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『21世紀のもの作りのための情報化戦略』 Enterprise Information Strategy for Creation of Things for the New Century |
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© Copyright - みのる's 情報源, 2000.
ミレニアムを迎えた2000年は「IT革命」という言葉が大流行だった。何しろ政治の世界である沖縄サミットにさえ「IT革命」の話題が表に出たほどである。
なかでも、インターネット関連の企業やビジネスモデルの話題がもてはやされている。実際、プライスラインやYahoo!といったインターネット関連ベンチャーの株価が高騰し、大手の製造業や流通・小売業の企業価値を超えるようなベンチャー企業が現れてきている。これらのベンチャー企業の急激な成長には目を見張るものがある。インターネット関連企業の多くは、会社の規模から見れば大手企業の10分の1から100分の1くらいの社員数の若いベンチャーだが、株式市場では高い評価を得ている。21世紀には、情報・ネットワークインフラの個人レベルへの普及が進み、さらに次々と新しいビジネスが生まれることは想像に難くない。
しかし、いくらインターネット関連のベンチャー企業が注目されているからといって、製造・流通・小売といった「地に足のついた」企業を離れて、インターネットの世界だけで産業が成り立つことは考えられない。
特に「もの作り」の世界は、21世紀だけではなく未来永劫にわたってなくなることはない。しかし、21世紀においてはインターネットに代表されるIT(情報技術)がさらに個人の生活とビジネスを変容させていくだろう。
「もの作り」は、今、社会の成熟化とインターネットなどのIT化の影響を受けて、外部(環境)からの変容が強いられている。それに対抗する方法は、逆に内部(社内)からITを積極的に活用して、環境の変化に企業を適用させることである。「情報化戦略」は、その道しるべとなるものである。
本稿では、活気あるもの作りのために、21世紀の情報化戦略はどうあるべきかを考えてみたい。21世紀のもの作りにおいては、個別の企業に根付いた情報化戦略と、社員個々の意識の改革、さらには業務改革の組織的な定着が求められている。
では、世の中における「IT革命」の進展によって、21世紀の「もの作りへの要求」はどのように変わってきているのだろうか。
ここでは、「情報の価値」と「対応のスピード」という2つのキーワードを挙げることにしたい。
第1のキーワードは「情報の価値」の高まりである。世の中におけるIT革命の進展によって「もの作り」における「情報の価値」が飛躍的に高まっている。B to BやB to CといったIT革命の進展によって、お客様が企業であっても個人であっても特定製品の代替となる「ソリューション」を見つけることが容易になった。そのため、お客様のニーズは適的に満たす必要がある。ニーズを的確に満たした製品と製品がもたらすソリューションをお客様に提供できなければ、製造した製品は売れないのである。
情報には、「入手」する情報と「発信」する情報がある。企業は今、お客様が何を求めているのかという情報を「入手」し、お客様が求めるニーズを具現化したソリューションをすみやかに「発信」してお客様に伝えることが求められている。情報の「入手」「発信」の対象は、お客様だけとは限らない。社内にもある。社内において製造や流通の現場がどのような状況にあり、何が課題なのか。IT活用が進んだ企業では、新鮮で正確な高い価値をもつ情報が社内に流通し、業務の改善に活用されている。
第2のキーワードは「対応のスピード」である。情報はものと違って伝達にタイムラグがないのも同然である。情報は一瞬にして世界を駆け巡ることができる。企業は「入手」した情報を活用して、的確な「判断」を行い、「すばやく対応する」ことで付加価値を生み出すことができる。
入手した情報が判断を助け、企業が環境に適応するための対応を促進する。また、その結果として新しい付加価値をもった情報が生まれることがある。そして、そのサイクル(PDCAサイクル)の回転のスピードが速ければ速いほど、生まれる価値は増幅されるのである。
少し例をあげることにしよう。お客様のニーズを製品設計に反映させることが重要なのは当然である。しかし、現在のお客様自身が求めているソリューションは、もはや今まで工場にとって「永遠の課題」といわれ続けてきた「製品への品質・コスト・納期(QCD)」への均一的な要求ではない。現在の製造業ではQCDへの要求は、製品だけを対象とするものではなく、設計・調達から生産・流通・販売・お客様も含めた範囲でのQCDとして大きく様変わりしているのである。お客様それぞれの状況によって、確実な納期をすばやく回答することが非常に重要であることもあれば、短期間での納入が強く求められていることもある。早く製品が手に入れば、少々コストアップになっても問題にならない場合さえ考えられる。世の中の製品へのQCDはすでに「当たり前」レベルには達しており、同業他社の製品に大差が無い場合が多い。お客様にとっての差は、より広い範囲と定義でのQCDの差で生まれるのである。
