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近年、企業の基幹情報システムが大きく動いている。メインフレームに築き上げてきた従来の基幹業務システムをクライアント・サーバで動くERPパッケージにおきかえることによって、ビジネス・プロセスを変革し、グローバルな社会環境におけるめまぐるしい変化への迅速な対応を図ろうとする企業が後を絶たないのだ。
2〜3年前にはごく一部の人にしか知られていなかった「ERP(Enterprise Resource Planning)」という言葉も、いつのまにか情報システムの世界では誰もが一度は聞いたことがある流行語となった。では、これからの時代の企業情報システムとして一躍注目をあびるようになったERPとはどういうものなのだろうか?
図表1は、統合業務パッケージ「ERP」の概念を図示したものである。ERPとは、ひとことで言えば企業の基幹業務を統合するパッケージソフトウェアである。「サプライチェーン」と呼ばれる、受注から、部品調達、生産、配送、販売までの企業における一連の業務の流れと、それら諸活動を支える管理業務をあつかう業務情報システムのパッケージである。図のように、販売・生産・会計の業務モジュールがデータベースを介して統合されており、そこでは特にサプライチェーンの業務と会計機能(財務会計、管理会計)との統合が大きな特長となっている。ERPには、図で示した業務以外に、人事業務の機能やSFA(Sales Force Automation)と呼ばれる営業支援機能などを備えているものもある。このところのERP市場は、国内外とも2年を経ずして倍増というハイペースで急成長している。日本でも関連市場を含めれば、その市場規模が5年以内に1兆円を超えることが予測されている。
日本国内で販売されているERPパッケージも増えてきた。
図表2はその中の主要なERPパッケージ製品とそのベンダーを挙げたものである。ドイツに本社があるSAP社のパッケージ「SAP R/3」やオラクル社の「Oracle Applications」などがよく知られているが、それぞれの製品には独自の特徴を備えるものが多い。日本製のERP製品もいくつか育ってきた。現状のERPパッケージはどちらかといえば製造業に向いているものが多いが、いずれも徐々に販売業務まわりが強化されてきており、その適用範囲はすべての業種に広がる傾向にある。また、以前はハード・ソフト・コンサルテーションを合わせたシステム全体の価格が億単位となる大企業・中堅企業向けのパッケージが中心だったが、最近は1,000万円くらいからのERPパッケージが出てきており中小企業も視野にはいってきたといえよう。
成熟した今日の社会、しかも先進国において、急成長する製品は数少ない。そうした中、倍々ゲームで成長を続けるERP。なぜERPはそれほどまでに注目されるのだろうか。従来の企業情報システムの問題点を振返りながら、その理由について見ていくことにしよう。
図表3は、従来の基幹情報システムとERPをさまざまな観点から比較して、まとめたものである。
大企業は古くから基幹業務の情報システムに取り組んできたが、多くの場合、それらは部門毎にその企業向けに個別に作り込まれてきた。製品やサービスへの要求が多様化するなかで、業務は複雑化の一途をたどっており、情報システムに要求される機能は膨大になってきている。そのため、情報システムの構築・維持にかかるコストと期間は増大する一方である。ビジネスのスピードがどんどんと加速されるに従い、次々と変化するニーズと情報システムの対応能力との間のギャップが広がっていくことが大きな問題となってきた。
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従来システム |
ERP |
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システムの性格 |
作り込み |
パッケージ |
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システムの範囲 |
部門・事業部単位であることが多い |
全社にわたる基幹業務を統合するシステム |
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業務プロセス |
企業や各部門独自の業務プロセスを尊重 |
グローバル標準の業務プロセスを適用するのが基本 |
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情報の共有 |
各システムの範囲内(部門内) |
全社、リアルタイム |
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データベース |
システム毎に個別に存在 |
大福帳型統合データベース |
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システム構築期間 |
