不動産の売買

1.二つの重要な瞬間

 不動産を買うとき、売るときに、法的な意味で重要な、したがって、注意をしなければ危険な、二つの瞬間があります。
 それは、売買契約書に署名・押印し、手付金を授受する時と、買主は売買代金を支払い、売主は登記に協力する時とです。

2.売買契約の締結

 売買契約は、売ります・買いますの約束の合致により成立します。我が国の民法は、不動産についても、売買の書面の作成を要求していません。つまり、口頭の約束でもよいのです。
 売買契約が成立すれば、一方、買主は売買代金を支払う、他方、売主は不動産を引き渡し、登記に協力する(登記名義を移す)法的な義務が生じます。法的な義務が生じるということは、裁判に訴えれば、代金の支払い、不動産の引き渡し、登記の協力を、強制的に実現できるということです。したがって、不動産売買の約束は、慎重にしなければなりません。

3.売買契約書の署名・押印と手付金の授受

 実際には、後日の紛争をさけるため、証拠として、売買契約書を作成し、手付金(多くの場合売買代金の1割)を授受します。つまり、売買契約書に署名・押印し、手付金を授受したならば、売買の約束をしていないと主張することは難しくなる、ということです。押印は、認印(三文判)であっても、裁判で自らの印鑑であると認めれば、実印と同じです。
 したがって、売買契約書の署名・押印と手付金の授受は、第一番目の重要な(危険な)瞬間です。

 もっとも、不動産売買においては、手付金の授受があるまでは、売渡承諾書、買受承諾書あるいは仮契約等の書面の交付があったとしても、売買契約が成立しないとするのが、不動産取引業界における一般的慣行です。
 手付金は、買主が買うことを取りやめれば、戻りません(手付損)。また、売主が売ること取りやめれば、受け取った手付金を買主に返し、さらに同額を支払わなければなりません(手付倍戻し)。
 このように重要な売買契約書は法律家が作成することが望ましく、もちろん当事務所で作成しますが、最寄りの司法書士は、
各地の司法書士会で紹介してもらうとよいでしょう。

4.宅地建物業者の媒介(仲介)のときは


 宅地建物取引業法37条は、
宅地建物取引業者の媒介等により不動産売買契約が成立したときは、一定の事項を記載した書面の交付を義務づけています。この書面は、売買契約書に同37条で定められている事項が記載されていれば、売買契約書でよいとされています。
 同35条は、宅地建物取引主任者は買主・売主に、売買契約が成立する前に、同条に規定する重要事項について、書面を交付して説明しなければならない、としています。
 したがって、買主・売主は、宅地建物取引主任者から重要事項の説明を十分聞き、もし、希望するならば、法律家(司法書士・弁護士)に相談して、納得のうえで、契約書に署名・押印することが肝要です。


5.
銀行等の融資を受けるときは

 不動産の価格は高額ですので、多くの人は銀行等の融資を受けて、売買代金を支払います。ところが、銀行等の金融機関は、売買契約書が作成されてから、融資の調査・決定を行います。もし、融資が認められなければ、買主は買うことを取りやめなければならないため、手付金が戻らなくなります。そのことを避けるためには、次のような特約を契約事項とするとよいでしょう。

(1)買主は、本件契約締結後、遅滞なくローンの申込み手続をとるものとする。
(2)前項の申込みにかかわらず、万一融資が否認された場合、あるいは
金融機関との金銭消費貸借に関する保証委託契約が成立しないとき、買主は無条件にて本件契約を解除することができる。この場合、売主は既に受領済みの金員を遅滞なく買主に返還するものとする。
(3)右住宅ローン利用の特約に基づき本件売買契約を解除し得る期限は、 
年 月 日までとする。

 このような特約を取り決めておけば、銀行等の金融機関から融資が認められないとき、買主は契約を解除でき、手付金の返還も受けることができます。

6.司法書士の立会
 
 不動産売買取引は、売買代金の支払と、不動産の引渡・登記協力とが同時に行われ、終了します。通常、その時に、所有権が売主から買主に移ると契約しておきます。したがって、売買代金の支払と、不動産の引渡・登記協力とが同時に行われる時が、第二番目の重要な(危険な)瞬間です。

 そのため、その取引の安全を確保するために、司法書士に「立会」を依頼するのが、不動取引の常態です。逆に言えば、司法書士の立会のもとでなければ、買主は残代金を支払わない、売主は不動産を引き渡さない・登記に協力しない(権利証・印鑑証明書等を渡さない)、とすることが肝要です。司法書士は、法務局長の懲戒処分と司法書士会会長の注意勧告に服し、重い民事責任を負っています。また、大多数の司法書士は、保険に入っています。

 司法書士の立会の場面、すなわち、不動産取引の最終局面で、買主・売主の合意により、売買契約の内容の変更が行われることがあります。その場合には、司法書士の助言を求めたほうがよいでしょう。

 司法書士の選択権は、契約または慣行で、買主にあります。融資する金融機関や宅地建物取引業者に司法書士の選択権があるわけではありません。もっとも、融資を受けて残代金を支払う場合、抵当権の設定登記の司法書士の選択権は、融資する金融機関にあります。買主と融資する金融機関が、話し合いで、一人の司法書士を選ぶのは何ら差し支えなく、よく行われるところです。しかし、一方が他方に押しつけることは、自己決定の尊重に抵触し、望ましいことではありません。無理に一人の司法書士とせずとも、金融機関の選んだ司法書士(抵当権の設定登記)と、買主の選んだ司法書士(売買の登記)が、協力して立会を行うことができます。
 

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