ポスト情報社会におけるロックインからの解放

Release from Lock In Phenomenon in Post Information Societies

井上 実

minoru-inoue@nifty.ne.jp

 

はじめに

 情報社会において見られた特定の技術、製品、企業によるロックイン現象は、ポスト情報社会において解消されるのだろうか?解消されるとしたらその要因は何か。新たなロックインが発生する可能性はないのか。

 これらの疑問を、情報社会における情報産業の歴史を振り返り、ポスト情報社会を知識資本主義社会、サービス化社会の観点から見てみることにより推察する。

 

1.情報社会のロックイン

 情報社会のインフラであるコンピュータを中心とした情報産業は、常に特定の技術、製品、企業により顧客がロックイン(囲い込み)されてきた。情報産業の歴史を振り返りながら、ロックインの歴史を見てみることにする。

 

1.1.               ハードウェアロックインのメインフレーム時代

 コンピュータの誕生から、真空管ベースのコンピュータの時代までを、第1世代と呼んでいる。しかし、軍事用や統計用など限られた用途しか利用されておらず、出荷台数もわずかであり、第1世代コンピュータは産業として成り立つ状態でなかった。

 民生用に使用されたのは、トランジスタベースの第2世代コンピュータの時代になってからである。

 

(1)  2世代におけるロックイン

 第2世代において、IBMは巨人となった。

 第1世代コンピュータの開発、販売において、常にスペーリランド社に先を越されていたが、PCS(パンチカードシステム)から得た資金力をバックに、低価格攻勢をかけシェアを奪った。

 第2世代に入ると、IBMは事務用マシンの開発、販売に注力した。第2世代では、事務用と科学技術用に機種が異なり、全く互換性がなかった。

 科学技術用は、高速な処理機能と簡単なシステムソフトを提供すれば、ユーザ自身がソフトウェアを開発し、メーカにとって手離れがよかった。一方、事務用は、技術にあまり詳しくないビジネスマンがユーザであり、メーカにとっては販売後も手間がかかった。

 しかし、IBMはあえて手間のかかる事務用をメインターゲットに選択したことにより、ユーザをロックインすることができた(DeLamarter1987)。

 事務用では、ユーザが自分自身でソフトウェアを開発することができず、常にメーカからの技術サービスを必要とした。IBMPCSの販売で構築したサービス網を活用し、ユーザに技術サービスを提供することができたが、他社は新たなサービス網を構築する必要があった。

 また、ユーザの技術力があまり高くないため、ユーザだけで他社へのせかえることは難しく、他社にリプレースするためには、プログラム移植に費用がかかり、スイッチングコストが高くなった。そのため、一度導入したユーザはロックインされやすくなった。

 IBMは潤沢な資金力により、新規ユーザに対し低価格を提示し、獲得した後はユーザをロックインすることで収益をあげた。

 他にも、IBMはロックインを容易にするための方法として、次の戦略をとった.

@    レンタル販売を中心とし、中古市場の形成を阻止するとともに、ユーザからの継続的売上、継続的コミュニケーションを確保した。

A    CPUだけではなく、周辺装置、ソフトウェアすべてを自社から提供し、CPUとのインタフェース方法をたびたび変更することで周辺機器メーカを撲滅した。

IBMはユーザをIBMのハードウェアにロックインさせることに成功し、1964年には80%のシェアを獲得し、コンピュータ業界の巨人となった(DeLamarter1987)。

 

(2)  PCS時代から始まっているロックイン戦略

 IBMのロックイン戦略は、第2世代コンピュータの販売において始まったものではない。

 IBMの基礎を作ったPCSの販売において、ロックイン戦略はすでに形成されていた。

 統計処理や簿記用作表を行うPCSは、データをカードに窄孔して記録し、記録されたカードを読み、計算して作表する。

 データはすべてカードに保存されている。そのため、カードのフォーマットが異なる機種に切り替えると、すべてのデータを再作成する必要があり、スイッチングコストが高くなる。カードのフォーマットはメーカごとに異なっていたため、ユーザはロックインされる。

