新製品開発とこれからの企業間関係
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  1. はじめに
  2. 新製品開発における企業間の協力は、「共同開発」や「産・学・官」連携などにより、以前から実施されてきている。

    たとえば、企業自身が主体となるものとしては、企業間での技術・新製品開発における提携がその代表的なものである。こうした提携は毎日のように新聞の記事をにぎわせている。

    「学」が主体となっている活動としては、企業からのニーズと研究室が持っている技術シーズを組み合わせ、産学共同の技術開発を支援する機構を備える大学が増えてきた。近年、滋賀県に設置されたREC(龍谷大学エクステンションセンター)はその一例である。

    「官」が主体としてかかわる活動では、都道府県等に設置されている公設試験研究機関の取り組みや、融合化対策に基づく県や中小企業事業団による企業交流支援事業などがある。いずれのケースも、企業間協力による新製品開発につながる可能性を含んだものである。

    また、米国からひろまってきた動きとして、CALSがある。CALSは、電子ネットワークを活用して、企業間で技術情報などを共有し、調達や新製品開発などを含めたコンカレント・エンジニアリングに活用していこうという活動である。すでに、鉄鋼、自動車、船舶などの業界で、業種別CALSの実証・推進プロジェクトが実施されている。一時期のブームは去ったとはいえ、CALSが今も引き続き注目されている活動の一つであることに変わりはない。

    これらの新製品開発につながる企業間の関係は、いずれもメーカーなどの「提供者側」が「明確な目的」を持って行ったきたケースが多い。もちろん、今後も、新製品開発においてはこのような企業間関係が本流として流れていくであろう。

    しかし、ここでは、上で述べてきたような新製品開発に関する一般的な企業間関係の話題から少し離れ、あえて今まであまり話題として取り上げられる機会が少なかった、違ったタイプの企業間関係の動向について紹介することにしたい。

    本報告では、3つのタイプの企業間関係の例を紹介する。最初に、別業種の企業が、製品開発に関連してお互いに連携する企業間関係を2種、紹介する。次に、業務上の明確な目的を持たずに活動している企業間ネットワーク事例を紹介する。

     

  3. お客さまのお客さま
  4. 最初に紹介する企業間関係は「お客さまのお客さま」を意識の中心において、製品開発を行う動向の事例である。

    情報システム・インテグレータ企業が、その顧客である銀行や証券会社に対して情報システム構築サービスを提供するという状況を想定しよう(図1参照)。この時、あるシステム・インテグレータ企業は、顧客である銀行や証券会社がどのようにまたその顧客である口座保持者に対してサービスの差別化ができるかという点を、提供する情報サービスの最重要項目において、情報システムの設計にあたるという。

    ここで、情報システム・インテグレータ企業にとって、銀行や証券会社のお客さまは「お客さまのお客さま」に相当する。情報システムサービス提供企業がシステム開発を進める上で、直接「お客さまのお客さま」を製品開発の対象として意識するというわけである。

    その背景には、もちろん金融ビッグバンの時代に入り、銀行や証券会社が生き残るには、いかにお客さまへのサービスの付加価値を高め、顧客を自社につなぎ止めるかが最大の関心事であるという状況がある。

    このようなケースで製品(情報システム)開発を行う場合、システム・インテグレータ企業が、「お客さまのお客さま」としての口座の保持者のニーズと銀行や証券会社における関連業務のニーズの両者を、的確に把握することがポイントとなることは言うまでもない。

    そのためには、システム・インテグレータと銀行・証券会社が、相互の企業における業務やシステム化のノウハウの交換と活用を進めるにあたり、両企業間の信頼関係が重要になる。

    ここでは情報システム構築サービスを例に挙げた。しかし、この「お客さまのお客さま」という概念とニーズを満たす製品開発への企業間の関係は、一般の生産財など企業向け製品の開発において、共通のテーマとなり得ることは明らかである。

     

  5. サプライチェーンと企業間の連携

商品企画からお客さま(消費者)への販売に至るまでの、一連の業務のフローはサプライチェーン(供給連鎖)と呼ばれる(図2参照)。サプライチェーンでは、企画、設計・開発、原材料調達、製造、物流、販売、保守という商品供給のための諸業務が鎖のように繋がっている。

もちろん、受注や販促などの関連業務をサプライチェーンの中に含めて考えることもできるし、対象商品によっては業務の順番や名称が異なるサプライチェーンを考えてもよい。

一般に、図2に示すように、サプライチェーンにおいては、ものは左から右に流れ、情報は左右両方向に流れている。

1985年くらいから、世界では、サプライチェーンの中の企業が連携・協力することにより、ロジスティクスを改善する活動が活発に行われてきた。その目指すところは、消費者に対して低コストでより高い付加価値の商品やサービスを提供することである。

特に、メーカーである製造業と小売業者の間の企業間協力による、クイック・レスポンスやECR(Effective Consumer Response)の活動がよく知られている。前者はアパレル業界での活動、後者は食品・日用品業界での活動であるが、その本質は同じである。

たとえば、ディスカウントショップ・チェーンを展開するウォルマート社とP&G(プロクター&ギャンブル)社は、企業間連携により、パンパースの在庫を減らし、品切れをなくすことで売上を増大させた。メーカー、物流センター、店舗合わせて10週間分あった在庫が3週間分に減少したという。

このような企業間連携では、お互いの企業が持っているPOS売上情報や在庫情報を共有し、それを最終顧客である消費者の付加価値を高める方向に活用していく。時々刻々と入手されるPOS情報に基づく売上予測に合わせて、サプライチェーン内の在庫量を統合的に最適化することで、実績として全体の在庫を飛躍的に減少させたのである。

