3現主義(京成杯・日経新春杯)

騎手の談話を取り終えて、オフィスに戻ると、上司の尾崎が、惜しかったな。
と一言、言った。両金杯の結果が紐切れ。◎が両方とも1着なら初ダンコ打ちとしては、
まあまあの結果だろうか?しかし京都金杯は〜というようなことを続けて言っていた
から、叱咤激励したつもりなのだろう。まあいずれにせよ、◎が1番人気、あながち
自分の予想も悪くはないと思ったとたん、
「我々は3現主義だ。現場、現物、事実この3つをいつも認識しろ。我々の世界は結果がすべてなのだ。事実は変わることはない。」
と激がとんだ。
現場100回だな、こりゃ・・・。

次の日、取材のため、栗東に足を運んだ。たぶん1番人気になるだろう浅見厩舎のヤマニンセラム。新馬―特別を連勝し無傷の重賞Vに挑む、母ヤマニンパラダイス、父サンデーサイレンスと言う良血馬だ。母ヤマニンパラダイスは、無傷の3連勝で阪神3歳牝馬S(G1)を制覇。5歳時、両前脚の種子骨骨折で繁殖入りを懸念された馬だ。
取材に応じた蔵之下重明きゅう務員は、
「スピードがありすぎて脚がもたなかった。賢い馬だからねぇ、寝たり起きたりして蹄葉炎(ていようえん=つめが腐る病気)を防いだんだろうね。骨折さえなければ、もっと勲章をもらえたはずさ。」と懐かしそうに振り返る。母ヤマニンパラダイスを手がけ、また、サンデーサイレンスとの間に生まれたヤマニンセラフィムを担当している厩務員は続けて、
「抜群の心臓、秀でた瞬発力、勝ち方、自由自在なレースぶりはそっくり。止まったり立ち上がったりとクセまで同じだよ」
まるで、母と同じ道をたどるのが当たり前のような口ぶりで言った。。
 馬を見ると完成された体つきではない。それでいて、新馬(芝1800メートル)、エリカ賞(芝2000メートル)とも中団につけてあっさり差し切った。それも「まだ本気で走っていない」と新馬戦での武豊騎手、「内にモタれて走っている」とエリカ賞での蛯名騎手のコメントどおり全力投球で走ってないのだろう。素質だけで勝っている。母は430キロ台から480キロ台まで50キロも馬体重が増えた。この馬も成長すれば、さらに期待できるだろう。内にモタれるのは軽いソエ(若駒に見られる前脚の骨膜炎)の影響か。「このぐらいのソエは気にするほどではない。毎年毎年出てくる馬とはわけが違うので、先を見据えて使っている」と同きゅう務員はいう。クラシックを意識した距離選択とダービーが行われる東京遠征が、陣営の期待の高さと深謀遠慮がうかがわせた。◎はこの馬かな・・・
◆セラフィムとは seraphim。seraphの複数形。旧約聖書に登場する神に仕える6枚の翼を持つ最高位の天使の意味。さて京成杯で最高位の天使になれるか?

シンザン記念はメンバーを見て参戦を決めた森厩舎か、武豊か?
先に森厩舎に足を運ぶ。朝日杯フューチュリティS3着のスターエルドラードは、前走デムーロの好騎乗があったと見るべきなのだろうが、いかんせん森厩舎。去年は総合リーディングに輝くほどのレース選択眼の確かさは折り紙付き。1勝馬の参戦が多いとみるや、実績上位の同馬で必勝を期してきたようだ。取材に応じた松田助手は、
「朝日杯はうまく流れに乗れたし、騎手(デムーロ)が馬の能力以上のものを引き出してくれた。アテにしづらく勝っても負けても不思議でないよ」期待の割には、結果が残せず、同助手もヤキモキしているようだ。中間は2週間ほど短期放牧でリフレッシュし、帰きゅう後はプール調整と坂路で乗り込まれてきたようだ。出走を決めてからは調整のピッチが上がっているし押さえは必要か・・・。

