「米国ERP成功事例に学ぶERP導入のポイント」
アーク・シンク・タンク マネジャー 井上 実
(中小企業診断士、システムアナリスト)
1.米国ERP導入事例調査企業の概要
ERP研究推進フォーラムからの依頼により、昨年9月に米国ERP導入企業に対する訪問調査を行った。調査企業の概要は次のとおりである。
(1)Pericom (SanJose,CA)
セミコンダクターのファブレス製造企業。
売上:$49.2M、従業員:175名、
採用ERP:OneWorld(JDE)、適用業務:会計、販売、生産管理。
(2)HP (Roseville,CA)
コンピュータ製造業。この工場は、UNIX/NTサーバーの製造。
売上:$42.9B(この工場は$3.3B)、
従業員:125,300名(この工場は4,200名)、
採用ERP:R3(SAP)、適用業務:在庫、購買、生産、販売、会計、倉
庫。主要業務の75%をカバー。
(3)ESL Technology (Lincoln,CA)
HP社テープドライブの修理。
売上:$30M、従業員数:350名、
採用ERP:IFS(IFS)、適用業務:会計、購買、生産。
(4)ELO Touch Systems (Fremont,CA)
タッチスクリーンの製造・販売。売上:$30M、従業員数:500名、
採用ERP:MFG・PRO(QAD)、適用業務:会計、在庫、物流、販売、生産。
(5)The TRANE Company (LaCross,WI)
ビル用エアコン、家庭用エアコン、配管装置製造。
売上:$4.0B、従業員数: 23,700名、
採用ERP:CONTROL(CINCOM)、People(PeopleSoft)、
適用業務:生産、在庫、原価、購買---CONTROL、会計---People、販売は、
自社開発。
(6)All States Insurance (Chicago,IL)
生命保険、損害保険、その他サービス。
採用ERP:R3(SAP)、適用業務:会計。グループ会社83社の会計・
財務部門を集中化。GL 13システム,AP 4システムをリプレース。
(7)GEO Specialty Chemicals (Cedartown,GA)
水処理・製紙業向けアルミニウム水処理製剤の製造。
売上:$250M、従業員数:400名、
採用ERP:Renaissance CS (ROSS)、適用業務:会計、販売、生産。
(8)Suntory Water Group (Marietta,GA)
ボトル詰め水の製造・販売。ボトルウォーターでは全米二位。
売上:$185M、従業員数:500名、
採用ERP:Renaissance CS (ROSS)、適用業務:会計、販売、生産。
2.ERP導入成功要因
調査企業のERP導入成功要因としては、次の6つの点にまとめることができる。
(1)経営層の支援・リーダーシップ
「ERPの導入は、経営の問題である。」と、言われているように、米国においても、導入成功要因のポイントに、この項目がほとんどの調査企業であげられている。これは、逆に、経営層が入って急いで導入を進めなければならなかった切羽詰った導入理由があったためではないかと思われる。
例えば、オールステート保険はグループ企業全体の経営効率をあげるために、経理部門などバックオフィス業務の集中化・統合化が経営課題であった。グループ各企業における業務効率化ではコスト削減範囲は限定されており、グループ全体で業務の効率化をはからなければならない経営事情があったように思われる。
GEO社においても、M&Aにより買収した企業の事業活動を進めるためには、売却した企業からの高額なシステムサービス($50,000/月)を受け続けるか,自社システムを構築するかの二者択一の状態であった。そのため、コストを削減するため、早期にシステムを構築する必要があった。
また、Suntory Waterの事例は、リーダーシップの重要さ、形だけのステアリングコミッティの無意味さを証明している事例として興味深い。
当該企業の事業は大きく、小売部門と、家庭・事務所部門とに分かれる。いずれの部門においても、各事業部門のVPをリーダーとするステアリングコミティが作られ、同様のERPパッケージを導入するプロジェクトがスタートした。小売部門は、インプリチームをステアリングコミッティの主要メンバーの管轄下におき、ステアリングコミティで進捗を管理した。プロジェクトは順調に推移している。一方、家庭・事務所部門は、小売部門と同様なステアリングコミッティを構成したが、プロジェクトリーダーのリーダーシップがなく、プロジェクトとしての拘束力がなかった。ユーザー部門からフルタイムでプロジェクトに参画する者もなく、2.5年間もインプリ作業は遅延しており、1998年2月にプロジェクトリーダーを再選出し、再スタート中である。
同様のことは、GEO社でも発生しており、フェーズ1は、システムサービス費用の早急な削減のために、経理部門が主導で強力に進めたが、フェーズ2になると、フェーズ1を進めたプロジェクトリーダーの退社や、システム導入目的に切迫した理由がなくなり、4ヶ月の進捗遅れを出している。
(2)明確な目標の設定
システムの導入目標を明確化し、その目標に向かって、プロジェクト範囲・規模を絞り込んで、ゴール目指して突き進む。目標をあいまいなままに進めると、ユーザー部門、IT部門、外部コンサルタント、ERPベンダーなど立場の異なる人達で構成されるERP導入プロジェクトは方向を見失い、ダッチロールしはじめる。これを避けるためには、プロジェクト全員がめざす目標、ゴールを明確にかかげて、問題が起きた際には、その目標に照らし合わせて、判断する必要がある。
(3)ユーザー部門からプロジェクトへの専任メンバー参画
