まだ1997年1月15日である.
さてこれで名実共にモールトンが自分のものになったわけだ.慣らしも兼ねて家まで(家は蒲田にあります)の道を走る.
サドル位置をちょっと調整し,ゆっくりめに走りだす.中原街道は,車道の方こそ交通量が多いが自転車道と兼用の歩道には歩行者はそれほどおらず,また幅もそこそこ広いので,けっこう走りやすい.ちなみに自分の知っている中で一番自転車泣かせなのは多摩川大橋(第二京浜)だと思う.なにしろ歩道の幅が1.5mくらいしかないんじゃないだろうか.何度か走ったことはあるけど,歩行者とのすれ違いに非常に気を使う.自転車とのすれ違いなど「カバヤロー」と泣きたくなるほど(しかもこういう時に限って相手の自転車は無灯火だったりする).かといって交通量の多い車道を走るのもまた怖い.会社の通勤などこの橋を安心して渡れれば時間は早いし健康にはいいしなのだけどなあ.お願いですこれを読んでる建設省の方(読んでないって),長良川や二風谷にムダなダムを造っているヒマがあったら,多摩川大橋の歩道を六郷橋(第一京浜)なみに拡張してください.
閑話休題.5分ほども走ると長い下り坂にさしかかる.坂を下りはじめて少しいったところで小路からワゴンが出てきた.急ブレーキ.
姿勢が前傾ぎみなスポーツサイクル,下り坂で重心は前方ぎみ,ブレーキは強力.
結果.
ふわっと体が浮き上がった.「やべ」と思う間もなく.
「ゴン」頭の中におおきな音が響き.
ひたいがアスファルトにぶつかっていた.
あわてて起き上がる.頭を打ったのはまずい.とにかく診てもらわねば.
件のワゴンは少しウィンドウを開けている.
「どこか近くに医者はありませんか」ワゴンに向かって叫ぶ.
ワゴンの男は開いたウィンドウ越しにチラとこちらを見て,ぼくのいる方と反対側を指さし「すぐ目の前」と言った後,走り去った.
幸か不幸かすぐ目と鼻の先が昭和大学病院だった.
ふとモールトンを見るとハンドルのステムの角度がずれているのと,チェーンがはずれているのがわかったが,これはどちらも簡単に直せる.
救急センターに行き,事情を話すと,頭のレントゲンを撮るので,レントゲン室に行くように指示される.エレベーターを上り,廊下に貼ってある緑のテープに沿って歩く.
人気のない,薄暗い,古びた病院の廊下をひたすら歩く.
つきあたったところでまたエレベータを降りて少し行くと,そこがレントゲン室.
受付にカルテを渡すと,少し待つように言われる.
たまたま洗面台があったので,そこの鏡をのぞくと,ひたいからは血こそそれほど出ていないものの,すりむいた部分からリンパ液がにじみ出ている.ひたいを水で洗い,備えつけのペーパータオルでそっとぬぐう.
それからベンチにすわって呼ばれるのを待つ.
心臓がドキドキ高鳴っている.
ひたいがジリジリと痛む.
10分ほどして係員に呼ばれる.頭部レントゲンを5枚撮る.
レントゲン写真を持ってもと来た廊下を逆にたどってひたすら救急センターまで戻る.
脳外科の医者と問診.一通りのチェックを行ったが特に問題はないようだし,レントゲンでも特に異状は見られないのでまあ大丈夫だろう,もし翌日頭痛や吐き気があるようならまた来てほしい,とのこと.ちょっと安心する.
それから,すりむいたひたいを消毒し,大きなガーゼが貼られた.
病院を出る.さあ今度はモールトンの方.幸い店からそれほど離れていないから,店に戻ってチェックをお願いしよう.店の人は驚くだろうが,まあしょうがない.
店のドアを開けると案の定「どうしたんですか」「だいじょうぶですか」の声.そりゃそうだろう.つい小一時間ほど前に店を出た人間がおでこに大きなガーゼを貼って戻ってきたんだから.
事情を話し,ずれたステムの修理とチェックをお願いする.待つ間コーヒーを勧めてくれたのでお言葉に甘えることにする.
経過を話すとすぐに,小径ホイールの自転車は通常のものよりブレーキの効きがずっといいのを説明しなかったのは申し訳なかったと平謝り.でもまあ仮に説明されてたとしても,慣れてない自転車で,しかもとっさのことだったから同じ結果だったろうなと思う.
店長が「ブレーキには指を二本掛けてましたか」と聞くので「はい,普段からそうしているので」と答えると「ああ,それじゃやっぱり強すぎますね.モールトンなら指一本掛けとけば十分なんですよ.その辺も説明しなかったのは悪かったですねえ」
チェックが終わった.少しブレーキの遊びを多くしてくれたそうだ.さすがに店長も心配だったのか,家まで自動車で送ってもらった.
家についてほっと一息.しょっぱなからやれやれなことであった.改めてモールトンを見ると,ステムやブレーキの金具にほんのちょっと擦れた痕があるだけであとは傷一つない.まったく,きみはじょうぶだねえ.
(1997年1月記)
|