11月のお勧めCDから 2001/11/23
Sobre imagenes

ネストル・マルコーニ/ソブレ・イマヘネス(さまざまなイメージについて)
Nestor Marconi / Sobre imagenes
(WEA 092740918-2) アルゼンチン盤・新譜


[1] Pa' que bailen los muchachos [2] Sobre imagenes [3] El arranque [4] Gris de ausencia [5] Sueño azul [6] Estudiante [7] Un vino de adios [8] Moda tango [9] Para el recorrido [10] Tiempo cumplido

私がいままでに見たタンゴのステージの中で、絶対に忘れることの出来ないもののひとつに、1988年10月に日本のみで行われた『タンギッシモ』公演がある。歌手ロベルト・ゴジェネチェやダンサーのグローリア&エドゥアルドら、錚々たるメンバーが出演したそのコンサートで、バンドネオンと音楽監督を務めたのがネストル・マルコーニだった。第2バンドネオンにダニエル・ビネリ、ピアノにオルランド・トリポディ、ヴァイオリンにレイナルド・ニチェーレとマウリシオ・マルチェリと、メンバーも豪華だった。ゴジェネチェ、トリポディ、ニチェーレ、それにコントラバスのアンヘル・リドルフィと、既に参加したうちの4人が故人となってしまったのが何とも残念。
その公演の少し前、ブエノスアイレスに滞在していた私は、カフェ・オメロというライヴハウスでマルコーニとリドルフィのデュオの演奏をよく聴いた。そこでのマルコーニはとにかく楽器を自由自在に操っていて、どうしたらバンドネオンをこんなに軽やかに弾けるのだろうと感心ばかりしていた。現代最高のバンドネオン奏者の一人であるマルコーニの実力を目の当たりにしたわけだが、音楽監督としての才能を見せ付けられたのが『タンギッシモ』だった。
その後のマルコーニは、息子でピアニストのレオナルド・マルコーニ、コントラバスのオスカル・ジウンタとのトリオでの演奏活動を中心に、幅広く活躍を続けている。一般的には、ヨーヨー・マのピアソラ集での共演がお馴染みだろう。また、ヌエボ・キンテート・レアルのメンバーでもある。2年ぶりとなる新作は、これまでの活動の集大成とも言える充実した内容。演奏はしなやかで適度な緊張感があり、マルコーニならではの個性が存分に発揮されている。
トリオでの演奏は[1] [3] [6] [7]の4曲で、そのうち[3]はバングアトリオ時代の演奏の再現である。バングアトリオというのは、1970年代前半に若かりしマルコーニがピアノのオマール・バレンテらと組んでいた超絶技巧トリオのこと。今なおフレッシュなマルコーニの演奏が楽しめるし、息子レオナルドの成長ぶりも確認できる。[2] [4]ではクラシック畑のヴァイオリン奏者ラフェアル・ジントリ(いい味のソロを披露)らが参加、また[8] [9]にはフェルナンド・スアレス・パスvn、オラシオ・マルビチーノgなどピアソラゆかりのゲストが顔を見せている。[5] [10]は弦楽セクションを加えての録音。レパートリーに自作曲が多く、中でも[8] [10]は『タンギッシモ』公演でもハイライトとなった曲である。アルバム・タイトルとなった新作[2](レオナルドとの合作)は、ゴジェネチェとリドルフィに捧げられている。


11月のお勧めCDから 2001/11/2
Viento

シルバーナ・デルイージ/ライヴ
Silvana Deluigi / Live
(Inakustik INAK 9063 CD) ドイツ盤・新譜


[1] Cancion desesperada [2] Desencuentro [3] Mi ciudad y mi gente [4] Maria [5] Jacinto Chiclana [6] El titere [7] Alguien le dice al tango [8] A Don Nicanor Paredes [9] Nocturna [10] Nostalgias [11] Como dos extraños [12] Che bandoneon [13] Pedacito de cielo [14] Vete de mi [15] Fuimos [16] Balada para un loco

ヨーロッパで活躍する女性タンゴ歌手の中でも、シルバーナ・デルイージはいつも気になる存在である。バンドネオン奏者のフアン・ホセ・モサリーニや、ロドルフォ・メデーロスやアストル・ピアソラとの共演歴を持つギターのトマス・グビッチらがバックアップした1992年のデビューCD"Tanguera - Woman in Tango"(Velt Musik SM 1503-2)を聴いて以来、そのクールな歌声にノックアウトされてきた。
彼女は1960年ブエノスアイレス生まれ。国立音楽学校でクラシックや舞台芸術を学び、1979年にミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』のマリア役でデビューした。デビュー当時はミュージカル女優だったというわけだ。1985年にパリに移住して勉強を続ける一方で、バンドネオン奏者のフアン・ホセ・モサリーニと知遇を得て、タンゴを歌うようになる。1988年にパリで最初のソロ・ライヴを行い、1989年にはドイツで彼女を主役にした短編映画『タンゲーラ』が撮影された(これは後にビデオ化されたが、見応えのある作品だった)。前述のデビューCDは、その映画のサウンドトラックでもあったのである。1995年の第2作"Tangos"(Velt Musik SM 1613-2)は、ウルグアイ出身でドイツ在住のバンドネオン奏者、ルイス・ディ・マテオとの共演作。レーベルを移籍して1999年にリリースされた第3作"Loca"(Inakustik INAK 9056 CD)はパリ録音で、モサリーニ周辺の音楽家たちがサポートしていた。
通算第4作となるこの新作は、ドイツ北部のザルツァウでのライヴ・アルバム。ザルツァウは、ジャズ・バルティカというフェスティヴァルが開催される街である。ピアソラ=ボルヘスの『エル・タンゴ』からの作品が[5] [6] [7] [8]と続くほかは、定番的な作品が並んでいる([9]のみインストゥルメンタル)。堂々たる歌いぶりで、今日的なタンゴの歌を聴かせるという点でも申し分のない内容である。
バックを務めるのは676タンゴと名乗る五重奏団。676というのは、1960年代前半にピアソラが拠点としていたブエノスアイレスのライヴハウスの名前である。リーダーのダニエル・シスマンはアルゼンチン出身で、1980年代から室内楽団のイ・サロニスティを率いてきたヴァイオリン奏者。ベルン交響楽団の主席奏者を務め、ダニエル・ビネリらとタンゴ7(シエテ)なるグループを組んでいたこともある。バンドネオンのミハエル・シスマンは息子だろう。他にもフランス人、イギリス人などの腕達者が揃っている。彼らは単独でも"Imagenes"というCDをリリースしているらしいが、内容は未確認。


10月のお勧めCDから 2001/10/26
Viento

阿保郁夫/風のタンゴ
Ikuo Abo / Viento
(Victor VICL-35327) 国内盤・10月24日発売


[1] Viento [2] Viento (aroma-clasica) [3] Viento -instrumental- [4] Viento (aroma-clasica) -instrumental-

「風のタンゴ」は、9月28日からスタートしたNHK金曜時代劇『からくり事件帖』の主題歌。人気アコーディオン奏者のcobaが作曲とサウンド・プロデュースを担当し、日本が誇るタンゴ歌手、阿保郁夫が歌うという、異色の顔合わせが生んだ注目すべき作品で、このCDは同曲2ヴァージョンとそのカラオケを収めた12cmマキシ・シングルである。
クラシックの世界から出発して、アコーディオンによる新しいインスト音楽の世界を開拓し、この楽器の一般的なイメージをも塗り替えたcobaは、熱心なピアソラ・フリークとしても知られている。意外に思えるかも知れないが、cobaはピアソラ作品を自ら録音したことはない(特別にステージやTVで演奏したことはある)。cobaは以前から、ピアソラから受けた影響を自分の中でどう消化してオリジナルの音楽に発展させていくかが重要である、というような意味のことを発言していて、それが強く印象に残っている。そのcobaが前述の時代劇(江戸から明治への激動の時代を描いた山田風太郎の『警視庁草紙』が原作)の音楽を担当することになり、主人公のイメージからタンゴを選択、小松亮太の推薦で阿保郁夫の起用が決まった。
1937年生まれの阿保郁夫は、法律を学ぶ大学生だったある日、突然顔面麻痺を患い、休学して治療に通うその途中で、たまたまタンゴ教室の前を通り掛かってその音に吸い寄せられ、その場で入門して3年後にはタンゴ歌手としてデビュー。オルケスタ・ティピカ東京の専属歌手などを務め、南米諸国にも長期滞在し活躍、日本のタンゴ歌手としては、引退した藤沢嵐子と並んで別格的存在である。敬愛する名歌手アンヘル・バルガス譲りの独特の歌い口は、実にタンゴ的な味わいに溢れている。1997年に制作された『明日は船出』(オフノート ON-24)も傑作だったが、今回のシングルはそれ以来の録音となる。
ピアソラ的な音使いも盛りこみながら、coba独特の色に染め上げられた「風のタンゴ」は、cobaのアコーディオンと小松亮太のバンドネオンを中心に展開する。ちょっと音を盛りこみ過ぎにも感じるが、何と言っても曲全体を支配しているのは、強烈な存在感を放っている阿保の歌唱である。これまではほとんど既成のタンゴ作品を既成のタンゴ楽団をバックに歌って来た阿保にとって、これは大きなチャレンジだったはずだが、実に見事に歌い上げた。阿保は現在アルバムも制作中とのことで、仕上がりが今から楽しみだ。
なお、スペイン語の作詞を担当した西村秀人さんによる『「風のタンゴ」顛末記』(「ラティーナ」11月号71ページ)がとても面白いので、ご一読をお勧めしたい。


10月のお勧めCDから 2001/10/19
El Arte del Tango

タンゴ・クアトロ/エル・アルテ・デル・タンゴ(タンゴの芸術)
Tango Quattro / El Arte del Tango (GYC CD-2304) スペイン盤・新譜

[1] Otoño porteño [2] Invierno porteño [3] Inspiracion [4] La trampera [5] Milonga del angel [6] Danzarin [7] Chique [8] Nocturna [9] Primavera porteña [10] Verano porteño
※クレジットに誤りがあり、[3]が"Nocturna"、[8]が"Inspiracion"と表記されている。

