日本文化と21世紀の日本企業

<論文要旨>

 21世紀の日本のあるべき姿として、米国のシリコンバレーを中心とした新しいビジネスモデルに学び、斬新なテクノロジー、ニュービジネスに挑戦するベンチャー企業を積極的に育成するべきと、叫ばれている有識者の方が多い。しかし、シリコンバレーのビジネスモデルが、21世紀の日本企業に対する有効な処方箋なのだろうか。

日本と米国の規範となる文化には大きな相違がある。この論文では、米国文化と日本文化の相違点をHofstedeの研究をもとに明確にし、日本文化の持ち味を生かすことを前提に、21世紀の日本企業のあるべき姿、グローバル社会における役割に関して考えてみたい。

Hofstedeの4つの文化差尺度のうち、日本文化の特徴の一つである不確実性回避行動度の高さに注目し、情報化社会の基盤となるソフトウェアを中心とした製品の品質を向上させることが、21世紀における日本企業のはたすべき重要な役割であると私は考える。

<論文本文>

 はじめに

 日本の景気低迷の脱出策として、日本企業は米国シリコンバレーを中心として発達した新しいビジネスモデルに学び、斬新なテクノロジー、ニュービジネスに挑戦するベンチャー企業を育成するべきであると叫ばれている有識者の方が多い。はたして、ベンチャービジネス育成が、21世紀の日本企業に対する有効な処方箋なのだろうか。

日本と米国の規範となる文化には大きな相違がある。その相違を無視して、米国の経営手法をモノマネし、米国企業と同様の役割をグローバル社会の中で担うことが、21世紀に日本企業の取るべき姿だとは、私には思えない。かえって、20世紀に築き上げた日本企業のグローバル社会における役割・存在感を弱めることになるのではないかと私は思う。ここで、米国文化と日本文化の相違点を明らかにし、日本文化の持ち味を生かすことを前提に、21世紀日本企業の役割に関して考えてみたい。

1.  日本文化と米国文化

 インターネットにより世界の情報は、容易に迅速に手に入るようになった。電子メールは一瞬にして、地球の裏側まで到達し、まさに世界は、グローバル・ビレッジになった。しかし、そこに住む人間が一つの文化を規範としているのではなく、いままで各国で培われた各国の文化を規範としている。規範としている文化の存在、文化間の相違を無視した企業経営は多くの場合、受け入れられず失敗に終わっている。

そこで、文化間の相違を明確にするため、理論的に表す方法が必要となる。Hofstedeは、対人権力距離度、不確実性回避行動度、個人主義行動度、男性度という四つの概念を用いて、これを表した。

対人権力距離度とは、組織の中で相手との権力差を認める度合いを示すものである。権力距離度の大きい文化では、権力差を社会の一部として認める傾向があり、小さい文化では、上司・部下は同じ人間で平等であり、立場・役割が異なっていると考える傾向がある。

 不確実性回避行動度とは、不確実なことを許容する割合を示す。不確実性回避行動度の高い文化では、不確実なことはできるだけ排除されなければならないと考え、奇抜なものや先の見えないものは危険であるとする傾向がある。逆にこの指数の低い文化では、不確実であるということは当然なことであり、奇抜なものや先の見えないものを好奇心の対象とする傾向がある。

 個人主義行動度とは、価値観及び行動形式において個人主義を重視する度合いを示す。個人主義行動度の高い文化では、個人の目的を重視し自己実現が奨励される。この指数の低い文化では、集団行動が重視され、個人の目的実現よりも集団の目的実現が重視される。

 男性度とは、文化の男らしさを表すものであり、男性度の高い文化では、モノ、カネ、力が重視され、男性の自己主張が強く、仕事人間になりやすい傾向がある。この指数の低い文化では、控えめにふるまい、人間関係を重視する傾向がある。

Hofstedeが1968年と1972年に、世界53カ国、被験者数11万6千人に実施したアンケート調査の結果は、図表1のとおりである。

 

(図表1)主な国の文化尺度数値

 

 

国名

対人権力距離度

不確実性回避行動度

個人主義行動度

男性度

アルゼンチン

49

86

46

56

オーストラリア

36

51

90

61

ブラジル

69

76

38

49

カナダ

39

48

80

52

チリ

63

86

23

28

デンマーク

18

23

74

16

フィンランド

33

59

63

26

フランス

68

86

71

43

イギリス

35

35

89

66

ドイツ(西)

35

65

67

66

ギリシャ

60

112

35

57

香港

68

29

25

57

インド

77

40

48

56

イラン

58

59

41

43

イスラエル

13

81

54

47

イタリア

50

75

76

70

日本

54

92

46

95

オランダ

38

53

80

14

ノルウェー

31

50

69

8

パキスタン

55

70

14

50

フィリピン

94

44

32

64

ポルトガル

63

104

27

31

シンガポール

74

8

20

48

スウェーデン

31

29

71

5

台湾

58

69

17

15

米国

40

46

91

62

世界平均

52

64

50

50

標準偏差

20

24

25

20

 

 

 

Hofstede,1980】

 

 この結果から、日本と米国との文化的差を各項目ごとに見てみる。

1.    対人権力距離度

世界平均52。日本は54、米国は40。あまり大きな差はない。両国とも、世界平均に近い値である。この面においては、日本文化と米国文化の相違はあまりみられない。

2.    不確実性回避行動度

世界平均64。日本は92で、世界で第4位の

高さである。米国は世界平均を下回る46という値である。日本は不確実なもの、奇抜なものを危険として認識する傾向が世界の中でも非常に高い文化を持つ国である。逆に米国は、これらのものに、非常に興味を示す文化を持つ国である。

