インタビュー(桜花賞)

会社に帰って談話をまとめていると、上司の尾崎の呼ぶ声が聞こえる。
「田島!ちょっとこいや。」
「なんでしょう。」
と尾崎のデスクに向かう。
「悪いがな、芸能欄で人が足りんらしい。お前ちょっと手伝ってやってくれ」
唐突に手伝いの話か・・・
「私は今、騎手談話をまとめているところです。これをまとめて関西支社に
送らなけれ・・・・」
言っているそばから
「まあ、それは柿沼に任せておけばいい。実は女優のインタビューの
随行だ。後でまとめてレポートして欲しい。」
「はあ・・・」
いいなり言われてレポートしろと言われても・・
「経済記者ならインタビューは得意だろう。芸能記者の替わりだ。ひとり
カメラマンが付くらしいが、レポートするのはお前だ」
会社命令で有無を言わせないような口ぶりで尾崎が言う。
「いきなり言われても美味くいくかどうか・・・」
そうとう困って田島がたじろぐ。
「長瀬若菜。知ってるか。今売り出し中の若手女優だ。宣伝半分ってとこだな。
まあ頑張ってや。」
「はい。わかりました。期待に添えるかどうかわかりませんが。」
そういうと
「上手くすれば、我が競馬欄のコラムに取り付けるかもしれない。期待してるよ」
そういって尾崎はカメラマンを呼びつけた。
期待されても困る話だが、女優にインタビューする機会は滅多にあることでは
ない。それに先日見た深夜番組の巨乳が頭を掠めた。
「よろしくお願いします」
若いカメラマンの新藤が現れた。
「こちらこそ」
挨拶もそぞろに、
「時間が無いんで行きましょう。打ち合わせは車の中で」
と新藤はせかす。
「じゃ頼んだぞ」
と尾崎の声が聞こえた。

車に乗り込みながら
「で何を聞けばいいんだい。」
そう新藤に聞いてみる。
「スペースはそんなに無いんですが、この4月から始まる新ドラマ
「ジェラシーの行方」の宣伝半分と現在の心境なんかを聞けばいいでしょう。」
と新藤は丁寧にいう。
そして、顔写真が付いた簡単な履歴書を渡してくれた。
芸能プロダクションが作っているようなものだ。そこには、女優馬券師の名は
無かった。やはりあれは深夜番組用なのか。
「実は芸能プロダクションから売り出してくれって依頼があったんです。テレビ番組の宣伝は必ず入れること」
「へ〜」
「一番意気込んでいた。西村さんが来れなくなっちゃって、急遽ピンチヒッター
をお願いした訳です」
「他に記者はいないのか?」
「生憎みんなで払っちゃてまして・・・」
「それじゃあ、しょうがないな・・・」
と言いつつ、顔がにやける自分がいる。

