バランス・スコアカード(Balanced Scorecard

アーク・シンク・タンク シニアマネジャー 井上 実

 

 新しい経営指標として、バランス・スコアカード(以下BSCと呼ぶ)が注目を集めている。BSCは、ROAROEEVA、キャッシュフローに変わるものなのか。BSCはなぜ考え出され、どのような特徴があり、どのように使っていくべきなのかを考察してみる。

 

1.BSCはなぜ考え出されたか。

 BSCは、1990年のKPMGリサーチ部門であるノーラン・ノートン研究所における「将来の企業における業績評価」研究プロジェクトが起源である。ハーバード大学のキャプラン教授は、アカデミック・コンサルタントとしてこの研究に参加。研究成果をノートン氏とともに「新しい経営指標“バランス・スコアカード”」としてまとめ、1992年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表した。

 この研究は、従来の財務的業績指標に偏った業績管理では、今後のマネジメントを満足することはできないという問題意識から出発している。財務的業績評価指標のみに頼ることの問題点として次のものがあげられている。

@    財務的業績評価指標は過去の情報を示すものであり、今日のマネジメントに必要とする情報を提供しない。結果が出てからでは、どのような手をうっても手遅れである。

A    短期的指向、部分最適化を助長する。部門管理者の評価は、四半期単位の部門利益が重視されるため、部門管理者は短期的な部分最適に力を注ぐ。

B    コスト配賦方法により利益が異なる。間接費配賦方法によって、部門利益の数字が大きく変わり、事業の実態を正確に表していないことがある。

C    外部環境の変化を財務的指標から理解することはできない。顧客満足、競合会社の状況を財務的指標から理解することは難しい。

D    管理会計という名の業績管理。財務会計との整合性が求められ、業績指標項目、指標表現方法に制限が加えられる。

 

2.BSCの特徴

 BSCには次の特徴がある。

(1)4つの視点

 BSCは、財務的業績評価指標に偏らずに、財務的業績評価指標と非財務的業績評価指標のバランス、短期目標と長期目標のバランス、過去と将来の業績評価指標のバランス、外部的視点と内部的視点のバランスをとるために、4つの視点を設定している。

@    財務的視点(過去の視点)

 ROEEVAなど企業経営の過去の状況、結果を表す指標。

A    顧客の視点(外部の視点)

 顧客の視点は、顧客の満足をどれだけ得ることができているかを表す指標。企業外部からの評価指標。

B    社内ビジネス・プロセスの視点(内部の視点)

 どれだけ効率的なビジネスプロセスを実現しているかを表す指標。企業内部の処理能力・対応能力を表す指標。

C    イノベーションと学習の視点(将来の視点)

 ビジョンや戦略を達成するため、イノベーションを起こし、組織的学習を行い創造能力をいかに育成しているか表す指標。将来への企業成長力を表す指標。

(2)因果関係

 BSCでは各指標がバラバラに設定されるのではなく、各指標間の因果関係を明確化にし、因果関係に基づいて設定されることが求められる。

 例えば、財務的視点として使用総資本利益率を目標した場合、これを成し遂げるためには何をなさなければならないかというCritical Success Factor(以下CSFと呼ぶ)を洗い出す。CSFは顧客の視点の顧客ロイヤリティにある。では、顧客ロイヤリティのCSFは何かを洗い出す。CSFは社内ビジネス・プロセスの視点のプロセスの質と、プロセスのサイクルタイムにある。では、プロセスの質とプロセスのサイクルタイムのCSFは何かを洗い出す。CSFはイノベーションと学習の視点の従業員のスキルアップにある。これらの因果関係に基づいて、各目標指標は設定される。(図参照)


 


(3)パフォーマンス・ドライバー

 CSFは目標に対する結果として管理されるだけではなく、目標に対する進行状況を随時把握し管理する必要がある。進行状況を表す指標はパフォーマンス・ドライバーと呼ばれ、主要なものはKPIKey Performance Indicator)と呼ばれる。

 

3.BSCをどうのように使うか。

 BSCをどのように使っていくべきだろうか。筆者がコンサルティングを行ったA社での事例をご紹介する。A社では、本社、事業部、事業部内部門でさまざまな業績評価指標が設定されていたが、それぞれの指標の定義、設定目的、指標間の関連が不明確であり、事業部、部門間のバラつき、管理の重複が目立った。そのため、業績管理評価指標の標準化、見直しを図ることになり、BSCの考え方を取り入れることにした。

(1)業績管理評価指標の整理

 業績管理評価指標を整理し標準化を行うために、BSCの4つの視点に基づく整理を行った。これにより、業績管理評価指標の体系化を図り、網羅性を向上することができた。

(2)本社・事業部・部門の役割分担の見直し

 本社、事業部、部門の管理の重複を解消するために、戦略目標に対する役割分担を見直し、責任範囲を明確化する必要があった。業績管理評価指標間の因果関係の明確化することにより、各部門の責任範囲、役割分担を明確化した。

(3)業績管理情報収集方法の見直し

 業績管理評価指標を整理、明確化すると同時に、進行状況を管理するためのパフォーマンス・ドライバーの設定し、設定したパフォーマンス・ドライバーに関する情報収集方法(データ収集頻度、データ収集タイミング、ITによるデータ収集サポート、アウトプットサイクルなど)の検討を行った。検討結果に基づき基幹系情報システムへの機能要求を行った。

 

4.BSC導入上の留意点

 BSC導入に成功するためには、次の点に留意してもらいたい。

(1)BSCITソリューションではない。

 昨今、ERPCRMSCMなど横文字3文字言葉が流行っているが、いずれも経営の根幹をなす考え方にも関わらず、安易な取り組みが多く見られ失敗事例を多く生み出している。BSCもこれらと同様に「企業をどのようにマネジメントするか」という経営の根幹をなす考え方である。決して、外部から購入可能なソリューション(解決策)ではない。

(2)BSCは戦略課題をアクションに落とし込んでいくための経営課題であり、IT課題ではない。

 BSCを支援するITパッケージが各社から販売され始めている。そのため、BSCIT課題であると誤解している人も多い。ITパッケージは業績管理評価指標に設定された情報の収集、アウトプット作成を効率化するものでしかない。BSCは戦略課題をアクションに落とし評価するためのものであり、BSCの導入はトップを中心に全社で取り組む経営課題である。

 

 BSCが考え出されてから10年。欧米の多くの企業でその効果を発揮している。我が国の企業の取り組みに期待したい。