NHK BS2 / 8 January 1998

1997 年秋、東京映画祭のゲストとして初来日したスペイダーさんのインタビューが、1998年1月8日、「真夜中の王国」(NHK衛星第2)の中で放映されました。「New Year Special Talks '98 / ビッグ・メッセージ」と題されたこのインタビューでは、「セックスと嘘とビデオテープ」やスペイダーさんの当時の新作「2デイズ」などの映像をはさみながら、25分間たっぷりとスペイダーさんの弾丸トークを聴くことができました。

ここでは、番組の字幕を転記するのではなく、スペイダーさんの語った言葉に忠実に訳してみました。




























































































































日本のファンたちは、あなたのことをずっと待っていたんですよ。 なぜなかなか来日してくれなかったんですか。 私は20年以上待っていたんですよ。

20年? 20年?(ニヤニヤと笑いながら疑う目つき)

いえ、約15年ほどですけどね。

実は以前にも東京映画祭に招かれていたんだけれど、タイミングが最低だったんだ。毎年夏はオフにして、家族と過ごす。 だから、秋から始まる仕事を探す。映画祭のある秋は普通、働いているんだ。 通常、僕の仕事のスケジュールは、秋に1本、春に1本で、そういうときに招かれたりする。今年は、妻が秋に仕事を始めたところだったし、僕も仕事が入らなかった。それで、この秋は働かないことにした。 そこに東京映画祭に1週間来てくれませんかという電話があったので、イエスと答えたんだ。

今年はとても幸運だったんですね。 あなたが結婚していたなんて知りませんでした。 初めて知りました。 だって、日本のジャーナリストの間であなたは、ナンバーワンなんですよ。セクシーで、もっとも拒みがたいという……。

ぼくが? このホテルで待ってようかな。

さて、あなたにとってセクシュアリティーはどんな意味を持つのでしょうか。

(吹き出して)は? ……僕にとってはすべてだ。

すべて?

そう思うよ。僕たちの人生のすべてだよ。

例えば? あなたと私とかも?

そうだよ。 それは、下に置いておいたり、しまい込んでおくものではないよ。 朝起きて何を着ようか決めたり、どんな髪型にしようか決めたり、どう座るか、どうふるまうか、何に笑うか、何に関心を持つか、何を見るか、誰かをどう見るか、誰かにどう話しかけるか、他人とどう関係するか……僕たちの欲望や要求を作り上げるそういうすべての事柄が僕たちの生活のあらゆる局面に影響する。 僕はそう思ってるよ。

僕は今37歳だけれど、毎日僕は、自分が世界や自分自身や僕を取り囲むすべてのことについて、いかに知らないか再認識する。 僕が周りを見回したとき、それは僕の目を通して見えるものだ。 でも、つまり…それは僕たちの持って生まれた愛されたいという欲望かな。 それは小さな箱にしまい込んで見たいときに取り出してみるというようなものではない。楽しみたいという生来の欲望だって、箱に入れてしまい込むものではないだろう? それと同じように生来のセクシュアリティーだって、箱に入れてしまい込んで、見たいときに取り出すようなものではないんだ。 それはいつでもそこにあって、僕たちの生活の一部なんだ。

【「2デイズ」からスペイダーさんの出演シーン】

「2デイズ」でのあなたの役は、危険で精神を病んだキャラクターですが、拒みがたいような雰囲気を持ってますね。 役作りはどうしたんですか。

分からない。 そういうことは、演じているときには実感のないものなんだ。 どんな形で演技できるかはコントロールできないものだと思う。 僕にできることは、彼の性格の中で僕が一番魅力的だと感じた部分を深く探ること、そしてそれを表現して、実際どんなものか見てみる。 でも、実際、彼について一番魅力的だと思ったのは、彼の恐ろしく危険な部分だ。 彼が興味を持つ物は、他の人を怖がらせてしまう。また怖くないにしても、少なくとも、他の人々が日常隠しているヒミツの部分だ。 彼は死を恐れていない。

【「2デイズ」のあらすじ紹介 〜 第1日目】

彼は死そのものではなく、生から死へ移ってゆくところに魅せられている。 思うに、彼は自分自身のセクシュアリティーに駆り立てられている。 セクシュアリティーの中でも持って生まれた部分だ。 誰と関係するにしても、それを使う。意識的か無意識的かは分からないが、彼は恐怖とセクシュアリティー、あるいは暴力とセクシュアリティーの関係に魅せられていて、そういう部分で楽しんでいる。 彼は他人とゲームしている。それは、自分がルールを決めて人を支配するゲームなんだ。

【「2デイズ」のあらすじ紹介 〜 第2日目】

なぜ変わった役をやるのですか。そういう役では最高の俳優さんですね。 そういうシナリオを選ぶのは、ポリシーですか。

いや、日常生活の中にある変わった部分に引かれるからだと思う。奇妙なこと、倒錯したことに興味あるんだ。タブーとか、秘密とか、興味がある。 だから、そういうものを求めてしまう。

それが理由ですか。

そうだね。

いつもそうなんですか。子どもの頃から?

