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 もらっぷフライヤー2号 乗り物でゴー! 1998-7 No.02
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特集・CMウオッチング
乗り物でゴー

移動開始。

夏目漱石も、チャリンコに乗って
心のむすぼれをほぐした。
用もないのに動き回りたくなるのは、
動き回る用事のほうを、
ぼくらが奪われてしまっているからだ。
生きるために獲物を求めて足を使った記憶は
かならずDNAのどこかに刻まれている。
今はみんなが動き回る代わりに、
コンビニのトラックが世界の道を配走する。
座して手に入る情報を、一度幻だと疑おう。
心の地図に載ってない場所があまりに遠くても
20世紀末の僕らには道具がある。

さあ、乗り物でGO!


今月のテーマ「乗り物でゴー!」で「CMウオッチング」?
何のことだといぶかられる方も多いでしょう。
もちろんあの運転体験ゲーム「電車でGO」にひっかけてるわけですが、
あのソフトが流行ったのにはそれなりに理由があります。

列車の旅の良さっていうのも否定はしませんが、
いまいち「移動してる」快感に乏しいのは、
窓によって仕切られた視界が、草食獣の目のように、
横を向かされているからじゃないでしょうか? 
草食獣の視界、それは逃げる者の視界です。
結局バスや電車の旅は、日常から逃げる性格を背負わされているのかもしれません。
ヒトも目が前方に向いている動物なんですから、
積極的に何かを追っかけるほうが気持いいに違いないんです。

で、自分が動かす乗り物でゴー!と行きたいんですが、とりまく状況は厳しく、
JRのTRAINGのCMじゃないけれど、
渋滞にはまってカーナビが目的地まで2時間21分ですと告げる横を新幹線が時速240キロで追い越して「新幹線なら2時間21分で東京から盛岡まで」とささやく声に落とされそうになるのが現実です。運転モノの代表たる自動車メーカーは、はたしてTRAINGを超える物語をアピールできるのか? 

英国で自転車に乗って神経衰弱の気分転換をした逸話をもつ文豪を登場させたトヨタ「プログレ」のCMを足掛かりに、乗り物CMについて、都内の2t車も入れない道沿いに住むワタクシblue815@が、サーフ&サマー?なイメージしか浮かばない葉山在住のkikuwaka@さんと交わしたEメール往復書簡、スタート。


俳句のように、小さくしてよいものにする」日本的思想を車に体現した「プログレ」
家族新話で父ちゃんかっこよくて子供と一緒にどこいこう? 日本車の「エコ」ならぬ「エゴ
アメリカ人の「Think different」な「クルマじゃないアメ車?」


From: blue815@ /青木敬士 98.6.18

僕の住んでいるアパートは、
隣の住人のイビキがかすかながら聞こえるほど壁が薄くって、
深夜にTVを見るときなんか、ちと気を使います。
そんなときに気になるのが、突然そこだけ音声レベルが上がるCMタイム。
そりゃ、気づいてもらわなきゃ宣伝にはならないけど、
声高な自慢話をうざったく思わない人間なんてそうはいないはずなのに、
どうしてあのボリュームアップがすたれないんだろう?
(そういうCMに限ってしょうもない出来)と思っていたところに、
おやっ、と目を奪われたのがこんなCMでした。

本木雅弘ふんする夏目漱石的な文豪が、ノートパソコンと携帯で通信している娘を見て「小さくして良いものにする。まるで俳句ですねぇ。この国にはあったんです、そういうものが……車にもできないか……」と、つぶやきながら原稿用紙にちいさく車の落書きをする。 (「最初はピンとこないくらいのほうが、いいんじゃないですか。その方が、少しずつ、ゆっくり、好きになれるし」……『それから』篇。「遠回りです。遠回りしてはじめて、見つかるものもあるはずですから」……『道草』篇 が続けてオンエアされています)

