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(C) Copyrights, Minoru Nakamura 2000-2001.(無断転載を禁じます)
本記事は『化学装置』誌2001年1月号に掲載された原稿をもとに再構成したものです。
筆者は、以前、半導体・液晶パネル・ウェーハ製造などのハイテク製造業に対して、MESソリューションを提供させていただく仕事に携わってきた。
そうしたハイテク製造業の方々と話していると、最近、外部のお客様に対して、工場内の情報を活用して、お客様の生産活動を支援するというニーズが高まってきていることがひしひしと感じられてくる。たとえば、インターネットを使って、お客様に工場における生産進捗状況や出荷予測を公開したり、製品の品質情報を開示するといった動きである。
事実、台湾の半導体ファウンドリ(製造請け負い)のトップを走るTSMC社では、すでに得意先に対して受注・出荷情報と連携して工場内の情報を公開するインターネット・システムを構築している。日本の大手半導体製造業にも、ロジックLSIに対して同様のサービスを実現している企業がある。
また、ウェーハ製造企業では、工場における実際の仕掛り状況と制約に基づいて、スケジューリングのシミュレーションを行い、納期をすばやく回答する仕組みの構築を進めているところがある。
これらの事例で見るように、製造業では顧客を見据えた活動においても、生産現場の業務と情報が直接取りこまれてきつついる。
昨今は、サプライチェーン・マネジメント、CRM(Customer
Relationship Management:顧客管理)、ビジネス・インテリジェンスなど、顧客に焦点を置いた企業戦略が注目されている。
しかし、その実践にあたっては、社内の業務や生産が行なわれている「現場」との連携がいかに円滑に行なわれるかが大切になる。
MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)は、ERPなどの業務システムと生産設備の制御システムをつなぐ「神経系」のシステムとして、業務の計画を指示として生産現場に伝え、生産現場の情報を把握する。
MESは、生産現場のためのシステムだけではなく、情報を両方向に伝達するシステムとして、その役割がますます重要となってきているのである。
ところで、プロセス・プラントなどのプロセス生産(process manufacturing)の世界では、MESという用語そのものがあまり普及しているとは言いがたい。また、制御系システムが早くから発達したために制御システムとMESの間の境界が明確ではなく、MESの位置付けにあいまいな面が残っている。
本稿では、MESの発展史を振り返りながら、製造業におけるMESの役割と動向について述べる。MESという用語やシステムのモデルは、どちらかといえば、個別生産(discrete manufacturing)の世界で語られる方が多かった。
しかし、MESは特定の業界に依存する概念ではなく、プロセス生産・個別生産を問わず、どの製造業でも大切な情報システム機能である。最後に全産業にわたって一般的なMESの役割と動向を踏まえて、プロセス・プラントにおけるMESの位置付けについて考察する。
1 MES誕生の背景
1.1. 生産現場における2つの課題とMESの原点
図表−1は、製造業における情報化の発展過程を示したものである。MESは、生産現場における情報化として、1970年代の後半から、個々の機能別システムや特定課題を解決するための単機能のシステムとして実現されていった(図表−1中段部分)。たとえば、いくつかの生産設備システムを組み合わせた状況監視やデータ収集のシステム、品質管理システム、ロットの進捗を追跡するPOPの仕組みを備えた工程管理のシステムなどである。
当時、製造業では、生産設備の情報化(図表-1下段)と生産計画・業務の情報化(図表-1上段)が別々に行なわれており、2つの課題が指摘されていた。
第1の課題は、(特に個別生産の世界で)生産現場の情報が工場内のあちらこちらの工程に散在しており、情報の横のつながりが欠けていたことである(「情報の孤島("island of information")」と呼ばれる)。
第2の課題は、MRP / MRP IIなどの計画系システムと、設備制御システムの間を滑らかにつなぐ役割を担う情報システムが存在しなかったことである(「欠けた環("missing link")」と呼ばれる)。
