三信ビルは日比谷シャンテ(有名人の手形やらゴジラの像やら映画館やらがあるところ)の広場を取り囲むビルの中で,唯一古めかしさを醸し出している.
1929(昭和4)年築.
いわゆるテナントビルでありながら,正面中央部に曲面を使って変化をつけているところや上部のデザインなど,丸の内から日比谷にかけての重厚な西洋建築群に負けない,個性的なスタイルを持っていると思う.
 
そして外部もさることながら,もっと個性的で楽しいのはなんといっても内部のデザインだろう.この手のテナントビルというのは,誰でも中に入ってじっくりと内部を観察できるのはいいのだが,見て楽しめる内装デザインを持っているところは多くないのではないか.その点,三信ビルの内部装飾は一見の価値がある.

一階は吹き抜けになっているのだが,ここのアーチ型天井はこれが本当にテナントビルなのかと思わせるほど立派で美しい.12列並んでおり,建築当時は各天井にガラス・モザイクによる天体図が描かれていたそうだ(黄道12宮にちなんだものだったのだろう).
これもパッと見にはどこぞのホテルかと思わせるエレベーター.
よく見ると,床の模様も単純な格子ではなくて(この画像ではわかりにくいけれども),まるで篭か何かを編んでいるような,上下交差した模様になっているのが心にくい演出だと思う.
 
写真左:一階の通路脇にある鳥のレリーフ.このアーチもずいぶん凝ったデザイン.
写真右:各アーチの根本に鎮座する謎の鳥.写真のように植物の実をくわえているものと葉っぱをくわえているものの二種類がある.
こんな洗面台にもちゃんとモザイクで装飾がされている.もっとも今は使われていないようだが.
テナントビルとして内装まで含めてここまで凝ったデザインというのは,全国でも珍しいのではないだろうか.
目的だけ考えれば単なるオフィス・ビルにすぎないわけで,そういうものにここまで力を注いでしまう当時の建築家の熱意はもちろんだが,それを認めてしまうクライアントにも驚かされる.よほどのお大尽だったのか,脱亜入欧という当時の時代背景を考えればこのくらいのことは大げさでもなんでもなかったのか...
(1997年5月記,2000年4月追記)

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