同潤会旧虎ノ門アパート
〜オフィスとアパートの融合〜



新橋駅近くに建つのが旧虎ノ門アパートだ.1929(昭和4)年竣工.当初は1〜3階を同潤会本部とし,4〜6階が独身者向け住戸であったが,5年後には住戸部分も同潤会の事務所として使用されたため,アパートとしての寿命は短かったことになる.現在は東洋鋼鈑の本社ビルとなっている.

アパート外観外側がパネルですっぽり覆われてしまっているため,かつてここが同潤会のビルだったというのはほとんど想像できない.一階部分にわずかに残るスクラッチ・タイルがかろうじて当時を偲ばせてくれるだけだ.

地下室への階段地下室への階段.
当時はボイラー室や倉庫だけでなく,浴室や書庫まであったらしい.

建物の調査をしたところ,鉄筋等の保存状態は非常によく,あと2,30年は大丈夫そうだという診断を受けたらしい.不景気の現状では新築・改築計画も特になく,すでにアパートとしても同潤会としても役目を終えてからずいぶんと経つこの建物が,同潤会関連の建物として最後まで残りそうだというのはなんとも皮肉なものである.
(1999年6月記,写真は1997年5月撮影)

【補記】
その旧虎ノ門アパートだが,持ち主の東洋鋼鈑がなんと建物を売却してしまったらしい.今年の4月には引き渡しを終えるとのこと.
会社組織はこれがあるから怖い.せめて取壊しまでに内部を見学できないものか.
(2000年2月記)

【補記2】
ある人のツテで内部を見学させてもらう機会にめぐまれた.すでに引っ越し自体は終わり,あとは取り壊しを待つばかりといった3月末のことである.

玄関玄関.モダンな建物そのもののデザインなのに対し,ここだけが様式的なのはやはり同潤会本部の建物だからか.

玄関ロビー玄関ロビー.シンプルではあるが梁の曲がり具合などなかなかのもの.天井の隅に直線的な装飾が施されているのが,やはり昔の建物だ.

バルコニーから奥を見るバルコニー

エレベータで最上階の6階まで上る.
この階の角部屋だけはバルコニー(5階の屋根にあたる)がついている.ただ窓から出入りするのだが.
バルコニーから見ると,住戸階が“ヨ”の字の形をしていることがはっきりわかる.箱型のオフィスビルをアパートとして使う際,小さく仕切った部屋にも十分な採光を得るための工夫だろうか.
今はオフィスとして使うために,ぶち抜いて大きな部屋になっていた.
それぞれの窓の右隅が通風のためか,開閉できるようになっているのが楽しい.

非常階段端の方にある非常階段.清砂通アパートにも似た感じのがあった.曲線の,なんという美しさ.
手すりが低いのがちょっと怖い.

4階の天井の装飾階段の手すりの装飾

写真左:4階の一室の天井にだけ(しかも一部)施されている放射状の装飾.応接室かなにか特別な部屋だったんだろうか.
写真右:メインの階段にも直線状の装飾が.

営業室2階の営業室.上部の階がアパートで,部屋を小分けにしなければならない関係上,やたらと柱と梁が多い.オフィスレイアウトは大変だったろうなと思う.

やはり同潤会は同潤会というか,シンプルなアパート建築の中にも,ちゃんとモダンな意匠があるのがうれしい.それにしてもあの非常階段が二度と見れないと思うとやっぱり悲しいものがある.
ともあれ,今までこの建物を使い続け,そして今回の見学も快諾してくれた東洋鋼鈑社にはこの場を借りて感謝の意を表する次第である.
(2000年3月記)