この国の数限りなき201号の一つにわれは住むなり
最初から、はい、もう一度、住所氏名年齢職業電話番号
どの部屋も扉の横に留守番の洗濯機が立つ がっしりとした
既に名を忘れてしまった隣人と時おり出会い挨拶をする
ドアノブを回して場面は室内に変わる明かりがぼんやりと点く
薄暗い部屋で私を出迎える洗濯ばさみのAの倒立
冷蔵庫低きうなりを立てながらまた何ごとか思案しており
透き通るまでに夜風は 隣室の留守番電話のテープが回る
自らの吐き出した息を吸い込んでまた吐き出して閉ざされていく
体臭も声も呼吸も記憶して部屋は日に日に内臓化する
壁 鏡 鞄 缶切り カレンダー 人の言葉を知らぬものたち
考えのまとまらぬまま天井の蛍光灯の◎(まる)を見ている
天井の広さすなわちこの部屋の広さ どこに何を置こうが
冬の夜は長方形の布団から手も足もはみ出さずに眠る
眠りながら時々あなたの夢を見る目覚めて後もなおしばらくは
この部屋を去る日の天気は晴れだろう日差しを浴びて畳六枚