昔からずっと。映画の役を引き受けると、僕はものすごい量の準備をする。 たくさん考えるし、議論もする。それが済んだら、今度はそういうものを脇に置いておいて、脚本に集中する。

僕は、役の世界に入ったり、出てきたりするのが、わりと簡単なんだ。ずっと役柄になりきってしまうことはない。 自分自身と分けることができるんだ。 役柄に入り込み、集中し、そしてそこから抜け出る。それが僕のやり方だ。

俳優が出演作を選ぶときって、いろいろな物事に影響をされるものだと思うんだ。 興味、関心、性格、容貌、その俳優が目指す方向性とかね。 僕はいろいろな種類の作品をとりまぜたいタイプなんだ。大作だったり、小品だったり、一風変わった作品だったり、一般向けだったり…。 人生にもそういう多様性があるのが好きだ。 僕はある一種類の映画だけにこだわっていたら幸せになれないたちなんだ。 僕自身が必ずしも作りたい映画ではないけれど、僕が見に行きたいと思う映画はたくさんある。 同様に、僕自身は見に行きたくはないけれど、僕が作ってみたい映画もある。 選び方は違うんだ。 とてもね。

僕は幸運だ。善人だって悪人だって演れる。脇役も主役もだ。そういう意味で幸運だと思うよ。

あなたの人生で一番大切なことは?

(じっくり考えてから)好奇心を持ち続けること、そして…………その好奇心を追ってゆくこと。

【「セックスと嘘とビデオテープ」からグレアムがベッドで裸でビデオを見るるシーンとビデオテープを壊すシーン。 「2デイズ」からラスト近くのE・ストルツとのシーン】

映画の中であなたは何でもストップウォッチで1分単位で測っていましたね。 実際はどうなんですか。 時間厳守ですか?

えぇっと……ノーです(笑)。でも、遅れたら遅れたと分かってるよ。 遅れてきても分かっていない人っているけどね。 僕は遅れても分かってる。

それはあなたがニューヨーカーだからですか?

今は違うよ。 ニューヨーカーじゃないんだ。 今はマサチューセッツ州とロサンゼルスに住んでいるんだ。

2ヶ所に住んでいるんですか。

そうだよ。ニューヨークには13年ほどいたけれど、今はマサチューセッツとロサンゼルスと生活を分けているんだよ。

ご家族について尋ねてもいいですか。

妻と息子が2人。

息子さんが2人? いくつなんですか。

8歳と5歳。

ペットは?

犬が3匹、カメが2匹、魚がたくさん。

わ〜、動物園みたいですね。誰が世話をしているんですか?

家族みんなだよ。

ロサンゼルスのティーンエイジャーについてはどう思いますか?

分からないな。 息子たちはまだ小さいしね。だからロサンゼルスの若者が何をしているか知らないんだ。 知るのが怖いね。 いつか……10年後には話してあげられるよ。

家ではどんなお父さんなんですか? 厳しい? それとも甘い?

甘やかしているな。

それはご両親と同じですか?

いや、必ずしもそうではないな。 両親とまったく反対の子育てをしている部分もあるし、よく似た子育てをしている部分もあるし。 ……ただ、子どもたちをとても愛しているから、つい甘やかしてしまうんだ。 でも、限度はある。明確にね。そういう意味では、我が家には一定の規律があるとも言える。 それと、僕自身とても気をつけているのは…… 最も気をつけたいと思っているのは、息子たちを急いで大人に変えようとしないことだよ。 そういうことはしたくない。

自分の作品は見ますか?

(即座に)見ないよ。

どんな少年時代でしたか?

