投影(毎日王冠)
個室に入った黒川は開口一番
「マスターの気持ちはわかってんだろう?」
「ええ・・・あの人私の身体に指一本もふれないんだよ・・
かえって体を抱いてくれたほうが気が休まるのに・・・・」
「それだけおまえのこと大事に思ってんだよ」
そう黒川が言う。
「う・・ん・・」
そううなずく美和の目には涙が溜まっていた。
「私・・目にゴミが・・」
そう誤魔化す美和に
「マスターが会いたいって・・ここ紹介してもいいか?」
と黒川。
「嫌・・・私から会いに行くわ。それからマスターには
ここのことは内緒にしておいてね。」
そういいながら、マスターを思い出す美和だった。
そして黒川が後ろからそっと抱きしめた・・・・。
ビリーヴが一番でゴールに飛び込んだ瞬間、記者席で観戦していた田島は、
昨日のバーで「お父さんと同じ匂いがするわ・・・」といって肩を持たれか
けてきた長瀬を思い出していた。
お父さんか・・・・。俺と父を投影したのか?。
その後「じゃあ俺が若菜ちゃんのお父さん代わりになってあげるよ」
と酔った勢いで言った後、後悔した。
「ずいぶん若いお父さんだこと・・・」
そう言って笑った顔を思い出し、ふとどうしているか気になった。
そんなことを考えていると、武豊がインタビューアの前に姿を表した。
勝利に酔いしれるコメントを一斉にメモする。
「戻ってきて早々いい馬に乗せて貰えてラッキーです。」
これは本音だろう。
他の騎手のコメントも聞き取りに走る。G1だけに関係者の数が多く、
騎手や調教師を探すのに苦労する。
へとへとになって社に戻りコメントを関西支社に送った。
その後、若菜ちゃんに電話すると不在だった。
どうも田島はこの携帯メールというやつが苦手だ。
不器用なためか上手く打てない。早く打てない苛立ち・・・
そんなこんなであまり使っていない。
同僚から飲みの誘いがあって、若菜ちゃんへの連絡忘れた頃、
長瀬からメールがあった。
〜毎日王冠は、◎エイシンプレストンからサンライズペガサス、マグナーテン
ダンツフレーム、トラストファイヤーに流します。
海外GT2冠馬で、少頭数なら競馬がしやすい。
スピード、実績を素直に評価。2〜3番手から抜け出すよ〜!
乗ってる彼女だけに、長瀬の予想に乗るのも手かもしてない。
携帯のメールを見ながらそう感じる田島だった。