タンゴ・クアトロは、1995年にスペインのマドリードで結成された四重奏団。オランダのセステート・カンジェンゲのリーダー、カレル・クラーイエンホフが、セステート・カンジェンゲ結成前に組んでいた四重奏団もタンゴ・クアトロ(Tango Cuatro)という名前だったが、こちらはスペイン語ではなくイタリア語だ(意味は同じ数字の“4”でもスペルが違う)。メンバーは全員がスペイン在住のアルゼンチン人で、バンドネオンのファビアン・カルボーネ(ロドルフォ・メデーロスの弟子だったそう)とフルートのエセキエル・コルタバリアはブエノスアイレス、ピアノのマリオ・ソリアーノはコルドバ、コントラバスのホセ・ルイス・フェレイラはメンドーサの出身。ジャケットのイラストにはもう一人チェロ奏者も描かれているが、これはゲストのアンドレス・ルイスで、彼は唯一のスペイン人である。
彼らは1996年に"Fin de Siglo"というCDを制作している。そちらは未聴だが、彼らのサイトにあるジャケット写真を見て笑ってしまった。1996年にリリースされた福田進一の『ブエノスアイレスの冬/ノスタルジック・ピアソラ』とデザインがほとんど同じなのだ。果たしてどちらがパクったのやら…。それはさておき、昨2000年10月に録音された本作は、それ以来の久々のセカンド・アルバムということになる。
レパートリーの半分にあたる5曲がアストル・ピアソラ作品で、「ブエノスアイレスの四季」全曲と「天使のミロンガ」が収められている。ピアソラ五重奏団のアレンジをベースに一部の楽器を置き換えたような演奏で、ところどころに自分たちが考えたと思われる遊び心のあるパートも加えられ、なかなかいい雰囲気に仕上がっていて好感が持てる。
ヴァイオリン抜きでフルートとチェロが入るというユニークな編成がより活かされているのは、むしろピアソラ以外の作品の方だろう。アニバル・トロイロが書いたミロンガ「ラ・トランペーラ」、そのトロイロ楽団に編曲を提供したフリアン・プラサの「ダンサリン」と「ノクトゥルナ」のほか、有名な古典曲である「チケ」「インスピラシオン」が収められているが、考えてみればそのどちらもトロイロ楽団のレパートリーにもなっていた。ここでのタンゴ・クアトロの演奏が特にトロイロ的ということではないのだが、何か拘りのようなものが感じられるのである。


10月のお勧めCDから 2001/10/12
Toca Tango

カセレス/トカ・タンゴ
Caceres / Toca Tango (Celluloid 67026.2) フランス盤・新譜

[1] A ver si te animas [2] Ese carnaval [3] Toca tango [4] Camila [5] Unas carabelas [6] Currar es un deber [7] Viejo trombon [8] Darsena sur [9] Noche de enero [10] Los tanos [11] El senor [12] Los muchachos de Paris [13] Esa gente [14] Murga cruel [15] Mascarada

この一月あまりの間に、一番よく聴いたCDがこれ。それほどのお気に入りなのだが、内容は純然たるタンゴではない。実際には、ミロンガやカンドンベの要素も色濃く漂わせてはいるものの、基調となっているのはアフロ・カリビアン音楽にも通じる陽気な世界。パーカッションや様々な楽器が賑やかに鳴り響くさまから、タンゴを連想出来る人は多くはないだろう。
カセレスことフアン・カルロス・カセレスは、1936年ブエノスアイレス生まれ。1968年にパリに移り住み、70年代初めにはマロン(Malon)という亜仏混成と思われるロック・バンドに参加する。手元にLPが1枚あるが、プログレやジャズ、フォークなどの要素をミックスした摩訶不思議なサウンドで、カセレスはヴォーカルのほか、ピアノ、フルート、オルガン、ケーナ、パーカッション、トランペットと、多種多様な楽器を担当していた。中に「カンドンベ」という曲があるが、実際はサンタナ風のラテン・ロックで、全然カンドンベっぽくはなかった。
それ以降カセレスがフランスでどんな活動をしていたのかは、手元に資料がない。彼が一部の先鋭的(?)タンゴ・ファンの前に姿を現したのは、1993年に"Solo"というCDをリリースしてからのことである。フアン・ホセ・モサリーニがバンドネオンで参加したそのアルバムでカセレスは、自作曲と共に「シルバンド(口笛を吹きながら)」や「ナランホ・エン・フロール(花咲くオレンジの木)」といったタンゴを歌っていた。その渋い歌声は、例えて言うならば“タンゴを歌うクリス・レア”という感じだろうか。相変わらずピアノを中心にいくつかの楽器を弾き、アレンジもしているが、基本的にはヴォーカリストとしての姿が前面に押し出されていた。
今回ご紹介する新作は、"Solo"以来通算6枚目。これは前作"Tango negro"(1998年)あたりからの傾向なのだが、ウルグアイのカーニバル音楽であるカンドンベやムルガの要素がこれまで以上に強くなっている。一瞬、カセレスはブエノスアイレスではなくモンテビデオの出身だったのではないかと錯覚してしまいそうなほどだ。タンゴから失われてしまった黒人音楽的な要素がコンテンポラリーな音楽の中に見事に抽出され、カラフルかつ躍動的に描かれているのだが、結局、そんな能書きは抜きにして楽しめるところが、一番の魅力なのである。今回はバンドネオンではなくアコーディオンが使われているが、これもまたいい効果を上げている。


Play Piazzolla

セルジオ&オダイル・アサド/プレイ・ピアソラ
Sergio & Odair Assad / Play Piazzolla
(Nonesuch AMCY-19004) 国内盤・9月27日発売


TANGO SUITE : [1] Deciso [2] Andante [3] Allegro
[4] Escualo [5] Invierno porteño [6] Primavera porteña [7] Decarissimo [8] Ausencias
SUITE TROILEANA : [9] Bandoneon [10] Whisky [11] Zita [12] Escolaso
[13] Bordel 1900 [14] Fracanapa

兄セルジオと、弟オダイル。ブラジルのサンパウロ出身である彼らアサド兄弟(セルジオ&オダイル・アサド)は、世界でもトップ・レベルのギター・デュオである。アストル・ピアソラ作品をレパートリーに加えるギター奏者/アンサンブルは多いが、技術的な面はもとより、自在に研ぎ澄まされたリズム感で、ピアソラ作品のタンゴとしての本質を浮かび上がらせるという点で、彼らの存在意義はとても大きい。
1983年、パリで開かれたあるパーティでピアソラと同席したセルジオとオダイルは、セルジオがアレンジしたピアソラの「エスコラーソ(ばくち)」を作者本人の前で披露、感激したピアソラは後日、彼らのために、唯一のギター2重奏曲となる《タンゴ組曲》を作曲しプレゼントしたのだった。以後も折に触れてピアソラ作品を演奏し続けたセルジオとオダイルだが、このCDは彼らにとって、全曲がピアソラ作品で埋め尽された初めてのアルバムである。
彼らは1985年に《タンゴ組曲》を初録音し、その圧倒的なパフォーマンスは話題をさらったが、ここでは1999年に新たに録音されたものが収められている([1]〜[3])。一段と研ぎ澄まされた見事な演奏である。彼らの初期からのレパートリーである「エスコラーソ」は《トロイロ組曲》(全4曲。アニバル・トロイロを追悼して1975年に書かれた)の中の1曲で、彼らは1995年にアルバム『移住者の物語』のために4曲全曲を録音しているが、今回はその時の演奏がそのまま収められている([9]〜[12])。
ほかの曲ではすべてゲストが加わる。元ピアソラ五重奏団のヴァイオリン奏者、フェルナンド・スアレス・パスとは、1997年に東京を中心に開催された『オルタナティヴ・ピアソラ』でも共演しているが、ここでは6曲に参加し、濃密なピアソラ・ワールドの展開に一役買っている。うち「エスクアロ(鮫)」と「娼家1900」(《タンゴの歴史》より。オダイルとのデュオ)の2曲は、オダイル名義のアルバム"Fuga y misterio"に収められていた演奏の再録。また、「デカリシモ」と「フラカナパ」には、注目のバンドネオン奏者、マルセロ・ニシンマンも参加している。そして「不在」(映画『タンゴ―ガルデルの亡命』の中の曲)は、ローマ生まれで世界的なヴァイオリン奏者となったナージャ・サレルノ=ソネンバーグをゲストに迎えての演奏である。


9月のお勧めCDから 2001/9/21
TangoLina

リナ・アベジャネーダ/タンゴ・リナ
Lina Avellaneda / Tango Lina
(Random RR753) アルゼンチン盤・新譜


[1] Cobardia [2] El pescante [3] Aquel cielo [4] Niebla del Riachuelo [5] La milonga de Ana [6] Cantando [7] Oro y plata [8] Milonga de mis amores [9] Donde estas [10] Despues [11] Vuelvo al sur [12] Insolacion [13] Cuando tu no estas [14] Alegre bandoneon [15] Pugliese

