Tanka 

 最近の作品(2000年6月〜2001年7月) ―歌会への出詠歌

 

砲声をひどく遠くに聞きながら頁に薄い栞を挟む (2000年6月)

地上には人の言葉がゆうぐれの歩道橋には海の匂いが (2000年7月)

海へ行くバスを三本見送ってわが家へ帰るバスに乗りたり (〃)

金属のレールの色が濡れているホームにならぶ傘の垂直 (2000年9月)

補助輪付き自転車で兄を追いかける弟がいるわれは弟 (2000年10月)

マネキンの巻くマフラーの片端の垂れおれば遠き人を思えり (2000年11月)

夢かたり続けて今日は疲れたり小さくパンをちぎって食べる (〃)

刻々と秋の光を失って路面に冷えていく銀杏の葉 (2000年12月)

どのメニューもみな似たような味のする洋食屋なり好んで通う (2001年1月)

時間から遅れるように降る雪を見ており夜は誰も来なくて (2001年2月)

子の遊ぶ声ながれ来てこの先に人の住まない洋館がある (〃)

玄関の、本の、車の、肉体の、触れることなきあまたの扉 (2001年3月)

待つ人と待たせる人と二通りありて広場に銅像は立つ (〃)

無国籍料理の店に向き合ってト書きのような二人であった (2001年4月)

高々と首さしのべて新緑を食べたく思う欅並木の (2001年5月)

エンタシスの脚もつ少女夕映えの駅舎に長く立たされている (2001年6月)

水量の減りたる川にふくらはぎあらわに見せて橋脚は立つ (〃)

この家に胎児の育ちゆく春を手持ち無沙汰にわれは過ごせり (2001年7月)