平成
10年度「中小企業経営診断シンポジウム」中小企業診断協会賞受賞論文
「作る」から「使う」へのパワーシフト
−ソフトハウスの経営資源再配置−
1.ソフトハウスの現状
情報サービス産業白書1998によれば、次図に示したとおり、売上高は、1994年度、1995年度を底に、上昇傾向にある。1996年度には、7兆1,435億円となり、ピークであった1992年度の売上高を凌駕するものとなっている。

また、売上高構成からみると、ソフトウェア開発・プログラム作成が1996年度 4兆2,591億円と全売上げの約60%を占めている。

企業の積極的な情報化投資、2000年問題という特需に支えられソフトハウスは、この不況の中で、右肩あがりの成長をし続けるように思われる。はたして、ソフトハウスの未来は、本当にバラ色なのだろうか?
情報サービス産業協会が、1997年8月に情報サービス事業者に今後の商品構成の変化に関してアンケート調査をおこなったところ、受託ソフトウェアの事業に占める割合は今後も、20〜25%と最大のシェアを持つが、そのシェアは下がっていくと予想されている。この予想が正しいとすると、受託ソフトウェアが事業の大半を占めるソフトハウスの将来はバラ色ではなくなってしまう。

どのような変化が予想され、それに対して、ソフトハウスは経営資源をどう再配置していくべきなのかを考えてみる。
2.ソフトハウスに求められる技術者像
過去、現在、未来を大きく次の4つの時代に分けて、ソフトハウスを取り巻く環境の変化と、ソフトハウスに求められる技術者像の変遷をまとめてみることにする。
1980年代までは、メインフレームと呼ばれる大型コンピューターを中心としたシステムの時代であった。OS,ミドルウェア、開発用言語などシステム構築のために、「使う」ソフトはすべて、コンピューターメーカーが提供し、ユーザーは、コンピューターメーカーにすべて任せておけばシステム構築ができる時代であった。この時代のソフトハウスは、主要な開発言語であるCOBOLでユーザー・アプリケーション・プログラムを「作る」ことが求められた。

Aダウンサイジング時代
1990年代に入ると、マイクロプロセッサーの技術革新が引き金となり、コンピューターメーカーにとらわれないダウンサイジング・オープンシステムの波が押し寄せてきた。従来、コンピューターメーカーが提供していたOS、ミドルウェア、開発用言語・ツールなど「使う」ソフトは、ソフトウェアベンダーが中心となって、提供するようになった。

そのため、ユーザーは「使う」ソフトに関して、コンピューターメーカーに依存することができなくなり、その代替えをソフトハウスに求めるようになった。データベース技術者、ネットワークOS(NOS)技術者など、「使う」ソフトのノウハウを持った技術者が必要とされた。しかし、ソフトハウスの仕事の大半は、ユーザーアプリケーションプログラムを「作る」作業であることには変わりはなかった。
「作る」ための道具がかわり、ソフトハウス自身がその道具の使い方に卓越していることも求められるようになっただけだった。
また、オフコンを中心として、業務アプリケーション・パッケージも提供されるようになり、システム構築のための「使う」ソフトとして活用されるようになった。しかし、ユーザーの業務要件に合わせるために、パッケージソフトのソースプログラムを修正するカストマイズ作業が常に発生し、品質・保守性の低下をまねいていた。
ERPという統合業務パッケージが提供される時代がきた。従来のパッケージとの大きな違いは、多くの業務処理手順が準備されており、パラメーターによりそれを選択できることにある。これにより、多くの場合、パッケージプログラムのソースプログラムを修正することなしに、カストマイズすることが可能になった。

また、企業の基幹業務システムのほとんどが、パッケージとして提供されようになり、ユーザープログラムを作る必要性が非常に少なくなった。
そのため、ソフトハウスの仕事もプログラムを「作る」という作業から、どのようにパラメーターを設定してパッケージを「使う」かという作業に変化してきた。ソフトハウスは、特定のパッケージのパラメーターを設定するためのスキルや、適用業務知識を求められるようになった。
次の時代は、オブジェクト指向の時代と言われる。オブジェクト指向時代になると、アプリケーション・パッケージはさらに細かいアプリケーション・オブジェクト部品という形で提供され、これら部品を組み合わせてシステムを構築するようになる。

この時代のソフトハウスの仕事は、豊富なオブジェクト部品情報を持ち、ユーザーのニーズを分析し、組み立てる作業となると思われる。
3.「作る」から「使う」へのパワーシフトの必要性
いまは、まさにERP時代に突入したところである。ソフトハウスに求められているのは、プログラムを「作る」能力ではなく、パッケージソフトを「使う」能力である。「作る」能力は、ソフトウェア製品を開発・提供していくソフトウェアベンダーに求められる能力である。ERPパッケージだけが、「使う」能力を求めているわけではない。グループウェアソフト、オフィスソフトなど多彩なパッケージ製品が市場に流通している。個別のユーザーごとにこのようなソフトを作っていたら、膨大な費用と時間が必要になってしまう。
この変化の激しい時代にシステム構築にかけられる時間と費用は限られている。効率的なシステム構築のためには、パッケージソフトの有効活用が欠かせない時代になってきたのだ。
パッケージ製品を「使う」ことにより、システムの品質、保守性、生産性を向上させ、環境変化に対応した迅速なシステム構築が可能となる。ソフトハウスは、「作る」スキルから、「使う」スキルへのパワーシフトを早急におこなう必要がある。パワーシフトが遅れれば、ダウンサイジング時代にCOBOLプログラマーを大量にかかえて息詰まった数年前の再現になってしまう。
「作る」から「使う」へのパワーシフトの実例としてA社を紹介したい。