 IBMは、カードとPCS機器をバンドル販売し、自社カード以外の使用を禁じた。これにより、PCS機器だけではなく、使用するカードにもロックインされることになり、IBMは継続的売上を確保することができた。

 また、ロックインを促進するために、レンタルのみの販売、周辺機器を含めたすべての機器の販売をおこなったこともPCSから第2世代コンピュータ販売に引き継がれた戦略である。

 これにより、1935年末のシェアにおいて、作表・会計機 85.7%、分類機 86.1%、窄孔機 81.3%を獲得し、窄孔カードを年間約30億枚販売し、IBMの基礎となる収益をあげた(DeLamarter1987)。

 

(3)  3世代はIBM内におけるハードウェアロックインからの解放

 第3世代に入り、IBMは科学技術用と事務用を同じハードウェアで稼動させることのできるOS/360を開発し、汎用機としてシステム360を販売した。

 これにより、異なるコンピュータ機種間でのソフトウェアや周辺機器の互換性が確保され、IBMの世界だけで考えると、ユーザはハードウェアロックインから解放され、OS中心の時代に入ったことになる。

 また、独占禁止法訴訟に悩まされ(情報処理学会歴史特別委員会、1998)1970年にはハードウェアとソフトウェアの価格を分離するアンバンドリングを発表せざるえなくなり、価格戦略面からもOSを含むソフトウェアはハードウェアから独立した。

 しかし、ハードウェアアーキテクチャとOSとの相互依存性は高く、OSがハードウェアから完全に分離されたわけではなかった。

 

1.2.               OSロックインのオープンシステム時代

 ハードウェアロックインから解放したのは、ハードウェアに依存しないOSであるUNIXMS (マイクロソフト社製)OSを中心としたオープンシステムの波であった。

 

(1)  UNIXよるハードウェアロックインからの解放

 AT&Tベル研究所のスカンクワークで開発されたUNIXは移植性の高い言語であるC言語で開発されたことにより、ハードウェア依存性の低いOSとなった。

 また、当初、AT&Tが独占禁止法訴訟の制約からコンピュータ業界に参入できず、ソフトウェア製品として販売ができなかったため、大学などの非営利団体にソースコードを実費配布したことから、様々な改良がなされ広まっていった(脇英世、2002)。カリフォルニア大学バークレー校における改良はBSD版として有名である。

 AT&Tの分割に伴いソフトウェア製品として販売できるようになり、SystemVを販売。マイクロプロセッサの技術革新とも呼応し、SUN社やアポロ社(後にHP社に買収される)などベンチャー企業の台頭もあり、科学技術分野におけるワークステーション用OSとして業界標準の地位を獲得した。これにより、科学技術用におけるハードウェアロックインは解放された。

 事務用でUNIXが活用されるためには、OSだけでは不十分であった。ネットワーク、DBMSなどミドルウェアがUNIX上で開発、整備される必要があった。

 TCP/IPがネットワーク界のデファクトスタンダードになり、DBMSではIBMが開発したRDBMSUNIX上で製品化したOracle社、Sybase社の製品などにより、ミドルウェアの充実化が図られたことにより、UNIXは事務用分野におけるハードウェアロックインを解放した。

 

(2)  MS OSによるハードウェアロックインからの解放

 マイクロソフト社のOSは、インテルCPUのアーキテクチャに依存する部分があり、厳密にはハードウェアロックインから解放したとはいえない。しかし、特定ハードウェアメーカの提供するコンピュータシステムからユーザを解放したという意味では、ハードウェアロックインを解放したと言える。

 IBM社からの依頼で開発したMS-DOSを互換機メーカへ使用許諾できる権利を留保したことにより、マイクロソフト社はIBMという特定のハードウェアメーカから部分的に解放された。

 OS/2をめぐるIBMとの決別により、マイクロソフト社は完全にIBM社から解放され、IBMのハードウェアロックインから解放されたOSを提供するようになり、1993年にサーバ用OS WinodwsNTを販売した。その後、PCOSWindowsブームを呼んだWindows95をはじめ、機能拡張を繰り返し、PC界の巨人の地位を獲得した。

