耳の奥の遠い泣き声うつらうつらしているうちに子は生まれたり
薄皮の剥がれるように明けてゆく窓には月のかたちが残る
子の時間重なりはじめる一室にわれは立ちおり父親なれば
アルバムのおそらく最初の一枚となる写真なりシャッターを切る
差し入れの蜜柑がふたつ「嬉しい?」と訊かれるたびにかなしくなりぬ
跨線橋渡って夜の産室へ向かうあなたと嬰児の待つ
幸せを何度も自分に言い聞かす君はさびしい半島である
まだものの見えぬ子の眼の開かれて蛍光灯のあかり見ており
核家族以外の家族は知らなくてわれは両手にわれの子を抱く
吾子の泣く声の聞こえてくるような風の夜なり 残業が続く
五年後は五歳、十年後は十歳、子の年齢で未来を計る
名を呼べばその名になりゆくみどりごを遼太遼太と何べんも呼ぶ
時々は口を話して休みつつ子は乳を飲む長い時間かけて