B to C ECの今後

        アーク・シンク・タンク マネージャー 井上 実

 電子商取引実証推進協議会及びアンダーセンコンサルティングから、本年1月19日に発表された「日本の消費者向け(B to C)電子商取引市場 〜1999年の現状と2004年までの展望〜」によれば、1999年におけるB to C ECの日本における市場規模は、2,480億円(不動産を除く)と推計され、1998年の4倍に拡大している。また、2004年には、5兆5,420億円になると予測されている。

 この予測を裏付けるように、コンビニを中心としたEC企業連合の設立や、大手企業のEC参入が続々と発表され、2000年が日本におけるEC元年であるという識者もいる。はたして、日本のB to C ECは無事テイクオフできるのだろうか?

 日本より、2〜3年先行しているといわれる米国のECの現状をみることにより、その問題点と解決の方向性を考察してみる。

  1. EC先進国 米国の現状

 米国調査会社ジュピター・コミュニケーションズの推計では、1998年の米国 B to C ECの市場規模は71億ドル、1999年には120億ドル、2002年には411億ドルに拡大するといわれている。推計の方法が異なるため、単純に日本の市場規模と比較することはできないが、米国においては、すでに大きなB to C EC市場が構築されていることは間違いない。

 ところが、EC企業の経営状況を見ると、利益の出ている企業は全体の2割程度であり、ほとんどの企業が赤字状態である。EC企業の代表であるアマゾン・ドット・コムも、本年2月2日に発表された1999年度業績によると、売上が前年の約2.7倍の16.4億ドルに伸びたが、損失はそれ以上に拡大し、前年の約5.8倍の7.2億ドルとなり、赤字状態から脱却できていない。

 なぜ、EC企業が利益を生み出すことができないのだろうか。その原因として、次の2点が考えられる。

 ・かさむ広告宣伝費

 米国において、すでにEC企業であればマスコミが取り上げる時期は過ぎ去っている。そのため、EC企業は知名度を上げるため、テレビ、雑誌などのマス・メディアに多くの広告を掲載する必要に迫られており、広告費が膨大となり利益を圧迫している。本年1月に開催されたスーパーボウルのスポンサー36社のうち17社がEC企業であった。また、昨年の同大会で、売上高400万ドルの求人求職情報EC企業ホットジョブズ・ドット・コムの使用した広告宣伝費は200万ドルであり、なんと年間売上高の約半分を1回のコマーシャルにつぎ込んだことになる。

 ・スピードを実現するための在庫負担

 ネットを活用した注文はリアルタイムで行われるため、消費者は商品自体もリアルタイムに近い納期で得られることを期待している。しかし、自ら在庫を持たないサイバーショップでは、これを実現することは難しい。昨年のクリスマス商戦では、受注の増大に商品の入荷、配送が間に合わず、クリスマスまでにクリスマスプレゼントが配達されないという事態が発生した。このような事態を避け、消費者の短納期要求に答えていくためには、商品在庫を持つ必要があり、利益を圧迫する要因になっている。アマゾン・ドット・コムも巨大な倉庫を全米7ヶ所に設置し短納期を実現しているが、この在庫負担が赤字体質を抜け出せない一つの要因となっている。

 一方、大手企業のEC市場への進出も順調ではない。従来の販売チャネルとの競合や同一商品に対するリアル店舗との二重価格など、従来のビジネスとの競合・矛盾を引き起こしている企業が多い。

  1. 既存商品から脱却できないEC

 このような問題の根本的な原因は、EC企業がインターネットを既存商品(サービスを含む)販売の拡大にしか活用していない点にある。インターネットは時空間の壁を越え、不特定多数間の双方向リアルタイム・デジタル・コミュニケーションを実現するものである。本来、EC企業は、これらの特徴をフルに活用したリアル店舗では提供できない新商品を開発し、消費者に提供するべきである。しかし、現状では、次のような活用がなされているだけである。

 これでは、既存企業との競合による広告宣伝費や在庫負担の増大、既存ビジネスとのカニバリゼーション(共食い)を避けることはできない。ECは米国においても、いまだに既存商品からの脱却ができていない状態である。

  1. 考えられるB to C EC専用商品

 収益性の高いB to C EC専用商品として、次のものが考えられる。

 ・市場提供サービス(マッチング・ビジネス)

 イーベイに代表されるオークション市場、プライスライン・ドット・コムような消費者主導入札市場、オートバイテルのような製品カテゴリー別や消費者セグメント別、ライフスタイル別に商品情報を集めたバーティカル・ポータル・サイトなどでは、EC企業自体は売買される商品を所有せず、売り手と買い手の出会う場だけを提供する。これはインターネットの不特定多数間の双方向リアルタイム・デジタル・コミュニケーション機能を活用したEC専用商品である。イーベイは、1998年に株式公開する時点で他のEC企業と異なり、すでに黒字企業であったことからその収益性の高さが注目された。

 ・デジタル商品販売

 インターネットのデジタルネットワークを活用して、デジタル化された商品をネットワーク上で販売、納品するビジネスである。デジタル商品としては、音楽ソフト、ゲームソフト、コンピュータソフト、書籍、写真、映像、教育などが考えられる。

 また、最近注目を集めつつあるASPもデジタル商品であるコンピュータソフトを消費者が所有することなく使用できる権利を販売しているものであり、デジタル商品といえる。デジタル商品は、在庫負担や物流の問題を回避することが可能であり、また、直接原価が非常に低く、販売すればするほど収益率が高くなる収穫逓増商品でもある。

4.消費者とのコミュニティが新商品を生み出す

 B to C EC専用商品の新開発がEC市場拡大のキーポイントである。新商品開発というイノベーションを促進するためには異質の知識を積極的に取り入れていくことが重要である。企業人にとって、消費者は異質の知識を持つ異邦人である。消費者の持つ多様なニーズ、知識を収集、理解せずに、新たな商品開発を開発することはできない。「消費者の声を聞く」という企業姿勢から、「消費者とのコミュニティ作り」への転換が、B to C EC企業には必要不可欠である。