先に述べたERPの個々のねらいと課題の中には、ERPシステム登場に伴う基幹業務システムの役割の変容が見え隠れしている。まずは、これまでに述べたERPシステムの特徴やねらいを踏まえて、
の2点について、整理する。
(注)従来型のパッケージ製品には、代表的なものに、給与、経理・財務会計、販売管理、仕入管理、在庫管理、生産管理などがある
第3表は、ERPシステムと従来の手作りの基幹業務システムとを、ERPシステムに特有の特徴やねらいを際立たせる形で比較し、まとめたものである。
同様に、
第4表は、ERPパッケージと従来からの業務パッケージとを、同じくERPパッケージに特有の特徴やねらいを強調する形で比較し、まとめたものである。第4表については、企業の状況によっては、ERPパッケージを従来型の業務パッケージと同様にシステム開発・業務の効率化としての位置付け・ねらいで導入するという選択もあることを書き添えておかなければならない。以下では、ERPパッケージをきっかけとする基幹業務システムの役割変容の可能性について、4つの視点から議論する。基幹業務システムの役割の変容は必ずしも一様に進むというのではない。企業にとって新しい「選択肢」が生まれたという観点での変容である。
ERPシステムにより、基幹業務システムの役割はユーザーにとっての情報システムという位置付けから、企業(企業経営)のためのシステムへと変容しつつある。
ERPパッケージの導入では、システムによるユーザー部門の業務効率や使いやすさの向上よりも、システム構築スピード、企業における業務方法の統一性、グローバル標準やベスト・プラクティスの採用などを重視する傾向がある。ERPパッケージはきめ細かな対応ができないことが多い。極端な場合には従来の情報システムでは1画面で処理できた業務を行うために、新しく導入したERPパッケージでは2画面、3画面にわたって入力を要求されることがある。そこだけを考えれば業務効率は低下しているが、企業経営全般にとっては構築のスピードや業務統合によるメリットが優先する。
換言すれば、これは部分最適なシステムから全体最適なシステムへの転換、ユーザーのためのシステムから顧客のためのシステムへの転換といっても良いだろう。
従来の基幹業務システムは、業務「遂行」のためのシステムだった。ERPシステムでは、業務の統合・情報共有、ベスト・プラクティスの活用を通じて、業務「変革」という役割を担うことができるようになった。これは、5.5で述べたように、ERPパッケージをリエンジニアリングのイネーブラーやドライバーとして位置付ける見方である。
また、ERPシステムで収集・蓄積した業務情報は、管理会計面などから業務を分析し、今後の業務改善や計画に活かすために活用することができる。前述したように、ERPを企業全般にわたって導入すれば、同一の尺度で、事業の比較・選択を行うことができる。
基幹業務システムは、業務の遂行に加えて、企業経営面から業務の変革を支援する役割を併せ持つように変容しつつある。
ERPパッケージを、企業のシステム基盤(Infrastructure)として位置付ける企業が出てきている。その企業にとって付加価値が低い業務については、ERPパッケージを活用して情報システムを導入し、短期間のうちに業務情報(伝票)を一元的に収集する仕組みを確立する。そして、その基盤の上に差別化による競争優位をねらってCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)にかかわる独自の戦略的なシステムを構築していこうという考え方である。この場合においては、後者に情報システムの効果を企業経営に生かす重点が置かれているといえよう。
独自な戦略的システムとしては、基幹業務周辺で当該企業にとって強みとなる業務システムや、顧客サービスを対象とするフロント・エンド・システムがある。前者は、たとえばPDM(Product Data Management:製品情報管理)システムや物流管理システムであり、後者はCRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)など、ERPシステムによるバック・エンドの業務情報を活用したシステムである。
欧米を中心にERPパッケージの関連製品市場が急成長し充実してきていることも、ERPシステムの基盤化が進んでいる背景の1つである。マーケット・シェアが高いERPパッケージを導入した企業は、特定の業務や機能向けのパッケージ製品を市場から選んできてERPパッケージと容易に接続することができる。ERPパッケージをシステム基盤として、情報システムの部品化が進展しつつある。
ERPパッケージに組み込まれているグローバル標準業務の採用は、基幹業務そのものの標準化を促進し、基幹業務システムのオープン性を高める可能性を持っている。
その1つは、固有の業務手順を持つ企業固有のシステムから、標準業務手順セットの中から選択して利用する標準化システムへの変換である。業界によっては、ERP活用を機会にお互いの基幹業務手順の共通度・標準化を高めているところもある(日本の医薬品業界は、その好例である)。
もう1つは、ERPパッケージと周辺業務システムとの組合せのオープン性である。たとえば、6.4で述べたような、代表的なERPパッケージと簡単に接続できる「ERP関連製品」の登場はオープン性の1つの証明といえるだろう。
基幹業務情報システムの標準化・オープン化の進展は、企業の内部においても、企業間においても、業務自身の内容の透明性を高める効果がある。さらに、部門間や企業間の業務の壁を低くし、部門間・企業間連携を容易にするとともに、人材の早期育成に役立つ。ERPパッケージの採用は、基幹業務システム導入・運用業務の一部をアウトソーシングすることを意味しているとも言えるが、対象企業が同じERPパッケージを使用しる場合は、システムだけではなく業務そのものに関してもアウトソーシングが進めやすくなるのである。
(注)6.2から6.5にかけて、簡潔に述べるためにERPシステムやERPパッケージのメリット面のみを取り上げたが、これらはいずれもERPパッケージを使えば容易に実現できるという性質のものではなく、それぞれに課題があることに留意が必要である(5章参照)。
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