製造EDI事例
「多品種少量・短納期生産の実現を支援するED
Iシステム」 井上 実●キーワード
-------------------------------------------------資材EDI、EIAJ、統一企業コード、EDIと基幹システムの連動、システム化委員会、セットメーカーのEDI推進支援策
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製造業のなかでも、電子機器業界は調達リードタイムの短縮や受発注処理の合理化を目的に、EDI(
Electronic Data Interchange)に対して早くから取り組んだ業界である。各企業独自のEDIから、業界標準EDIへの取り組みも、他業界の先陣を切って1986年頃より、発注者であるセットメーカーと受注者である部品メーカーにより行われ、1989年のEIAJ(日本電子機械工業会:Electronic Industries Association of Japan)標準1Aを制定した。それ以降、1997年のEIAJ標準2E制定まで改定を重ねている。EIAJでは、EDIデータ交換規約の設定だけではなく、標準納品書・標準納品荷札の制定もおこない、発注者指定伝票からの切り替えを推進しており、大手セットメーカーを中心に標準納品書へ移行する企業が増加する傾向にある。これにより、受注者側の納品書作成処理の効率化に貢献している。(図表1参照)

EDIを実施するためには、自社を識別するための統一企業コードを得る必要があり、この取得企業数がEDI普及度合いをはかるバロメーターとなるが、EIAJ−EDIの統一企業コードを取得した企業数は、
1998年10月現在で、3,513社に登っており、日本国内では最大規模の業界EDIとなっている(図表2参照)。
この電子機器業界のEDI事例を紹介することにより、中小企業が既存のネットワークに参加する上での留意点を探っていくことにする。
1.事例企業の概要
株式会社 日興製作所(以下、同社とする)は、プリント板アッセンブリー、ハーネス、ケーブルの製作、パソコン用カード、緊急通報装置などの設計、製造を行う電子通信機器メーカーである。
【株式会社 日興製作所】
代表取締役社長:久米正資
本社・東京工場所在地:東京都大田区大森西
3-3-16工場:@明野工場(茨城)各種端末用ケーブル・コード装着機器関係の製造を担当
A下仁田工場(群馬)プリント板アッセンブリーを担当
設立:
1959年資本金:
4,500万円、従業員数:100名売上高:
20億円(1997年度)事業内容:電子通信機器製造業
主な取引先:富士通梶A
PFUなど富士通グループ各社および日本電業梶A日本電算機鰍ネど2.情報システムの概要と特徴
(1)情報システムの概要
同社の情報システムは、本社・東京工場、明野工場、下仁田工場の3事業所にパソコンサーバーを中心としたクライアント・サーバー・システムを分散設置しており、1998年12月より本稼動に入っている(図表3参照)。

そのシステム構成は、
100BASE-TのLANをインフラに、サーバーには、Windows NT、データベース管理ソフトとしてMS−SQL Serverを搭載し、クライアント・パソコンはWindows95を使用している。アプリケーション・ソフトウェアは、同社が仕様を決定し、開発はソフトハウスに外注。開発言語はVisual Basicを使用している。同社の受注の約
7割近くを占める主要取引先である富士通梶A富士通グループ各社とは、FENICS-VANセンターを介して、同グループで統一化されたEDIを実施している。EDIによる取引内容は、富士通鰍フEDI実施取引先は必ず適用する必要がある注文情報、入荷・検収情報、買掛明細を実施しており、同社開発システムの受注処理、売上計上処理、売上照合処理に受信したデータを自動入力している(図表4参照)。
(2)情報システムの特徴
同社システムの特徴のひとつは、EDIで受信した受注データを受注システムに自動入力し、資材所要量計算、購買システム、生産管理システムに連動させ、多品種少量生産を短納期で実現していることにある。同社の製品数は常時800〜1,000点、受注伝票枚数は、2,000枚/月をこえる。そして、平均納期は、受注後一週間以内であり、受注日の翌日に納品しなければならないものもある。この多品種少量・短納期生産をささえているのが、同社基幹システムに連動したEDIシステムである。