お客様の求める品質には、製品の機能として持つべき「当たり前」品質に加えて、細やかな使いやすさ、やさしさ、わかりやすさ、コンセプト(生活への新しい提案)、感性を刺激するユニークな特徴、デザイン・色、商品名、ブランドイメージ、個客への対応(カスタマイズ)といったものがより重要視されるだろう。さらに、お客様側からのその時々の金銭面、および、時間面での価値が加わったのが、21世紀におけるもの作りが追いかけるべきQCDであり、作ったものが売れるかどうかを左右することになる。
また、迅速で正確な情報の伝達は、業務そのものを根本的に変える可能性を秘めている。たとえば、サプライチェーン・マネジメントの活動では、POS情報に基づく製販共同の需要予測や事前出荷明細(ASN)などの情報の電子伝達によって、流通在庫を大幅に減少させ、システムへの入力作業や検品業務をなくしてしまうようなコスト削減が実現している。
生産プロセスにおいては、ある種の部品のちょっとした材料の変更が製造上の品質問題を引き起こすことがある。そうしたケースでは、材料変更の情報が適切に伝わっていれば大きな問題となることを回避できるかもしれない。一方、どこの会社の部品でも機能上は同じであるが、製品全体において該当部品のコストが課題となっていたり、部品の供給の不安定性が問題であったりする。そういう観点でみれば、資材を内製にするか、外注にするかといった製品製造時におけるサプライチェーンの議論も、また製品設計段階での議論となり得るのである。
今後は、製品設計や製造の現場も、こうした一連のサプライチェーンにおける業務の流れや、企業固有の経営戦略・ビジネスモデルの中に組み込まれていく傾向にあるだろう。
製造業の個々の企業にとって、どの技術が大切か(強みであるか)は業界や企業によって異なっている。製品技術や製造プロセスの技術が企業の命であるところもあれば、研究開発や製品設計の成果が企業の命運を決する業界もある。
しかし、21世紀のもの作りにおいては、IT革命によって変容した企業の外部環境に適応するべく、企業内部においてもITがコア技術の1つとなることは間違いないだろう。経営資源としての情報の価値を見直し、経営システムとしてのスピーディな対応を実現するITが、それぞれの企業にとって大切な既存技術を支える情報インフラの役割を担うのである。
また、業務スピード、情報に基づく判断と対応のスピードなど、企業活動のアジリティ(俊敏さ)が要求される時代においては、IT自身の構築スピードやタイミングが重視される。
ERPパッケージに代表される数々のシステム・パッケージ製品の登場はIT構築スピード化の流れの1つである。また、最近話題にあがってきている、情報システムを再構築せずにゆるやかに結合して企業の情報を統合するEAI(Enterprise Application
Integration)、情報システムをサービスとしての位置付けで企業に迅速に提供するASP(Application Service Provider)などの情報技術は、こうしたIT自身の構築スピードへの要求に応える動きと捉えることができる。
もの作りは、作る「もの」によってそれぞれに強烈な個性がある。業種が変われば当然のこと、製品が変われば、設計・製造の技術が違う。製品といっても、受注生産もあれば量産もあるし、生産財もあれば消費財もある。また、企業を取巻く外部環境の違いや企業の社風など内部環境の違いもあり、企業のビジネスモデルが変わっていて当たり前である。個々の企業では、上に述べたことでさえ当てはまらない場合があるだろう。
21世紀にあるべき情報化戦略は他社のものまねでは到底、役に立たない。情報化戦略は、それぞれの「企業固有」のものでなければならないし、むしろ今後は個別の企業にとって望ましい情報化戦略はますますユニークになっていく方向にあると考える方が正しい。
したがって、個々の企業に立ち入らず情報化戦略の傾向を語ることはむずかしい。しかし、むずかしいといってばかりいても話が始まらないので、本稿では21世紀における情報化戦略の方向性として共通性の高い話題を一般論として取り上げることにしたい。まずは一般論として理解していただいた後で、読者各自でそれぞれの「もの作り」企業が持っている個性の部分を噛み砕いて考えていただきたい。
情報化戦略の方向性の最初に挙げることができるのは、情報の「同期」と「統合」である。情報の「ネットワーク化」と言い換えてもよい。21世紀には、情報は部門や工場を超えて、そして、企業を超えてサプライチェーンや業界の範囲で同期し、統合されていく方向に進んでいくだろう。
たとえば、近年製造業においても普及が進みつつあるERPシステムは、部門や工場の枠を越えて、会計・財務情報を中心に情報を同期・統合させることをねらった情報システムである。また、広範囲での適用を目指すSCM/SCPパッケージは企業を超えて業務の同期と統合を図ることをねらっている。