次に松田国厩舎のポスト・クロフネ候補と言われるタニノギムレットを取材した。
運よく調教師に話を聞くことが出来た。「クラシック路線に乗せたい素材やね。ここもそうだが、今後に期待してるんや。」と師は笑顔を見せる。余裕の表情が自信を表している。
 前走は札幌以来4カ月半ぶり。休み明け、初芝、初距離にも関わらず余力十分に2着に1秒2差をつける圧勝だった。「ソエで休ませていたんだが、もう心配はあらへん。跳びが大きくて、スケールの大きいフットワークやし。かかるところがなくて競馬もしやすいタイプやね。」と師は余裕の表情で答える。
 その能力の高さは馬の雰囲気、勝ちっぷり、そして調教の動きにも現れているようだ。「6日に軽くやって坂路4F52秒台(52秒4)が出てしまったで。出そうと思えばいくらでも時計は出るんや。」と口元を緩める。
 しかも、ギムレットには心強い味方、重賞V2を含む開幕9勝、3日連続メーンジャックなどスーパーダッシュを決めた武豊を確保した。
 クロフネと同じコンビが送り出すタニノギムレット。主役はこっちか?まずは好調武豊騎手の手綱さばきに期待したい。

その夜、以前日本のデフレスパイラルの危機について、取材した経済研究家の伊佐坂先生にアポを取った。なぜなら、経済の研究家でもありながら競馬の血統にも精通しているという情報を得たからだ。
「先生、先日は色々参考になるお話ありがとうございます」
改めて、名詞を差し出す。
「田嶋君、名詞は以前もらったよ」
と面倒くさそうに受け取る。
「会社変わったのかね。新東スポーツ?・・・」
「ええ・・リストラに合いまして、配置転換といえば聞こえはいいですが、親会社に統合されました。」
ひどく驚いた様子で
「君みたいな優秀なものでも配置転換食らうのか・・・しかしスポーツ新聞とはまた180度違う分野だね。」
「ええ、実は競馬欄の担当になりまして、そこで先生の意見を頂戴したく、伺った次第です。」
「僕は、専門化じゃない。競馬は単なる趣味程度だ。その辺の素人と変わりないよ」
困り果てた様子で、タバコを吹かす。
「いやね。先生。ぶちあけた話、私は素人以下なんですよ。リストラされたのが、去年の暮れ、金杯から予想しているんだが、これがさっぱり。今度は本当にリストラ(解雇)されそうです。」
「へ〜競馬はやらんのかね?」
「競馬のけの字も知りませんでした。今いろいろ勉強の最中です。予想法も千差万別、何が一番いいのかさえわからんのです。どうか私を助けてもらえませんか?」
深く頭を下げる。
「何度も言うように、僕は素人並だ。参考にならんと思うが・・・」
「私も一記者ですよ。いい情報があれば先生にも・・・」
この一言が聞いたようだ。伊佐坂は目を輝かせて
「じゃあ、交換条件として、私の知っている限りのことを伝授しよう」
ようやく乗ってきたか・・・。
「京成杯はどう見ていますか?」
「人気になるのはヤマニンセラフィムだろう。能力であっさりもあるが、ソエの影響がでて、内にもたれると言う不安ある。血統的には、素人好みのいい血統だろう。」
「素人ですか?」
「母ヤマニンパラダイス人気が先行している。玄人好みはローマンエンパイアのほうだろう。初戦の新馬は1分37秒2と平凡なタイムだったが、これは流れが緩かだった。1頭だけ次元の違うレースをしていたよ。2戦目のさざんか賞もやや出遅れで、外から力ずくで押し切った。1分21秒2はレコードタイだ。余力を残しながら5馬身差の圧勝だった。体型は寸が詰まって短距離体型だが、長距離に適したレインボークエスト系のサクラローレル×同じく長距離に適したローソサイエティが入る。これで1600と1400を勝って来た。距離延長はさらにいいだろう。今、この距離とこの時期に走っているのは血統表の中にボールドルーラーやラウンドテーブルが入っていることが影響している。 だた、騎手が落ちる。枠順にもよるが、外枠は明らかに不利だ。出遅れて大外振り回したのでは、届かない。」