長い(通常1年以上) |
短い(半年から1年強) |
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開発・保守コスト |
自前で行うため、開発・保守共にコスト大 |
カスタマイズを少なくすれば、小さいコストとなる |
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システム開発手法 |
ウォーターフォール型が多い |
スパイラル型が多い |
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システム構築主体 |
情報システム部門が主体となることが多い |
ユーザー部門が主体となることが多い |
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情報技術 |
設計・構築時の情報技術水準のまま |
バージョンアップにより新技術を取り込める |
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メリット |
・部門間で異なる要求を個別に実現できる |
・低コスト・短期間のシステム構築とバージョンアップ |
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デメリット |
・新しい情報技術への対応が遅れがち |
・パッケージの機能が複雑で、全体の理解が困難 |
図表3:従来システムとERPの比較
新世代の企業情報システムとしてのERPは、こうした従来型の企業情報システム(レガシィ・システム)の問題点を解決するものとして期待されている。ERPを活用することにより、システム構築をより短期間で行い、ビジネスの変化にいち早く対応する。企業のサプライチェーン全般にわたる業務を統合し、部門最適から全体最適へとステップアップする。オープンで成長性が高いクライアント・サーバ環境とともに、最新の情報技術を入手する。そして、グローバルな業務プロセスを採用し、個々の具体的なデータに裏付けされた経営管理を実現する。こうした企業の変革を目指して、欧米の企業が日本に先行してERPを積極的に取り込み、着々とその効果をあげてきている。
以下では、まず、これらのERPのメリットについて順に解説していくことにしよう。
ERPはパッケージ・ソフトウェアである。そして、実はそのことが、ERPのさまざまな長所と短所に結びついている。
では、パッケージ・ソフトウェアとはどういうものをいうのだろうか?たとえばその代表的なものとしてワープロソフトや表計算ソフトがある。パッケージとは「複数のコピーを販売することを目的に作られた汎用的なソフトウェア」であるといってよいだろう。
パッケージ・ソフトウェアには、いくつかの長所がある。たとえば、パッケージは数多くコピーを販売するので、機能のわりに値段を安くできる。買ってきてすぐに使えるというのも大きな利点である。さらに、今までのファイルをそのまま使いながら、バージョンアップができる。ワープロや表計算ソフトなら、誰も自分らが使うために自らソフトを開発しようと思わないだろう。
こうしたパッケージ・ソフトウェアを利用するメリットの「考え方」の基本は、ERPパッケージでも何ら変わらない(
図表4)。すなわち、ERPでは、従来の情報システムに比較して低いコストと短い期間でのシステム構築が可能であり、バージョンアップを行うことによって新しい機能や新しい情報技術への対応が得られるのである。しかし、一方でパッケージは複数のユーザーが存在するがゆえの宿命を背負っている。一般にユーザーのニーズは千差万別であるため、未知のユーザーを含めてあらかじめすべてのニーズに対応することは困難である。そこでより多くのニーズに対応しようとすると、今度は製品が非常に複雑になってしまう。事実、有名なワープロや表計算ソフトのもつ機能の何と複雑なことか。
従ってパッケージが手作りソフトよりもどの企業においても優れているとは限らない。たとえば、筆者の知っている20数名の社員をもつ中小企業の社長さんは、給与計算のパッケージ・ソフトを購入して自分の本棚におきながら、利用していない。この社長さんはパソコンに興味を持ち、すでに自ら全社員の給料を算出するごく簡単なBASICプログラムを作成して、それを社員の給料計算に利用している。社長さんによれば、個々の社員の業務内容に応じて個別の算出式があるため、それが一番簡単だというのである。新しく給与計算パッケージの操作方法を勉強して、現在の個別の算出方法を実現することは大変かもしれない。たいていの給与計算パッケージの機能は豊富で、この企業には不要なものが多く含まれており、十分に複雑だからである。