1980年代半ばにはいると、これらの2つの課題を踏まえて、生産現場の情報システムの発展が見られた。進捗情報・品質情報・実績情報・設備情報など、工場における各種の情報を統合するメリットが認識されるようになり、生産現場の情報の工程間連携や統合化が進められていった。同時に、生産現場の情報システムにより、上位の生産計画系システム、下位の設備制御システムとの情報の橋渡しも進められた。これらが、MES誕生の原型としての、 POPシステムやショップ・フロア・コントロール・システム(SFC)の姿である。
1.2. MESの誕生と3層モデル
MESは、1990年に、業務・計画システムと制御システムをつなぐ情報システムをあらわす言葉として提唱された。その発展形としては、I-MESやMES IIと呼ばれるものがある(図表−1)。
図表−2は、米国の調査・コンサルティング会社であるAdvanced Manufacturing Research社(以後、AMRと略す)によって提唱された製造業における情報化の「3層モデル(3 layer model)」を示したものである。
AMRは、計画層と制御層の中間に位置する実行層を埋める情報システムをMESと名づけ、その役割と重要性を説いた。「MES」という言葉は、この3層モデルの考え方と合わせて、1990年から使われ始めた([15])。3層モデルの各層は、図表−3に示すように、それぞれ独自の特徴を持っている。
最下層に位置する「制御システム」の焦点は「プロセス」に置かれている。生産設備の状況を「秒単位」で監視しながら、適切な生産が行なわれるようプロセスを制御する。各制御システムの管理範囲(意思決定の場)は、多くの場合、特定の「工程」である([4])。
それに対して、「実行システム」であるMESの管理範囲は「工場全体」であり、工場全体のバランスを考慮した判断が行なわれる。実行システムの焦点は「製品やロット」におかれ、「分や時間」の単位で、製品の製造過程を追いかけている。
計画層の「業務・計画システム」では、同じ製品を対象として取り扱っているが、受注、納期、コストなど、「顧客」との関係に焦点がおかれている。また、業務・計画システムにおける意思決定の場は「オフィス(管理部門や本社)」であり、その時間のスパンは「月・週・日」が中心になっている([3])。図表−4は、3層モデルにおける各層間の情報の受け渡しをまとめたものである。MESは、MRPやERPなどの基幹業務システムの「神経系」となるシステムである。
計画層の業務システムで作成された生産計画を生産現場のレベルに落としてMESに伝達し(「何を作るか」)、逆に生産現場から集めた実績・進捗情報をMESから業務システムに報告する(「実際に何が作られたか」)。すなわち、MESは生産管理業務と生産現場の情報を滑らかにつなぐ役割を担っている。
一方、制御層は生産の「手足」となるシステムである。制御層では、MESからその時々での工場全体の最適性を考慮した工程ごとの詳細な製造指示を受け(「どのように作るか」)、生産設備の製造プロセスを適切に制御する。そして、加工処理の結果、加工データ・測定データ・不良状況などを収集し、MESに報告する(「実際にどのように作られたか」)。
制御層には、生産設備と現場の作業者が含まれていると考えるとわかりやすい。製造指示の相手先や生産状況の報告元は、制御システムとMESの間がオンライン通信接続されているかどうかによって、制御システムであったり、作業者であったりする。
2 MESの発展
2.1. 生産現場における情報の統合
図表−5は、生産現場の統合システムとしてのMES像を図示したAMRのMESモデル(1993年)である。この工場全般における「統合」生産実行システムとしてのMESは、「I-MES(Integrated MES)」と呼ばれる。
このモデルでは、以下にあげるMESの4つの機能群が示されており、それらの機能群は中央のリアルタイム・データベースを介して、相互に統一されている。
1. プラント管理(生産資源の管理、スケジューリング、保守・保全管理)
2. プラント・エンジニアリング(文書・仕様管理、プロセスの最適化)
3. プロセス管理(セルの監視と制御、データ収集)
4. 品質管理(SQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理))、LIMS (Laboratory Information Management System:ラボラトリ情報管理システム)
