IT コーディネータ
平成11年6月21日に、産業構造審議会情報産業部会情報化人材対策小委員会中間報告(これ以降「中間報告」と記す)が出され、その中で、ユーザー企業の戦略的情報化投資を適切にサポートしていく人材像として、ITコーディネータが提言された。現在、ITコーディネータ育成のためのカリキュラム作りが進行しており、各情報関連教育機関は、これに対応した来年度からの教育体制の整備に追われている。 ITコーディネータとは、どのような人材像なのか。また、それを育成していくためにはどのような環境を必要としているのかを考察してみる。 IT コーディネータとは 中間報告の中で、ITコーディネータの仕事内容・必要性・求められる能力に関して、次のように記述されている。 @仕事内容 戦略的情報化のビジョンを示し、これを設計するのみならず、システムインテグレータ等がシステム構築を実施する場合にもアドバイザー的に働き、無事に稼動するまで一貫して関与し続けるような経営戦略とIT
をつなぐ仕事。 A必要性 情報化投資は、単なる合理化のための投資と認識される段階は終わり、もはや企業の戦略そのものと言える。経営戦略の視点から、戦略的情報化投資を行う必要がある。ITが急速に変化する環境の中で、中堅中小企業において経営戦略立案者である社長を補佐し、IT戦略等の立案実行できる人材を内部に抱えることはなかなか困難である。そのため、外部にサポートを求めざる得ない。 B求められる能力 ・特定分野の業務知識 ・ヒューマンコミュニケーション能力 ・ビジネスプロセスの分析能力・抽象化能力 ・抽象化されたビジネスプロセスの中で、それぞれの業務をI T 系に委ねるか、人間系に任せるかを判断する能力 ・情報システムの青写真の構築能力 ・システム開発のマネジメント能力 以上のように、ITコーディネータは、現在のITコンサルタントの仕事とほぼ同じである。中間報告の中では、コンサルタントは計画立案までで、稼動までの責任を持たない仕事のように捉えられているように見えるが、これは誤解である。立案した計画が実行され効果が出るところまで責任を持つのがコンサルタント本来の仕事であり、上げられた効果に基づき成功報酬を得ているコンサルタントも多い。 筆者は、ITコーディネータとほぼ同様の仕事をするITコンサルタントだが、我々を取り巻く現実は決して甘いものではない。 ITコーディネータを阻害する要因 ITコーディネータを阻害する要因は、次のものがある。 @目に見えないものへの投資を渋る経営者 ハードウェアに比較し、ソフトウェアは目に見ることができないため、投資を渋る経営者が多い。特に、コンサルティングは、成果物を報告書や企画書以外に、視覚化するものがなく、その多くは助言、ノウハウ・知識の提供などの目に見えないものである。そのため、ソフトウェア開発以上にコンサルティング投資に対する経営者の理解を得ることは難しく、本来、提供した知識・技術・能力に基づき請求すべき報酬を、かかった人数・時間に基づく工数で請求するケースが多い。 A情報システムを経営課題として捉えない経営幹部 システム化計画立案の第一段階は、現状分析である。経営の方向性・経営課題・業務処理上の問題点・現行情報システムの問題点を把握し、問題点の集約化、原因の追求を行い、解決の方向性を探る。正確な現状分析を行わずして、効果的なシステム化計画作りはできない。しかし、企業によっては、経営の方向性や経営課題を把握するための事業計画書の閲覧を拒否したり、業務処理内容や業務処理上の問題点を把握するための現場部門に対する調査を断ってくることがある。これらの企業は、システム化計画は情報システム部門のみに関わるものであると認識しており、情報システム部門が他の部門の業務処理や、経営戦略に口を出すことはあり得ないという企業風土を持っている。 BSI 企業の採算を度外視したコンサルティング価格と規模拡大に走るコンサルティング会社 SI企業とコンサルティング案件で競合になった場合、提示価格の差に愕然とさせられることが多い。どう見積もっても、7〜8百万円するものが、百万円程度で見積もられる。コンサルティング業務だけでは採算が合うとは考えられず、その後のシステム開発を受注することを目的に採算を度外視した価格を提示しているものと思われる。またコンサルティングは営業活動の一環であると考え、無償に近い価格を提示するSI企業も多くあり、コンサルティング・ビジネスの確立を阻害している。 一方、コンサルティング会社もコンサルティングだけでは規模拡大をはかることが難しいため、システム開発に手を広げ、SI企業と変わらない利益構造をとっているところもある。 IT コーディネータが活躍できる社会を作るためには ITコーディネータを阻害する要因を排除し、活躍できる社会を作るためには、次の点が重要である。 @コンサルティング投資に関する投資対効果 目に見えない投資を促進するためには、その投資対効果を明確にしていく必要がある。しかし、コンサルティングに関する投資対効果を単独で求めることは難しい。コンサルティングにおいて立案されたシステム化計画が、実施・運用・定着した後に、情報化投資対効果の一部としてコンサルティングの投資対効果を測定するしかない。このため、コンサルタントは計画の実施・運用・定着段階まで係る必要がある。 A経営幹部に対する情報戦略教育 情報戦略、システム化計画の経営における位置付け、重要性を十分に理解していない企業が多く見られる。一方、eビジネス企業と言われる情報戦略と経営戦略とを一体化させた企業が存在している。その差は、経営幹部の情報化に関する知識と認識の差に起因する。暗黒の80年代を積極的な情報化投資により、好景気にわく90年代に変革させた米国をモデルとするのであれば、日本の経営幹部に対する情報戦略教育を急ぐ必要がある。 BIT コーディネータの組織化 コンサルティング費用は、投資対効果を即座に測定することができないため、価格に対する妥当性を企業に理解させることは難しい。これを解消するには、業界としての活動が必要であろう。業界標準価格を設定し、ユーザー企業に理解を求めていくなどのIT
コーディネータの組織的活動が必要である。現在、ITコーディネータ協会は、認定試験制度の構築に注力しているようだが、ITコーディネータを職業として確立するための組織化こそが必要である。 これらの阻害要因が排除され、ITコーディネータと経営者が力を合わせることにより、日本のIT革命が一日も早く成功することを期待したい。