カスタマー・エクイティ

アーク・シンク・タンク シニア・マネジャー 井上 実

 

 製品が生み出す売上・利益ではなく、企業の顧客がもたらす売上・利益に注目する考え方“カスタマー・エクイティ”に関して考察してみる。

 

1.カスタマー・エクイティとは何か

「作れば売れる時代」から「売れるものをどのようにして作り出すかという時代」に大きく変わり、顧客のニーズ・ウォンツをどのようして先取りするかが企業の重点課題になっている。インターネットなどにより顧客の情報収集力は強化され、企業側からの情報操作が難しい時代にもなった。このような時代において、企業の競争力の源泉は、どれだけ多くの優良な顧客を獲得・維持しているかにあり、顧客のもたらす生涯価値(顧客の一生の中で製品・サービスを購入することなどにより、企業にもたらす売上・利益)の全顧客合計が企業力と言える時代である。これがカスタマー・エクイティであると、ローランド・ラスト、バレリー・ザイタムル、キャサリン・レモン等は著書「カスタマー・エクイティ」の中で定義している。

 

2.どのようにしてカスタマー・エクイティを増加させるか

 彼らはカスタマー・エクイティを増加させるためには、3つのエクイティに注目する必要があると述べている。

(1)バリュー・エクイティ

 顧客が製品を選択する際、主に製品の品質、価格、利便性により判断を行う。顧客の比較的客観的な判断であり、このような顧客の価値認識から生まれるカスタマー・エクイティを企業のバリュー・エクイティと呼ぶ。

バリュー・エクイティを構成する品質は、モノ製品の品質だけではない。モノ製品を取り巻くサービス品質、サービス提供環境品質、サービスデリバリー品質も重要な要素である。高品質のモノ製品であっても、低品質のサービスとともに販売されたのでは全体の品質は低く評価されてしまう。

価格も安ければよいというものでもない。価格によって製品の品質が判断されることもあり、戦略性を持った価格設定が必要となる。

利便性に関しては、コンビニが24時間365日営業、顧客ニーズ指向の品揃えにより、スーパーとの価格競争に巻き込まれることなく、顧客を獲得し独自のポジションを確保したように、企業戦略上、重要な要素である。

(2)ブランド・エクイティ

 バリュー・エクイティに比較して、好き・嫌いという顧客の主観的な判断基準により行われる価値認識をブランド・エクイティと呼ぶ。これは、ブランドを顧客が知っているか(ブランド認知)、顧客はこのブランドが好きか、ブランドから製品が連想できるか、製品カテゴリーからブランドを連想できるか(ブランドに対する顧客の態度)、ブランドの価値観・倫理観が顧客と一致するか(ブランド倫理に対する顧客の認識)などにより構成される。

(3)リテンション・エクイティ

 獲得した顧客を維持し、関係性を持つことにより自社のファンにしてしまうことも重要なカスタマー・エクイティの要素となる。これをリテンション・エクイティと呼ぶ。リテンション・エクイティを強化するためには、次の方法がある。

@航空会社のマイレージカードに代表されるフリークエンシー・プログラム。Aゴールドカードやプラチナカードなど顧客の購入金額によって特別なサービスを行うことを顧客に認知させた上で、特別な処遇をするプログラム。

Bホームページや会員誌などを活用したアフィニティ(親近感)プログラム。

Cアフィニティプログラムをさらに発展させ、自社と顧客、顧客間にコミュニティを形成する顧客コミュニティプログラム。

D顧客購買履歴から商品を薦めるレコメンデーションサービスのような顧客知識蓄積プログラム。

 

3.業界によって各エクイティの重要性が異なる。

 バリュー・エクイティ、ブランド・エクイティ、リテンション・エクイティの重要性は一様でなく、業界によってそれぞれの重要性が異なる(図参照)。各企業は自社の業界における各エクイティの重要性を考慮した上で、自社のカスタマー・エクイティ増大策を立案する必要がある。

 

 

 

4.企業によっても各エクイティの重要性が異なる。

 しかし、業界特性だけを見るだけよいのだろうか?業界内競合会社と差別化を図るためには、他社が注力していないエクイティに注目することも重要である。エクイティ増大方法も他社と同じことを行っていたのでは効果がない。リテンション・エクイティの増大を目指したCRM戦略も、競合他社と横並びにポイントカードやマイレージカードを導入しただけでは、差別化要因とはならない。他社と異なるサービスを提供していかない限り、単なる値引き競争ツール、価格競争ツールとなるだけである。

顧客との関係を維持、親密化することにより、顧客の情報に基づく顧客好みの他社にはない製品、サービスを提供していかない限り、蓄積した顧客情報は宝の持ち腐れになる。

また、リテンション・エクティをバリュー・エクイティ、ブランド・エクイティの拡大へ、ブランド・エクイティをリテンション・エクイティ、バリュー・エクイティの拡大に連携させていかなければならない。3つのエクイティの相乗効果によってカスタマー・エクイティの拡大を図ることも重要である。

 

5.まずはプロダクト・アウトからマーケット・インへ

 カスタマー・エクイティ戦略を実践するためには、「良い品質の製品を適正な価格で販売すれば顧客は買うはずだ」というプロダクト・アウトの企業姿勢から、「顧客の望むもの(望みそうなもの)をより早く市場に提供していこう」というマーケット・インの姿勢に大きく変えることが必須条件である。この企業文化の変革は企業のDNAレベルの変革であり、遺伝子組替えを行う必要がある。遺伝子治療なしに、重装備なCRMシステムを配置しても、何らカスタマー・エクイティの増大に貢献することはないと思う。

 

<参考・引用文献>

ローランド・T.ラスト、バレリー・A.ザイタムル、キャサリン・N.レモン著、近藤隆雄訳、「カスタマー・エクイティ 〜ブランド、顧客価値、リテンションを統合する〜」、ダイヤモンド社、2001年9月6日