このAMRのMESモデルに示されるように、1990年代初めまでのMESは生産現場の情報の統合性を強く指向している。工場におけるその時々のリアルタイムな情報を統合化することにより、次のようなメリットがある。
・
工場内の最新、かつ、正確な情報を活用して、システムがその場で最適な製造指示を行うことができる。
・
現場で発生したイベント(問題)をスケジューリングや製造指示内容にフィードバックし、迅速な対応を可能にする。
・
異常事態の発生をリアルタイムに検知し、迅速に適切なアクションをとる。
・ 異常の傾向を検知し、不良品の発生を未然に防止する。
・
工場全体のバランスを考えて、製造開始から製品出荷に至るまでの生産活動全般を最適化するように、スケジューリング、資源の準備・調整、資材の物流、仕掛状況、生産順序の調整を行う。
・
プロセス・工程間をまたがるフィードフォワード、フィードバック制御を行う。
・
さらなる効率化、品質向上のための工場全般にわたる統合履歴データベースを提供して、工程改善・効率化を実現する。
・
製品製造における状況(生産設備、レシピ、部品、作業者、時間、加工・測定データ)を個々に追跡できる。
・
生産現場管理者が、情報を統合的に活用して、適切な意思決定を行える。
・
生産の流れにおけるボトルネックを見つけることで、改善の機会を発見する。
このような生産現場における情報の統合化というMESの役割を、個別生産(discrete manufacturing)とプロセス生産(process manufacturing)の世界で対比させると興味深い。
個別生産の業界では、工場現場における管理と効率化は、従来、現品票や指示書など、紙と鉛筆の世界において、現場の人の技量・経験・知恵によって運営されていた。 図表−6に示すように、MESはこのような生産現場全般における管理業務を統合的におきかえるものである([6])。
多品種少量の製品を複雑な工程で混合生産するためには、人手のみでは効率化に限界がある。MESの統合性は、現場における人の技量と知恵を支援し、製造資源をさらに効率化する役割を担っている。
一方、プロセス生産の業界では、DCSの発展を通して、システムを介したプロセスの制御が早くから実現していた。生産現場における情報の統合は、製品としての視点や工場全体からの視点からではなく、あくまでプロセスの制御という視点から駆動されたのではないだろうか。
1.2. MESの標準化と部品化の動向
1990年代半ばにはいると、MESの標準化と機能の部品化・モジュール化が提案されるようになる。
MESの部品化のねらいは、ユーザー企業が必要とする機能に応じて、自社の状況にあった複数のMESパッケージを容易に組み合わせて活用することができるようにしようということである。その際に、MESが標準化されていれば、MESパッケージが複数ベンダーをまたがって部品化されても、情報の統合性は維持しやすい。標準化と部品化が進めば、企業のさまざまな要求への柔軟性が高まるとともに、 MESの構築が迅速に行えるようになるというメリットが生まれる。
図表−7は、MESAインターナショナル(MES Association International:MES関連製品パッケージ・ベンダー、サービス企業から構成されるMES普及を目的とする任意団体)が提唱する「MES機能モデル(1997年)」を示したものである([6])。このMES機能モデルでは、MESの代表的な11の機能モジュールが亀の子上に配置され、MESがこれらの機能を組合せて実現されるイメージが表現されている。 AMRは、このような部品化されたMES機能によるソリューションの実現を、「MES II(Manufacturing Execution Solution)」と名づけた([16])。
1990年代には、以下にあげるように、多くの任意団体、政府関係機関、タスクフォース・チームが、MESに関連する標準化や標準モデルの構築の活動に取り組んできた。
1. MESAインターナショナルのMESオブジェクト・モデル(図表−8)([6])
2. 標準化団体OMG(Object Management Group)の製造部会(MfgDTF:Manufacturing Domain Task Force)によるRFI(Request for Information)文書の発行([17])
3. ISA(International Society for Measurement and Control)のSP95(Enterprise-Control System Integration)標準委員会による業務システム(ERP)領域とMES領域との間のインターフェースの標準モデル([20])