詩の朗読者を父親に、スペイン音楽やタンゴを歌う歌手を母親に持ったリナ・アベジャネーダは、ギターを習い、16歳で舞台音楽の作曲を手掛けたという。フォルクローレ歌手としてそのキャリアをスタートしたリナは、1981年にレコード・デビューを果たした。自作曲を中心に都会的なフォルクローレを歌う一方で、セバスティアン・ピアナ(「悲しきミロンガ」「ミロンガ・センティメンタル」などの作曲者として有名なピアニスト、1994年没)に作曲を学び、徐々にタンゴにも傾倒していった。1997年の前作『シウダダーナ(市民)』にも何曲かのタンゴが含まれていたが、4年ぶりのアルバムとなる本作は、タイトルからも判る通りのタンゴ・アルバム。
リナの歌声は凛として、聴いていて実に気持ちがいい。下町っぽさと現代感覚が絶妙なバランスで滲み出ている。写真を見ても、80年代後半のフォルクローレのLPのジャケットの姿よりもよほど垢抜けていて、いい感じで年を重ねてきたんだなと思えるのである。そして、伴奏陣も定評ある人たちが並んでいる。前作にも参加していたバンドネオンのダニエル・ビネリは、自分の五重奏団を率いて参加、8曲で音楽監督を務めている(一部の編曲は、ビネリと縁の深いピアニストのホルヘ・ルトゥマンが担当)。この8曲はいずれも既成のタンゴで、ピアソラ作品が1曲あるものの([11])、その多くが1940年代の作品である。
残り7曲の音楽監督と編曲を担当しているオスバルド・ブルクアー(「ア」にアクセント)は、自らの音楽活動のほか、フォルクローレからタンゴまで様々な歌手の伴奏も手掛けるギタリスト。とてもセンスの良いアレンジをする人だ。ブルクアーの担当した曲は主にギター、ピアノ、コントラバス、バンドネオンという四重奏による伴奏で、バンドネオンは曲によってパブロ・マイネッティもしくはワルテル・リオスが担当。カルロス・ガルデル=アルフレド・レ・ペラ作の[13]を除いた6曲([3] [5] [10] [12] [14] [15])は、いずれもリナ自身の作品である(共作含む)。ソングライターとしての実力もかなりのもので、ピアナ譲りのスローなミロンガ[10]、可愛らしい[12]あたりが面白い。ところで、リナ・アベジャネーダは、本名をリリアーナ・ルシア・パネといい、ブエノスアイレス近郊にあるアベジャネーダの生まれ。生まれた場所の地名をそのまま芸名にしたわけである。ブエノスアイレス近郊に位置するアベジャネーダには、タンゴやフォルクローレ、ジャズなどを教えるポピュラー音楽学校がある。実はビネリもブルクアーも、この学校で指導者を務めた経歴があり、アベジャネーダとは縁が深いのだった。


9月のお勧めCDから 2001/9/14
El arranque

エル・タンゴ・ビーボ/エル・アランケ
El tango vivo / El arranque
(レーベル、番号なし) 日本盤・新譜

入手に関する問い合わせはEL TANGO VIVOのHPまで

[1] El arranque [2] Gallo ciego [3] El torito [4] Madame Ivonne [5] Seleccion de Julio De Caro [6] A los amigos [7] Felicia [8] Caminito [9] El choclo [10] Caseron de tejas [11] Locura tanguera [12] Shusheta [13] Para lucirse [14] El lloron [15] La callecita

エル・タンゴ・ビーボは、小松亮太&ザ・タンギスツでも活躍中の二人、ピアノの熊田(くまた)洋とコントラバスの東谷健司から成るデュオ。ピアノとコントラバスは、共にタンゴの演奏の土台を支える重要な楽器だが、この組み合わせによる2重奏というのは、アルゼンチンでもほとんど例がない。しかし、彼らの演奏を聴いていると、まったく違和感を感じないどころか、タンゴの本質を突いた軽妙な演奏は、聴き手の心にじわじわ迫ってくる。ステージでのその姿には、ちょっとはにかんだようなところもあるが、とても頼もしい2人なのだ。東京・浅草の本覚寺で毎年行われるコンサートもいつも感動的だし、1999年にリリースされた前作『Volver』も見事な出来映えだった。
そんなエル・タンゴ・ビーボは、時として姿を変える。やはりタンギスツでお馴染みのヴァイオリン奏者、近藤久美子を加えてトリオになることもあるのである。彼ら3人による「エル・ジョロン」(熊田渾身のアレンジ!)は、以前ご紹介した小松亮太『ラ・トランペーラ〜うそつき女』にも収録され、異彩を放っていたから、ご記憶の方も多いことだろう。今回ご紹介するCDは、今年4月に本覚寺で録音された、待望のセカンド・アルバム。ボーナス・トラック1曲を除き、全編が近藤を含むトリオによる演奏である。クレジットを見る限り、近藤はゲスト扱いではなく、メンバーのひとりとなっている。件の「エル・ジョロン」も、小松亮太のCDに収められたヴァージョンとはテンポを変えて再演されている。
いつもながら感心するのは、選曲の良さと、熊田によるアレンジの見事さ。とことんセンスの良い人たちである。トリオになった分、東谷のコントラバスが心持ち引っ込んでしまったような気もするが、表現の幅は確実に広がっている。もちろん、デュオとトリオとには、それぞれの良さがあり、[4]「マダム・イボンヌ」と[13]「パラ・ルシルセ」は、前作にもデュオ・ヴァージョンで収められていたから、聴き比べも楽しい。収録曲の中では異色のオスバルド・ルジェーロ作[11]「ロクーラ・タンゲーラ(タンゴの狂気)」は、熊田がタンゴを弾き始めて間もない頃に聴いて衝撃を受けたという、オスバルド・プグリエーセ楽団の演奏がベースになっている。唯一のデュオによる[15]「ラ・カジェシータ」は、エル・タンゴ・ビーボのレパートリー中唯一の熊田のオリジナル。昔どこかで聴いたことがあるようなタンゴに仕上げたということだ。


8月のお勧めCDから 2001/8/17
Oblivion

オクーン・アンサンブル/オブリヴィオン〜アストル・ピアソラのタンゴ
Okoun Ensemble / Oblivion - Tangos de Astor Piazzolla
(BMC BMC CD 045) ハンガリー盤・新譜


[1] Verano porteño [2] Otoño porteño [3] Invierno porteño [4] Primavera porteña [5] Buenos Aires hora cero [6] Knife fight [7] Tristeza de un doble A [8] Pulsaciones No. 2 [9] Milonga para tres [10] La muerte del angel [11] Oblivion

主にクラシックの演奏家たちによる、アストル・ピアソラ作品を集めたCDがいろいろ出ているが、それこそ出来はさまざま。そんな中で、最近見付けたこのCDはなかなかの掘り出し物だった。ジャケット・デザインからして、中身を期待させるだけのセンスが感じられる。
オクーン・アンサンブルは、昨年(2000年)の5月に結成された室内楽団で、バロックから現代音楽までをレバートリーにしているというが、ここではピアソラ型の「タンゴ五重奏団」編成(ヴァイオリン、バンドネオン、コントラバス、ピアノ、ギター)を中心に、曲によって弦楽四重奏団、2人のパーカッション奏者が絡んで演奏が展開されて行く。リーダーはラトヴィア出身のヴァイオリン奏者エドゥアルド・オクーン(1972年生まれ)。ラトヴィアのヴィオリン奏者によるピアソラというと、どうしてもギトン・クレーメルを連想してしまうが、オクーンたちは、クレーメルのようにピアソラの背後にあるタンゴ性を無視してしまうようなことはしない。細かい部分はともかく、全体的にクラシック臭さが少なくて、とてもタンゴ的な演奏になっていると思う。何よりも、ピアソラに対する愛情が素直に滲み出ていて、大いに共感出来るのである。
バンドネオンのアルフレッド・メリヒャーはオーストリア人で、アコーディオン奏者でもある。アコーディオンとバンドネオンの両刀使いなんてフランスのリシャール・ガリアーノみたいだが、恐らくガリアーノと同様に、アルゼンチン式のディアトニックではなくクロマティック・バンドネオンを弾いているのだろう。ちょっと迫力不足なところもあるが、誠実な演奏ぶりには好感が持てる。弦楽四重奏団の方に名前を連ねる萩原淑子は東京生まれで、中学卒業と同時にハンガリー国立リスト音楽院に留学したという経歴の持ち主だとか。
レパートリーはお馴染みのものが多いが、そんな中で「鼓動 第2番」("Pulsacion"の表記が複数形になっているのは誤り)というマニアックな曲を取り上げていて、それがまたカッコよかったりする。「ブエノスアイレスの四季」は全曲演奏されているが、「ブエノスアイレスの夏」だけはピアノ+弦楽+コントラバスによる演奏である(他の3曲は五重奏)。彼らは来日も決まっていて、10月29日に六本木のスイートベイジルSTB139で公演を行う。今から楽しみだ。


8月のお勧めCDから 2001/8/3
Tango Bar

タンゴ・バー/タンゴ・バー
Tango Bar / Tango Bar (Chesky JD214) アメリカ盤・新譜

アルゼンチンやウルグアイ出身で、ヨーロッパなど海外に移住して活動する音楽家も少なくないが、アメリカ合衆国ではニューヨークに多くの人材が集まっている。このタンゴ・バーは、様々な経歴のミュージシャンによってニューヨークで結成された六重奏団。編曲も手掛けるリーダーはモンテビデオ出身のバンドネオン奏者ラウル・ハウレーナで、かつてセサル・サニョーリ・トリオなどに参加、ニューヨークに移住してからはニューヨーク・ブエノスアイレス・コネクション〜ニューヨーク・タンゴ・トリオを率いて活躍してきた。第2バンドネオンのティト・カストロは、歌手の伴奏などで活躍して来た人で、録音はないがタングアルディアというコンフントを率いている。ヴァイオリンの二人はいずれも二世で、レオナルド・スアレス・パスは、元ピアソラ五重奏団で現在最高のヴァイオリンの名手フェルナンド・スアレス・パスの、ウンベルト・リドルフィは、ネストル・マルコーニの片腕的存在として知られピアソラとも共演したコントラバス奏者アンヘル・リドルフィ(故人)の、それぞれ息子である。ハウレーナと付き合いの長いコントラバスのパブロ・アスランは、パブロ・シーグレル&クインテット・フォー・ニュー・タンゴのメンバーであり、ヨーヨー・マのピアソラ公演でも来日している。ピアノのアリソン・ブルースター・フランセッティはニューヨーク生まれのアメリカ人だが、本盤のプロデュースを手掛けているブエノスアイレス出身の作編曲家カルロス・フランセッティの奥さんで、1999年にはピアソラ初期のクラシック作品などを集めた"The Unknown Piazzolla"(Chesky CD190)(内容はちょっと不満だったが)をリリースしている。歌手のワシントン・ガリはウルグアイ人で、1950年代から歌って来たベテラン。
レパートリーは、1930〜40年代の作品が中心で、カルロス・ガルデル、マリアーノ・モーレス、アニバル・トロイロ及びその系統の音楽家の作品が多い。編曲や演奏は適度にモダンでバランスがよく、聴きやすくまとまっている。反面やや優等生的なところもあり、もう少し突っ込んだアプローチが欲しい気もするが、歴史的に見て、アメリカ合衆国というのはヨーロッパや日本と比べてタンゴが根付きにくい土地柄である。彼らはニューヨークを拠点に演奏活動を続ける中で、どうすればタンゴがより広く受け入れられるのか学んだに違いなく、これはそのひとつの成果とも思えるのである。


