東京宝塚劇場
〜少女たちの夢は遥か〜



以前丸の内かいわいを散歩したときに紹介していなかった建物の一つに東京宝塚劇場がある.この建物がいよいよ取り壊されることが決まったということなのであわてて見に行った.
1933(昭和8)年,竹中工務店設計.いうまでもなく,名前だけは誰でも知っているだろう,宝塚少女歌劇団の東京における本拠地である.

劇場全景

この建物を丸の内散歩の時に紹介しなかったのは,まあ写真を見てもらえばわかるように,こういうモダニズム系の建築スタイルのよさが今一つ理解できないからである.だからついパスしてしまった.
コーナーのカーブの美しさと,ストンと切り落としたような直線の組み合わせがどこかミスマッチな感じがする,いっぷう変わったデザインではある.

正面玄関1933年といえば,同じモダニズム建築である東京中央郵便局が建てられた年でもあり,こういうスタイルは一種ブームだったのだろう.
それに建設当時こういったスタイルはさぞ斬新だったろうし,宝塚という少女たちのあこがれる夢の世界には,こういった一種日本ばなれしたモダンなスタイルはマッチしていたんだろうと想像できる.
向かいには「あの」ライトの帝国ホテルが建っていたので,並みのデザインではバランスがとれないということもあったかもしれない.

この建物は,第二次世界大戦中は風船爆弾工場となり,戦後しばらくは進駐軍の「アーニー・パイル劇場」と呼ばれたこともあった,そういう歴史も持っている.夢の砦も現実という数奇なドラマを通ってここまで来ている.

リハーサルに聞き入る少女たち女の子たち,楽屋口の壁際にへばりついて何をしているのかと思ったら,扉越しにリハーサルの音楽が聞こえてくるのですな.たぶん彼女らはちゃんとチケットは持っていて,その上でさらにリハーサルまで聞きに来ているんだろう.こういう,少しでもアイドルとの時間を共有したいというファン心理はなんとなく理解できる.

壁一面の落書き壁一面に書かれた無数の落書き.さすが場所が場所だけあって内容が可愛らしい.特別な価値があるものではないけれど,こういった歴史に残らない,思い入れの澱みたいなものが取り壊しによってきれいさっぱりなくなってしまうというのはやっぱもったいないと思ってしまう.

すでに最終公演も終わり,取り壊しを待つばかりとなってしまった.
中に入ってみたことはないが,外を見るかぎりではさすがに古くささは否めないように思える.夢を与えるタカラヅカなれば,建物にもそれなりの美しさ,新しさが求められると思う.新劇場のオープンは2001年1月だそうだ.できれば新世紀の開幕にふさわしいデザインとなることを期待したいものである.
(1998.2 記)