4. NIIIP-SMART(National Industrial Information Infrastructure Protocols - Solution for MES Adaptable Replicable Technology)コンソーシアムによるMESの情報インフラの開発([18])
5. SEMATECH(Semiconductor Manufacturing Technology)による「SEMATECH / SEMI CIMフレームワーク」の発表([19])
6. NIST-SIMA(National Institute of Standards and Technology - System Integration of Manufacturing Applications)の「共通アクティビティ・モデル」([21])
いずれのグループも、MESと業務システムのインターフェースや、MESの機能モジュール間の標準化を明確にすることによる統合(integration)や相互運用性(inter-operability)向上の重要性を唱えている。
具体的なシステム間・機能部品間の連携を提案しているグループでは、いずれもORB(Object
Request Broker)をMESの情報インフラとして提案し、プラグ&プレイ・イメージでのMES機能の組み合わせの実現を指向している。また、そうした標準化の流れを受けて、実際に分散オブジェクト技術の標準であるCORBA(Common
Object Request Broker Architecture)や業界の標準フレームワークに準拠したMESパッケージが生まれている。
しかし、一方では、開発コストやシステムの処理性能などの情報技術面での課題や、3層モデルでの境界の不明確化の動向などから、MES機能の部品化実現における今後のむずかしさを指摘する声もある。
3 経営システムとしてのMESへ
3.1. MESの機能と効果
図表−9はMESAインターナショナルが定義しているMESの11の機能([3])をベースに、筆者が加筆・整理を行って作成したMESの機能一覧である。
図表−9 MES機能一覧
MES機能 内容
生産資源の配分と監視
・ 資源(生産設備、冶具、文書)の準備
・ 生産資源の予約、割振り
・ 設備(装置)管理・設備(装置)監視
・ アラーム管理
・ 生産資源の履歴データ管理
・ 冶具管理、部品管理
・ 消耗品管理
作業のスケジューリング ・ 小日程計画
・ 有限・無限負荷スケジューリング
・
優先度、製品特性、レシピなどを考慮した作業順序の決定
・代替工程、並行作業を考慮したスケジューリング差立て
・製造指示
・ ロット管理(現物管理)、ロット・ディスパッチ
・ バッチ管理
・ ジョブ・製造オーダーの管理
・ 予定スケジュールの変更
・ 製造指示
・ レシピ送信
・ バッファー管理(仕掛ロット管理)
・ リワークなど工程手順の変更
・ 工場内物流管理
仕様・文書管理 ・ 製造仕様管理、版管理
・ レシピ管理
・ 作業指示書、SOP、図面、パーツプログラム
・ 設計変更管理
・ ペーパーレス・オペレーションの支援
・ 規制・ISOへの対応
・ バッチ記録
・ 電子署名
データ収集
・ 装置とのオンライン接続
・ POP
・ リアルタイムな加工・測定データ収集
・ パラメータ情報
・ 制御システムとのインターフェース
・ 実績情報、進捗情報、品質情報の蓄積
・ 生産データの記録
作業者管理
・ 作業者の管理・監視
・ 作業時間、作業場所
・ 作業者の割当
・ 資格認可記録
・ セキュリティ管理
製品品質管理
・ オンラインの品質分析、SPC / SQCトラッキング
・ 品質レポート
・ 症状・原因・対策・結果の関連付け
・ オフライン検査の管理、LIMSにおける解析結果
・ 製品品質の管理、品質保証
・ 出荷検査・最終検査
・ 顧客向け品質記録
・ エンジニアリング解析用データベース
プロセス管理(工程品質管理)
・ プロセス制御
・ 作業者の意思決定支援
・ 工程内、工程間制御
・ 例外状況のアラート
・ 注意を払うべき問題の特定
・ フィード・フォワード、フィードバック制御
・ モデルベース解析
・ APC
・外部解析システムとのインターフェース
設備の保守
・保全管理
・ 装置・設備の定期保守、PM