Tango Orkestret & Marcelo Nisinman

タンゴ・オーケスター&マルセロ・ニシンマン/タンゴ・オーケスター&マルセロ・ニシンマン
Tango Orkestret & Marcelo Nisinman / Tango Orkestret & Marcelo Nisinman (Stunt STUCD 01052) デンマーク盤・新譜

ピアソラ作品を中心にタンゴを演奏するグループは、ヨーロッパ各地で増殖しつつあるが、デンマークのタンゴ・オーケスター(と読むのだろうか。世界で一番発音が難しいと言われるデンマーク語のため、甚だ自信なし)もそんな中のひとつ。音楽学校出身者を中心にしたデンマークの若者たちによって、1989年に結成されたバンドである。グループ及びメンバーについての詳細は彼らのホームページをご覧頂きたいが、メンバーはマリンバ/ヴィブラフォンのKaare Munkholm、サックス/バス・クラリネットのHenrik Sveidahl、ドラムス/パーカッションのCarl Quist Møller、ギターのPalle Windfeldt、ヴァイオリンのKristian Jørgensenという5人で、楽器編成がとにかくユニーク。そして演奏もかなり独創的である。素材はタンゴであっても、ジャズやフュージョン、ロックといった、各メンバーが持っている要素が自在に入り込んでいる。もちろんタンゴ的なニュアンスもそこにはしっかりと込められているが、聴いた感じはむしろプログレやフリー・フォームのジャズに近い印象すら受ける。
彼らはこれまでに"Tango Orkestret"(Stunt STUCD 19303、1992年)、"Lo que vendra"(Stunt STUCD 19505、1995年)、"1999"(Stunt STUCD 19904、1999年)という3枚のオリジナル・アルバムをリリースしていて、これが4作目となる。今回の大きな特徴は、1998年から一緒に演奏してきた(前作には不参加)アルゼンチン人バンドネオン奏者、マルセロ・ニシンマン(1970年生まれ)との共演盤となっている点である。ニシンマンは、フェルナンド・スアレス・パス五重奏団やトリオ・フンダシオン・アストル・ピアソラのメンバーとして、またゲイリー・バートンのピアソラ集に参加するなど注目を集めている若手のひとり。そのニシンマンは、今回のアルバムではすべての編曲も担当するなど、大活躍ぶりを見せている。ピアソラ作品は3曲と、タンゴ・オーケスターのこれまでのアルバムでは一番少なく、その代わりにニシンマンのオリジナルが2曲、そして古典が5曲(タンゴ3曲、ワルツとミロンガが1曲ずつ)収められている。特に古典曲の大胆な改変が面白い。随所で聴かれる各メンバーのソロも素晴らしいし、バンドネオンが入って引き締まった感じがあって、今回の共演は大成功だったと言えるだろう。


7月のお勧めCDから 2001/7/20
A Piazzolla

レオポルド・フェデリコ・トリオ/ア・ピアソラ(ピアソラに捧ぐ)
Leopoldo Federico Trio / A Piazzolla
(MBA/EPSA Music 17452) アルゼンチン盤・新譜


現代のバンドネオンの最高峰であるレオポルド・フェデリコ(1927〜)、元ピアソラ五重奏団のギタリストという以外にいくつもの顔を持つオラシオ・マルビチーノ(1929〜)、ジャズ界での活躍のほか、70年代にはピアソラのグループにも加わっていたエレキ・ベースのアダルベルト・セバスコ(1946〜)の3人は、1996年にアルバム“Made in Buenos Aires”をリリースした(録音は1995年)。中でもピアソラの「バンドネオン協奏曲」をトリオでカッコよく演奏していたのには度胆を抜かれたが、これは予算の関係からクラシックのオーケストラとの共演を諦めたフェデリコが、マルビチーノに編曲を依頼して出来たものだった。これは、その“Made in...”の新装盤だが、単なるリニューアルに留まらない大胆な編集が施されており、これなら旧盤を持っている人も買い直す価値がある。
冒頭を飾る問題の「バンドネオン協奏曲」には、やはりピアソラとの共演歴もあり、3人とも付き合いの長いエンリケ・ロイスネルのドラムスが新たにダビングされ、より引き締まった演奏となった。今回追加された新録音3曲がそれに続くが、そのうちの1曲目が、フェデリコのバンドネオン・ソロによる「ペドロとペドロ」(フェデリコにとって2度目の録音)。ピアソラがペドロ・マフィアとペドロ・ラウレンスというバンドネオンの巨匠2人に捧げて書いた独奏用の曲で、今回はこの曲について語る生前のピアソラの肉声も本編の前に収録されている。そこでピアソラは「この曲はとても難しく、弾きこなせるのはフェデリコが唯一」とまで語っているが(ピアソラ自身は録音していない)、その言葉を裏付けるだけの、実にニュアンス豊かな演奏が聴ける。新録音の残り2曲は、ピアソラ五重奏団でお馴染みのレパートリーをマルビチーノがトリオ用に編曲したもので、この2曲にもロイスネルが参加している。
CDの後半には、“Made in...”に収録されていた残りの全曲が順番を変えて収められている。フェデリコのソロ2曲以外はマルビチーノのオリジナルで、旧盤のタイトルにもなっていた「メイド・イン・ブエノスアイレス」などなかなかいい曲である。ギターとベースのデュオで演奏される「ニュー・タンゴNo.1」は、マルビチーノを含むピアソラ五重奏団が1961年に録音した「ギタラーソ」(ピアソラが録音した唯一のマルビチーノ作品)と同じ曲。


7月のお勧めCDから 2001/7/13
Endemoniado

エステバン・モルガード/エンデモニアード(取り憑かれた人)
Esteban Morgado / Endemoniado
(レーベル、番号なし) アルゼンチン盤・新譜


1958年生まれのギタリスト/作曲家/アレンジャー、エステバン・モルガードは、ロベルト・ゴジェネチェやアドリアナ・バレーラといった人気歌手の伴奏などにその実力を発揮してきた名手。1992年に"El sueño del duende"(Melopea CDMPV 1066)をリリースしているが、それはタンゴではなく、ジャズ寄りのノンジャンル・ミュージックといった感じの自作曲集だった。それ以来久々のリーダー作となったこのアルバムは、バンドネオン、ヴァイオリン、コントラバスとの四重奏団によるタンゴ集。編曲と音楽監督はモルガード自身による。
収録された全14曲は、ピアソラ作品が5曲、1930〜50年代のタンゴが4曲、そして自作曲が5曲、という3つに分類できるが、それらがとてもバランスよく並べられている。ピアソラの曲はお馴染みの曲ばかりだが、「リベルタンゴ」「レビラード」の疾走感、「ブエノスアイレスの冬」「天使のミロンガ」の深い情感など、どれも見事な表現で、特に凝ったことは何もしていないにもかかわらず、ピアソラ五重奏団にはないセンスが確実に感じられる。
ピアソラ作品以外の既成のタンゴのうち、ホセ・ダメス作曲「ナダ」はギター・ソロで、実にしっとりとした味わい深い演奏が聴ける。残り3曲は、ゲストに女性歌手を迎えて、ギターのみで伴奏したもの。『パティオ・デ・タンゴ』という2年前のステージ及びCDで共演していたリディア・ボルダ、注目の新進歌手マリア・ボロンテー、フォルクローレ畑だが過去に映画『ラテンアメリカ 光と影の詩』のサウンドトラックでピアソラ作品を歌ったこともあるリリアーナ・エレーロという3人が1曲ずつを歌っていて、そのどれもがコンビネーション抜群。3人の個性もさることながら、それを引き立てるモルガードの技も光っているというわけだ。
そして自作曲に見せるそのセンスも抜群。とても綺麗というか、可愛らしい曲が書ける人である。フリア、ラウラという2人の娘にそれぞれ捧げた曲など、実に微笑ましい。とにかく、アルバム全体を通して言えるのは、タンゴにありがちな暗さがあまり感じられないことで、明るく楽しく、そして美しい。音楽的な充実ぶりもさることながら、この暑い夏を乗り切る清涼剤としてもお勧めしたい。


7月のお勧めCDから 2001/7/6
Puro verso

マレーナ・ムジャーラ/プーロ・ベルソ(口先ばかり)
Malena Muyala / Puro verso
(Ayui A/E 236 CD) ウルグアイ盤・新譜


マレーナ・ムジャーラというその名前からは、オメロ・マンシ作詞、ルシオ・デマレ作曲の傑作タンゴ「マレーナ」(マレーナという無名の女性歌手をテーマにした作品)を連想するが、これは芸名ではなくマンシのファンだった父親が付けた本名だとか。彼女自身はその「マレーナ」をレパートリーにしていないというのが面白い。
ウルグアイのサン・ホセに生まれたマレーナ・ムジャーラは、いくつかのタンゴ・フェスティヴァルに出演する中で注目を集め、1998年にファースト・アルバム"Temas pendientes"(Ayui A/E 201 CD)を録音した。今回ご紹介するのは、待望のセカンド・アルバム。ウルグアイ盤は入荷も少なく、なかなか見付けにくいだろうが、これは探すだけの価値がある(入手するにはラティーナに問い合わせるのが確実)。
最近の若手のタンゴ歌手には、明らかにロックを通過して来たと思われる人たちが多いが、彼女の場合も、その音楽からアルバム作りのコンセプトに至るまで、ロック的な感覚が見え隠れしている。ジャケット・デザインひとつ取ってみても、曲目を見なければタンゴのCDとは思わないだろう。彼女のクールな歌い方はとても雰囲気があって、既に独自の世界を築いている。現代的な感覚を持ちながら、往年のタンゴを表現するのに十分なアクの強さも併せ持っているのが素晴らしい。そして、簡潔でセンスのよい伴奏も、曲によってその表情を様々に変えながら、彼女の歌をうまく引き立てていく。ギター、ベース、バンドネオン、ピアノという“普通の”編成による伴奏もあるが、例えば「最後のオルガニート」(作詞はオメロ・マンシ)の伴奏はコントラバスとドラムスだけで、これが実にカッコいい。フランシスコ・ロムート作曲、フランシスコ・ゴリンド作詞の「マラ・スエルテ(悪運)」は1930年代後半の作品だが、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスによる室内楽っぽいアレンジの伴奏が新鮮。
レパートリーも多彩で、いま例に挙げたような1940年代前後の作品はもとより、ウルグアイのフォルクローレ界の伝説的シンガー・ソングライター、アルフレド・シタローサの作品や、フェルナンド・カブレーラなどウルグアイの新世代アーティストの作品も取り上げている。前作には自作が2曲あったが今回も同様で、ソングライターとしての実力も感じさせられる。