 サーバ用OSであるWindowsNTも、Windows2000XPと機能拡張し、UNIXのエリアを脅かしつつある。

 

(3)  OSによる新たなロックイン

 ハードウェアロックインから解放されたユーザは、特定のハードウェアメーカの提供する製品にしばられることなく、最適なハードウェアを選択することが可能になった。そのため、ハードウェアロックインにより最大の利益を得ていたIBMは、1990年代初期に苦悩の時代を向かえることになった。

 しかし、ハードウェアから解放されたユーザは、OSにより新たなロックインをかけられることになった。

 UNIXによるロックインは、特定のメーカへの集中を招かなかったが、PC業界においては、マイクロソフト社への集中を発生させた。マイクロソフト社以外のOSを使用するパソコンは、アップル社のマッキントッシュしかなくなってしまい、マイクロソフト社の独占状態にあり、ネットスケープ社(その後AOL社に買収される)とのブラウザ戦争に代表される独占禁止法訴訟が発生している。

 Linuxに代表されるオープンソースソフトの台頭もあり、マイクロソフトのOSロックインを崩そうとする試みが見られる。

 UNIXの流れを汲むOSであるLinuxは、PCサーバ上でのUNIXMS OSの代理戦争のような状態であり、MS OSのソースコードが公開されていないことに対する不安やライセンス料金に対する不満から、Linuxをサポートするハードウェアメーカが増加しつつある。

 しかし、PCクライアントでのLinuxは、まだMS OSのロックインを解放する段階には至っていない。

 

1.3.               OSロックインを強化するソフトウェアパッケージ

 UNIXおよびMS OSによるOSロックインは、両OS上で稼動するミドルウェアパッケージやアプリケーションパッケージが開発され普及したことにより、さらに強化された。

 

 (1)RDBMS

 UNIXMS OSの両方で稼動するRDBMSが主流となっている。RDBMSIBM1976年に開発されたが、自社既存製品を脅かす可能性があるために製品化がなかなかされず、ラリーエリソンが1977年に設立したSDLで開発された。

 1978年にSDLRSIに社名を変え、CIAと海軍に対してRDBを販売したが、CIAIBMメインフレームとDECVAXで稼動することを要求。一方、海軍はDECVAXUNIXで稼動することを要求したため、移植性の高いC言語で新たに書き直し、オラクル1として1979年に納入した(脇英世、2002)。

 その後、VAXUNIX上のRDBMSとして成長したが、VAXの凋落とWindowsNTの台頭に対応し、UNIXおよびWindowsNTLinuxを主な稼動OSとしている。

 イラストラ社やレッドブリクス社を買収したインフォミクス社がIBMに買収されるなど、RDBMS市場は寡占化されつつあり、オラクル、IBM DB2MS SQL Serverにより、かなりのシェアが占められている。

 

 (2)ネットワークOS

 UNIXでは、TCP/IPOSに標準機能として組み込まれたため、デファクトスタンダードとなった。

 PC業界では、1980年代後半から1990年代前半にかけて、70%のシェアを獲得したノベル社とマイクロソフト社との間で激しく競合した。しかし、ノベル社は独自のプロトコルであるIPX/SPXによるネットワークであったのに対し、マイクロソフト社はUNIX上で標準であるTCP/IPベースした製品を販売。

インターネットブームによるTCP/IPの普及、Windowsフィーバーなどもあり、マイクロソフトが勝利をおさめた。これにより、TCP/IPUNIXMS OSの両OSにおける標準的なネットワークプロトコルになった。

 

 (3)ERP

 企業の業務処理に対して、アプリケーションパッケージを開発、販売することは、メインフレーム時代から行われていたが、機種ごとに移植が必要であり、販売後の機種ごとのサポート、バージョンアップ負荷も大きく、IBM向け以外のアプリケーションパッケージは普及しなかった。

 しかし、オープンシステムにより機種ごとの移植が不要となり、サポート負担を削減することが可能になったため、アプリケーションパッケージビジネスは規模の利益を得るようになった。