・ 保全計画
・ 保全スケジューリング
・ 問題や保守・保全活動の追跡・履歴
・
アラート、緊急の問題への対応と記録製品の追跡と製品体系の管理
・ 製品履歴情報
・ 製造プロセスの追跡
・ 製品情報の蓄積
・ 製品体系(genealogy)の管理
実績分析
・ 実績データの蓄積、比較、最新状況の表示
・
資源の可用度、稼動率、サイクルタイム、進捗、歩留まり、品質情報
・グラフ表示、分析の支援
・進捗管理、予実管理
・ 製造オーダーの追跡・管理
・ 仕掛品管理
・ 出荷予測
・ レポート作成
もちろん、それぞれ企業のおかれた環境によって、必要な機能セットは異なるため、MESは一般にこれらの機能のサブセットを提供すると考えてよい。(MESAでは、機能の1つだけを含む単機能パッケージも、MESと位置付けている。) MES導入による直接的な効果には、仕掛品の低減、設備稼動率の向上、品質・歩留まりの向上、リードタイム短縮、プロセス改善、オペレーション・ミスの低減、生産作業効率の向上などをあげることができる。
事実、MESAインターナショナルが1993年から1996年にかけて実施したアンケート調査によれば、以下のようなMES導入効果が報告されている([2])。
・ MESを導入した66%のメーカーが、生産管理用データの入力時間を75%以上短縮させている。
・ MESを導入した63%のメーカーが、製造リードタイムを35%以上改善している。
・ MESを導入した57%のメーカーが、仕掛品を25%以上減少させている。
・ MESを導入したメーカーが、平均22%品質を向上させている(欠陥品の比率)。
3.2. REPACモデル
MESの直接的な効果は上で述べた通りだが、近年は周辺システムや業務との連携によって生産・販売業務全般にわたって波及的に得られる効果を実現する「経営システム」としてのMESの位置付けが注目されてきている。こうしたMESの効果の例としては、製品の品質・原価・納期の改善、顧客サービスの向上などをあげることができる。
1998年にAMRから新しく発表された「REPACモデル」(図表−10)は、MESを製造業における業務サイクルの流れの中に位置付けているものとして興味深い([14])。
「REPAC」とは、Ready(準備), Execute(実行), Process(処理), Analyze(解析), Coordinate(調整)という5つからなる一連のプロセス・サイクルの頭文字を指す。
REPACモデルは、サプライチェーン業務参照モデル(SCOR:Supply Chain Operations Reference)における「Make」のプロセスに焦点を当て(図表−11参照)、計画系システム、業務系システム、技術系システム、実行系システム、制御系システムの統合・連携をうたっている。 REPACモデルでは、MESを3層モデルの中間層として捉えるのではなく、周辺システムとの連携と経営システムにおけるフィード・バック・プロセスの一環として捉えている。
図表−12(a)と図表−12(b)は、それぞれ、個別生産(discrete manufacturing)とプロセス生産(process manufacturing)におけるREPACモデルと情報システムとの対応例を示したものである。
3.3. 縦横のフィードバック・ループをつなげるMESの役割
MESは、先に述べたREPACのサイクルを通じて、上位の基幹業務システムと下位の生産現場(制御システム)との間をつなぎ、上位からの計画を確実に実行し、制御システムと連携して工場のリアルタイム情報を基幹業務システムにフィード・バックする役割を担う。そのフィードバック・プロセスは、実際に、図表−13に示すような階層構造で行なわれる。
図表−13にあるように、3層モデルに則した業務・計画システム、MES、制御システムは、それぞれにPlan-Do-Seeの「横」のフィードバック・ループを持っている。そして、そのPlan-Do-Seeの中身は、上位から下位層のシステムに移る程、詳細化・短期間化・局所化され、それらがシステム間の「縦」のフィードバック・ループを介して支えられている。計画の詳細化、確実な実行、その時々の「実績に基づく」「迅速な」アクションは、縦・横のループの統合が行なわれて初めて保証される。
業務・計画システム、MES、制御システムの間には、スケジューリング、データ収集、工場(ライン)の監視など、多くの重複する機能が存在しているが、これらはいずれかのレベルで実行されればそれでよいというものではない。それぞれの次元で各々の役割があり、しかも、お互いがスムーズに連携されることが必要である。
