FK506(タクロリムス)外用剤について
〜 治験論文から予想される有用性と安全性 〜
国立名古屋病院皮膚科 深谷元継先生
FK506外用剤のアトピー性皮膚炎への治験としては、93年に前期第2相試験1)が行われ、基剤に対する有用性が確認された。以後94年と95年に後期第2相2)3)が行われ、濃度として0.1%が適当とされた。96年に第3相試験4)5)が行われ、既存の薬剤との比較がなされた。対照薬としては、顔面・頚部はアルメタ軟膏、躯幹・四肢はリンデロンVが用いられ、前者ではFK506軟膏の方が改善率が高く、後者では差を認めなかった。刺激感の発現率は両者ともFK506軟膏の方が高かったが一過性であった。
ステロイド外用剤によるアトピー性皮膚炎治療が現実的には破綻を来している今日の状況は、治験のデザイン上の不備と、皮膚科医がその結果に基づいた、安全性の限界についての正確な情報提供を怠ってきたことに一因があると筆者は考えている。同じ轍を踏まないためにも、筆者に読みとれる範囲でFK506外用剤に内在するかも知れない潜在的な問題を検討してみた。
1) 長期外用して中止した後の再燃の有無・程度が観察されていない。
ステロイド外用剤による治療で問題となっているいわゆるリバウンド現象が生じるのか否かについての検討はなされていない。治験段階で52週(約1年)の423例の長期観察がなされている6)点は評価できるが、外用状況の推移が確認された423例で「全く外用せず」に至った患者はいないようである。「中止例の内訳」を見ても「治癒」に至っているのは38週後と52週後にそれぞれ一人ずついるだけなので、FK506外用剤を用いるのは良いが、そこから再燃無く離脱できる例がどのくらいあるのだろうか?という単純な疑問を抱かずにはいられない。患者の多くがこの薬剤に期待しているであろうことはまさにこの点だと考えられるが、治験論文上からは回答が得られない。
52週解析患者の罹病期間の平均は224カ月(約18年)で、90%が「前治療あり」である。治験期間中ステロイド外用剤が併用されていたのは約20%のようなので、多くの患者がステロイド外用剤からFK506外用剤に切り替えたものと推察される。これらの患者が離脱した場合の再燃率はステロイド外用剤に比べて高いのだろうか低いのだろうか?この点こそが明らかにされるべきである。
2) 外用によって血中濃度が20ng/mlを越える例が存在する。
腎障害が起きやすいとされているのは血中濃度が20ng/ml以上が持続した場合であり、単回外用(0.1%10g)後6時間で20ng/mlに達した例、連続外用(1回0.1%10g、1日2回)後1日で20ng/mlに達した例などが報告されており7)、いずれも一過性で腎障害は生じなかったが、重症例で全身に多量に外用することは避けた方が無難だろう。52週にわたる長期の安全性確認がなされた理由の一つであったと推察される。
中止後の強い再燃と薬剤との因果関係は明らかにしにくいが、大量外用によって腎障害がもし生じた場合には因果関係が明らかなので、メーカー側としてはこの点についての注意を強く臨床医に警告することになるだろう。具体的には、1日0.1%10g以上の使用を制限するか、どうしても使用する場合には外用初期の血中濃度の確認が推奨されると思う。
筆者としては、この薬剤は離脱に有用かどうか不明なので、患者からの希望があれば上記の説明をした上で処方するという消極的な使用を行うつもりでいる。ステロイド離脱に当たってリバウンドを抑える役に立つかを検証する方法としては、刺激感があり、二重盲検法は不可能なので、次善の方法としてのcase control studyが適当だろうと思う。大学が行うと良いと思うのだが、「ステロイド離脱」の必要性自体を認めようとしない皮膚科学会内の多くの権威ある医師たちが今後果たしてどのくらいこの問題に目を向けるかは甚だ疑問ではある。
1) 石橋康正他、臨床医薬14:2293、1998
2) FK506軟膏研究会、西日皮膚60:685、1998
3) FK506軟膏研究会、西日皮膚59:427、1997
4) FK506軟膏研究会、皮膚科紀要92:277、1997
5) FK506軟膏研究会、西日皮膚59:870、1997
6) FK506軟膏研究会、臨床医薬14:2405、1998
7) 川島真、臨床医薬13:1483、1997
99/10/08