Tanka  

 「グランメール春日201号」 ─『塔』2000年2月号

 

この国の数限りなき201号の一つにわれは住むなり

最初から、はい、もう一度、住所氏名年齢職業電話番号

どの部屋も扉の横に留守番の洗濯機が立つ がっしりとした

既に名を忘れてしまった隣人と時おり出会い挨拶をする

ドアノブを回して場面は室内に変わる明かりがぼんやりと点く

薄暗い部屋で私を出迎える洗濯ばさみのAの倒立

冷蔵庫低きうなりを立てながらまた何ごとか思案しており

透き通るまでに夜風は 隣室の留守番電話のテープが回る

自らの吐き出した息を吸い込んでまた吐き出して閉ざされていく

体臭も声も呼吸も記憶して部屋は日に日に内臓化する

壁 鏡 鞄 缶切り カレンダー 人の言葉を知らぬものたち

考えのまとまらぬまま天井の蛍光灯の◎(まる)を見ている

天井の広さすなわちこの部屋の広さ どこに何を置こうが

冬の夜は長方形の布団から手も足もはみ出さずに眠る

眠りながら時々あなたの夢を見る目覚めて後もなおしばらくは

この部屋を去る日の天気は晴れだろう日差しを浴びて畳六枚