ERPのような業務パッケージでは、話はもっと込み入ってくる。企業の業務処理のやり方や組織構造は各企業で違うし、作っている製品に固有の事情、業界や取引会社に固有の事情が多く存在する。それに、業務はその企業における製品や生産技術の特性と密接に関係している。そこでの業務のノウハウが、その企業に固有の強みである場合があるのである。ERPは低コスト・短期間の導入やバージョンアップというパッケージのメリットを持ちながら、そのメリットを活かすためには多くの解決すべき課題を抱えている場合が多い。このためPart2で述べるように導入に失敗しないためのノウハウもまた重要となるのである。
ERPの各業務モジュールは、大福帳型データベースと呼ばれるRDB(Relational Database)を介して、結合されている。大福帳という言葉から、江戸時代の商売人が使ったあの時代劇に出てくる大福帳を思い浮かべてみてほしい。大福帳では、いつ何の商品を何個仕入れたとか、いつ何を誰に売ったとかいう、「業務全般」にわたる「個々の取引」すべてが発生した順に1つの帳面の中に記帳されていた。優秀な番頭さんが大福帳を見れば、それだけで経営状況が手にとるように判断できたという。
ERPでは、サプライチェーンの活動全般を通じて、部門をわたる業務の間が論理的に1つのデータベースを介してリアルタイムに結ばれているのが、大きな特徴である(
図表5)。ERPでは、ユーザーがサプライチェーン上のどの部門の情報でも参照することができるため、部門間を超えてサプライチェーン全体を最適化するための業務判断を行うことができる。真にお客さんが求めるものを小さなコストで効率よく、かつ環境にやさしく提供するためには、製販の同期による在庫の削減活動など、部門の壁を越えた最適化が大きな効果を発揮することが知られている。先進的な企業は今、情報技術の力添えを得て、部門内最適から全体最適へ、そして、企業内の全体最適から企業間を超えた全体最適への道を踏み出している。
大福帳型データベースには、上に述べた業務統合という特徴のほかにもう1つ、ちょうど江戸時代の大福帳が個々の取引を記録したように、個々のトランザクション(伝票)の情報を記録し、保持しているという特長がある。
この特長に基づき、ERPでは一般に財務会計情報を期間別・部門別・製品別などさまざまな切り口で解析し、その中味の解析を進めながら最終的には個々の伝票にまで辿っていくことができる「ドリルダウン」という経営解析機能が備わっている。
各部門、各製品を全社共通の指標で、経営陣みずからがGUI画面から簡単に引き出せる。真の原因を探るためには、最終的に個別の業務トランザクションにまで辿り着けることが重要であり、その結果として確かな予実管理と経営アクションが取れることになる。こうした徹底した計数管理による経営解析と業務行動の決定は、日本の企業では実は従来あまり行われてこなかったところである。ベンダーによるERPシステムのデモでこのドリルダウン解析を見た経営者が、ERPに惚れ込んで導入を決定したという例は少なくない。
こうしたことから、「ERP」という言葉を、全社的な資源配分計画への応用面を考慮した新しい経営管理・計画の仕組みを指し、そのツールとしての各種ERP製品である「ERPパッケージ」と、呼び分けて用いる場合がある。つまり、ERPパッケージの導入を本当に成功させている企業は、ERPの経営管理・経営計画が実現しているということになるのである。
ERPを導入しようとする企業が導入理由によくあげるのが、メイン・フレームからクライアント・サーバ環境へのダウンサイジングである。従来から長期間にわたってメインフレームで稼動してきた基幹業務システムは意外と歴史のあるものが多い。そこでは、使われているアプリケーションや情報技術が古く、2000年問題がクリアできていなかったり、高い維持費用の原因となっている場合が少なくない。
一方、クライアント・サーバ環境の発展にはめざましいものがある。最近のUNIX/NTサーバの性能と信頼性の向上や、磁気ディスク装置の大容量化と信頼性の向上、コスト・パフォーマンスの改善などは、よく知られている通りである。また、ネットワーク環境が発達し、クライアント・サーバ環境を統合的に管理するツール群も整備されてきた。
ERP導入と同時に基幹業務システムをクライアント・サーバ環境にダウンサイジングすれば、最新の情報技術とともに、高いコスト・パフォーマンス、オープン・マルチベンダーの特性がもたらす製品選択と成長の柔軟性を得ることができる。
業務面からは、イントラネットやオフィスツールを連携したEUCにより、さまざまな個別の業務ニーズに合わせた基幹業務情報の柔軟な活用の促進という大きなメリットが得られる。また、最近はクライアント・サーバ環境から、メインフレームを含む周辺の情報システムのデータをシームレスに連携する技術も発達してきている。
企業の情報システムは基幹系のERPだけではなく、
