ECの企業経営に与える影響と対応戦略
ECは次のような影響を企業経営に与えると考えられ、それぞれに対し次の対応策が考えられる。
1.時空間的制約の排除による影響と対応策
ECは売り手に対しても、買い手に対しても、時空間的制約を排除するものである。
これにより、売り手は、容易に自社の販売チャネルの拡大、商圏の拡大、販売機会の増大をはかることが可能となる。しかし、同様の効果は自社の競合相手にも、もたらされるため、売り手間競争の激化をまねくことになる。リアル企業、バーチャル企業が入り乱れた競争となり、競合が激化する。競合激化に対応した明確な競争戦略・差別化戦略を持たずにECへ進出することは、自殺行為と言わざる得ない。参入障壁の低さから、安易にECへ参入した企業が成功しないのは当然である。ECへ進出する企業は、リアル企業以上の戦略性を持って進出しない限り、ECの世界で成功することはありえない。
また、買い手は、24時間365日いつでも世界中の売り手からバーチャル・ワン・ストップ・ショッピングを行うことが可能となり、買い手の購入・発注に伴う時間的・金銭的コストの削減をはかることが可能となる。
この買い手の便益性の飛躍的な向上が、購入商品のスピーディーな配送要望を助長し、リアルタイムに近い商品入手を望むようになる。このニーズに対応するためには、モノを販売する限り、ロジスティックス面の強化が必須となる。適正な在庫の保持、効率的な物流なくしては、短納期配送のニーズに応えることはできない。
しかし、自社内でロジスティックス面の強化をはかるためには、多くの資金を必要とする。そのため、資金的基盤の弱いバーチャル企業は、その資金負担に耐えられず、経営破綻に向かう企業が多い。
これを解決するためには、自社独自でロジスティックスの強化をはかるのではなく、すでに強固なロジスティックスを持つリアル企業との提携やロジスティックス専門企業との提携を行う必要がある。
もう一つの解決策は、有体物であるモノの販売から、無体物であるデジタル商品・情報商品の販売に切り替えることである。
2. 共有化情報量の増大と情報の信頼性に対する不安の影響及び対応策
ECは当事者間でリアルタイムに共有される情報量を容易に増大させることができる。情報の共有化により、不確実性が回避され商取引まつわる効率化をはかることができる。また、異質の知識を持つ当事者間で情報の共有、交換がなされることにより、新たな知識を創造することも可能となる。
しかし、従来メディアを使用した情報共有、情報交換に比較し、共有される情報の信頼性に対する不安が存在する。
これらの影響と対応策を個別に検討することにする。
2.1. ECの当事者は、売り手と買い手
まず、情報を共有するEC当事者とは誰かということを明確化する必要がある。BtoC ECではEC当事者を企業と消費者と考えられている。しかし、ebayのようなオークションサイトの場合、売り手も買い手もコンシューマであり、この分類はふさわしくない。
BtoB ECでは、売り手と買い手をEC当事者としており、実態にあっているように思われる。企業、消費者いずれもは、ある時点では売り手であり、ある時点では買い手になりうる。
したがって、情報を共有するEC当事者は、売り手と買い手となり、売り手間コミュニケーション、買い手間コミュニケーション、売り手・買い手間コミュニケーションが存在する。
売り手間、買い手間、売り手・買い手間の中間に情報仲介業者であるインフォミディアリ企業が存在する場合も考えられるが、ここでは単純化のため売り手と買い手をEC当事者と考えることとする。
2.2. 需要供給情報の共有化
各買い手が持つ需要情報と、各売り手が持つ供給情報を全買い手及び全売り手でタイムリーに共有すること(売り手間、買い手間、売り手・買い手間コミュニケーション)により、サプライチェーン全体における在庫の最適化をはかることが可能となり、サプライチェーン全体の需要情報に基づいた最適生産を行うことが可能となる。最適生産はサプライチェーンの末端までおよぶこととなり、経済効果は非常に高い。
必要なものを必要な量だけ生産し、産業界全体がリーン生産を実現する。これにより、地球資源の無駄使いを抑制することも可能となり、自然環境維持にも貢献するものである。インターネットを活用した正確な需要・供給情報の交換により、自然にやさしい生産・消費の実現する。