Mas tango

アドリアーナ・バレーラ/マス・タンゴ(もっとタンゴ)
Adriana Varela / Mas tango
(Nueva Direccion CDND 447) アルゼンチン盤・新譜


様々なタイプの新しい女性歌手が登場している昨今のタンゴ界だが、現役女性歌手の中でも、ベテランのマリア・グラーニャやスサーナ・リナルディらと並んで、トップクラスにランクされるのが、アドリアーナ・バレーラ。バンドネオンの名手ネストル・マルコーニにその才能を見出された彼女は、今は亡き名歌手ロベルト・ゴジェネチェのバックアップを得て、今から10年程前にデビューした。師ゴジェネチェの影響のもと、ガラッパチのヤクザ風な声で歌う彼女は、瞬く間にスターとなり、今や貫禄十分。未だ来日の機会に恵まれていない彼女のコンサートをブエノスアイレスで観たことがあるが、実にカッコよくてステージ映えするオネエサンだった。
レパートリーも幅広く、古典から新作までのタンゴはもとより、他のジャンルの作品まで自在に歌いこなすが、やはり一番ハマるのは、1940年代前後に書かれた下町風のタンゴだろうか。デビュー以来、タンゴのみならず様々なジャンルの音楽をバックボーンに持つミュージシャンたちと組んで、様々なアプローチを実践して来た彼女だが、通算7枚目となるこの新作(ただし録音は1998年12月に完了していた)では、1940年代の作品を中心に、古くは1910年代後半に書かれカルロス・ガルデルが歌った作品まで、歌謡タンゴの王道とも呼べる作品の数々を、見事に歌いこなしている。
今回は、伴奏陣もいつにも増して豪華で、マルコーニをはじめとしてレオポルド・フェデリコbn、オスバルド・ベリンジェリp、ロドルフォ・メデーロスbn、フアンホ・ドミンゲスgといった面々が、曲によって交代で編曲と指揮や演奏を受け持っている。どれもがツボを得た伴奏ぶりで、アドリアーナも実にノビノビと歌っているから、聴いていて気持ちがいい。どの曲も出来がよいが、個人的には、マルコーニ・トリオのリズミカルな伴奏に対するツッコミ気味の歌がカッコいいマリアーノ・モーレス=ホセ・マリア・コントゥルシ作「クリスタル」、メデーロスの抒情性が最大限に生きたドミンゴ・フェデリコ=オメロ・エスポシト作「ジュージョ・ベルデ(みどりの草)」、フアンホ・ドミンゲス・トリオが息もピッタリに完璧な伴奏ぶりを見せるオメロ&ビルヒリオ・エスポシト作のワルツ「アブスルド」と続いていくあたりに、特に惹かれている。


6月のお勧めCDから 2001/6/15
Tangos de terciopelo

キンテート・アルヘンティーノ・デ・クエルダス/
麗しのタンゴ〜ピアソラ他を弾く
Quinteto Argentino de Cuerdas / Tangos de Terciopelo
(WEA WPCS-10961) 国内盤・5月23日発売


1月5日付け本欄で紹介したキンテート・アルヘンティーノ・デ・クエルダス(アルゼンチン弦楽五重奏団)の"Interpreta a Gardel"が、先月、『麗しのタンゴ2〜ガルデルを弾く』(WEA WPCS-10962)として国内発売された。それと同時に、これまで日本には未紹介だった1999年制作の本盤も、遂に国内盤として登場する運びとなった。
昨今のアルゼンチンのレコード業界を見ると、タンゴの新録音のリリースは独立系(インディペンデント)レーベルの方が活発で、ほとんどの大手は活気に欠けている。そんな中で唯一気を吐いているのがWEA(ワーナー)で、先週のアメリータ・バルタールも、3週前のロドルフォ・メデーロス&ニコラス・ブリスエラも、ワーナーからの発売である。また、そうした新作をきちんと国内盤で紹介し続けるワーナークラシック・ジャパンの姿勢も評価したい(アメリータの新作は輸入盤で紹介したが、いずれ国内発売されるだろう)。ピアソラ以外のタンゴのアーティストを紹介することに極めて消極的な他のレコード会社にも見習ってほしいものだ。
さて、話を本題に戻そう。キンテート・アルヘンティーノ・デ・クエルダスは弦楽四重奏+コントラバスという編成だが、タンゴといえばバンドネオンというイメージがやはり強いだろう。バンドネオンがいないことがプラスなのかマイナスなのか?といった話はここではどうでもいい。要は、これが彼らにとっての理想的な編成というだけの話である。弦楽器だけという、クラシックや他のいくつかのジャンルの音楽にも共通する編成でありつつ、彼らの演奏からは何とも魅力的なタンゴの色香が漂い、グルーヴが感じられる。それは、メンバーの一人一人がタンゴ界で長年活躍する中で培われて来た技術と感性の賜物である。コントラバスのビートが強力なのも功を奏している。たとえ名手と言われる存在であろうと、タンゴを知らないクラシックの演奏家が弾いたのでは、決してこうはならない。そうしたニュアンスの違いは、弦楽器だけによる演奏だからこそ、はっきり見える。
古典からピアソラはもとより、ボサノヴァのタンゴ・アレンジも収められるなど選曲にも幅があり、多くの音楽ファンにとって楽しめるアルバムに仕上がっているのではないかと思う。


Amelita de todos los tangos

アメリータ・バルタール/アメリータ・デ・トドス・ロス・タンゴス
Amelita Baltar / Amelita de todos los tangos
(WEA 8573-86519-2) アルゼンチン盤・新譜


アメリータ・バルタールは、もともとはフォルクローレの歌手だった。アストル・ピアソラ=オラシオ・フェレールの『ブエノスアイレスのマリア』のマリア役に抜擢され、ピアソラの2番目の妻となり、「チキリン・デ・バチン」「ロコへのバラード」といったピアソラ=フェレールの一連の作品を歌って人気を得た。ピアソラと別れてからも、フォルクローレのほか、ピアソラ作品を中心にタンゴを歌って現在に至っている。
個性的なハスキー・ヴォイスの持ち主であるアメリータは、決して巧い歌手とは言い切れないが、その歌には強烈な存在感がある。1996年6月にブエノスアイレスで行われたピアソラ追悼イヴェント『アストルタンゴ』に出演した彼女は、3日間のうちの1日のトリを務めた。その模様はヴィデオ化されているが、そのパフォーマンスは涙を誘うほどの感動的なもので、他の出演者を圧倒していた。
アメリータの前作『レフェレンシアス〜ピアソラ、ディセポロに捧ぐ』(1999年録音、日本盤は ワーナー WPCS-10266)は、タイトルにもあるようにピアソラと、「ジーラ・ジーラ」などで有名な作詞作曲家エンリケ・サントス・ディセポロの作品集だった。それに続き、2000年9月から10月にかけて録音されたのが本作。これまでに比べてレパートリーがバラエティに富んでいるのが特徴と言えようか。全12曲中ピアソラ作品は3曲だが、そのうち「カント・デ・ノーチェ・イ・ジョビスナ(夜と霧雨の歌)」は、これまで楽譜は出版されていたものの全くレコードのなかった貴重な作品。ほかには「最後の杯」「グリセル」「空のひとかけら」といった優れたタンゴ歌曲が並んでいるが、ロック畑出身のソングライター、アドリアン・アボニシオの作品が3曲取り上げられているのにも注目したい。また、グスタボ・フェデルらの編曲も見事。
前作はなかなか恐ろしげな笑顔のアメリータのアップがジャケットを飾っていて、店頭で手に取っても躊躇してしまった人もいるかも知れないが、今回は衣装も背景も白を基調にしたデザインで、さわやかな雰囲気が演出されているのがいい。いや、実際中身の方も、いい意味で年を重ねて来たアメリータのやさしさ、暖かさが、これまでになく感じられるのである。今までちょっと恐いと思って敬遠していた人にも是非聴いてみて頂きたい。


Tangos

ロドルフォ・メデーロス&ニコラス‘コラーチョ’ブリスエラ/タンゴス
Rodolfo Mederos - Nicoras "Colacho" Brizuela / Tangos
(WEA WPCR-19057) 国内盤・5月23日発売


