マスターの春(オークス)
日もどっぷり沈み、夜の華が灯る頃、繁華街の喧噪から少し離れたところに
ここ「Jack Pot」はある。
いつもの仲間。いつものように競馬談義に花が咲く。
「田島さんとこで若菜ちゃん予想し始めたよね〜」
そうコウシャクが話し掛ける。
「まあね」
「いいな〜若菜ちゃんって。かわいいよな〜。田島さんサインもらってきてよ」
そう健が口を挟んだ。
「さあ。向こうは女優だからね・・・。気軽にサインなんてくれるかな?」
そうとぼけてみる。一度こうゆうの応じると歯止めの利かない奴らだけに、
義理をたてる必要は全くない。
「頼んでみてくださいよ。田島さ〜ん。田島さんなら大丈夫ですよ」
健はしつこく食い下がる。
「機会があったらね」
そう笑いながら誤魔化す。
「ね。ね、絶対ですよ。あっマスター氷なくなったよ〜」
そうカウンターに声をかけた。
田島のいいかげんな相槌に健は上機嫌になった。
「田島さん、健ばっかりずるいよ。俺のも頼むよ」
そうコウシャクも言い出す始末。
コウシャクの耳元で
「機会があったらって言っただろう。機会は永遠にこないのさ」
そうコウシャクの耳元で囁く。
しかしコウシャクはキョットンとしている。
「まあ3冠馬がG1馬を出せないようなものだな」
それを聞いたコウシャクは納得したようだ。
「おまたせしました。氷お持ちしました〜」
と聞きなれない爽やかな甘い声がする。
見上げるとタイトな超ミニスカートを履いた20代前半の色白な女の子がそこにいた。
「マスターいつからここはスナックになったんだ?」
そう照れ隠しにカウンターの向こうにいるマスターに声を投げかける。
「いや・・。ちょっとの間手伝ってもらってんだよ・・・。」
そう答えたマスターの方が照れているようだ。
「失礼しま〜す」
そう言ってソファーに座り水割りを作る彼女の足のももは、むっちりとして張りのある
色香を誘うものだった。離れた高橋の方へ水割りグラスを差し出す時、チョットバランスを
崩した太ももの間から白い三角地帯が覗いた。
白か・・・そこにいた全員がそう思ったに違い無い瞬間。知らぬは、隣に座ったコウシャクのみ。
一通り、水割りを作ると美和と名乗るその女は、またマスターに呼ばれて席を立った。
タイトの超ミニスカートから張り出した丸みのあるお尻はプリプリと左右に大きく揺れ
しなやかに伸びた白い脚が、錆びれたバーを闊歩する動きは、場違いな因美な空間をもたらした。
彼女の人気は高く、常連の通う回数が増えたようだ。
私の表情を察してかコウシャクが
「ここだけの話、マスターは男から逃げてきたので匿ってるっていってるけど、
ありゃ、絶対訳けありだって・・・」
「訳ありって?」
そう聞き返す。
「ありゃ、借金とりから逃げてきた口だね」
「ほう」
カウンターの奥からはマスターのご機嫌な声が弾んでる。
「美和ちゃん。これ3番テーブルね♪」
「は〜い」
と甘えた声がする。
それを見たコウシャクは
「いつまで続くやらね・・・」
と呟くが、カウンターのマスターの耳には届くはずも無かった。
「彼女はあまり競馬とかやらないみたいですな」
そう高橋がボソット言う。
「何しろ10年ぶりの春なんだから、マスターを応援しようぜ!」
そう健は、元気に言うが、コウシャクと高橋は全く興味無しと言った感じだ。
看板まじかに黒川が入ってきた。
カウンターに入ろうとしてこちらに目を向けた。
「たっちゃん!久しぶりやね」
「ご無沙汰ですね。黒川さん。」
そう挨拶を交わす。
「最近忙しくてさ・・・」
そう言ってこちらのソファー席に移ってきた。
「どう?オークスは?」
「混戦ですね・・。馬場微妙で・・。」
「そうじゃないよ。後先どうって聞いてんだよ」
グラスを持ってきた美和が
「後先ってなんですか?」
って黒川に問い掛ける。
「自分の指名した馬が、相手の指名した馬より先に来れば勝ちって言う
ゲームさ」
「やりましょうよ。田島さん。この間のリベンジですよ」
そう健が言うと
「私もやりた〜い。いいでしょう?」
と美和も乗ってきた。
「マスター立会い頼む。この娘のテラセン持ってやれ。」
そうカウンター越しのマスターに声をかける。
マスターは黒川にかなり世話になっているらしく断れない様子だ。
「この間の倍にするか。」
そう黒川が切り出した・・。
負け組みメンバーはここぞとばかりに快諾した。
田島はどうも黒川に勝てそうな気がしないので、尻込みしている。
結局多数決で、金額はひとり2万円となった。
それぞれがコースターの裏に明日のオークス馬の名前と自分の名前を書く。
田島は「マイネミモーゼ」
高橋は「ニシノハナグルマ」
コウシャクは「ユウキャラット」
健は「シャインルビー」
黒川は「シャインルビー」
美和は「スマイルトゥモロー」
マスターが健と黒川の名前の入ったコースターをそれぞれに渡し、
2着の馬の名前を書くように言う。
健は「ユウキャラット」
黒川は「ブリガードン」
全員のコースターをマスターが好評し、集めた現金12万円と一緒に金庫に保管した。
マスターと美和が店の玄関までみんなを送り、明日の健闘を誓った。
さて、我らが若菜ちゃんの予想だが、明日の紙面はこう飾る。
若菜のこの馬から流せは再度◎オースミコスモから。
○スマイルトゥモロー▲シャイニンルビー△ブルーリッジリバー
△ユウキャラット△ブリガードン△マイネミモーゼ
となるそうだ。田島記者の予想だが、
◎マイネミモーゼ
○ユウキャラット
▲シャイニンルビー
△スマイルトゥモロー
△サクセスビューティ
△ブリガードン
△ニシノハナグルマ
◎流し&○−▲
グットラックだ。