この最適化のチェーンに加わるためには、まず、自社内の需要・共有情報をタイムリーに把握するしくみを整備すること、需要の変化に迅速に対応した生産計画が立案できること、生産実績がタイムリー把握できることなど、自社内製販統合システムの整備が必要となる。ERPのような統合化システムの導入が進んでいない日本の製造業は、自社内の基幹系業務システムの統合化をはかることが第1位課題となる。自社内システムの統合化をはかった後、さらに、原材料・部品供給業者との情報共有化をはかるためのネットワーク整備が必要となる。
自社内のシステム統合化を事前に行わずして、最適化サプライチェーンに加わることはできない。
2.3. 売り手に対する低価格要求の激化
買い手の得られる情報量の豊富さ、買い手間コミュニケーションにより、売り手に対する低価格要求が激化する。具体的には次のとおりである。
@買い手の得られる情報量の豊富さ
・ 情報の非対称性の崩れによる売り手が情報操作することが困難になる。
・ 売り手の競合相手に関する情報を入手することが容易であり、売り手間競合が激化する。
・ 売り手の競合相手から、買い手は容易に価格情報を得ることが可能であり、豊富な情報に基づく価格交渉を買い手に対して行うことが可能となる。
A買い手間コミュニケーション
・ 買い手間コミュニケーションによる購買力の集中、増強による価格交渉力が強化される。
・ 買い手間コミュニケーションによる需要調整により、購買の平準化をはかり、安定購買を実現することにより、ローコスト生産を要求することが可能となる。
・ 買い手間コミュニケーションによる商品の標準化・共通化による生産コストの低減を要求することが可能となる。
これに対応するためには、マイケル・ポーターのいう製品差別化戦略を取るか、コストリーダーシップ戦略[i]を取るしかない。
2.4. 商品ニーズ、シーズ情報の共有化
買い手の持つニーズ情報と、売り手の持つシーズ情報の共有化、買い手間のニーズ情報の共有化、売り手間のシーズ情報の共有化を行うことにより、新たな商品を企画・開発することが可能となる。異質の情報・知識の触れ合い、交換により新たな情報・知識を生み出し、新たな商品を創造することができる。
そのためには、買い手、売り手が一つのテーマで自由に意見を述べ合えるコミュニティを作り上げる必要がある。
コミュニティの構築、活用如何が、EC成功の鍵となる。
2.5. 情報の信頼性の確保
共有される情報の信頼性は、メディアによる保証がなく、ネットワークの匿名性により、信頼性が確保されにくい状態である。
そのため、情報を発信する側は、自社のブランド価値を高めることにより、情報の知覚品質の向上をはかる必要がある。ブランド価値向上策としては、マスメディアに広告宣伝費をつぎ込んで自社のブランド価値を高める方法と、すでに高いブランド価値を持っているリアル企業との提携をはかる方法がある。
また、情報の信頼性をあげるために、信頼のおける当事者のみにクローズドした空間のみで情報を共有化する方法もある。買い手のニーズを売り手へ公開し、特注品やカスタマイズ商品を製造させるには、クローズドな空間、市場が重要となる。
ECというと、そのオープン性に注目されることが多いが、実際の取引はクローズドな市場が取引の中心となると考えられる。
しかし、完全にメンバーを固定したクローズドな市場では、従来の系列間取引の地理的な延長にしかならず、市場の広がりは限定されてしまう。オープン性をいかに維持し、メンバーの流動性を確保するかが課題となる。
そのためには、オープンな市場でスポット取引で出会い、クローズドな市場で関係的取引を行うことが考えられる。(図表1 参照)
eマーケットプレイス参加企業間での主導権争いという現象面での問題は、オープン市場であるeマーケットプレイスをいかに自社のクローズド市場に形作るかの戦いである。eマーケットプレイスは、オープン市場でなければならないと考えるところに、この問題の原因がある。中立的な第三者により運営され出会いの場として活用されるオープン市場と、関係性の高い当事者間で運営され取引の場として活用されるクローズド市場の形成を図れば、この問題は解決する。
売り手、買い手ともに、オープン市場、クローズド市場の特性を見きわめた上で、使い分ける必要がある。

図表1 オープン市場とクローズド市場