 また、RDBMSやネットワーク技術の発達により、データの統合やプロセス指向の業務処理など新しい仕事のやり方を提言するアプリケーションパッケージが台頭した。

 その一つがERPである。

 ERPは、企業の基幹業務と言われる会計、販売、生産、在庫、購買の業務処理を提供するアプリケーションパッケージであり、データ統合、業務統合によるBPRを実現するものである。1990年代後半に第1次ブームを向かえた後、2000年問題の影響で一旦ブームは去ったが、21世紀に入りCRMSCMを加えた拡張ERPとして、第2次ブームを向かえつつある。

 ERPも当初、UNIXサーバ上でアプリケーションを稼動させていたが、WindowsNTWindows2000の機能拡張や性能向上によるUNIXエリアへの侵食に伴い、MS OS上でも稼動させるようになった。

 20036月には、シェア2位以下のオラクル社、ピープル社、JDエドワーズ社による買収合戦が展開され、寡占化の傾向が見られる。

 

2.ロックインからの解放の可能性

 ポスト情報社会において、OSロックインは継続するのだろうか。ロックインから解放されるとしたら、どのような要因が考えられるかを知識資本主義社会とサービス化社会の観点から検討してみる。

 

2.1.知識資本主義社会

 資本主義社会の次世代社会は、知識を資本とした社会であることに異議を唱える人は、もはやいないであろう。では、知識資本主義社会における情報化ニーズとは、どのようなものが考えられるのかを検討してみる。

 

 (1)個人の知識と組織の知識

 知識が資本となる時代においては、資本は個人の頭の中に存在するものとなり、個人に帰属する。そのため、個人の知識が組織の知識として供出、蓄積されずに転退職すると、組織は貴重な資本を失う結果となる。これを避けるため、組織は個人の持つ知識を組織の知識として供出、蓄積、活用するしくみが必要となる。

 個人が積極的に知識を組織に供出するためには、知識の蓄積、活用だけを目的とした情報システム中心のナレッジマネジメントでは実現することはできず、知識供出を促す組織体制、評価制度、人事制度などが必要となる。

 そもそも、知識を持つ個人が特定の組織に帰属させるためには、個人を組織に結び付けておく為の共通のビジョン、価値観がなくてはならない。明確なビジョンのない組織には、知識という資本を持った個人を引き付けておくことはできない時代となる。

 

 (2)金太郎飴からバラエティキャンディーへ

 組織が資本として確保すべき個人の知識は、同じものを複数持つ必要はない。そのため、同一の知識をもつ知識労働者を複数組織内におく必要性は低い。組織の事業を推進するために必要な異なる知識をもつ知識労働者が集まるからこそ、資本としての価値がある。同一の知識を同レベルでもつ労働者が集まることにより、均一な製品を作り出すことが企業の価値であった工業化社会とは求められる労働者像は異なる。

 組織のビジョン、価値観を共有しながら、一人一人異なる知識を持った労働者が求められる。異なった知識の総和が組織の資本となり、企業は事業活動を行うことができる。

 また、異なる知識の触れ合いは新しい知識を生み出し、新しい資本となることにより資本が増強され事業が拡大する。

 

 (3)組織内情報・知識だけは知識労働者に必要な情報・知識はまかなえない

 このように、明確な組織のビジョンや価値観を共有し異なる知識を持った知識労働者が必要とする情報や知識は、個人個人により異なる可能性が高い。

 したがって、必要とする知識を組織内ですべてまかなうことが難しくなる。現代においても、インターネットを活用して個人の仕事に必要な情報を収集している労働者はすでに多い。

 知識資本主義社会においては、さらにこの傾向が高まり、インターネット上で公開されている情報・知識と組織内情報・知識だけでは、知識労働者が必要とするすべての情報・知識を入手することができず、個人ごとに異なる情報リソースを必要とする時代となる。

 組織の枠を超えた人的ネットワークやコミュニティにより得られる情報や知識だけではなく、個人や組織で所有する範囲を超えた大きな情報処理資源、データベースやナレッジベースを個人でネットワーク上に所有することも考えられる。