「そういえば、調教が凄かったですよ。ゴールでは6馬身の大差がついてました。」
と私が言うと
「人気になるんだろうな〜。」
と寂しげな顔をした。
続けて
「日経新春杯はどうでしょう?」
「武豊には、逆らわないほうがいいぞ。奴は去年連対率35%だ。これは外人騎手並だぞ。」
「ええ、外人騎手と武豊騎手の活躍は聞いています。どう予想に結び付けていけばいいのか・・」
「君は素人以下ならツベコベ考えずに全部買っておけばいいだろう」
「35%なら、シンザン記念か日経新春杯どちらかで連対するのは間違いないでしょうね。」
「実績上位馬のラスカルスズカだが、前回のキャピタルSは明らかに太かった。10キロ以上絞ってくれば狙えるだろう。ただこういうタイプの馬は明らかに人気が先行する。調教を見てどうだった?」
「ええ、素晴らしかったです。豊騎手を背に坂路で追ったんですが、800メートル50秒2の1番時計。36秒9−24秒7−12秒5とシャープな伸びで、残り1ハロン手前で仕掛けると、併せたアドマイヤセレクト(4歳、500万下)を一気に突き放して3馬身先着しました。有馬記念前も販路で好タイムを出していましたから。喉から手が出るほど重賞タイトルはとれるんじゃないでしょうか?」
「そうか。ステイゴールドの初重賞も武豊だったな。JRAも競馬を盛り上げるため、今回の勝ちはラスカルスズカできまりだな。」
「ええ、これでラスカルが勝てば天皇賞が面白くなりますね。」
「ははは・・・面白いか?勝つのはマンハッタンカフェで2着は武豊の乗る馬と踏んでいる。」
「アドマイヤロードやジャングルポッケトは?」
「素人らしいいい質問だね。アドマイヤロードは万葉Sを勝って人気になると思うが、明らかに距離が長い
万葉Sは武豊の芸術的騎乗での勝利と見るべき。ジャングルは想像以上に乗り方が難しい馬なのかもしれない。とにかくスローでは折り合いがつかんだろう。トップジョッキーが乗らなければ、消しでいい。」
「先生は競馬についても独自の持論をお持ちのようですね。」
「色々本を読んで感化されたかもしれん・・・。君にかしてやろう。」
と色々な本を貸してくれた。
「ところで先生。日本の景気の方はどうでしょう?」
「経済記者魂がまだ残っているか・・・。好景気になるまで、アメリカの例を見ても後10年はかかるだろう。当面倒産や廃業は続くな。それよりもデフレの方が恐いね。このままデフレスパイラルに陥れば財政再建どころではなくなる。昭和初期の銀行がバタバタ倒産した状況に陥る可能性だってあるよ。」
「相変わらず怖いこと言いますね」
「まあそれが仕事だからね。もっと危機感をもってもらいたいね。」
「いろいろ有難うございました。今度は場所を替えてお話を伺いたいと思います。」
と伊佐坂低を後にするころには、陽もどっぷり沈んでいた。


さて、京成杯だが、ここはやはり素人らしく◎ヤマニンセラフィルムに打つ。母の話を聞いてしまっては応援しないわけにはいかないだろう。○はローマンエンパイアこれは伊佐坂先生の推奨馬と言うこと。

◎ヤマニンセラフルム
○ローマンエンパイア
▲サスガ
△ダディーズドリーム
△マイネルアムンゼン
△サンデーサンサン
△ブリガードン

◎流し&○−▲

武豊には逆らいません。
日経新春杯
◎ラスカルスズカ
○トウカイオーザ
▲ホットシークレット
△トップコマンダー
△ノブレスオブグリッジ
△プレジオ
△タップダンスシチー
◎流し&○−▲