3.    個人主義行動度

 世界平均50。日本は46と世界平均に近い値。米国は91を示し、世界第1位である。米国は典型的な個人主義行動重視の文化を持つ国である。日本は集団主義文化の国と言われることが多いが、この結果からそうとは言えないと思う。

4.    男性度

 世界平均50。日本は95と世界第1位。米国は62。日本は、男性的社会であり、物質的な成功を社会的な成功とする価値観であり、男性は自己主張が強く野心的でたくましいことが望まれる文化である。

2.日米文化の相違と経営

 米国の文化は、個人の目的、自己実現を重視した個人主義であり、また、不確実なことが起こることは当然であると考え、奇抜なアイデアやリスクのあるものに興味を覚える文化である。これは、シリコンバレーなどで成功しているベンチャービジネスが発展しやすい文化と言える。ベンチャービジネスは、他の人とは異なる斬新なアイデアに自己実現の夢を託し、起業する。そこで成功する確率は決して高いものではないが、そのリスクに脅えることなく、逆にそのリスクを楽む。まさに、ベンチャービジネスこそ、米国文化にフィットしたビジネスである。

日本の文化は、先のわからないもの、奇抜なアイデア・考え方を危険なものとみなし、確実性を重視する文化である。この傾向は、製品は完全なものでなくてはならないという規範を生み出し、日本の誇る品質の高い、均一な製品を生産する規範となっている。また、一方では、異文化、異邦人を危険なものとしてみる傾向がある。イノベーションは、同一文化の中よりも、異文化・異邦人とのふれあいの中で発達すると言われているが、日本は文化的にイノベーションが起こりにくい。

 また、物質的な成功を、社会的な成功したと同一視する文化的傾向があるが、個人主義はあまり強くないため、個人での物質的成功よりも集団での物質的成功を望む傾向がある。この文化は、20世紀の工業化社会では大成功した。新しい技術、アイデア、デザインを輸入し、それをもとに、質の高い製品を均一に確実に大量生産することにより、企業資産を増加させ日本は経済大国になった。

3.日本文化を基盤とした日本企業の役割

 前述のように、米国文化と日本文化とには明らかな相違がある。日本企業がお手本にすべしと言われているベンチャー・ビジネスは、米国の文化に最適化された企業形態である。これをそのまま日本に持ちこむことは文化的に無理がある。

 では、21世紀の情報化社会において日本企業はどのようなビジネスモデルをもとめ、どのような役割をグローバル社会において果たすべきだろうか。これを考える上で、日本の文化的特徴の一つである不確実性回避行動度に注目してみたい。20世紀の工業化社会で日本企業が成功した原動力となったこの文化的特徴は情報化社会においても有効であると考える。

21世紀情報化社会の主役はコンピュータであり、その頭脳はソフトウェアである。品質の低いソフトウェアは、21世紀の社会では社会的混乱を引き起こす。現在、問題となっている2000年問題はその序章である。

ところが、その多くは米国ベンチャー企業の斬新なアイデアにより生み出される。そして、その品質は決して誉められたものではない。世界第1位コンピュータ・ソフト会社 マイクロソフト社のソフト製品の品質は、その不安定さから、「リブート文化」といわれた時期があった。ソフトウェアがハングアップし、電源を落として再立ち上げ、リブート処理をしなければ動かなくなることが頻繁にあったからだ。米国は、不確実性回避行動度の低い文化である。そのため、予測されない事態が起こるのはしかたがないと容認してしまい、このような品質の製品を世界に供給する結果を招いた。これに、最も怒りを覚えたのは日本の消費者であり、企業の中枢への導入が進んでくるとその怒りは爆発した。不確実性回避行動度の高い日本文化のなせるところである。

 不確実性回避行動度の低い米国の生み出すソフトウェア製品を、不確実性回避行動度の高い日本の品質管理で製品品質を向上させることにより、高機能・高品質のソフトウェア製品を世界市場に供給することが可能になると思われる。「製品は完璧であるべきだ」という日本の文化に基づく品質管理を情報化社会の主役であるソフトウェア製品に付加する役割が、21世紀に日本企業のはたす重要な役割であると私は思う。

おわりに

 日本文化の特徴の一つである不確実性回避行動度の高さに注目して、21世紀情報化社会における日本企業の役割について論じてみた。日本文化のもう一つの特徴に男性度の高さがあるが、最近の女性の社会進出、若年男性の女性化傾向を目にすると、この特徴は早期に失われる可能性が高いと思い、触れないこととした。また、Hofstedeの調査データが、21世紀を語るには古いという問題を内在していることは認識している。

 しかし、文化的背景を無視した昨今のベンチャービジネス信仰には問題が多いと思い、筆をとった。日本企業が日本文化に根ざした経営を行い、21世紀に他の国とは異なる役割を世界市場に対して果たすことを期待したい。

<引用・参考文献>

・デニス・S・ガウラン/西田 司編著「文化とコミュニケーション」、P125−137、1996年4月10日、八朔社刊

・山口 生史著「従業員動機づけのための異文化間コミュニケーション戦略」、1998年11月9日、同文館出版刊