マスターの大勝負(秋華賞)

タバコの煙と喧騒の立ち込める中、一瞬光が差したような
明るさが扉が開くと同時に起こった。それに一番先に気づいたのは、マスターだ。
「・・・み・・・・わ・・・ちゃん。美和ちゃんじゃないか!」
その声に気づいた客は一斉に扉の方に向く。
そこには、やつれた顔を隠すように化粧を厚く塗った美和が立っていた。
華やかなオレンジ色のスーツを着てマスターの方を見つめる。
「マスター・・・ご迷惑おかけして・・・わたし・・・」
そういって涙ぐむ美和だ。やはり罪の意識は隠せない。
「そういう話はよそうや・・。」
そうマスターは言った。
その様子をコウシャク、健、高橋が覗き込むように聞き耳を立てる。
黒川から債権を取り立ててもらって、すっかり忘れていた3人だ。
「今日は、マスターにさよならを言いに来たの。」
「え・・・今までのことはいいよ。戻ってきてくれただけで十分や。」
諦めていた美和がそこに
現れただけで、今まで噛み殺していた言葉が出そうになる。
それは、湖に石を投げたように波紋が広がった。
「マスターの気持ちはうれしいわ。でも私マスターが思っているような
女じゃないの。私のことは忘れて・・・・」
「それはでき・・な・・・・」
口篭もるマスター。一度は忘れようとしたけどできなかった。
「私・・ね。今・・・」
「そんなことは言わなくてもいい。それより戻ってきてくれるよな。」
「いまは、無理よ・・・」
「いくらだ、いくら金が必要だ。?」
「これ以上はマスターに迷惑かないけられない・・。」
「いまさらなんや。もう十分迷やったらかけてるじゃないか。いや美和ちゃん
だったら迷惑じゃないよ。」
「うれしいわ・・。でも・・・・。」
そういって涙ぐむ。
「美和ちゃんのために一杯ごっちそうするよ」
そう言ってマスターはシェイカーを振る。
「どうぞ」
出された白く澄んだカクテルを美和は飲む。
「おいしい。これ何ていうの?マスターのオリジナル?」
「いや・・。シンデレラっていうのさ。いずれ美和ちゃんにも王子様が迎えにくるよ。
今の心理にぴったりか?」
「うん。ありがとう・・。じゃあ私もういくわね」
「え。もう?」
「外で人が待ってるの。」
「わかった。必ず迎えに行くから。待っててな。」
マスターの目を見て頷く美和は、マスターに縋っているように見えた。
ドアの向こうに消えた残像をずっと見つづけるマスターの目は何かを決心したようだ。


その翌日、マスターは金策に走った。
当然黒川からも借りたことは言うまでもない。
ようやく集めた3百万を競馬で増やす。美和のため自分のために・・・
人生最大の大勝負を明日の秋華賞の◎ファイモーションから馬単で、
シリアスバイオ、カネトシデザイア、ブルーリッジリバー、トシザダンサー、サクラビクトリア、
シャイニンルビーに流すとか。
さて、マスターの運命、美和の運命はいかに・・・・。