が利くなぁ〜、和也!」 「あはは、…まあ慣れてるから。」 和也は会社の飲み会の度に、泥酔状態でどうにも帰れなくなった後輩や同僚を、自分のアパートに泊めて面倒を見ていたのである。世界一とほほな勇者は、世界が変わってもサラリーマンの習性が抜けない。 もっとも、昨日のラファエルやフレイヤの崩壊ぶりで、和也の2人に対する見方が、ちょっと変わったのは言うまでもない。 「そんなに頭痛がひどいんだったら、なんで魔法で直さね〜んだ?」とブラークが不思議に思い、ラファエルに尋ねた。 「神聖魔法は己を厳しく律して、日頃の節制により使えるもの。魔物にやられたならともかく、こんなことで使うわけにはいかない。」と、二日酔いでひどい頭痛を抱えたラファエルは、まだ調子が悪いらしく、無愛想に答えた。 「へぇ〜、便利だと思ったけど、なかなか厄介だな。俺っちには、とても使えねぇや!ハハハハ!」 そして、ブラークは2人の二日酔いでどんよりとした顔を見ながら言った。 「ま、炎の洞窟に行くのは明日にするか!なぁ、和也?」 「…あ、そうだね。…その方がいいかも…?」 「いや、こんなところで休んでるわけには…、」と言いかけた途端に、ひどい頭痛が襲ってきたらしく、ラファエルは頭を抱え込んだ。 「やせ我慢はよせやい!あそこは、マジで二日酔いがひどくなりそうな場所だぞ?…それより、おめ〜ら、その格好のままで行く気か?洞窟に辿り着く前に、日射病と脱水症状で倒れちまうぞ!」 「…ブラークの言うとおりだわ。ギルドの本部に武器屋がありますから、そこに行きましょう。」 こうして、4人は武器屋に行き、炎の力を弱める魔法が施された防具を買い揃えた。ラファエルは、聖騎士の証である白銀の鎧を脱ぐことに、かなり抵抗を感じていたが、この暑さでは諦めるしかなかった。 そして、次の日の早朝、やっと炎の洞窟に向かって、出発することが出来たのである。 〜第4章 完〜 |