また、技術的には、オープン・ネットワークであるインターネット上で機密性の高い通信を行う方法には二つの方法がある。IP VPN(internet Provider Virtual Private Network)と、インターネットVPNという方法がある。いずれも、ネットワーク上は暗号化を行い、通信傍受を防ぐものである。前者は、インターネットプロバイダーにより暗号化するのに対し、後者は送受信する末端で暗号化する点が異なる。インターネット上でクローズドな通信を行うためには、これらの技術を活用する必要がある。
3. サービス産業化を促進するECの影響と対応策
3.1. モノ販売におけるサービスの重要性
モノの販売において、BtoC ECは、自動販売機や通信販売のカタログではなく、店構えや店員の顔が見えない分、リアル店舗以上にバーチャル店舗では顧客サービスが重要である。充実した顧客サービスを提供するためには、無人サービスにこだわることなく、有人によるサービスも適宜採用すべきである。顧客サービスの質の向上・維持が、ECにおけるモノ販売における成功を左右する大きなポイントである。
3.2. デジタル商品をサービスとして提供
デジタル商品をBtoC ECの主力商品とすることにより、顧客の納期短縮要求と自社在庫負担の軽減というジレンマを解消することができ、また、独自の価格体系を構築することもできる。
デジタル商品は、音楽ソフト、ゲームソフト、コンピュータソフト、書籍、写真、映像などだけではない。情報家電やネット家電の普及により、家庭内のすべての機器におよぶ可能性がある。現在、家電のほとんどには、マイクロコンピュータが内蔵されており、PROMなどに焼き付けられた組み込み型ソフトにより稼動している。組み込み型ソフトのバグ(不具合)が発生し、交換する必要がある場合には、機器を分解し、機器内のPROMを取りだし交換する必要がある。そのため、顧客の手には負えず、修理に出さなければならなくなる。西暦2000年問題の際に、この問題が憂慮された。また、いつ、組み込み型ソフトにバグが見つかるかは誰もわからない。
もし、組み込み型ソフトを機器内のPROMなどに焼き付けることなく、インターネットからダウンロードし、交換することができればこの心配はなくなる。それだけではなく、新しい機能を持ったソフトをダウンロードし機器の機能を向上させることもできるようになる。これにより、機器の機能的陳腐化を避けることができ、機器の使用期間を延ばし、不用機器の発生を押さえることができるようになる。
企業側は、家電機器というハードウェアの販売だけではなく、ソフトウェアの販売によっても利益を得ることができるようになり、機器の使用寿命の延命化に伴う収益の減少をカバーすることが可能となるだけではなく、家電リサイクルに伴う支出を押さえることも可能となる。地球環境を守る上からも、ソフトウェアの交換による家電ハードウェアの延命化は重要である。
組み込み型ソフトをインターネットからダウンロードするためには、もちろん、家庭内機器がインターネットに接続される必要がある。家庭内の機器をブルー・トゥース(Bluetooth)などの無線技術により接続し、家電の中で常に電源が入っている冷蔵庫などをインターネットへのゲートウェイ・サーバーとすることが考えられている。
デジタル商品の販売において、デジタル商品はコピーが容易で海賊版を生みやすい。海賊版の流通を防止するためには、デジタル商品をサービスとして提供する必要がある。デジタル商品は、使用時間に見合った料金を課金するサービス産業から提供されるようになり、ビジネスモデルとしては、コンピュータ業界のASPが参考になる。
3.3. 情報商品仲介業、市場提供サービスの台頭と寡占化
情報商品は、顧客の納期短縮要求と自社在庫負担の軽減というジレンマを解決するインターネットを流通媒体とする商品である。また、独自の価格体系を構築することも可能である。情報商品をネット上で仲介することをビジネスとする新しい中間業者である市場提供サービス(マッチングビジネス)企業が、すでに、オークション市場企業、逆オークション市場企業やバーティカル・ポータル・サイトなどとして台頭してきている。
ポータル・サイトは、当初、YahooやExciteなどのすべての種類の情報を浅く広く集めたサイトが台頭し注目を集めたが、現在は製品カテゴリー別ポータル・サイト、顧客セグメント別ポータル・サイト、ライフスタイル別ポータル・サイトなど狭く深い情報を提供するバーティカル・ポータル・サイトが注目を集めている。これは、情報を得れば得るほどより深い情報を知りたがるという顧客の欲求の現われである。
