明治生命館
〜アカンサスの建物〜



明治生命館の内部が月一回公開されていると聞き,急ぎ見にいった.
丸の内の建築物の中でも屈指の名建築であり,石壁の色合いといい,壁面を飾る十本のコリント式オーダーといい,まさに重厚長大,壮麗という言葉がぴったりくる建物である.1934(昭和9)年,岡田信一郎作.昭和の建築物としては初めて重要文化財に指定された.

明治生命館全景

この建物をとりわけ印象的なものにしている列柱に見とれながら歩いていると気分はほとんどヨーロッパという感じなのだが,形式としては純ヨーロッパ式ではなく,アメリカン・ボザールといってアメリカの建築家たちがフランスのボザール(国立美術学校)に学んで作り上げた建築様式が,まわりまわって日本にやってきて実を結んだのである.
この建物はイギリス人ジョサイア・コンドルが設計した三菱二号館を取り壊して新築されたもの.取り壊しに当たって,岡田は監督だった曾禰(そね,“禰”は“示”(しめすへん)+“爾”が正しい)達蔵の元を訪ね,三菱二号館のデザインを越えるものを設計するという条件で許しを得たと言われている.先日三菱二号館の模型や写真を見る機会をえたが,通りの角の面に釣鐘型のドームを持つ塔を配した,優しげで明治生命館とは正反対の雰囲気ではあるが,すぐれたデザインであることは間違いない.それを知っていながら条件を受けてしまうというのもまあ大した自信であるが,実際に勝るとも劣らない建物を作ってしまうんだからもう言葉がない.
ちなみにコンドルは鹿鳴館や上野博物館(旧国立博物館),ニコライ堂等を設計すると共に日本人建築家の育成に尽力し,最後には日本人女性と結婚し日本に永住した,近代の日本建築史を語る上で不可欠な人物である.

玄関口玄関口.鉄の扉にはアカンサス(地中海大アザミ)の花をモチーフにした飾りが縦にならんでいる.アカンサスはギリシャ建築の装飾モチーフとしてはよく使われるパターンだが,明治生命館はことのほかこのパターンが多く使われているようだ.ドア上部や窓の手すり部分の装飾デザインにもこの花と思われる飾りが組み入れられているし,後述するように一階営業店頭の天井にも使われている.また花ではないがコリント式のオーダーはアカンサスの葉をモチーフにした柱頭飾りを特徴としているといった具合だ.いくら古典建築の集大成みたいなビルとはいえ,こうまでやられるとイヤミというか,なにか諧謔的なものすら感じられてしまう(もちろんそんな意図があったとは思えないが).

さて,それでは中に入ってみよう.
営業店頭#1
営業店頭#2
天井
一階の営業店頭は何本もの角柱で支えられ,周囲を回廊が取り巻くという,外観に負けない美しさを備えている.天井にしても中央部の事務員のデスクの辺りは作業環境を考慮してかガラス仕立てで自然光を取り込むようになっており,一般客が通る周囲は天井飾りとシャンデリア,堂々たる柱で威厳を持たせるという凝った造りになっている.

前述の通り天井の飾りは八角形の中にアカンサスの花のモチーフをあしらったパターンが続く特徴的なものである.
しかしこのパターンがずっと続くのを見ていると,まるで蜂の巣のようで(蜂の巣は六角形だが)奇妙な感じを覚えてしまう.

写真では見にくいがシャンデリアはいわゆる白熱電球をむき出しで使うようなデザインになっており,おもしろいと言えないことはないものの,これが当時のデザインのままだとしたら,立派なことは間違いないにせよ,どうも不粋な感じがするのだが.

一部の応接室は公開され,当時の写真や建物のスケッチを展示している.応接室の内部そのものはシンプルなものだが,シャンデリアやカーテンの造作が豪華さの片鱗を感じさせる.
一般客が書類を書くためのテーブルにもよく見ると意匠を凝らしているのがなんともうれしい.
応接室 テーブル
内部の公開は一階の営業店頭部分だけである.ビデオやパンフレットを見ると,他にも二階の回廊や連合国軍が占領政策を打ち合わせたこともあるという会議室,大講堂といった興味深い場所はあるのだが,実際に営業しており機密情報などもある会社の建物の内部を公開することの難しさを考えれば,一部の公開だけでも御の字というべきなのかもしれない.

ともあれ重要文化財に指定されたことで取り壊される危険がなくなったことは一安心である(それも明治生命自身の努力による部分が相当数あったと思う).が,今後会社が変化していく中で,60年以上前の建物との係わりあいがどのように変わっていくのか,いささか興味のあるところではある.
(1998.11 記)