かつて伝統に背を向けて革命を目指した男が、やがて伝統の素晴らしさを再発見し、今では人並み以上に伝統を慈しんでいる。バンドネオン奏者ロドルフォ・メデーロス(1940年生まれ)についてまとめるとそんな感じだろうか。
ピアソラに憧れて地方都市のロサリオからブエノスアイレスに出て来たメデーロスは、1969年にオスバルド・プグリエーセ楽団に参加する。フリオ・デ・カロからの流れを汲む巨匠プグリエーセは、タンゴ史の中では革新的な位置に属する大きな存在だが、ジャズやロックに夢中だった血気盛んな若者の目には、それでも十分保守的に写ったのだろう。メデーロスは、仕事と割り切ってプグリエーセ楽団での演奏や編曲に携わりながら、同僚のフアン・ホセ・モサリーニやダニエル・ビネリとロック〜フュージョン的なグループを作ったりして、バンドネオンによる都市音楽の新しい形を模索していった。
タンゴに背を向けたメデーロスの音楽活動は、時代を経るにつれて迷走状態に入り込み、どことなく頼りなさが覗くその演奏ぶりからは、音楽的な必然性も薄れていったように思えた。その後しばらく活動を休止するのだが、音楽学校で若者相手にバンドネオンやタンゴについてのクラスを持つようになったことが彼の身に大きな変化をもたらす。自らの根底にあるタンゴの血が呼び起こされたのである。プグリエーセから学んだ財産の豊かさにも気が付いたメデーロスは、改めてタンゴに真正面から取り組むようになった。
数年前に話題となったダニエル・バレンボイムとの共演作『わが懐かしのブエノスアイレス』や、自らの五重奏団を率いてのアルバムなどでその存在感をアピールしてきた最近のメデーロスだが、最新作となる本盤では、いよいよ先祖返りも極まった感じだ。一見素朴なようでいて、卓越した技術と深い情感が必要とされるギターとのドゥオ。相棒のニコラス・ブリスエラは、メデーロスが最大の信頼を寄せているフォルクローレ畑の逸材である。曲は古典ばかりで自作は1曲も含まれていないが、これはメデーロスのアルバムでは異例のこと。だが、今これをやらずにおれなかった気持ちは痛いほど伝わって来るのだ。このアルバムはメデーロス自身にとって、そして多くのタンゴ・ファンにとっても大切な宝物になるに違いない。


Cabulero

オルケスタ・エル・アランケ/カブレーロ
Orquesta El Arranque / Cabulero
(BAM/Epsa Music 17162) アルゼンチン盤・新譜


聴いていて思わず興奮してしまった。これは近来稀に見る傑作といっても過言ではないだろう。現在のタンゴ界で最も注目されている若手のホープ、オルケスタ・エル・アランケのセカンド・アルバム、堂々の登場である。
フリオ・デ・カロの曲のタイトル(意味は「スタート」)を楽団名にしたオルケスタ・エル・アランケは1996年の結成。結成当初は五重奏+歌手だったが、すぐにバンドネオン×2、ヴァイオリン×2、ピアノ、ギター、コントラバスの七重奏+歌手となった。コンフントではなくオルケスタと名乗っているとおり、1940〜50年代のオルケスタ・ティピカ、例えばアニバル・トロイロやオスバルド・プグリエーセ、アルフレド・ゴビ、レオポルド・フェデリコなどのスタイルをベースに、踊りやすくてしかも聴き応えのあるサウンドを目指している。1998年録音のファースト・アルバム"Orquesta El Arranque"(Vaiven 425.086)の時点ではまだ少し音に固さがみられ、タンゴの勉強中といった雰囲気もあった彼らだが、ミロンガ(ダンス・ホール)やコンサートなどでの演奏活動を重ねることで急速の進歩を遂げ、その演奏は緻密さと豪快さを増した。メンバーの何人かが、以前ご紹介したタンゴ学校オーケストラに関わってきたことも大きいだろう。
第1作のレパートリーは古典曲中心だったが、今回は40年代以降の作品、しかも知られざる名曲にスポットを当てているのが嬉しい。特にアルフレド・ゴビ作「レデンシオン(贖罪)」は感動的だ。この作品は、ゴビ自身はラジオでは演奏したが録音に至らず、アストル・ピアソラ五重奏団が1961年にゴビのスタイルに忠実に録音して話題になったもの。ゴビ楽団でこの曲の編曲を担当したマリオ・デマルコは、死の直前にオリジナルのパート譜を某女性研究家に託していた。今回エル・アランケは、その譜面を使って演奏しているのである。
ほかにも注目すべき作品がいくつも取り上げられているし、編曲の大半を担当するギターのアレハンドロ・シュワルツ作「グラン・オテル・ベノス」などメンバーのオリジナルもいい。歌手のアリエル・アルディットもいい味を出している。とにかくこのCDには、タンゴへのひたむきな愛情と、はつらつとした若さが溢れているのである。また、オマケとしてパソコンで見られる「カブレーロ」のヴィデオクリップが付いていて、彼らの親しみやすいキャラクターに触れることができる。


de contrapunto

オルケスタ・エスクエラ・デ・タンゴ ディリヒーダ・ポル・エミリオ・バルカルセ(エミリオ・バルカルセ指揮 タンゴ学校オーケストラ)/
デ・コントラプント(対位法で)
Orquesta Escuela de Tango dirigida por Emilio Balcarce /
De contrapunto (BAM/EPSA music 17165) アルゼンチン盤・新譜


タンゴが黄金期を迎えていた1940年代から50年代にかけては、数多くのオルケスタ・ティピカがその個性を競っていた。当時の若いミュージシャンたちは、オルケスタ・ティピカの末席に加わって演奏活動を行う中でタンゴのエッセンスを学び、才能あるものはそこから独立して自分の楽団を持ったりしたものだった。アストル・ピアソラもレオポルド・フェデリコも、その例外ではない。だが、その後タンゴの小編成化が進むと共に、そうした環境は失われていった。近年の若いミュージシャンは、ポピュラーの音楽学校でタンゴを学んでから演奏活動を始めるケースが非常に多くなっている。この“タンゴ学校オーケストラ”は、そうした若手のプロ・ミュージシャンたちにティピカ編成の楽団での演奏経験を積ませるべく生まれたオルケスタ・ティピカなのである。
ここで指揮を務めるエミリオ・バルカルセは、「シ・ソス・ブルーホ」や「ラ・ボルドーナ」という傑作を残しただけでもタンゴ史に燦然と輝く存在だが、ヴァイオリン奏者及び編曲家として、オスバルド・プグリエーセ楽団やセステート・タンゴで長く活躍して来た人物である。ところがそのバルカルセ、最近はバンドネオン奏者として演奏活動を行っているというから、なかなかの変わり者でもある。
タンゴ学校オーケストラは、アニバル・トロイロ、カルロス・ディ・サルリ、オスバルド・プグリエーセ、フアン・ダリエンソといった過去の名流楽団の様々なサウンドをニュアンス豊かに再現していくが、どれも単なる再現に留まらない力のこもった演奏に仕上がっている。だがやはり光っているのは、バルカルセ作品のバルカルセ自身によるオリジナル・アレンジによる演奏だろう。
第1バンドネオンを務めるオラシオ・ロモは最近までコロール・タンゴで弾いていたし、若手注目株のエル・アランケのメンバーも3人加わっている。彼らがここから何を学びとり、これからどんなタンゴを作り出してくれるのか。試みはまだまだ始まったばかりである。


Tangos

ヌエボ・キンテート・レアル/タンゴス
Nuevo Quinteto Real / Tangos
(Warner Music Argentina WPCR-19053) 国内盤・3月22日発売


昨2000年12月の本欄で、サルガン=デ・リオの最新ライヴ盤を紹介したが、今回はそのデュオの発展形とも言える五重奏団、ヌエボ・キンテート・レアル(新・王様たちの五重奏団)の新作をご紹介しよう。昨年11月に本国で同時発売され、今回揃って国内発売が実現したものだ(先のライヴ盤の方はサルガン&デ・リオ『クラブ・デル・ビーノ・ライヴ』(WPCR-19054)として発売)。
ヌエボ・キンテート・レアルは、ピアノのオラシオ・サルガンとエレキ・ギターのウバルド・デ・リオを中心に、現在はバンドネオンにネストル・マルコーニ、ヴァイオリンにエルメス・ペレシーニ、コントラバスにオスカル・ジウンタというラインナップで構成されている。“キンテート・レアル”としての1959年の結成以来、サルガンとデ・リオ以外のメンバーは入れ替わったが、楽器編成は不変である。この編成は、アストル・ピアソラ五重奏団と全く同じだが、音楽性はもちろんのこと、各楽器の役割もずいぶんと違う。特に顕著なのがエレキ・ギターで、ピアソラ五重奏団の場合はあくまでも脇役に徹しているのとは対象的に、こちらは重責を担っている。バンドネオンのマルコーニは名手として知られ、自らのトリオをはじめ多方面で活躍しているが、ここでは個性を抑え、サルガンやデ・リオとのやりとりを楽しんでいる感じだ。
サルガンとデ・リオとのコンビネーションから生み出される、独特のシンコペーションの効いたリズムが大きな魅力だが、特に肝となるのが、4拍子で2拍目のウラと3拍目のウラにアクセントが置かれ、4拍目から次の小節の1拍目にスラーで繋がるリズム・パターン。これは「ウンパ・ウンパ」と呼ばれ、キンテート・レアルの代名詞ともなっている。オスバルド・プグリエーセで言うところの「ジュンバ」のようなものだ。
タンゴの楽団リーダーには、同じ曲でもどんどん編曲を書き換えるタイプと、一度書いた編曲は頑なに守り続けるタイプとがいるが、サルガンは後者の代表格。だがそれも、最初から完成度の高い編曲を書けるからこそ出来ること。変わらないのに新しい、そんなサルガンの魅力に、ぜひ触れてみて欲しい。


3月のお勧めCDから 2001/3/16
Tangos, valses y milongas

オプス・クアトロ/タンゴス、バルセス・イ・ミロンガス
Opus cuatro / Tangos, valses y milongas
(DBN CD 51730) アルゼンチン盤(新譜)


アルゼンチンには、優れたコーラス・グループの系譜がある。そのほとんどはフォルクローレのグループだが、70年代前半には、ブエノスアイレス8(オーチョ)という混成8重唱が斬新なスタイルでピアソラや古典タンゴを(歌詞なしで)歌って話題を蒔いたこともあった。
さて、「作品4」という意味のグループ名を持つこのオプス・クアトロは、30年以上のキャリアを誇る男性4重唱(結成当時からのメンバーは2人)。やはりいちおうはフォルクローレの範疇に属するグループだが、そのレパートリーは中南米の様々な国/地域の音楽からアメリカ合衆国の黒人霊歌にまで及んでいて、ジャンル分けはほとんど意味がない。これまでにもいくつかタンゴを歌ってきているが(本CDで再び取り上げられたものが多い)、全編をタンゴ及びワルツ、ミロンガで構成したアルバムはこれが初めてである。
そもそも、オプス・クアトロが1970年にリリースしたファースト・アルバムの1曲目は、ピアソラの「アディオス・ノニーノ」だった。この曲には後にエラディア・ブラスケスによる歌詞も付けられているが、彼らは歌詞なしで「ぱーらっぱっぱーらっぱぱぱ〜」といった感じで歌っていた。これが何ともいい感じなのであるが、今回「アディオス・ノニーノ」は4人の声+ダニエル・ビネリのバンドネオンで演奏されている。
同様のピアソラ作品はほかにもあって、「リベルタンゴ」は4声+ピアノ2台、「ブエノスアイレスの夏」は4声のみで演奏される。それ以外はすべて歌の曲なので、普通に歌詞が歌われているが、4声のみのもの、ギターなどが加わるもの、メンバーのソロ・ヴォーカル+ピアノ伴奏など、曲によってスタイルは様々。どれも楽しいが、やはり彼らの凄さが堪能できるのは4声のみによるレパートリーだろうか。カルロス・ガルデルほかが書いた「クアンド・トゥ・ノ・エスタス」の美しさなど絶品だし、全体的に選曲がいい。コーラス・ハーモニーの妙技に、酔い痴れてみて欲しい。