AMRのINTECH May 94では、MESの概念が以下のように述べられている([11])。
『MESは、全社のリソースを、その経営目標にあった形で管理し、その目標を確実に行う手段を提供するものであり、基幹情報系の論理データと工場の実行データをリアルタイムにリンクし、ビジネス計画系と製造の間をコミュニケートする機能を提供するものである』
ここで述べられているように、本来、MESのねらいは単なる工場の情報システムではなく、このような縦・横のループが統合されたシステム、すなわち「経営システム」のねらいとして、語られるべきである。 SCPソフト、ERP、CRM、データ・ウェアハウスなど、近年注目を集めている諸々の企業情報システムが、工場を対象に含めながら、MESを伴わずに検討される場合がある。しかし、MESの機能なくして、本当に地に足がついた(工場に根付いた)企業情報システムとなるのだろうか。計画の実行と実態の把握という両面から、机上の空論だけのシステムとならないかどうかをしっかりと見極めることが大切だろう。
4 プロセス・プラントにおけるMES
石油、ガス、プラスティックなどのプロセス・プラントでは、もともと工程間が配管を通して繋がっており、プロセスの制御を必要としていた。プラントの運転情報システムとしてDCS(分散計装制御システム:Distributed Control System)が1970年代から普及し始め、早くからプロセスの監視・自動化・効率化が実現していた。そのため、今も制御システム層とMES層との境界にあいまいな面が残っている。 図表−14は、プロセス・プラントにおける情報システムとMESの関係を示したものである。
図表−14にあるように、MES層内で、制御システムから大量のデータを受けて処理を行うシステム部分は、PIMS(Plant Information Management System:プラント情報管理システム)という名称で呼ばれることがある。 PIMSでは、大量データの処理を扱えるリアルタイム・データベース(RTDB)製品と開発環境が用意されており、それらをベースに実績管理、運転データの統合が実現される。
計画システムと制御システムのギャップを埋めるMESの主な機能要件としては、短期生産計画・スケジューリング、バッチ・プロセスの制御・管理、保守管理、技術情報管理、プロセスの最適化制御(APC:Advanced Process Control)、ネットワーク統合、ERPシステムや品質管理の役割を担うLIMS(ラボラトリ情報管理システム)との連携があげられる(プロセス・プラントでは、APCは制御システムの機能だという見方もある)。
MESのねらいは、機器性能や操業実績の監視と履歴情報管理、高度な制御の実現を通じた工程改善や品質改善、設備保守の効率化などである。
また、プロセス・プラントに特有な機能要求として、データ・リコンシリエーション(誤差修正やデータの補完)、運転データの積算、ユーティリティ・バランス管理、マテリアル・バランス管理、機器性能計算(equipment performance calculation)、タンク繰り(タンクの割当ての調整)、設備の寿命予測などがある。プロセス・プラント向けMESでは、いくつかの単機能MESパッケージを部品として組み合わせ、作りこんでシステムを構築する場合が多い。
プロセス・プラントにおけるMESは他の製造業種と様相が異なっているが、他産業のMESから得られる示唆も少なくないのではないだろうか。
MESの諸機能は、経営システムとしての位置付けを背景に、ますます周辺の情報システムとの連携を強めていくだろう。そのためには、工場レベルでの各種情報の「横の統合」と周辺システムを組み合わせた「縦の活用」を、共にシステム設計の段階で考えておくことが大切になる。生産計画、品質管理、設備保全、高度制御など、どれをとっても、全体のシステムの中でいかにMESの役割を位置付けるかが大きな課題となる。
また、現在、プロセス・プラントでは一般にいくつかのパッケージ製品を部品的に組み合わせてMESシステムが構築されているが、その統合は決して容易とはいえない。標準化や仕組みが整備され、MES製品の部品・モジュール化の動きにおける先駆的な業界となるのかどうかも興味深いところである。
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