これ、トヨタの「プログレ」というクルマのCMでした。CMの印象にたがわず、商品のクルマも「大きい車=高級車」の図式をやぶって丁寧に作りこんだジャストサイズの良いクルマです。なんかいいものが出来ると「見て見てこれボクが作ったの」といわんばかりにサインや銘を入れたくなるのが自己顕示欲を燃料にして走るクリエイターの性なんですが、プログレっていうクルマ、外から見るかぎりどこにもTOYOTAの表示がない! なじみのマルTエンブレムもついていない。これはSEIKOが安い時計にその商標をつけるのを嫌ってALBAなんてのを出したのとは全く意味合いが違うんですね。家電製品みたいに大抵の人が安くて使い勝手がよければブランドなんかにこだわらない物と違って、クルマはフェチな愛情を注がれやすいものだから、れっきと「イタ車党」とか「ホンダ党」とかが存在するわけだけど、そういう人たちの「腐ってもアルファロメオ」みたいな信仰心をけがすことなくハンドルを握ってもらうにはどうすれば?ってトヨタの人も考えたんでしょう。結果、トヨタの看板を捨てたと。これは今新しく出来た「プログレ」っていうブランドなのだと。(セイコーも最近はSUSやAKAといった、インディペンデントなイメージを持たせるためにあえてSEIKO商標をつかわない時計も出して、なかなかイイ感じです)でも、それだけじゃ「信仰心+食わず嫌い」を崩すにはまだ弱い。足りないのは何か? ドラマです!! 歌だってドラマの主題歌じゃないとヒットが飛ばせないご時世、世の人が求めているものが「ドラマ」なのは誰もが承知していながら、どんな物語(ドラマ)を提供すればいいのかは、全てのクリエイターを悩ます世紀末最大の課題となっております。プログレにおいてテーマとされたのは「日本」と「ヨーロッパ」でした。

かのバブル期は、車のデカさや豪華さで自分を偉くみせようという浅はかな魂胆と共に崩壊し、その意味で日本は自らのカッコ悪さを客観するいい勉強をしました。まぁ、大きい車=高級車の図式しかなかった日本では、小さい車に充実した作り込みをすることがなかったので、そこを覆して生まれた「プログレ」というクルマを新鮮に見られる目をようやく勝ち得たのです。ヨーロッパ人に何を今さらと笑われそうだけど、自動車というものがヨーロッパ生まれの文化であるのは否定できないことで「夏目漱石というエトランゼが見た(そして消化した)ヨーロッパ文化」というドラマ――のハマりぐあいは、近年まれに見るCM界のナイスキャスティング賞ものです。伝えるに足りるだけの内実が(どうしても伝えたいことが)このクルマ作りの中にはあったっていうことでしょう。いいものは、いいものを呼びますからね。少なくとも、プログレのCMにプログレ音楽を使うような能無しの発想を受け付けないシビアさはあったわけで……よかったよかった。

 

From: kikuwaka@ /若林 紀久子 98.6.25

どうも。返信です。
キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」が
バックでガンガンかかってます。
プログレ、好きよ。でも漱石とはちと相性悪いかな。

そういえば、秋田新幹線「こまち」が開通したときに、飛行機のパイロットがスチュワーデスと「飛行機は途中下車できない」なんてことを言って、その後カットが変わるといきなり雪の秋田のホームに二人で降りたっている、なんてCMがありましたね。熱血青年が「俺の人生、レールの上を走るだけじゃ嫌なんだ!」なんてのたまうシーンもかつてはそこかしこでよく見られました。レールの上を走らない乗物でも、途中下車や急に曲がる、なんてことが往々にしてできないということを、きっと知らなかったんですね。若いというのはそういうものなんでしょうか。