La Tipica

ラ・ティピカ/オルケスタ・デ・タンゴ
La Tipica / Orquesta de Tango (Gotan Productions 79627.2) フランス盤
“ラ・ティピカ”というのは、フアン・セドロンが新たに結成したオルケスタ・ティピカの名称。歌手/ギタリスト/作曲家のセドロンは1966年にフアン・セドロン・トリオでデビュー(ファースト・アルバム"Gotan"は、つい先日アルゼンチンでCD化されたばかりだ)、70年代以降はフランスに渡り、クアルテート・セドロンを率いて活躍して来た人物。今日のヨーロッパでのタンゴ人気は、ピアソラやフアン・ホセ・モサリーニ、スサーナ・リナルディらが70年代にアルゼンチンからヨーロッパに拠点を移して演奏活動を続ける中で蒔いた種が身を結んだものだが、セドロンもそんな中で重要な役割を果たしたひとりだった。私は一度ブエノスアイレスでクアルテート・セドロンのコンサートを観たことがあるが、客層は一般のタンゴ・ファンはかなり異なり、学生やインテリ層で占められていた。ちょうど、60年代にピアソラを支持していたのはこんな人たちではなかったのか、という雰囲気だったのが面白かった。
そんなセドロンが、何故この時期にオルケスタ・ティピカの結成に踏み切ったのか、ちょっと不思議な気もする。そういえば、モサリーニも数年前にオルケスタ・ティピカ編成でアルバムを録音していたのを思いだしたが、昨今のダンス・ブームとも関係があるのかも知れないし、今のタンゴの源流を辿っていくと、結局は40年代から50年代前半にかけてのオルケスタ・ティピカのスタイルに立ち戻る必要が出て来るのかも知れない。そういえば、小松亮太も今年の5月にオルケスタ・ティピカ編成でのコンサートを準備中である。
ラ・ティピカのメンバーはアルゼンチン人とフランス人の混成のようで、セドロン自身は指揮と歌を担当しているが、はっきりいって、演奏はヘタである。アンサンブルのキメが粗く、音の粒立ちがそろっていない。セドロンの歌も、ちょっと重たく感じる人がいるかも知れない。それでも今回取り上げたのは、あえてこの編成での録音にトライした、その意欲を買ってのことである。その演奏は曲によって、アルフレド・ゴビ、アニバル・トロイロ、オスバルド・プグリエーセといった楽団のサウンドをお手本としているが、それらのひとつひとつが私の好みに合致していることもポイントのひとつではある。


La trampera

小松亮太&ザ・タンギスツ/ラ・トランペーラ〜うそつき女
Ryota Komatsu / La trampera (Sony SRCR 2584) 国内盤・1/24発売

あえてここで取り上げるまでもないほどの「メジャー」な作品だが、やはり折り紙付きの推奨すべき内容であり、紹介しないわけにはいかない。バンドネオン奏者、小松亮太の、『来たるべきもの』以来1年4か月ぶり、自主制作も含めれば通算6枚目のCDである。
ザ・タンギスツといえば、小松のほか、近藤久美子(ヴァイオリン)、熊田洋(ピアノ)、東谷健司(コントラバス)、鬼怒無月(エレキ・ギター)という5人編成がもっともお馴染みであり、頻繁にライヴもこなしているが、こと録音に関していうと、全曲がこのメンバーで録音されたCDは、これまでにミニ・アルバム『アグア・ベルデ』だけしかない。この新作でも、上記5人によるものは全13曲中4曲だけである。
そもそも小松は、タンギスツのメンバーを固定してしまう考えなどハナから持っていないのである。必要に応じて編成を変えたりすることはもとより、上記の5人編成ですら、他のメンバーを起用することもある。タンギスツとは、小松を中心にしたフレキシブルな集合体なのである。今回のアルバムでは、様々なメンバーを組み合わせてのいくつかの編成が試みられていて、とっちらかっていると言えなくもないのだが、ちゃんと聴けば、それぞれの演奏に必然性があることがよく判る。
タンギスツの各メンバーは独自の活動も続けていて、例えばピアノの熊田とベースの東谷は、エル・タンゴ・ビーボというデュオでいつも素敵な演奏を聴かせてくれている。もちろんタンギスツとエル・タンゴ・ビーボはイコールではないが、今回のアルバムに唯一小松抜きで収められた、近藤・熊田・東谷のトリオによる「エル・ジョロン」(熊田の編曲も3人の演奏も秀逸!)は、エル・タンゴ・ビーボのライヴに近藤がゲスト参加する中でよく演奏されてきたもので、そうした成果もここにフィードバックされているのである。
個々の演奏に触れるスペースがなくなってしまったが、バンドネオン・ソロで2曲、そしてトリオから9人編成までの意欲的な演奏の中で、バンドネオンと管弦楽団のための作品を9人編成に大胆に置き換えたピアソラの「バンドネオン・コンチェルト」がやはり圧巻!


1月のお勧めCDから 2001/1/19
baile de domingo

ラウル・ラビエ/バイレ・デ・ドミンゴ(日曜日のミロンガ)
Raul Lavie / Baile de domingo
(Tango City CDTC 5003) アルゼンチン盤


1月17日の釧路公演を皮切りに、『タンゴの真髄』というショーの全国公演がスタートした。このショーは3月29日の京都公演まで続くが、そこで若手楽団のセステート・スールとともにメイン・キャストを務めるのが、ベテラン歌手のラウル・ラビエ。このCDは、タイミングよく登場した7年ぶりの新作である。
1937年生まれのラビエは、55年に上京してオーディションに合格し、タンゴ歌手への道を歩むが、60年代に入るとロックンロールに転向したり、様々なミュージカルに出演したりと、波乱の芸歴を送ることになる。その間もタンゴを歌うのをやめたわけではなかったが、タンゴ歌手としての新たなキャリアを築くのは、70年代に入り、ピアソラなどの現代タンゴを積極的に取り上げるようになってからである。84年には、そのピアソラ五重奏団の2度目の来日公演にも同行している。
個人的には、ラビエといえば70年代前半の一連の録音が特に好きだった。80年代後半に大ヒットしたショー『タンゴ・アルゼンチーノ』に出演していた時の録音あたりになると、ちょっとドラマティック過ぎる部分が耳につくようになっていたのである。しかし、本作のラビエは素晴らしい。貫禄はありながらも、いい具合に肩の力が抜けて、60歳を過ぎた男ならではの熟成された表現が、存分に堪能できる。歌のタンゴの真髄が聴ける、といっても過言ではない。
ここで選ばれているレパートリーは、1940年代のヒット曲がほとんど。むちゃくちゃ渋いがいい曲ばかりが並んでいる。何よりも、ラビエ自身が好きで歌いたくて仕方がないといった感じが伝わって来るところが嬉しい。「グラシアス・ブエノスアイレス」「ナランホ・エン・フロール(花咲くオレンジの木)」はライヴ録音だが、やはりスタジオ録音以上に熱い歌声が聴ける。バンドネオンと音楽監督のカルロス・ブオーノを中心とした伴奏も見事だが、共に『タンゴの真髄』に参加しているギターの名手フアンホ・ドミンゲスが伴奏する「カセロン・デ・テハス(瓦屋根の家)」、これがまた聴きものである。
なお、現物は確認できなかったが、本CDのラティーナ(03-5768-5588)取り扱い分は、紙製ジャケット入り、日本語歌詞対訳付である。


1月のお勧めCDから 2001/1/12
Ufa!

メリンゴ/ウファ!
Melingo / Ufa! (DBN 51720) アルゼンチン盤

これは、はっきりいって問題作である。タンゴを聴きはじめて間もない人は、戸惑ってしまうかも知れないし、古典タンゴを中心に聴いて来た人は、これは何だと激怒してしまうかも知れない。だが、退廃的で独特の魔力を秘めたこのカッコいい音楽は、これまでには存在し得なかった新種のタンゴなのであり、やはり紹介せずにはいられない。
本作の主人公、ダニエル・メリンゴは、1980年代からアルゼンチンのロック界で人気バンドのメンバーとして活躍して来た人物である。そう、彼はもともとロッカーなのだ。95年に最初のソロ・アルバムをリリースしたが(これは未聴)、98年に突如、オリジナル作品中心のタンゴ・アルバム"Tangos bajos"を制作し、注目を浴びた。そして本作は、そんなメリンゴのタンゴ・アルバム第2弾というわけである。
1960年代以降の、アストル・ピアソラに代表されるモダン・タンゴの歩みは、乱暴に一口で言ってしまえば、器楽的な洗練の歴史だった。その一方で歌のタンゴはややもすると置き去りにされたが、それは器楽面でのピアソラに匹敵する歌のタンゴの改革者が現れなかったことの証明でもある。若い世代を中心に、様々な形で歌のタンゴの再発見/再構築が行われるようになったのは、比較的最近のことなのである。
主にギター、バンドネオン、コントラバスによるアンサンブルをバックに、独特のダミ声でオリジナル曲を歌うメリンゴも、歌のタンゴの新しい世界を提示する。だが、そこに漂うのは、今日的な洗練ではなく、ブエノスアイレスの場末で生まれたタンゴが本来持っていたはずの、猥雑で怪しげな雰囲気そのものだ。それをメリンゴは、例えばトム・ウェイツのように揺るぎなき個性をふりまきながら、極めてロック的な感性で表現するのだ。随所に見られる楽器やコーラスの斬新な使い方など、絶対にロックを通過した世代でなければ思い付かない手法も散りばめられている。
なお、ロック世代による同傾向のタンゴとしては、「よしむらのページ」のCD整理棚でよしむらさんが紹介なさっている、ラ・チカーナの"UN GIRO EXTRANO"も併せてお勧めしておきたい。


interpreta a Gardel

キンテート・アルヘンティーノ・デ・クエルダス(アルゼンチン弦楽五重奏団)/インテルプレタ・ア・ガルデル(ガルデルを弾く)
Quinteto Argentino de Cuerdas / interpreta a Gardel
(WEA 857385070-2) アルゼンチン盤