同社システムのもう一つの特徴は、取引先とのEDIで利用しているVANセンターを、各事業所に分散設置した各システムとのデータ受け渡しに活用している点にある。
同社は、主要取引先とのEDIデータを本社で一括受信した後、そのデータを各事業所毎のデータに分割。VANセンターに設置した各事業所用メールボックスに分割データを送信。各事業所はそのデータを受信し、各事業所のシステムに自動入力している。これにより、地理的に離れた事業所でも迅速に受注データを得ることが可能となり、短納期生産を実現している。
3.システム化の背景・ねらい
(1)システム化の背景
同社のシステム化は、1986年7月「
EDP化推進運動」の第一段としてのオフコンの導入によりスタートした。適用業務としては、財務・経理業務を対象とし、2年後には、資材業務にも適用した。また、設計業務には、CADシステムを採用している。しかし、情報システムの活用状況は、十分なものとは言いがたかった。十分な現場ニーズ把握を行わなかったため、現場ニーズをシステムへ反映をすることができずに、システムを構築してしまった。また、従業員の情報化に対する教育・認識も十分ではない状態でシステム導入を進めたため、同社のビジネスプロセスに合わない部分も多く、システムを見直す必要があった。また、このシステムは、2000年問題もかかえていた。
このような現行情報システムの問題が明らかになりつつあった1997年に、同社は主要取引先である富士通鰍ゥらのEDI導入を薦められた。
富士通鰍ヘ、取引先との資材EDIに対して積極的に取り組んでおり、取引先との間で交わす物品取引基本契約のなかにEDIを基本とすることが明記されている。また、EDI推進上の大きな問題点の一つとして常にあげられる「コストのかかりすぎ」を、VAN利用費用をすべて富士通鰍ェ負担することにより軽減している。
コスト面の支援だけではなく、富士通滑e工場および富士通グループ各社の多くは、資材調達システムの統一化をはかり、取引先は、統一されたEDIで、富士通全工場および多くの富士通グループ各社と取引ができるようにするなど、取引先がEDIを導入しやすい環境作りに取り組んでいる。
同社は富士通鰍ゥらEDI導入を薦められた後、社長自らEDIの勉強をはじめ、EDIに関する調査を開始した。同社では、5〜6年前より、富士通鞄ニ自VANによるEDIを実施していたが、そのシステムは受注・納品伝票作成のための専用システムであり、同社の情報システムとは連動しておらず、受注データの自動入力もされていなかった。
(2)システム化のねらい
このような状況の中で、同社は単なるEDI導入ではなく、自社のビジネスプロセスを改善するためのツールとしてのEDI導入およびシステム再構築の検討に入った。冒頭の既存のネットワークに参加する場合のポイントである「ネットワーク参加目的の明確化」「自社業務内容への影響の再確認し、社内体制を整備」「自社の情報システムとの整合性を図る」を実践したのである。その結果、システム再構築の目的としては、次のものを設定した。
1.EDIシステムを基幹システムへ連動し、多品種少量・短納期生産の実現を支援
2.データ入力の正確性・迅速性の向上
3.2000年問題の解消
システム再構築のパートナーとして、SIベンダーの中から、最もEIAJ/EDIシステム構築に実績豊富な大興電子通信鰍選定し、システムを構築した。
1998年12月より本稼動に入り、当初設定したシステム再構築目的は達している。特に今回のEDI導入により次の具体的な効果があった。
1.受注データ入力業務の削減・受注データ正確性の向上
2.物品受領、検査結果確認の迅速化
3.売上照合業務の効率化
4.情報化の成功要因
今回のシステム構築の成功要因は、現場のニーズを十分に吸い上げるためのシステム化委員会設置にあった。
製造担当常務を委員長に、3工場の工場長および担当者、営業担当、総務担当など8〜9名のメンバーで構成され、1997年12月のキックオフから、1998年3月の基本設計完了時点まで、月に3〜4回の会議を開催。この会議には、SIパートナーも常に3〜4名参加し、アドバイスを与えた。
