Tanka  

 「フリーター的」 ─第45回(1999)角川短歌賞次席作品

 

フリーターですと答えてしばらくの間相手の反応を見る

土手道のすすきよすすきどこまでも僕の忘れた人の数だけ

忘却の乾いた道にからからとペットボトルの風車が回る

日が落ちてブランコだけが揺れている追いかければまだ追いつくけれど

ぶらんこに乗らなくなって六年になるが今でも乗れるだろうか

古ぼけた夢を思えば電柱に行方不明の猫の似顔絵

曇天を支え切れずに縮みゆく電信柱を責める気はない

兄が一人いますと答えて駐車場の二段ベッドに車をとめる

忘れ物しても取りには戻らない言い残した言葉も言いに行かない

表からしか見たことのない家が続く やさしく拒絶しながら

今日もよく働いたよと誰にともなく呟いてタイムカードを

ひたひたと日は暮れてビルの壁面に無口な窓が貼り付いている

『フリーター歓迎』という貼紙の貼られたままに朽ちていく店

しり取りをしながらふたり七色に何か足りない虹を見ていた

「駄目なのよ経済力のない人と言われて財布を見ているようじゃ」

後ろから俺を照らすな煌々とヘッドライトで俺を照らすな

ネクタイをしている首としていない首 二種類の首があります

紳士服売場にならぶ何ひとつ記憶のしわを持たないスーツ

通勤のロングシートに六人の他他他他他人と一人の私

車窓から見える奇妙な建物をいつの日か僕は訪ねるだろう

考えることに疲れた制服がカモメとなってぽつんぽつんと

滑らかにエレベーターは上下して最後までビルを出ることはない

君はどこへ行くというのか非常口マークの後ろ姿となって

片脚を河に浸して鉄橋は朝まだ暗い町を出て行く

二年間暮らした町を出て行こう来たときと同じくらい他人か

転々と町の名前を変えるたびに他人のような顔つきになる

地平線まであと5キロずんずんと列車の中を列車は進む

新しい町で暮らせば新しい自分になれる(はずもないのに)

少しずつ私は年齢を取るようだ西へ西へと向かう列車に

ターミナル駅を一両一両とまた年月がこだまして行く

再びも三度も同じ旅ならばくるりくるりと無邪気な夕陽

ざらざらの夕陽は窓を突き破りしばらく僕をざらざらにした

定職のない人に部屋は貸せないと言われて鮮やかすぎる新緑

定職にならぶ食器の優しげな調和を一つ一つ手に取る

オムライス食べながらふと母親の口癖なども思い出されて

逃げ動き続けた眼にはゆうやみの色がかなしいまでにやさしい

この部屋によく似た部屋が掃除機の中で誰かの帰りを待つか

原色のネオンサインをすり抜けて夜の散歩は川に行き着く

クロールで夜を泳いで行く男 逃げる女は、ああ平泳ぎ

カウンターだけの小さな居酒屋に客は横顔だけを持ちよる

夢語るバイト中間に相槌を打つだけ打って自分のことは

フリーター中間と語る「何才になったら」という言葉の虚ろ

束の間の夢を見ていたかのように商店街はそこでとぎれる

夜明けとも宵ともつかぬ薄闇の背ばかり高い影法師かな

疲れ眼にうつる景色はゆらめいて目を閉じれば私かもしれない

真っ直ぐに歩けているか右・左・右・左手の位置が気になる

文字盤を歩き続ける旅人よ、もしたどり着くことがあるなら

灰皿に煙を立ち昇らせたまま最後の客が店を出て行く

温かな缶コーヒーも飲み終えてしまえば一度きりの関係

柿の木に柿の実赤く残されて町は寡黙な冬を迎える