提供する情報や交換される情報のカテゴリーの切り方により、さまざまな市場提供サービスが考えられる。製品カテゴリー別、顧客セグメント別、ライフスタイル別にそれぞれ多くのバーティカル・ポータル・サイトやオークション市場を構築することが可能であり、市場規模が拡大すると思われる。
また、一方、各カテゴリーごとには、複数のバーティカル・ポータル・サイトやオークション市場が生き残ることは難しく、寡占化されるものと思われる。
なぜなら、これらの企業の価値は、メトカーフの法則が当てはまり、企業が提供する市場に参加するものの数の二乗に比例するためである。田坂広志氏が言う「顧客が集まる→企業が集まる→情報が集まる→顧客が集まる」 [ii]という循環が加速し、各カテゴリーごとに一つの市場に顧客・企業・情報が集中するため、寡占化が急速に進むと思われる。
寡占化する性質を持つ市場であるため、他の企業に先駆けてサービスを提供しコーポレートブランドを構築するか、はじめから、競合する可能性のある企業と提携して共同の市場を構築するなどの方策が考えられる。
3.4. 付加サービス提供産業の拡大
BtoB ECの周辺には、多くの付加サービスが必要とされる。与信、物流、金融決済、保険など取引に直接かかわるものから、企業内システムにBtoB ECを取りこみ、連携させるための情報システム構築サービス、情報システムそのものを提供するシステム・アウトソーシング、ASP(Application Service Provider)などの様々なサービス提供ビジネスが考えられる。
現在は、これらのサービス提供が十分にされていないために、自社基幹系情報システムとの連携が取れず、BtoB ECが自社内の受注業務の効率化、迅速化に結びつかないという現象面での問題を引き起こしている。
物流一つを考えてみても、鋼材など重量物を運搬できる物流業者や、化学薬品などの危険物を運搬できる物流業者は限られている。限定された物流業者との連携が取れなければ、取引情報だけを交換しても取引を成立させ、完結することはできない。いかに周辺サービスの整備が重要であるかがわかる。
サービス提供業者にとっても、eマーケットプレイスとの連携は、顧客を拡大するチャンスである。また、新たなサービス・ビジネス、ソリューション・ビジネスを生み出す可能性も高い。
ソリューション・ビジネス・プロバイダーの台頭と連携が、BtoB ECの成功の鍵を握っていると言っても過言ではない。
4. 企業間連携の重要性と対応策
ECにおいて、成功するためには企業間連携が次の点から、非常に重要である。
@ 有体物(モノ)を販売するBtoC ECにおいて、顧客への納期短縮と在庫の適正化を図るため、強固なロジスティックシステムをすでに持つリアル企業やロジスティックス専門企業との提携がバーチャル企業にとって有効な方策である。
A 企業が発信する情報の信頼性を向上するため、ブランド価値を向上策として、すでにブランド価値を持つリアル企業との提携が、バーチャル企業にとって有効な方策となる。
B リアル企業がECへ進出する際、リアル店舗との二重価格の問題による現在のブランド価値を損なうリスクを、バーチャル企業との提携により避けることができ、リアル企業にとって有効となる。
C インターネットバブルが去り、資金調達面でも苦境に立たされる可能性の高いバーチャル企業は、リアル企業との提携により資金面での安全性を高めることができる。
D BtoB ECは多くの付加サービス提供企業を必要としており、付加サービス提供産業との連携なしでは成功しない。
しかし、組織の意思決定方法、アクションスピード、リスクに対する感覚など多くの点で異なる企業間の提携は、さまざまな問題を発生させる可能性がある。それらは、企業文化の相違に基づく問題であり、互いの企業文化の相違を十分理解することが問題の解決に結びつく。
お互いの企業文化を理解するためには、お互いが持つ暗黙知が異なるのだということを認識した上で、自分の持つ暗黙知を積極的に言葉に出し、形式知化していく努力と、相手が言葉に出して表している形式知の裏に隠れる暗黙知が何かを推察し、理解できない場合には積極的に質問をすることが求められる。暗黙知に対する相互の理解なしには、企業文化の異なる企業間における提携事業を進めることはできない。
注記