前述したSuntory Waterの例が端的な例であろう。ユーザー部門主導でプロジェクト推進するためには、パートタイムでは無理である。HP社においても、ユーザー部門であるエンジニアリング部門、財務・会計部門、製造部門、計画部門から、5〜8名を1.5年間IT部門に異動させ、プロジェクトに専任させている。
ユーザー部門の参画がERP導入の重要なポイントであることは以前より言われているが、「専任メンバーを参画させよ」とより明確な示唆を得た。
(4)テストとトレーニングの重視
テスト、トレーニングという言葉が、今回多くの調査企業で聞かれた。中小企業規模の企業であっても、ユーザー・トレーニング用の部屋を整備しており、トレーニングを重視しているのが見受けられた。一つの理由には、従業員の退職率・中途採用率の高さや、M&Aなどによる新規従業員の増加に対応するためのものと思われる。また、トレーニング・テストは、実データでおこなうべきだというサジェスチョンも多くあった。仮想のデータでは、ユーザー部門の人間にとっては自分のシステムであるという気持ちを持ちにくいためである。
テストという意味では、実データ・実ボリュームで早期にテストすることにより、データ特性、データ量によって発生する問題を早期に解決することが可能となる。
パッケージという既製品を自社の基幹システムに採用し、稼動させるためには、入念なテストと、ユーザートレーニングが必要であることは、ソースコードが修正でき、本番稼動後のトラブルに対しても、応急処置が可能な自社開発システムよりも、重要であろう。
(5)自社に最適なERPの選択とパッケージ・スタンダードの採用
日本におけるERP導入の議論のなかに、「ERPを採用する以上、自社のビジネスプロセスは捨てて、ERPの提供するビジネスプロセスに合わせるべきだ」という意見がある。
たしかに、今回の米国調査においても、「パッケージスタンダードの採用」、「ソースコードは絶対変更しない」などの提言を調査企業から得た。
しかし、彼らのその提言には、「自社に最適なERPを選択したならば」という前提条件つきである。たとえば、ESL社では、このプロジェクトのために採用されたMaterial Managerが、経営層に対し、13ページにもおよぶ新システムに対する質問表を提示し、経営層のシステムニーズを把握。その後、数ヶ月間にわたり45〜50種類のパッケージを調査し、自社に最適なパッケージを選択している。
GEO社はROSS社のERPパッケージをほとんどカスタマズなしで導入しているが、工場長は、「ERPにビジネスプロセスを合わせるなんてとんでもない。Business First, ERP Second」と明確に発言している。自社に最適なパッケージの選択をおこなえば、ERPの提供するビジネスプロセスが自社の求めるビジネスプロセスであると思うことができるということだろうか。
日本に比較し、米国において開発・販売されているパッケージの種類は非常に多い。それだけ、選択の幅が広いということも一つの要因であろう。それと、パッケージを業務システムとして採用することが常識化しており、パッケージ選択のノウハウも日本以上に蓄積されている点もあげられると思う。
「ERPは何でも変わりはないから、ブランドのあるものを入れて、あとは、ERPに仕事のやり方をあわせればよい」というような意見が日本において見られることがあるが、もう一度、考え直してみる必要があるのではないだろうか。
(6)ERPベンダーとの緊密な関係
今回の調査で、もっとも意外であったのが、ERPベンダーが顧客を直接サポートしている点である。顧客が中小企業であっても、その姿勢は変わらない。今回の調査企業の中で、ERPベンダーが直接サポートしていなかったのはHP社1社のみであった。(コンサルティング会社が担当)
ERPベンダーは直接顧客をサポートすることにより、顧客ニーズ、顧客の業務ノウハウを直接吸収することが可能となり、より魅力的な商品作りに活かしている。
顧客側も、自社の基幹システムを預けているビジネスパートナーとして、ERPベンダーを見ており、ステアリングコミティにERPベンダーの担当者を参加させている企業もある。ERPベンダー側も、顧客との長い信頼関係を築くことに非常に努力をしている。
日本におけるERPベンダー、パートナー(SI業者,コンサルティング会社)、ユーザー企業の関係を再考する必要があるのではないかと思う。ERP導入ユーザー企業にとってどのような三者の関係がベストなのか、業界全体で議論する必要があるのではないだろうか。
3.日本企業ERP導入成功のためには
今回、調査した米国ERP導入成功企業から得たERP導入成功要因は、いままで、日本において議論されていきたものと見た目はあまり変わりはない。しかし、その示唆はより具体的なものであった。
また、最も重要な点は、ERPを経営課題としてとらえ、トップ主導で進めている点である。
ERPの特徴は、従来の部分最適化された業務プロセスから全体最適化をはかるものであり、オペレーション効率重視のシステムからマネジメント重視のシステムへの変革を要求するものである。全社効率化をはかるために、部門によっては、従来必要ではなかった作業が発生する可能性がある。これを説得し推進できるのは経営トップしかいない。
また、安易なERP導入は、自社の企業競争力を失う可能性もある。ERPは既製品である。自社の企業競争力に大きくかかわるビジネスプロセスに既製品を適用してしまったら、その企業競争力を失うことは明白である。これは、まさに経営の問題である。
ERP導入を成功させるためには、日本企業の経営トップがERP導入は重要な経営課題であると認識し、自ら推進していくことが最も重要なポイントであると思う。サラリーマン社長の多い大企業よりも、オーナー社長の多い中小企業の方がERP導入に成功する可能性が高いのではないだろうか。