図表6に示すようにさまざまな専門的なシステムと情報系システムとの連携のもとに成り立っている。最新の情報技術とクライアント・サーバ環境が、インターネット、EDI、CALSといった周辺の情報技術との連携を容易にする。特に基幹業務の状況と履歴の情報を保持するERPは、企業における連携の輪において中心的な役割を示すものであり、企業の情報システム全体の視点でそれらの情報の積極的な活用を促進する効果は大きい。メインフレーム環境からクライアント・サーバ環境に移行する際には、クライアント・サーバにおける「隠れたコスト」に注意をはらいながら、しっかりとした移行・運用計画を立てることが重要である。メインフレーム環境では全体のコストを把握しやすいが、クライアント・サーバ環境ではクライアントの設定やトラブルシューティング、バージョンアップなどにエンド・ユーザが費やす時間のコストが予想外に大きいのだ。移行の際には、このような隠れたコストを含むTCO(Total Cost of Ownership)を適切に認識し、移行・運用計画にあらかじめシステム環境管理やエンド・ユーザ教育などの対策を盛り込んでおくことが必要である。
ERPパッケージは、従来からの情報システムと異なり、情報システムが企業のビジネス・プロセスの変革を牽引するドライバーとなり得るというもう一つの重要な側面を備えている。
グローバルな情報システムとして育ってきたERPには、「ベスト・プラクティス」という世界の名だたる企業で培われてきたグローバル標準の業務プロセスが含まれている。 ERPパッケージは、さまざまな業界における世界中の代表的な企業で採用される過程で、それらの企業が持つ優れた業務プロセスを取り込んで成長してきた。ERPシステムは企業の業務手法に合ったパラメータ設定をすることによって簡単に動き始めるが、その業務プロセスは世界の代表的な企業における実績と業務ノウハウが詰まった「ベスト・プラクティス(最適な業務手順)」なのである。
ERPパッケージを導入する企業の中には、このベスト・プラクティスを最大限に活用することで業務のリエンジニアリングに役立てようという考え方をベースにERPの導入に取り組み、大きな成功を収めたケースがある。
付加価値を生まない企業固有の業務のやり方は出来るかぎり回避して、業務手順や組織・業務の分担をERPパッケージに合わせる。そうすれば、世界の代表的企業で有効性が確認されている業務プロセスが実現し、結果としてリエンジニアリングになるという考え方である。業務をシステムに合わせて変更すれば、自然とERPパッケージに対する変更・追加のシステム開発が少なくなり、将来のバージョンアップ作業も容易になる。
ERPを導入する企業が事前に個々の業務を検討していく過程で、現行の業務手順がパッケージで実現できないことが判明したと仮定しよう。その時、導入企業はコストをかけて追加開発を行ってその業務プロセスを実現するか、それともシステムの業務プロセスに合わせて今までの業務を変えるかという2者択一の選択をせまられることになる。自社にとって現行の業務が追加開発コストに見合う価値のある場合は、自社の業務を捨てるべきではない。しかし、ERPが提供する業務プロセスの方が優れている場合もある。その場合は、業務プロセスを置き換えてしまえばよい。
ERPパッケージは、こうしてビジネス・プロセスの変革を進める「ドライバー」としての役割を果しつつ、変革のツールとなるベスト・プラクティスを提供する「イネーブラー(enabler)」としての一面も持ちあわせているのである。
現在のような「大競争時代」では、企業は国境を越えた世界の中で協調と競争のさなかにあり、企業活動も国際的なグローバル・ネットワークに基づいた生産・販売体制となってきている(
図表7)。このような企業では、業務を円滑に進める上で、言葉の違いの問題、為替処理の問題、税制など制度の違いの問題などを解決していかなければならない。ERPパッケージでは、同じシステムを日本語、中国語、英語などと言語を切り替えて利用できる多言語サポート、為替処理を行う多通貨サポート、各国の制度に対応した業務処理を行う多制度サポート、という3種類の多国籍サポートが提供されている。
たとえば
図表7の例では、日本の企画部門の人が、違和感なく中国の部品製造工場のデータをシステムで見ることができる。 多国籍サポートにより、ERPでは、グローバルな活動を行う企業に対しても統合的に統一性のある情報システムを構築することができるのである。 部門の壁や国境の壁を乗り越えて企業全体の基幹業務を統合し、全体最適の視点から、企業の経営資源に対する計画を考えていくこと。それこそが、ERPパッケージが企業において実現をめざしているものだということができるだろう。これまでERPが注目される理由について述べてきたが、ここで今までに出てきた特徴をまとめておくことにしよう(
図表8)。重要なことは、ERPが従来の基幹情報システムと異なる考え方を持つシステムであるという点である。この図表では良いことばかりが列挙されているようだが、これらの項目の中には相反するものがあることに注意が必要である。ERPでは多くのメリットが語られるが、その一方で課題点も多いことが知られているのである。なかでも日本独自の慣習の問題はよく取り上げられる話題である。製番管理による生産方式、手形処理、月締め、内税、工程外注などは、日本にユニークな制度や習慣の例だということができるだろう。この他にも、日本ではそれぞれの業界に固有な慣習が多く残っている。ERPベンダー自身もこうした日本の慣習への対応を進めている。しかし、パッケージの宿命について述べたように、こうした日本の企業、製品、業界に固有な要素や慣習は千差万別であり、特に業務が複雑な大企業ではERPパッケージで業務要求を充分に充足できないのが実状である。
