「裁判員」………… あぁ、なんて面倒くさそうな響きなのでしょう。
人殺しなど、社会的にとても重大な刑事事件の裁判に、クジで選ばれた一般庶民が呼びだされ、裁判官とともに審理に加わる。 きたる2009年(平成21年)の5月までに、この裁判員制度が動き出すことになっています。
もはや後戻りはできません。決定事項でございます。
「高いところに座って、その場にいる誰かを裁くなんて、そんなことできないわ!」
「死体の写真なんか怖い! 血とかピストルみたいな物騒なの、絶対見たくないよ」
……そうですよね。 そのお気持ち、痛いほどわかります。 いい迷惑です。
「だいたいねぇ、 子供が3人いるのよ! 裁判所が預かってくれんの?」
「大事なプロジェクトを抱えてるんだ。 それとも、裁判所が代わりに、先方へのプレゼンや交渉を引き受けてくださるとでも?」
「法廷どころか、とにかく部屋の外に出たくないし、誰にも会いたくない。 だったら、オレの代わりに裁判所が引きこもって、ゲームをクリアしてくれるわけ?」
■ 2005年5月3日 最高裁判所長官の記者会見
―――― 裁判員制度に『参加したくない』が『7割』という数字について、率直な感想をお聞かせ願います。
町田 顕 長官 「まだまだ、われわれの国民に対する説明が必要なんだな、ということを痛感しました。 『裁判ざたにはかかわりたくない』との風潮が言われてましたが、そういう一般的な風潮がまだまだ影響しているのかな、と思っています」
司法改革の目玉だったはずなのに、はやくも多くの国民から忌み嫌われはじめた新制度。
そんな寂しい状況からの起死回生を図るべく、法廷ドラマ仕立ての解説ビデオを作成したり、裁判員制度のキャッチコピーを公募してみたり、シンボルマークを民間のデザイン会社に外注するなど、慣れないこともやりました。 プロ野球のオールスターゲームでは、球場のオーロラビジョンや場内アナウンスを借りて告知したりもしてみました。
にもかかわらず、テコ入れ策としての効果は今ひとつ。 靴の上から足の裏をかくような、どうにもこうにもうまくいかない状況を受けて、’05年秋、最高裁判所としては異例の、6億円という広報予算が計上されることになりました。
立法・行政に並び、国家権力の一翼を担っているのに、国家予算全体の0.4%しか割り当てられていない。 そんな不遇の司法権にとっては、虎の子の6億円です。 こうして満を持して、世間へ向け裁判員制度を大々的に宣伝する手はずが整ったわけです。
■ 2005年10月17日 新任の判事補への辞令交付式
―――― 裁判員制度のメディア広告に、人気女優の長谷川京子さんを起用なさいましたが。
町田 顕 長官 「私の好みで選んだわけじゃありません」(場内笑い) 「裁判所をあげて広報に取り組んでおります。最高裁もずいぶん変わったなあ、と思われたかもしれません」
まるで、裁判員が参加して刑事裁判が活気づいていく未来を眺めるかのように、虚空を静かに見つめている表情が印象的。そんなハセキョーの新聞全面広告。 このインタビューが行われた10月17日付けの各全国紙朝刊にて、一斉に掲載されています。
本当に綺麗な人ですよね。もうウットリです。 これが裁判員制度の広告であるという現実を忘れてしまいそうなくらい…… って、それじゃあいかんやろ。
司法当局は、「国民に向けた説明が必要だ」「理解を求めなければならない」という問題意識を持ってはいるんです。「そのための突破口が欲しい」とも願っているはずです。 しかし、いまいち本気度や危機感が足りない気もします。 このままですと、6億円や長谷川さんの美しさをムダづかいして終わってしまいかねません。
……というわけで、そんな最高裁に成り代わりまして、これから始まる裁判員制度について、私が皆さま方に、できるだけわかりやすくご説明もうしあげます。 国民が知りたがっていること、あるいは国民に知らされておくべき肝心なことが、あまりにも伝えられていませんので、僭越ながら、私がシャシャリ出る運びとなりました。
この国を支えているのは、もめごとを好まない、他人とぶつかりあうのはなるべく避けたい、という意識を持った人々です。 それぞれが、場の空気や相手との呼吸を読み合うことで、「日本的」な社会が成り立っているといえるのでしょう。 また、そのような「和をもって尊しとなす」文化の反動として、「裁判ざた」という表現が生まれたのかもしれません。
しかし、「悪人の処罰なんか、プロに任せときゃいいじゃん」と距離を置き、「裁判所とは、この先ずーっと無縁でいたい」と素朴に毎日を過ごす、そんなあなたの感覚こそ、じつは裁判所に求められているのです。 皮肉といえば皮肉かもしれませんが、むしろ、そういう方でなければ、今の司法に足りない部分、穴を埋められないからです。
「裁判員として、自分に何ができるかわからない」 そんなあなたの不安は、これから私が少しずつ取りのぞいてまいります。 どうか司法に、あなたの力をお貸しください。
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