この会議の中で、「現場の仕事、自分達の仕事の中で、情報システムをどう生かすことができるのか。それにより、どのような効果が得られるのか。」を徹底的に議論することにより、利用者主導のシステム作りを実現している。これにより、「今回のシステムは、自分達のシステムなのだ。」という意識が全社員に浸透し、システム再構築に伴うビジネスプロセスの改革もスムーズに行うことができ、導入後のシステム利用率も向上している。
EDIシステムに関しても、同社の最大の経営課題である「多品種少量・短納期生産」を実現するためにどう活用できるのかという観点から、この会議の中で十分議論された。その結果、単なる受注伝票受信・発行システムとしての利用ではなく、同社基幹システムへの自動入力・連動処理が必要であるという結論に達した。この議論なくしては、同社におけるEDI導入の成功もありえなかったと思われる。
同社は、オフコン導入およびセットメーカー独自VANによるEDI導入過程における「利用者不在のシステム検討」を反省し、今回のシステム再構築では、このシステム化委員会の設置により「利用者主導のシステム検討」を実現し、システム導入を成功させている。
反面、「利用者主導のシステム検討」を実施したことにより、システムに対する機能要求が多く出され、絞りこみに苦慮することになった。そのため、結果として、当初予定した開発予算をオーバーしてしまった。
また、「利用者主導のシステム検討」では部門代表が自部門利益を主張するあまり、会社全体としての最適化を阻害することもあるが、同社の場合にはシステム化委員長である常務のリーダーシップの発揮により、そのような事態にはいたらなかった。トップの積極的な関与がシステム導入を成功に導いている。
5.まとめ
同社は今回のシステム再構築によりビジネスプロセスの効率化を実現したが、今後は、経営管理指標の再設定を行い、それを迅速に得るために、今回のシステムと連動した経営情報システムの検討や、セットメーカーとの技術情報交換を目的としたEDIネットワーク活用の検討などシステムをさらに有効活用するべく検討を進めている。
最近、サプライチェーンの効率化・迅速化をはかるため、セットメーカーから部品メーカーへのEDI導入のプレッシャーは日増しに強まりつつある。
本来、EDIの導入は、発注者、受注者の両者に業務の効率化、迅速化、コストの削減などのメリットをもたらすはずだが、部品メーカーである中小企業のなかには、EDIを受注・納品伝票発行処理にのみ使用しているという企業も多い。今回の事例企業のように、自社の基幹システムにEDIシステムを連動させ、自社のめざす経営に活用している企業はまだ少ない状態である。自社のビジネスプロセスの中で、EDIシステムをどう生かすことができるかを十分検討した上で、導入することが重要である。そのためには、現場のニーズを反映するための委員会を設置することも一つの有効な方法であることを今回の事例は語っている。
また、EDIを導入するための初期費用(約
100万円)、ランニング費用(2〜3万円/月)の投資は、中小企業にとって少ない投資ではないため導入を逡巡している企業も多い。このコスト負担を削減するセットメーカーの支援策も重要である。最近、インターネット接続されたパソコンさえあればEDIが可能なWeb
EDIの導入が大手セットメーカーを中心に展開されつつある。これにより、EDI導入費用を削減し、中小部品メーカーのEDI化率を向上させるのがねらいだ。しかし、Web EDIは、標準仕様がなく各社バラバラの状態である。これでは、EDI導入当初にみられた多端末現象と同様に、取引先ごとにWebEDI使用費用(約8,000円/月)を支払う必要がでてきてしまう。業界標準の構築、推進をめざしてきたEIAJ/EDI活動に逆行することになりかねない。WebEDIにおける業界標準仕様の検討、従来のファイル転送型EDIにおける安価な通信ネットワークとしてのインターネット活用も、今後、中小企業にEDIを展開するうえでは、重要になってくるだろう。
電子機器業界の部品調達は海外市場におよんでいる。今後、国内部品メーカーは、いかに多品種少量・短納期生産に対応するかが、低価格攻勢をかけてくる海外メーカーに勝つためのポイントとなる。EDIは、その戦いの大きな武器となることは間違いない。自社のビジネスプロセスにEDIシステムを早期に取り入れ、この戦いに勝利してほしいと私は念願する。
なお、 今回の取材にあたり、鞄興製作所 代表取締役社長 久米正資様及び、大興電子通信梶@第2システム統括部第1システム開発部 EDIグループリーダー 寺田元一様のご協力をいただいた。
<引用・参考文献>