そうした時、ERPでは業務をシステムに合わせるべきと言われることが多いが、「人」がからむ組織や業務分担の変更には現場の根強い抵抗を説得する必要がある。また、自社固有の製品や事情に合っている自社の業務プロセスを標準的な業務プロセスに置きかえれば、そこから生まれる付加価値(自社の強み)を殺してしまう危険性があることを忘れてはならない。
さらに、ERPパッケージは多くの業務パターンを取り込んでいるため、機能が複雑で全容の理解は困難を極め、パラメータ設定による立ち上げとその後の調整において、専門とするコンサルタントがいなければむずかしいという指摘がある。
ERPの数々の特徴には簡単には両立しないものがあり、自社に合った業務の価値と本来のあり方をしっかりと把握することなく導入を進めると、ERP導入がかえって逆効果となることさえある。
短期間・低コスト開発というメリットが気にいってERPパッケージを採用したが、パッケージで実現できない業務機能のカスタマイズ開発に追われ、導入に莫大な時間とコストを費やし、最後はバージョンアップをもむずかしくしたケース。戦略的な情報システムとして位置づけ、業務をシステムに合わせるべく導入プロジェクトチームががんばったが、現場の反発をくって孤立したケースや、今までの業務プロセスが持っていたその企業固有の付加価値を失ってしまったケースなど。
ERPパッケージを採用して実際に効果をあげている企業は、こうしたERPの理想と現実のハザマに悩んできた(
図表9)。そして、自社の業務をどう変革するのか、業務のどの部分をERPパッケージで実行し、どの部分を変更・追加開発するか、そして既存システムとのつなぎをどうするのか、といった業務上の課題とその意味を1つ1つ慎重にとらえ、地道に解決してきているのである。日本企業に固有の業務慣習についても、本質的なもの、企業間で話し合って解決できるもの、帳票出力の変更だけで対応できるもの、グローバル標準の業務に置き換えることができるものなどと、地道に検討してつぶしていき、パッケージのコードを書き換えることなく、アドオン開発についても少なくする努力が必要とされるだろう。日本におけるERPパッケージの導入事例をみると、成功事例には
図表9下にあげた3つのパターンが多い。第1に中堅企業の場合。中堅企業では、業務プロセスがあまり複雑ではなく、ERPパッケージが備える業務機能で業務のほとんどをカバーできること。そして、業務情報システムもそれほど発達していないので現状システムからの「しがらみ」が少ないことが成功理由として考えられる。第2には日本企業の海外進出新工場、第3には外資系企業の日本の事業所にERPパッケージを導入する場合。こうしたケースでも、業務プロセスや組織・業務分担に「しがらみ」が少なく成功例が多く見られる。
こうした事実から1つの成功へのヒントを見出すことができるのではないだろうか。一般的な企業においても、いったん今までの「しがらみ」を離れて、本来の業務のあり方とそれぞれの業務の持つ意味を見据えた上で、導入目的を明確にして導入を開始すること。次に、人的問題に対しては上層マネージメントを含めた組織的な活動と粘り強い教育により、ERPで目指そうとしているものを現場に納得させていくこと。最後に、現場が主体となって1つ1つの課題を丁寧に解決しながら導入を進めていくこと。どうもこのあたりに、ERP導入・活用の成功の鍵が隠れているのではないだろうか
一方、ERPパッケージの開発会社やベンダーにおいては、不足機能の開発、わかりやすい導入ツールや参照モデルの開発、オブジェクト指向技術の活用、コンサルタントの養成などで、企業がERPをより有効に活用できるような努力が継続的に行われている。
ERPは欧米から普及し、そして日本でも注目されるようになった。しかし、アメリカではパッケージの利用率が6割程度であるのに対し、日本では2割程度と、欧米と日本で企業における情報システム・パッケージの利用の現状に大きな差がある。そこにはさまざまな理由が考えられるが、多くの企業が情報システムの構築に費やす労力の総和の「全体最適」を考えれば、情報システムは企業が個別に構築する時代からパッケージを利用しながら構築する時代に進んでいくのは自然な時の流れだといえるのではないだろうか。日本企業においても、今後さらにERPパッケージの利用率が伸びていくことが予想されている。
(注)
本記事は、月刊サンワールド1998年9月号の特集1[Part2]として、IDGコミュニケーション社の要望により寄稿したものです。
特集1 ERP導入のためのガイドライン「SAP R/3」を解剖する
[Part1]「SAP R/3」の実力を探る
[Part2] ERPパッケージの可能性
[Part3] ERPパッケージ導入プロセス
[Part4]「SAP R/3」関連サービス&ソフトウェア一覧