クイック・レスポンスやECRは、サプライチェーンにおいて、在庫の時間や費用など顧客価値に繋がらないコストや時間を徹底的に削減し、顧客の視点で望まれる商品をすばやく提供するといった付加価値を高めることを目指した活動である。在庫削減以外に、以下のような効果を実現できることが実績として示されている。

このように、企業内・企業間にかかわらず、サプライチェーンの諸業務全般を統一的な視点から全体最適化する活動のことを「サプライチェーン・マネジメント」という。

サプライチェーンの適用範囲を、顧客の顧客、また、サプライヤーのサプライヤーまで広げれば、前章で述べた企業間の関係もサプライチェーン・マネジメントに含むという考え方をすることもできる。

クイック・レスポンスやECRの事例では、ロジスティクスの視点からみた活動が多く展開された。しかし最近では、SCM(Supply-chain management)ソフトと呼ばれる業務パッケージがねらっているような、需要予測・生産計画・調達計画などの業務をメーカーの視点からみたサプライチェーン・マネジメントについても注目されている。

ECRのねらいには、これまでに述べてきたようなロジスティクスまわりの効率的な品揃え活動や効率的な商品補充活動に加えて、効率的な販促活動や効率的な新商品開発活動が含まれている(図3参照)。

ロジスティクスの改善がある程度軌道に乗ると、次のステップとして提携企業間のパートナーシップを活かした販促や新商品開発に発展するのである。

サプライチェーン・マネジメントでは、新製品開発にしても、サプライチェーン上の企業が協力し合い、統合的観点から全体を最適化する製品(商品)を開発していこうという考え方をする。実際、ECRの活動として、メーカー、ロジスティクス、小売業の企業連携による新製品開発は、すでに実施されている。FMI(米国食品マーケティング協会)の試算によれば、缶詰などの食品業界では、効率的な新製品開発活動により、商品の小売価格の0.9%の改善が期待できるという。

サプライチェーン・マネジメントの活動を成功させるためには、以下のようなことに留意する必要がある。

2番目に挙げた企業間のパートナーシップにおける信頼関係を築くためには、全体最適の観点からの改善活動に要した費用とリスク、そして結果として得られた効果を的確に把握して公平に分担する仕組みが必要となってくる。

これらの留意点は、そのまま新製品開発における企業間の関係の留意点でもあると言ってよいであろう。

  1. 新しい企業間ネットワーク
  2. 最後の事例として、一風変わった企業間ネットワークを紹介したい。

    ここで紹介する企業間ネットワークの始まりは、川崎市の金属加工など中小製造業の若手経営者(次世代経営者を含む)の集まりである。このグループは、メンバーが地理的に近くお互いに顔見知りだったこともあり、当初は、同窓会のような雰囲気で、2ヶ月に一回程度の飲み会を開いていたという。

    その後、遊び感覚の延長で、勉強会を開くようになり、「ものづくり」をテーマにホームページを開いたところ、製造業若手経営者の活動ということでマスコミに取り上げられ、その活動が加速化した。

    ただし楽しいことをしたいというのが基本線としてあり、決して共同受注や技術交流といった業務に結び付けたネットワーク作りを目指しているわけではない。そのあたりが、この企業間ネットワークの大きな特長である。

    ホームページでは、資格制限なく自由にバーチャルなネットワークの参加者を募っている。また、その参加者の一部でメーリングリストを活用した各種の情報交換が行われている。そのメンバーは一般の製造業の従業員や消費者の立場の人々から、技術関係者、研究者、コンサルタント、情報技術者、行政関係者までと幅広い。海外に在住している人からも何名か参加がある。

    メーリングリストにおいても、ベースは遊び感覚の延長である。活発に楽しく雑談をする中に、時折「ものづくり」や関連技術に関する情報やアイデアの交換が、ごく自然に行われているのが現状である。

    参加者がみずから楽しむことを目的としたバーチャルで、かつ、明確な目的を持たないという、今までに存在しないタイプの異業種交流ネットワークとして育ってきているのだ。

    新製品開発においては、ニーズとシーズの両方がうまく組み合わさることが重要である。ここで紹介した新しいネットワークの事例は、直接に新製品開発とは係わっていない。しかし、こうした新しいネットワークのゆくえは、今後のネットワークの方向性を示唆するものであるといえるのではないだろうか。

     

  3. まとめ

本報告では、新製品開発と関連して、しかし、新製品開発の観点からは従来あまり紹介されていない企業間の関係を、3種類取り上げてみた。

これらの企業間の関係の共通点として、顧客の視点が重視されていること、および、メンバー間の信頼関係が重要な要素となっていることの2点を挙げることができるだろう。また、それぞれのケースにおいて、情報技術が果たす役割についても、非常に興味深いところである。

新製品開発における企業間の関係は、今後多様化していくのではないだろうか。この報告を通じて、そうしたこれからの企業間の関係に何らかの新しいヒントを提供することができたのであれば幸いである。

 

【参考文献】

[1]『コンシューマー・レスポンス革命』岩島嗣吉・山本庸幸著、ダイヤモンド社、1996.

[2] ECRサプライチェーン革命』村越稔弘著、税務経理協会、1995.

[3] Supply Chain OptimizationC.C.Poirier & S.E.Reiter, Cahners Publishing Company, 1996.

[4] 『都市型産業集積の新戦略』中村智彦他、大阪府立産業開発研究所、1998.

[5] 『最新経営イノベーション手法50』日経BP社、1997.

[6] 『サプライチェーン・マネジメントがわかる本』SCM研究会著、日本能率協会マネジメントセンター、1998.