ティーンエイジャーの頃、学校には行っていたけれど………17歳のとき、学校をやめて、家も出て、ニューヨークに移った。 育ったのはマサチューセッツだけど、ニューヨークに出て、働き始めたんだ。 でも、僕が10代の頃は70年代で、僕だけでなくアメリカ自体が実験の時期だった。 それが当然の成り行きで影響したというか……10代というのは自分自身を発見する時期で、性的にも大人になり、知的にも大人になり……。 あんな時代だったから、それが特に強く影響して……アメリカ文化の歴史という意味でも……。 それは、性的にも実験の時期だったし、社会的にも政治的にアメリカは変わりつつあったし、とても不安定な時期だった。 ベトナム戦争は終わり、60年代からの公民権運動も続いていた。 それに、性の革命やドラッグ・カルチャーも盛んだった。 だから………でも、僕の両親は教師で、僕は早い時期からお金を稼ぐために働いてきた。裕福ではなかったからだよ。 だから、家を出たとき、働けば生活費は稼げるという意識があった。それまでずっと働いてきたからね。 11、12の頃から働いていたんだ。

何をしていたんですか?

雑用だよ。 芝刈りとか、あれやこれやの手伝いとかね。16歳になるとすぐにちゃんとした仕事ができるようになって…………だから17歳になると、ニューヨークに出て、いろいろな肉体労働を経験した。 そうしながら、演劇のレッスンを受け、舞台や映画の仕事をした。 生活費のために馬小屋で糞をシャベルでかき出したりしたこともあるよ。 トラックの運転手、遊園地、倉庫や貨車での積み下ろし、メッセンジャー、床掃除………あらゆる種類の仕事をやった。レストランのウェイターの助手もしばらくやったし……たくさんの仕事をしたよ。

最終的な目標というのはないね。 最終的な目標というのはない……仕事という意味ではね。 僕はただ………自分がする作品に驚かされたいんだ。 違うものになりたいし……それが仕事の目標だ。 私生活という点では、分からないね。 平和と静けさ……かな。



終始にこやかで、 質問に丁寧に答えているスペイダーさん、 ひとたび話し始めると弾丸のように早口になり、 理屈っぽく例をたくさん並べたりしていますが、 よく聞いてみると、 あまり何も語っていないような……。 例えば、"I think he's........ he's........ he's........." とか、"If... if........... well............" とか言って言葉を捜しているうちに、 初めに言いかけた言葉とぜんぜんつながらなくなってしまったり、 類義語をいくつも並べてみたりと、 実際に経過している時間と単語数に比べると、 内容が少なかったりするんです。

それに、 インタビューアーが最初になまじ 「セクシュアリティー」 なんて抽象的で説明不能の言葉を投げかけるものですから、スペイダーさんはその後のインタビューで 「セクシュアリティー」 を都合よく(?)使っちゃいました。 字幕では「性欲」なんて訳してましたが、 ちょっと違うような……。

でも、 今回、一言一言を忠実に訳そうとしてみてわかりました。 以前から、 字幕の和訳が雑だと思っていたのですが、実際、ワケが分からなかったんですね〜。 だから、 文字数が限られる限られる字幕では、 仕方がなかったのでしょう。

でも、 スペイダーさんの脳ミソがゴチャゴチャなのではなく、 インタビューは苦手だというスペイダーさんなりの自己防衛というか、 インタビュー全体を弾丸トークで自分のペースにしてしまうことで、 あまり突っ込んだ質問がしにくいようにしているのかも………なんて思ったのですが、 ひいき目でしょうか。

その策略↑が功を奏したのか(?)、 インタビュアーの質問はちょっと上滑りな感じで、 ほかにもっと聞いてほしいコトがあったんだけどなぁ… なんて思いました。で も、どんな質問をしても、 スペイダーさんは私たちを煙に巻いてしまうのかも。

そう言えば、『ザ・プラクティス』で有名になってから出演したインタビュー番組で、「『ザ・プラクティス』は見たことなく、ふだんは『料理の達人』 と 『スポンジ・ボブ』しか見ない」とか言ったそうな。 それから、『ザ・プラクティス』や『ボストン・リーガル』の話をするのではなく、「どれだけ卵が好きか」とか「こだわりのゆで方」とか、 関係ない話ばかりしてたってコトもありましたっけ。 これこそ、 スペイダーさん!

さて、 今回、久々に映像を見直して気づいたのですが、 ヒラヒラとさせた左手の薬指にはしっかりと結婚指輪が……。 こればかりは、なんだか時の流れを感じてしまいますね〜。




Written and uploaded : January 2007

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