タンゴの楽団編成と言うと、バンドネオン、ピアノ、それに様々な弦楽器で構成されるものがほとんどだが、1960年代以降は、弦楽器のみのアンサンブルもいくつか登場し、異彩を放って来た。70年代半ばから活動を開始した、このキンテート・アルヘンティーノ・デ・クエルダス(以下QACと略)もそんな中のひとつである。
リーダーはチェロのリカルド・フランシア。1932年生まれのフランシアは、いくつかの名門楽団に在籍した後、1959年から10年間日本に滞在し、我が国におけるタンゴの普及に大きく貢献した人物である。ほかのメンバーも、アニバル・トロイロ楽団やアストル・ピアソラ楽団などでの豊富な演奏経験を持つベテランが揃っている。
最近は、例えばピアソラの曲をクラシックの演奏家たちが弦楽アンサンブルで演奏するケースも多いが、QACの演奏は、そうしたクラシック系の演奏家によるものとは、はっきりと一線を画している。メンバーのひとりひとりが、クラシックの演奏経験も豊富ながら、やはりタンゴ界の第一線で活躍して来ただけあって、弦楽アンサンブルならではの優雅さはもとより、心揺さぶられるタンゴ的感性がそこかしこに充満している。
QACのアルゼンチン・ワーナーからの2作目にあたるこのCDは、カルロス・ガルデルの作品集。タンゴ歌謡という分野を確立し、自らタンゴ史上最高の歌手となったガルデルは、1935年に飛行機事故で劇的な死を遂げたが、歌手として優れていたばかりでなく、メロディメーカーとしても類稀な才能を示した。作詞家で脚本家のアルフレド・レ・ペラと組んで、自らが主演した映画の主題歌・挿入歌として、多くの作品を残したのである。
ここでは、そんなガルデルの代表作「想いのとどく日」をはじめ、永遠不滅のメロディの数々が、QACの見事なアンサンブルによってまた新たな命を吹き込まれているのである。


12月のお勧めCDから 2000/12/29
A las orquestas

フリオ・パネ・トリオ/ア・ラス・オルケスタス(楽団たちに捧ぐ)
Julio Pane Trio / A las orquestas
(BAM/EPSA Music 17157) アルゼンチン盤


これは2000年7月にリリースされていたもので、バリバリの新譜ではないが、2000年のタンゴ界を象徴するものとして、また2001年以降の新しいタンゴの波を占うものとして取り上げた。本ページのミレニアムをまたぐ推薦盤として、これほどのものはないだろう。
1947年生まれのバンドネオン奏者フリオ・パネの演奏を私が目の当たりにしたのは、彼がブエノスアイレス市立タンゴ・オーケストラの第1バンドネオン奏者を務めていた1980年代半ばのこと。その狂おしいまでのバンドネオンのテクニック、見事なソロの歌い回しには心底魅了されたものだ。
オラシオ・サルガンやアストル・ピアソラをはじめとする数多くの一流アーティストとの共演歴もある才能豊かなパネだが、引っ込み思案の性格ゆえか、その本領を目の当たりに出来る機会は少なかった。このCDは、そんなパネが、遂にその真価を発揮した、記念すべきアルバムである。
基本的には彼のバンドネオンとピアノ、コントラバスというトリオで、曲によってゲストが加わるが、見事にアレンジされたそのサウンドは聴き応え十分。特にパネのバンドネオンは、全盛期のレオポルド・フェデリコもかくやと思われる見事なもので、力感に溢れ、その重厚な響きはなんとも魅力的。とにかくバンドネオンの音色とは、かくも美しいものだったかと絶句してしまうほどだ。
トリオ編成による堂々たる演奏のほか、口笛を効果的に使った曲や、ヴァイオリンとフルートが絡む曲、そして待ってました!のバンドネオン・ソロなど、アルバム自体のヴァラエティーも豊かで、言うことなしの名盤。


Salgan/De Lio

サルガン=デ・リオ/エン・ビーボ・エン・エル・クルブ・デル・ビーノ
(クルブ・デル・ビーノでのライヴ)
Salgan/De Lio / En vivo en el Club del Vino
(Warner Music Argentina 857386076-2) アルゼンチン盤


ピアニスト、楽団リーダー、作編曲家のオラシオ・サルガンは現在84歳。タンゴ黄金時代を生きてきた巨匠としては、唯一の現役といえる存在である。
タンゴ界で活躍する以前(もう半世紀以上昔のことだ)にはダンス・バンドやフォルクローレ、ブラジル音楽など様々な音楽に携わってきたサルガンは、そうした経験を生かし、独特のシンコペーションを持った極めて独創的なタンゴを創造し、若き日のピアソラにも大きな影響を与えている。
そのサルガンが、これまた豊富なキャリアを持つギターのウバルド・デ・リオ(現在71歳)とデュオを結成したのは、1957年のこと。彼らは実に40年もの長きに渡り、活動を続けてきたことになる。
このCDは、お互いを完璧に知り尽したそんな二人の9年ぶりのアルバム。彼らが拠点とするブエノスアイレスのライヴハウス、クルブ・デル・ビーノでのライヴ録音である。
40年以上も続けている割に、レパートリーは少なく、これまでに彼らが録音してきた曲目の総数は50曲にも満たない。つまり同じ曲を何度も録音しているわけで、今回のアルバムも、ほとんどが以前最低1回は録音しているレパートリーばかりである。
彼らの凄さというか不思議なところは、それでもまったくその演奏に手垢が付いていないところにある。とても瑞々しくていつまでも新鮮なのだ。
小編成、大編成に拘わらず、サルガンの編曲の完成度の高さには昔から定評があるが、それだけが飽きのこない理由ではない。本当に、演奏することが楽しくて仕方がないのだろう。そして我々は、その恩恵にこうしていつまでも浴することができるというわけである。
なお、このCDは輸入盤だが、2001年3月には国内盤の発売も予定されている。


De antologia

レオポルド・フェデリコ楽団/デ・アントロヒア
Leopoldo Federico y orquesta / De antologia
(EMI 7 2435 28710 2 5) アルゼンチン盤


アルゼンチン・タンゴの象徴的存在だったアニバル・トロイロ以降のあらゆるバンドネオン奏者(ピアソラも、ダニエル・ビネリも、ネストル・マルコーニも含めて)の中で、文句なしに最高の演奏家と言えるのがレオポルド・フェデリコ。バンドネオンという楽器のすべてを知りつくし、完璧なテクニックに裏打ちされたその詩情豊かな演奏は、圧倒的な存在感に溢れている。
フェデリコは楽団リーダーとしても、40年以上にわたって活躍し続けているが、このCDはそんなフェデリコ楽団の99年12月の来日公演の模様を収めたものである。曲順は実際の演奏曲目とは大幅に入れ替えられ、ブエノスアイレスのスタジオで弦楽セクションが重ね録りされているほか、バンドネオン・ソロによる「ラ・カチーラ」も加えられた。
実際のコンサートも素晴らしいものだったが、今に生きるタンゴのアンサンブルを存分に堪能できるという意味で、これほどのものはない。オルケスタ・ティピカ(バンドネオン3〜4、ヴァイオリン他3〜6程度、ピアノ、コントラバスを基本とする)という伝統的な楽団編成の枠を遵守しつつ、レパートリーの選定から編曲、演奏と様々な面で伝統と革新との見事な調和が計られたフェデリコ楽団のサウンドこそ、今日のタンゴの王道と言えるだろう(もっとも彼らのサウンドの基本は1960年代初頭に形成されたものだが)。
60年代の初め、五重奏団での演奏活動を軌道に乗せたピアソラは、伝統的なオルケスタ・ティピカ編成によるタンゴにもはや未来はないと断じたが、そうは言いながらも親友のフェデリコには「アディオス・ノニーノ」のオルケスタ・ティピカ版アレンジを提供したりしていた。このCDで聴ける同曲も、そのピアソラのアレンジによるものである。そのほか、フェデリコ自身による名アレンジが際立つラストの「ラ・クンパルシータ」なども感動的。タンゴに関心を持つすべての人に聴いてほしい、2000年度屈指の傑作である。


RR 734

ダニエル・ビネリ/エル・バンドネオン
Daniel Binelli / El bandoneon (RANDOM RR 734) アルゼンチン盤

名門オスバルド・プグリエーセ楽団で腕を磨き、ロックやフュージョンのアーティストたちとも積極的に共演し、晩年のピアソラの相方を務め、ショー『タンゴ・ポル・ドス』でマエストロを務め、管弦楽団と共演してバンドネオン協奏曲を弾き…、といった具合に多彩な芸歴を誇る今日のバンドネオンの最高峰の一人、ダニエル・ビネリの新作。
演奏家としてのビネリは、そのプレイをちょっと耳にしただけですぐに彼と判る強烈な個性を持っている。巧みな指使いが生む自然な音の繋ぎ、体をうまく使って蛇腹をふるわせてのヴィブラートなどのテクニックが満載だが、一番重要なのは、作曲や編曲などを通して彼独自の音楽性が見事に表現されている点、やはりこれに尽きるだろう。
ほぼ同時に、ギターのエドゥアルド・イサークとのデュオによる『あこがれと神秘』(キング KICP 758)も国内発売されたが、そちらもお勧め。



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