B to Bに代表されるeビジネスや企業間ネットワーク化の目的も、情報の同期と統合によるメリットの追求といっても過言ではないだろう。
一方、製造業では生産現場と管理・計画業務との間の情報の同期・統合が置き去りにされてきたきらいがある。多くの企業ではしばらくはERPやSCM/SCP(サプライチェーン・プランニング)の展開が継続するかもしれない。しかし、ERPやSCMによる業務系と計画系の情報化が一巡化した後に注目されるのは、設計業務の情報を製造業における情報全体の同期・統合の輪の中に組み込むPDM(Product Data Management)システムや、業務・計画系システムと生産現場との間をつないで同期・統合化させるMES(製造実行システム:Manufacturing Execution System)と呼ばれるシステムであろう。事実、欧米やアジア諸国ではPDM/MESともにパッケージ製品の普及が着々と進んでいる。
PDMやMESにより、もの作りにおける情報化が現場に根付いた地に足のついたものとなり、設計や生産の現場の世界における情報が、もの作り戦略としての経営システムに組み込まれることになる。
ロボット、NC、CAD/CAM、FMS、SCADA、DCS、ソフトロジックなど、製造業では設計や生産の現場では急速に情報化が進み、多くの情報がソフト化されてきている。また、設計情報の電子化が進み、生産現場においても機器へのパソコン組み込みや機器自身のパソコン化が進むことによって、もの作りの現場におけるさらなるネットワーク化への動きが期待されている。
一方、徐々に普及が進むERPは業務情報の統合性を加速させ、大量の業務帳票データを統合データベースに蓄積している。
このように製造業では、データが溢れてきている。しかし、それらのデータを縦横に見通したデータの活用は決して進んでいるとはいえない。QCDなどの工場の目標が変容し、工場が企業のビジネスモデルの実行を支える新たな役割を担いつつある中、工場における業務改善や意思決定を、事実やデータに基づいて行う重要性が高まってきているのにもかかわらず、である。
21世紀に向けての情報化戦略の方向性として、当然、データ活用の重要性が高まっていくだろう。また、データ活用への情報化戦略を実現するITとして、従来はマーケッティングや小売・流通を中心に活用されてきた「データウェアハウス」が、本格的に製造業に適用されてくるだろう。
情報システムを導入すると、会計情報、原価情報、生産情報、品質情報、納期情報、販売情報などが見えるようになる。しかし、情報システムによってデータを集めたり、きれいなレポートを作成したりしただけでは何かが実際に改善されることはない。そのデータをもとに判断を行った結果として、業務、設計、工程などを実際に何か変更することではじめて、その変更による改善の効果が得られるのである。データを活用して、すばやい対応を実現することで、情報の価値を高め、効果的にPDCAの管理サイクルを回すことが大切である。
データウェアハウスは、管理サイクルにおいて、必要なデータを収集・解析し、効果的な意思決定を行う作業を支援するシステムとして、製造業においてさらに活躍の場を広げていくだろう。
製造業では、多くの目標や指標が交錯しているものである。
表1は、製造業における各部門の典型的な目標を列挙したものである。この中のどの項目をとっても、もっともな目標のように見えるが、突き詰めて追求すると自部門の他の目標や他部門の目標と相反するものが多い。たとえば、ロットサイズを小さくすると段取り時間が増えて、設備稼働率など生産の効率は下がり、製造原価は高くなりやすい。資材の購入単価を安くするためには、購買ロットを大きくして納期に十分な余裕を設ければ交渉しやすくなるが、部品在庫を増やし、機敏な設計変更は行いにくくなるなどである。
そのような時は、部門の壁を越えて<特に「製販」(製造と販売)の間>、全体最適を考え、本来あるべき方向を考えることが望ましい。そして、ビジネスモデルや企業戦略の実施に対して、「ボトルネック」となる部分(もっとも問題のある部分)の業務課題を改善していく。変化が激しく対応のスピードが求められる現代では、全体を見渡しながら、ツボをおさえて業務課題の改善を行うことが肝要である。
表1:製造業における各部門の目標の例
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部門 |
目標の例 |
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製造部門 |
· 製造原価を低減する · 仕掛品を減らす · ロットサイズを小さくする |
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購買部門 |
· 資材購入単価を低減する · 資材の在庫を減らす · 資材入手の納期を短縮する |
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物流部門 |