  このように組織内に情報・知識リソースが限定されなくなることにより、単一のOSでロックインすることは難しくなる。知識労働者に必要な情報を提供するインフラとなるハードウェアの規模、処理能力が様々なものとなり、単一のアーキテクチャのOSですべてのサイズに最適な処理を提供することは困難であるため、OSロックインから解放される可能性が高い。

 しかし、個人としては必要な情報・知識は統合されていなければならない。組織内情報・知識、個人として所属するネットワーク内情報・知識、インターネット内に公開されている情報・知識、個人で所有する情報機器内の情報・知識は、それぞれバラバラな状態では、情報探索時間・コストがかかり知識労働者の生産性を低下させてしまう。

 知識労働者が必要する情報・知識は個人レベルで統合化され、整合性が取れていることが求められ、これを実現する新たな技術が求められる。

 

 (4)企業内統合からネットワークコラボレーションへ

 自前主義により、すべてを自社内で行おうとする工業化社会では、企業内で発生する情報を迅速に共有化し、情報の統合、ビジネスプロセスの統合を図り、企業内全体最適化を実現することが、あるべき姿であった。

 しかし、知識資本主義社会になると異なる知識をもつ知識労働者とのコラボレーションが企業活動の中心となり、企業内の知識労働者という限りのある資源だけでは足りず、自社でまかなえない部分を、外部のサプライヤーから得る必要がある。自社のコアコンピタンスとしての知識と異なる知識をコアコンピタンスとするサプライヤーとの協業が不可欠な時代となり、これを支えるネットワークは、企業内中心のネットワークから、外部とのネットワークに重心を移すことになる。

 

 (5)タテ社会からヨコ社会へ

 工業化社会においては、階層構造組織による上位下達の命令系統が確立されたタテ社会であったが、知識資本主義社会では組織の枠をこえたプロフェショナル間のコミュニケーションが重視されるヨコ社会へ移行する。

 企業内のプロフェショナルの抱える課題は専門性が高いため、自社内の専門家の持つ情報・知識だけで解決される可能性は低く、社外の専門家とコミュニケーションしなければ解決しないことが多くなる。そのため、企業内の命令系統を重視したタテ社会から、専門的な知識ネットワークを重視したヨコ社会へ移行していくものと思われる。

 ヨコ社会では、外部プロフェショナルとのコミュニケーションが重要となるため、外部とのネットワークが不可欠なものとなる。

 外部とのネットワークが重視されると、インターネットのように標準化されたネットワークプロトコルをサポートさえしていれば、OSを限定する必要がなくなり、OSロックインが解消される可能性が高くなる。

 

2.2.サービス化社会

 資本主義社会から知識資本主義社会への移行に伴い、工業化社会からサービス化社会への変化が考えられる。すでに、情報産業ではハードウェア製造業から情報サービス業への変身がIBMを筆頭になされ収益構造が変化している。また、ハイテクや自動車などの産業においてもスマイルカーブ現象が見られるなど、産業のサービス化は進展している。

 では、産業のサービス化がOSロックインにどのような影響を与え、これを解消する可能性があるのかということに関して考察してみる。

 

 (1)所有から使用へ

 産業のサービス化に伴い、資産として情報機器を持ち情報システムを企業内で構築する形態から、企業内には最低限の機器を保有するのみで、情報サービス提供業者から情報システムサービスの提供受ける形態が主流となる。

 なぜなら、情報機器の技術革新のスピードは非常に早く、企業で購入した情報機器はすぐに陳腐化するため資産価値が低い。また、常に激しく変化する情報技術をキャッチアップする技術者を自社内に育成、確保することは、維持コストが高く採算に合いにくい。

 そのため、外部専門業者からの提供されるサービスを活用するASPApplication Service Provider)サービスが主流となると思われる。

 ASPサービスが主流となると、提供されるサービス内容が企業の選択の対象になり、サービスに使用されるハードウェアやOSなどは、極端には何でもかまわないことになる。どのようなハードウェアやOSが使用されようとも、必要なサービスが必要な品質で安価に受けることができるのであれば、企業はそのサービスを選択する。