移動の手段というだけでなく、車に付加価値を求める。
機能だけでなく、じゃあイメージもつけて売りましょ、というのが最近のドラマでしょうか。

そんなオマケドラマを意識したのは、飯島直子扮する“母ちゃん”が「グランディス」という車に乗っているらしい夫にむかって『父ちゃんかっこいい!』とほめちぎるCMと、俳優・布施博が変な背広を着て登場する某紳士服店のCM。これは「割れたガラスと揺れている野球のボール」というカットが与えるモンタージュ的連想から、どうも子供が野球をしてて学校のガラスを割り(なんという余裕のないモンタージュ!)、布施扮する父親が学校に行き、んでもって謝るかとおもいきや、いきなり教師にむかって「先生! 遊ぶときは遊ぶ、学ぶときは学ぶ、叱るときは叱る! これがうちのモットーです、ハイ」とのたまうものでしたが、手にボールなんか持っちゃって、いやらしいんだな、これが。両者とも家庭風なんだけど、家族の顔が微妙に隠されているという点では(予算の問題なんでしょうか)、何が家庭なんだか、という気分になります。一見、家庭重視の様に見えて、実は従来の「家庭を犠牲にして経済優先!」主義につながるものも隠されているのではと勘ぐってしまうんですね。

桜桃忌のこの季節、「子供より親が大事と思いたい」といえども、こういう“親が大事”というのはちと違うんではないかな、と思いますね。成熟した大人の親の姿がない。不況になって、接待が減って、じゃあ家で鍋でも…。という現象が起きて土鍋などが昨今販売数を伸ばしたらしいですが、これらのCMのいやらしい家庭回帰は深夜のボリューム大のCM同様、否応なしに見せられるものとしては大いに私は寒気を感じましたね。車(新車だ!)に乗るだけで“父ちゃん”が格好良くなるか。子供の学校に父親が乗り込んで、子供不在のまま教師に説教かますのが良いか。これにかぎれば、私の答えは否であり、たかがCMといえどもこれらの商品をこんなイメージで売ろう! という浅はかさには拒否反応を起こしますね。

そういう面では、「プログレ漱石編」は高尚なイメージ=ドラマ作りには成功していると捉えても良い方なのでしょうね。しかし、「メイクドラマ」などという造語が幅を利かせているこのごろ、ドラマとはなんぞや、という気分にもなります。目的と手段の関係にも似て、やはりドラマを手段とする“グランディス”はドラマを目的とした“プログレ”には一段落ちるかな、という気がしています。

それでは。

 

From: blue815@ //Think differentなアメ車?CM//98.6.27

小さい頃はみんな特殊車両が好きだった。
ミニカーだって、形の面白みのない乗用車よりショベルカーや消防車を買いたがったはず。なのに実際車を運転できる年齢になると、そういう車がキケン・キタナイ・キツイ3Kな仕事のものと知ってか、見向きもされなくなってくる。

もちろん一般人は買わない車だから、CMの対象ではない――と思っていたら、突然CMに舗装工事のローラーカーが現われた! そいつはIBMのシンクパットをバリバリ踏みつぶし、さらに並べられているウインドウズノートたちをペチャンコにしていく…カメラが引くと、それは全てアップルのパワーブックG3の画面に映っていたデジタルムービーだったというオチなのだけど……このG3ってやつ、デカイ。まさにアメリカ製品、車でいえば「アメ車」の風情を漂わせて、軽量小型化競争を繰り広げる「モバイル」なノートPCの流れを見事にあざ笑ってます。どんなに小さくしたってパソコンを持ち歩くのは面倒くさい。そんなの人間を少しも開放しない、という、はなっから持ち歩きの利便を捨てたG3の思想は、かなりイケてます。PHSのプチメールが限界で、それにパソコンつなげてモバイル…ってのは、カッコ悪いと思いますよ。プログレの本木/漱石サンは感心してたけどね。何も持たずに自転車で走るほうが気持イイって、やっぱり。

(このCM、シネマライズ渋谷で上映前に見ました。アメリカじゃTVでやってるようです。さすが比較広告天国!)

プロフィール[1998年現在]------------------------------

ヲblue815@ /青木敬士/もらっぷ編集人。クルマの話題をふっておきながら、
実は引越にまでバイクを使う二輪派である。

ヲkikuwaka@ /若林 紀久子/横須賀のケーブルテレビの勤め人。
夏ロケには日焼けどめと凍ったミネラルウォーター必携だね!
毎夏紫外線とメラニンとの戦いです。(談)



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