エプソムC(田島再び)



年金問題や経済問題が国民の関心を引き、東洋新聞の需要も高まりを見せ、
ると田島は経済部に引き戻された。
東洋スポーツは、競馬人気も盛り上がりを見せず、田島も一トラックマンとし
てタイム取りと取材に明け暮れてる日々が続いていた矢先のことである。
田島は、競馬記者の肩書きを失ってからは、急速にJackPotへの足が遠のいていた。そんなことは露しらずのJackPotのメンバーは、きっと忙しいんだろうくらいに
しか思っていなかった。


田島は珍しく、競馬場に足を運んだ。
思えばここ2年ばかり、毎週競馬場には足を運んだっけ・・・・
伊左坂先生は、去年の暮れに他界し・・・長瀬遥も今では大女優の仲間入りを果たし
新鋭の歌舞伎俳優との仲を噂されている。
月日は一気に流れた・・・・。
そんな思いばかりが頭をよぎる・・・俺にとって競馬とはは何だったんだろうか?
もう競馬予想することは無いのか?
血統理論は伊左坂先生から学び、勝負の押し引きは黒川から学んだ。
また、競馬に関するうんちくはコウシャクから学び競馬の面白さは健から学んだ。
そんなことを漠然と考えていると、パドックで一心に馬を見る少女を発見した。


汚れ無き純情で、素朴そうな少女だ。
いまどき珍しいな・・と思い、少女の隣で馬を見る。
「・・・・・・・・・」
「え!今何か言った?」
田島は驚いて、少女に聞き返した。
「馬がかわいそう・・・・」
「どうして・・・そう思うんだ?」
そう聞き返す田島。
「だって、3番のお馬さんは、風邪引いてるし、10番のお馬さんはお腹壊してる。
11番のお馬さんは、右の前足が痛いって・・。14番のお馬さんも足が痛いって、
それから・・・・」
「なんでわかるんだよ・・・」
「なんとなく・・」
そう言って少女は不思議な笑みを浮かべた。
「なんとなくだって・・嘘だろう。獣医かなにかか?」
「私は馬の声が聞こえるの・・・1番の馬は走りたくないって・・」
「え・・・・」
私は絶句した。馬の声が聞こえるなんて聞いたことが無い。
本当かどうか試したくなった。
「じゃあこのレースで勝つのはどの馬だ?」
「12番のお馬さんよ」
そう言って少女は笑った。
実際その後、レースを観戦すると、8番人気のその馬は1着でゴールを駆け抜けた。

言葉を失った田島はその後も、その後も少女に勝ち馬を聞いた。
「何度やっても同じことよ。大体は当るわ」
そう少女は言った。
現に何度やっても少女の言う馬は一着に来た。
田島は
「明日の重勝の一着馬を教えてくれよ」
そういった。
「未来を予想することはできないわ。全ての馬に会って調子を聞くわけにもいかないし・・」
「じゃあ、明日ここで・・・」
そう少女と約束して田島は競馬場を後にした。


明日はエプソムC。半年振りにトーホウシデンが出走する。
思えばこの馬で去年の金杯はいい思いをしたっけ。
感傷的になった田島は、明日はこの馬から買おうと思った。