 したがって、企業はOSロックインから解放されるとともに、ASP業者も高性能低価格なインフラを求め現状からの継続性を重視した選択をしなくなり、OSロックインから解放される。

 

 (2)ASPからWebサービスへ

 ASPサービスであると、提供を受けられる情報処理サービスはASP業者の提供範囲に限定される。しかし、企業の求める情報処理サービスは常に変化し多様化するため、企業の要求をすべて満足させる情報処理を1社によって提供できる可能性は低い。

 そのため、企業は複数のASPから提供される情報処理サービスを組み合わせて活用することとなり、複数のASPサービスを統合化するプラットフォームが求められることになる。Webサービスの試みがこのあたりを狙っての動きと思われる。

 また、ASPサービスせよ、Webサービスせよ既製品のサービスであるため、自社に最適なサービスがすべて提供される保証はない。特に、自社のコアコンピタンスに関わるビジネスプロセスは他社には存在しないからこそコアコンピタンスになるのであり、パッケージサービス主体のASPサービスやWebサービスで提供される可能性は低い。

 この部分はASP業者に自社専用に開発してもらうか、自社内に情報システムを持たなければならない。これらのカスタマイズシステムや自社用システムと、複数のASPサービスとの統合化も図られる必要がある。

 

3.新たなロックインの可能性

 ポスト情報社会において、OSロックインから解放される可能性があることはわかったが、新たなロックインにかかる可能性はないのだろうか?新たなロックインの可能性を検討してみる。

 

3.1.情報統合化技術によるロックイン

 個人ベースの情報・知識統合や、ASPサービス、Webサービス、自社専用システム間の情報統合がポスト情報社会では必要である。

 統合方法としては、EAIのような情報ハブを統合プラットフォームとし、各システムが情報ハブを介してインタフェースを取る方法と、情報の消費場所であるエンドユーザマシン上で集められた情報の統合化を図る方法が考えられる。

 後者の場合、情報の窓口であるポータルが情報・知識の統合化プラットフォームになるものと思われる。

 いずれにせよこれらの技術を使用しなくては統合化できないため、ロックインされる可能性は高まる。

 

3.2.知の伝達能力・表現能力を持つユーザインタフェースによるロックイン

 コンピュータやネットワークで扱われる中心がデータや情報から知識に変わることにより、ユーザインタフェースがポイントとなる。形式知しやすい文書、数字から、暗黙知を多く含んだ知識を伝達するためには、文字よりも図、静止画、動画、音声だけではなく、においや感触といったバーチャルリアリティの世界が必要になってくる。

 コミュニケーション媒体の表現能力により、知識の伝達、交換能力は大きく左右される。そのため、ユーザインタフェース技術をめぐる技術開発が促進し、デファクトスタンダードの座をめぐる戦いが繰り広げられる。

 コミュニケーション手段であるため、より広く普及しなければ価値がなく、デファクトスタンダード化された一つの技術にロックインされる可能が高くなる。ブラウザ戦争は、その前哨戦かもしれない。

 

おわりに

 ロックインは、ハードウェアからOSへ、そしてユーザインタフェースへと、使用者の環境に近い領域へ移動してくるが、ロックイン現象自体はなくなりそうもない。ただし、ロックイン現象が一企業に大きな利益をもたらすかどうかわからない。社会インフラとして、無償で技術提供される可能性もある。これをロックインと呼んでよいかどうかはわからないが、特定の技術が広く社会に広まることには変わりがないように思われる。

 ここでの予測が現実のものになるかどうか、今後の情報産業の動向を注意深く見ていきたい。

 

参考文献

R・T・DeLamarter著、青木榮一訳、『BIG BLUE(ビッグブルー)』、日本経済新聞社、1987724日、62-65ページ

同上、 78ページ

同上、 41ページ

情報処理学会歴史特別委員会編、『日本のコンピュータ発達史』、オーム社、1998年6月25日、21-25ページ

脇英世著、『IT業界の開拓者たち』、ソフトバンクパブリッシング、2002915日、342-347ページ

同上、308-309ページ