情報化投資のスマイルカーブ

アーク・シンク・タンク シニア・マネジャー 井上 実

 

 情報システムの企業内における位置付けが大きく変わり、経営を左右する存在になってきた。それにもかかわらず、新規システム構築に対する情報化投資は従来と同様に開発中心に行われ続けている。はたして、このままで経営に有効なシステム構築の為の情報化投資を実現することができるのだろうか?

 

情報システム構築のフェーズ分けと投資

情報システム構築の共通フレーム(SLCPJCF98)では、システム構築フェーズを企画プロセス・開発プロセス・運用プロセス・保守プロセスに分けている。運用プロセスと保守プロセスは時系列的には同様の時期となり、大きくは3つのフェーズと見ることができる。この3つのフェーズに対する投資割合は、企業のシステム化計画作りに多く関わった経験から企画:開発:運用・保守=0.27.82くらいの割合であると思う。最近は、PCLANの普及やソフトウェア製品の活用が広がったことにより、運用・保守プロセスの投資が増加傾向にあり、開発主体の投資からシステムライフサイクル全体のコストを把握しようという動きがあるが、全体の投資割合は大きく変わっていない。

 

なぜ開発中心の情報化投資が行われるのか

 従来の情報化は、手作業で行っている事務作業をコンピュータ上にのせ省力化を図るのが主たる目的であった。したがって、コンピュータにのせるべき業務は定型的で事務量の多いものを選択すればよく、何をシステム化すべきかを熟慮する必要性は低かった。それよりもコンピュータ上で事務処理を実現するためのプログラム設計やプログラミングに多くの労力と時間が費やされていた。現状の事務処理に基づき、より使用者が使いやすいシステム構築が求められたため、帳票や画面などユーザーインターフェースの細部にまでこだわる設計・開発が行われた。また、コンピュータ初期にはコンピュータの処理能力・システム資源の制約が大きく、プログラム設計・コーディングの腕しだいでシステム処理効率が左右された為、開発段階に優秀なSE・プログラマーを確保する必要があり投資を行う必要があった。

しかし、現在はコンピュータの処理能力は飛躍的な進歩をとげ、もはやプログラミングの腕を競う時代ではなくなった。既製品のソフトウェアパッケージやソフトウェアツールが普及し、これらを活用することにより開発コストの削減を図ることが可能な時代になった。しかし、日本の多くの企業では帳票や画面などの細部にこだわり、カスタマイズ・アドオンを多く行う傾向があり、依然として開発コストは減少していない。

 

経営戦略を実現するには何をシステム化すべきかが重要

 情報システムが経営に直接影響を及ぼす現代においては、「経営戦略を実現し経営課題を解決するためには、何をシステム化する必要があるのか」を検討することが最も重要なことである。同業他社が採用したからと言って同じシステムを急いで導入する時代ではない。自社の企業競争力の源泉を十分に考慮し、競合他社とのポジショニングの中で適切な情報化戦略を立案しシステム化計画を実行しなければ、投資対効果が得られないばかりではなく、企業の存続も危うくしかねない。

 

安定稼動の保証と環境変化への迅速な対応は欠かせない

システム導入後の運用・保守も従来以上に重要となる。システムが安定稼動することは当然であり、システムの停止は業務・事業の停止につながる。安定稼動していても、経営環境が激しく変化する現代においては、環境の変化にシステムが迅速に対応することができなければ、競争の荒波の中で生き残ることはできない。ユーザーからの改善要求をバックログとして積み上げておいても、社内の批判を浴びるだけの時代は終わった。顧客からのネットワーク接続要求をバックログとして積み上げておくと、その顧客からの受注ができなくなってしまう時代である。

 

情報化投資もスマイルカーブ

 経営・経済の中でスマイルカーブ現象という言葉がある。企業の利益率を縦軸にとり横軸に部品製造会社、製品組立販売会社、アフターサービス会社などのサプライチェーンを並べ、グラフを書いて見ると人が笑っている顔に似た曲線を描くことからスマイルカーブと呼ばれている(図1参照)。従来は、製品組立製造会社がもっとも多くの利益をあげ、部品製造会社は下請けとして低利益体質の事業を行っていた。しかし、パソコン業界のインテル社・マイクロソフト社に見られるように製品アーキテクチャーが共通化されオープン化されることにより、部品の共通化・標準化が進められ製品組立製造会社よりも部品製造会社の方が利益率が高く、業界への影響力も大きくなってきている。

 

自動車業界においても、自動車価格の低価格化により自動車自体の販売による利益率よりも、ローンなどの金融サービス、保守点検サービスなどのサービスのあげる利益率の方がよくなりつつある。

スマイルカーブ現象は多くの業界で見られ、ポスト工業化社会の利益構造を示しているものとして注目されている。

ポスト工業化時代の新システム構築の為の情報化投資は、同様にスマイルカーブを描く必要がある(図2参照)。

 

システム構築の3つのフェーズの中で、これからの時代に企業が生き残ることを可能にする情報化投資は、「経営戦略にフィットした情報化戦略/システム化計画の企画・立案」を行う企画プロセス、「システム安定稼動の保証」、「環境の変化への迅速な対応」を実現する運用・保守プロセスが不可欠であり、開発プロセスに比較し経営へのコストパフォーマンスは大きい。

メリハリの利いた情報化投資により、日本企業の真のIT革命が一日も早く実現することを期待したい。