A社は従業員48名、売上高9.45億円のソフトハウスである。パソコン用通信ソフトウェアの受託開発中心に事業をスタート。
当時より、開発生産性をあげることを全社方針にかかげ、その後、移植性の高いC言語に注目。UNIX・C言語を使ったビジネスアプリケーション受託開発に事業の中心を移していった。UNIX上のデーターベースソフトなどが多く市場に出てくると、顧客からの要望に答えるためだけではなく、A社は、「作る」仕事の生産性を向上させるために、市販のソフトウェア製品を積極的に活用していった。
しかし、アプリケーション・パッケージに関しては、カストマイズの問題から、「作る」道具として活用することには否定的であった。カストマイズのためのパッケージ・ソースプログラムの修正、それによる他のバグの発生、パッケージベンダーのサポート拒否などが原因だった。
ところが、ERPソフトの出現により、大きくその考えは変わった。多様な業務処理が用意され、パラメーターを与えるだけで、選択できる。ソースプログラムに手を入れる必要はない。むしろ、手を入れてはいけない。手を入れないので、パッケージ・ソフトのメンテナンスは、パッケージ・ベンダーが責任をもってくれる。
これによって、生産性、保守性のいずれも向上させることができるとA社は考えた。しかし、当初、A社の技術者は、パッケージに欠落している機能は開発する必要があるとして、結局、手作りしたのと同じようなコストと時間がかかる結果になってしまった。ところが、後になって、その機能がパッケージにあることが判明。これ以降、開発項目をあげた後に、再度、パッケージ機能を見直し、使える機能はないか検討するようにした。
技術者の意識も、「作る」仕事を作りだすことを極力さけ、「使う」仕事に徹することが生産性向上に結びつくということをしだいに理解していった。これにより、A社は、大きく生産性を改善することができた。
では、どのようにして、「作る」から「使う」へのパワーシフトをはかればよいのだろうか。処方箋のいくつかをあげてみる。
@技術者の意識改革
技術者は作ることに喜びを感じているひとも多い。しかし、これからの時代は「作る」ひとは、ソフトウェアベンダーであり、ソフトハウスは「使う」ひとである。この変化を技術者の意識させるのは非常に難しい。「作る」ことをやめることが、生産性、品質、保守性の向上に結びつき、ユーザーの支持を得るためには必要であること、「使う」スキルが技術者のスキルであることを、常に啓蒙し続けることが、最も重要なことである。
A人月見積からの脱皮
「作る」時代の見積、請求は、その作業にかかる工数をベースにおこなわれている。しかし、「使う」ノウハウをベースとしたシステム構築では、提供するノウハウ・スキルが高ければ高いほど、かかる工数は少なくなる可能性がある。提供するノウハウ・スキルをベースとした見積、請求への脱皮をはかる必要がある。
B「使う」ソフトのみきわめ
「使う」ソフトの時代になると、どのソフトを「使う」ソフトに選定するかが、経営を左右する重要な問題となる。「使う」ソフトのノウハウ・スキルを身につけるためには、先行投資し、技術者の教育を行う必要がある。
しかし、その「使う」ソフトが市場から消えてしまっては、すべて無駄になってしまう。「使う」ソフトの選定するため、技術動向、市場動向、ソフトウェアベンダーの経営状況などを常に把握し、判断していく必要がある。
C使うためのネットワーク作り
「使う」ソフトの最新情報を常に把握しておくことが、「使う」ソフトを使いこなすコツである。とくに、海外製品の場合には、日本の現地法人がつかんでいる情報と、海外本社との間では、大きな差がある場合が多い。海外の情報を含め、いかにタイムリーに「使う」ソフトの情報を収集することができるかが非常に重要となる。情報収集のネットワークには次の2種類が考えられる。
(1)「作る」会社と「使う」会社間の情報ネットワーク
ソフトウェアベンダーとの情報ネットワー
クは、通常のパートナー向け情報ネットワークだけではなく、人的なネットワークを作っておくことが重要になる。やはり、顔を知っていると、コミュニケーションは取り易く、得られる情報量も多い。
(2)「使う」会社間の情報ネットワーク
ソフトウェアベンダーに問い合わせても、なかなか埒のあかない場合、有効になるのが、「使う」会社間の情報ネットワークである。ソフトウェア製品ごとにフォーラムという電子会議室を提供しているものもあるし、ユーザー会を活用する手もある。
常にこちらから、積極的に情報提供し情報ネットワークに参加しておくことで、いざというときに情報が得られる。情報はギブ&テイクであるということを忘れないことが重要だ。
コンピューターの世界の変化は激しい。そのなかで、大きな方向性だけは誤ってはいけない。ソフトハウスの仕事が、「作る」から、「使う」に大きく変化することを、市場が要請していることだけは間違いない。
いちはやく、その流れをつかみ、外部ネットワークを活用しながら、経営資源の再配置をおこなうことが激動の情報産業に生きるサバイバル戦略であると、私は訴えたい。
(引用・参考文献)情報サービス産業白書1998、社団法人情報サービス産業協会編、1998年4月30日、株式会社コンピュータ・エージ社刊