もう子供の生まれない春が来ないかな火口に続く空を見ている
もし生まれ変われるならば少子化の行き着く先の最後の子供
少子化の進むめだかの学校の空からしなやかな指先が
さらさらと真水のような飲み物を飲み終えて今日も齢を取らない
500ミリペットボトルを空にしてからからとその軽さを愛す
自転車が魚のように流れると町は不思議なゆうやみでした
ゆうやみの町の底なるバス停に深海艇の到着を待つ
精液の中で精子は死に絶えて夜更けの静かすぎるテーブル
愛情であるならむしろガムテープよりセロハンテープくらいの
「用のある方はしばらくそのままでお待ち下さい ハルノナナクサ」
春ならばきれいな花も咲くでしょう恋ならばそれっきりのことかも
潮騒の聞こえる春の教室に円周率の講義は続く
汽水なる言葉の意味を探しつつ辞書の活字の波に溺れる
春の空これは雷雨というものでぴかりぴかりとまた光ります
献血の後のジュースを飲みながら色のない春の風に吹かれる
静脈は皮膚の内から浮き出して人間の血も青ければよかった
ガラス張りのビルの窓にはメルカトル図法で描いた雲が広がる
バックしますバックしますと言いながらバックしてくるトラックを見る
信号の青はどこまで続くのかドッペルゲンガーたちの歌声
海へ行くバスが一つも出ていないバスターミナルの夕暮れに立つ
満月の匂いの中をすたすたと尻尾も高く猫は歩けり
半透明ビニール傘の手触りがくらげとなって夜に漂う
エスカレーターの段差よ忘却と呼ぶほど確かなものでもなくて
待ち合わせ時刻過ぎれば階段の段差も自ずから消えていく
アパートの窓と扉のある部屋の窓の外には窓の外側
孫を見るような目付きで僕を見る猫よお前の生まれた朝は
水平の柔らかな夢の沈殿は崩れてしまう たちまちにして
世紀末さえもやがては終わるからまたやり直す準備をしよう
しゅんしゅんとお湯の沸き立つ音がして遠くの町で僕が目覚める
さきさきと髪を切られて理髪屋の鏡の奥で私は眠る