· 物流在庫を低減する · 輸送費を低減する · 物流関連経費を低減する |
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販売部門 |
· 売上を増やす · 利益を増やす · 販管費を減らす |
同様のことは、製造業の情報化戦略においてもいえる。企業のビジネスモデルや戦略に沿って、今何が本当に求められているのかを見極め、そのツボにIT投資を行って改善を加速させることが求められている。生産計画における意思決定材料となる仕掛状況・在庫・納期などを一覧できるようにすることが必要なのか、生産性を向上させる仕組みやプロセスの改善が求められているのか、顧客の要望を設計に活かすことが重要なのか、それとも、製品の品質の改善やコストの改善が必要なのか。21世紀のもの作りでは、情報の価値を見極めた上でのスピーディな対応が企業の命運を左右する。ツボをはずした情報化戦略やIT投資は金銭面での無駄だけではなく、会社にとってかけがえのないチャンスを失うことにもなりかねない。
情報化戦略は、それぞれの企業の環境と状況に見合った固有の戦略である。また、時々刻々と変わる社内外の環境と状況に合わせて随時改訂されなければならない。
情報システムは、どうしても構築プロジェクトが注目されやすいが、実際には導入後のシステムや既存のシステムをどのように活用していくのかが大切である。本来、導入後の活用の度合いこそ、注目されるべきなのである。
情報化が企業に普及しはじめた事務計算システムの時代のように、今は情報システムによって業務が楽になると思うのは間違いである。むしろ業務は今まで以上に大変になる。最近の新しいパッケージ情報システムを導入すると、今まで以上にデータの入力を求められたり、パッケージの制約によって使い勝手が悪くなったりする場合が少なくない。しかし、ここで業務が楽にならないといっているのは、そうした使い勝手の悪さをいっているのではない。
ここでいう「大変さ」とは、それぞれの業務(社員)が「新たな役割を担う」べきであるという「大変さ」である。IT化でより多くの価値ある情報を入手することによって、業務は新しく生まれ変わる必要がある。
たとえば、情報システムの導入によって、今まで以上に情報が同期・統合化され、多くの業務担当者やマネージャにとって、より幅広い範囲の充実したデータが参照できるようになる。そうした中で、それぞれの業務担当者やマネージャが従来からの業務に対する意識を改革し、自分の業務や部門の新しい役割を考えて行動を変革していくこと、さらにはそうした業務の新たな役割を組織に定着させていくことが大切なのである。
たとえば、生産現場の職長は、販売部門が設定する納期情報の背景、品質や設備の状況がわかれば、いつもと異なる判断ができるかもしれない。営業マンは生産現場の進捗や在庫の状況がわかれば売り方を調整することができるかもしれない…のである。
それでは、設計技術者にとって、役立つ情報とはどのようなものだろうか。また、21世紀のIT革命によって設計技術者が多くの価値ある情報を入手できたなら、それらの情報をどのような観点で設計に活かすことができるのだろうか。21世紀のもの作りのための情報化戦略は、読者のみなさんにそうした課題を考える機会を与えるものであることを願ってやまない。
21世紀におけるIT革命は、設計から、調達、生産、流通、販売、そしてお客様までを含めたサプライチェーン全体の中での「もの作り経営システム」の確立を支えるものである。もの作りにおける情報化戦略は、同期と統合、データ活用の促進、メリハリをつけてボトルネックを改善する集中型の情報化の方向に進むことが考えられる。こうした情報化戦略の方向性にのっとったITの実現を通じて、もっとも必要とする業務から情報化が進展し、その結果として企業内外の情報が同期・統合化され、適切に活用されれば、それぞれの業務において見える範囲と奥行きが広がり、今までなかなか顕在化しなかった問題が素早くわかるようになるだろう。
製造業では、それぞれの部門の技術的専門性が高い。そのためか、現状の大企業における「もの作り」の世界では、どうしても部分最適に閉じこもりやすい傾向が見うけられる。21世紀の情報化戦略の具現化を通じて、組織の部分最適化のハンドルを全体最適へ向けて転換することが目出したいものである。
21世紀のもの作りのための情報化戦略においては、それぞれの部門が企業戦略における自部門、および、各自の新しい役割と責任をもう一度真剣に考えてみるべきである。また、その新しい役割と責任を担うことができる個々人の意識改革と、継続的な改革の組織的な定着(=仕組み作り)を情報化戦略の中に含めて検討していくことが切に望まれている。
<参考文献>
1) 中村 実, 正田耕一:MES入門, 工業調査会 (2000).
2) 東京実践経営研究会:製造業の戦略的情報化マニュアル, 通産資料調査会 (1999).
3) SCM研究会:サプライチェーン・マネジメントがわかる本, 日本能率協会マネジメントセンター, 1998.