日が暮れて、夕日が沈み赤黒くなった空。
新宿西口の高層ビル最上階のイタリアンレストランへ向かう。
到着すると既に長瀬とそのマネージャーはテーブルに座っていた。
入ったその部屋は、特別室と言った感じの明るい雰囲気の
洒落た小部屋だった。
胸元が大きく開いた真紅のドレスを着た長瀬若菜は、
にっこり微笑み「よろしくお願いします」
と頭を下げた。その瞬間にたたわわに実った
胸の谷間がドレスからこぼれ落ちそうに覗かせる。
目線に気づかれそうになったのを感じ、慌てて名詞を差し出し、
「新東スポーツの田島です。今日はお忙しいところありがとうございます」
と頭を下げる。同じようにマネージャーとみられる女性にも
名詞を手渡す。
「スポーツ部の競馬担当?なにこれ聞いてないわよ!」
名詞を見たマネージャーはヒステリックな大きな声でいう。
「芸能担当記者に不幸がありまして、おたく様のスケジュールを
変更させるのは失礼かと思い、急遽私が代わりに窺った次第です」
と慌てて、取り繕う。
「あらそう、不幸ね・・・。それじゃしょうがないわね。でも競馬担当
はないんじゃない」
「あっそれは、芸能担当が・・・」
と言い出した新藤の口を私が抑える。
「いやね、芸能担当をしていたことのある私が、競馬にも詳しい長瀬さんの
取材には適任かと思いまして・・・」
納得したように、マネージャーは
「わかったわ」といった。
その後、新藤の足を含みつける。顔をしかめた新藤はわかったようだ。
まず、最初に写真撮影をし、その後インタビューを行う。
インタビューはリラックス出来るように、料理を取りながらとなった。
酒は、初めから断られていた。
「素敵なドレスですね」
と挨拶がわりに問う。
「お仕事用なんです」
と長瀬が答える。
「ドラマの撮影はどうですか?」
「ええ、初めてのことばかりですが、楽しいです。」
とありきたりな返事しか返ってこない。
思い切って話題を替えることにした。
「深夜の競馬予想のテレビはどう?楽しい?」
と聞いてみる。
「ええ、競馬は面白いですね。」
と長瀬。
「いつ頃から?」
「え〜と子供のころから、父に連れられて・・・」
「へ〜お父さんに・・・、今お父さんは?」
「父は他界しました。」
話題を変えたつもりが一気に暗くなりそうだった。
「テレビでは当たってるの?」
そう切りなおす。
「テレビはテレビ用なんです。そう言う意味では詰まんなくて・・・」
「自分の買い目じゃないの?」
「自分の時もありますが、デレクターに言われて決まってる時もあるんです。
私は期待されてないみたいだし・・」
そう言ってうつむく。
「今度うちで予想しない?」
「え?!・・・・」
びっくりする長瀬の返事を待つ前に
「そう言う話は事務所を通していただけますか?」
と赤ぶち眼鏡の女マネージャーが口を挟む。
「いいよね。」
「私、自分の予想やりたいです。」
そうきっぱり言うのは、テレビでは相当やらせがある証拠だろう。
「事務所は通しますので心配なく」
そう私が言うと長瀬はにっこり微笑んだ。
流石グラビアクイーンの笑み。世の男はこれで一ころだろう。
「明日の桜花賞は?」
「モスモスを持って明日はチャペルでコンサート。
コイビトのエガオはシャイでチェリーのようです」
そう長瀬は答えた。
「タイトルは若菜のこの馬から流せ!でいいかな?」
「いいですね〜。もう最高!」
長瀬は上機嫌だ。多少競馬を知っている新藤はポカンとしている。

長瀬の予想はこうだ。
◎オースミコスモ(コスモス)
○スマイルトゥモロー(明日)
▲チャペルコンサート(チャペルでコンサート)
△キョウワノコイビト(コイビト)
△シャイニングルビー(シャイ)
△タムロチェリー(チェリー)

◎流し。

長瀬が言った言葉をそのままつけ、後は適当にライトすれば、
短コラム予想の出来上がりだ。

所定の時間が過ぎ、インタビューは終わった。
コース料理も終盤に差し掛かっていた。後はコーピーとデザートを残すのみ。

「お酒は本当にダメなの?」
そう聞いてみる。
「そう言うことにしておいてください」
その答えで十分だった。
最後のコーヒーを飲み終え、彼女らは席を立った。
「打ち合わせもありますので、また連絡しますよ」
そう背中に言葉を投げかける。

「田島さん。口直しに飲みましょう」
そう新藤がいう。
このアホで気が利かない新藤と飲むつもりはもうとうない。
「ここ会社の金ですから、多少のんでもわかりませんって」
アホ・・・。最初から飲まないことになっているのは
会社も知ってること、飲んだら自腹に決まってる。
アホさかげんに
「飲みたきゃ、自分で飲め。俺は帰る」
そう言って部屋をでる。
慌てて、新藤が出てきて一緒に帰ろうというので、
一緒に会社に帰ることにした。

今回の長瀬の初予想が当たるような予感がして、
◎オースミコスモ
○スマイルトゥモロー
▲シャイニングルビー
△キョウワノコイビト
△チャペルコンサート

◎流し&○−▲
と頭の中で予想する。

帰ってから忙しくなりそうだ・・・・。



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