論説
我が国の公証人制度の問題点
司法書士 鈴 木 正 道
1.公証人の絶対数の少なさ
日本の公証人 全国 544名(1999年12月1日現在)
公証人一人当たりの人口229779人
東京の公証人107名
司法書士 全国17097名(1999年10月1日現在)
司法書士一人当たりの人口7311人
東京の司法書士2084名(1999年11月29日現在)
フランスの公証人 全国7600名(1996年1月1日現在、年々増加している)
全国7500名(1992年版クセジュ「公証人職」による、以下同じ)
公証人一人当たりの人口7510人
ドイツの公証人 全国7844名
公証人一人当たりの人口7085人
ベルギーの公証人 全国1218名
公証人一人当たりの人口8819人
スペインの公証人 全国2050名
公証人一人当たりの人口19066人
イタリアの公証人 全国5300名
公証人一人当たりの人口13148人
ギリシャの公証人 全国1500名
公証人一人当たりの人口4161人
2.公証人の任命
公証人法第12条では、公証人の任命資格は、試験に合格し6ヶ月以上の実地修習をした者と定められている。しかし、その任命は行われておらず、任命は、もっぱぱら同第13条、同第13条の2による資格者により行われている。
フランスでは、我が国よりはるかに進んだ公証人の任命資格を定めている。すなわち、法学修士号とその取得後最低3年の理論と実務の修習(各期の試験合格と最終論文提出・審査合格とを要する)が、公証人の資格要件である。そのことにより、市民の需要に応じた公証人の数の確保と質の維持とを調和させている。
3.不動産登記制度との関連
我が国の公証人は、不動産登記手続に直接関与していない。
フランス、ドイツ、スペインの公証人は、契約の作成者であると同時に不動産公示手続の専門家である。
そのため、我が国の不動産登記は、不動産取引の自由かつ迅速と確実な公示との要請を調和させている、公証人の関与による公正証書に基づく公示という、ヨーロッパの標準と異なることになっている。
我が国においては、それらの要請に司法書士が実務として応じている。
4.市民に対する法的サービス(法的助言)
フランスの公証人は、公証権限を有する契約の作成者であると同時に市民に対する契約の助言者である。
今日では、契約の助言者としての公証人の職務が強調されている。公証人の助言義務は、成文法ではなく判例による。フランスの公証人は、契約の有効性と実効性について助言義務を負い、その義務を果たさず、当事者に損害が生じれば、民事責任を負う。その民事責任は、全員加入の保険により担保されている。
契約の実効性に関する助言義務とは、契約が有効であったとしても、当事者の意図する目的が達成されないときは(たとえば、抵当権の負担付きの不動産売買、抵当権設定の担保不足など)、助言義務を尽くさないとされて、公証人が民事責任を負うものである。助言義務は、原則として不法行為責任とされているが、助言義務を尽くしたことの立証の負担が公証人に事実上転換されているので、ある意味では結果責任に近い。
そのため、市民にとっては、フランスの公証人に依頼すれば安心であることになる。その助言義務の帰結として、不動産取引において公証人は、公証と公示だけでなく、売買代金の支払の安全、占有の移転(鍵の引渡)にまでにも関与する。すなわち、公署証書署名時に、公証人の口座を通して売買代金が支払われ、鍵が引き渡されて、所有権が移転する。
我が国の公証人制度では、公証権限のみが強調される傾向があり、市民の立場に立った助言者としての役割が軽視されている。したがって、仮に不動産登記手続のためには公正証書を要すると法律を改正しても、公証人の関与だけでは、不動産取引の安全が確保されない。
我が国においては、公正証書作成に際して、フランスなどで公証人が果たしている当事者に対する助言活動は、弁護士・司法書士などが行っているのが実情である。
5.本人確認の規定の不備
公証人法第28条では、公証人は、面識のないとき、印鑑証明書の提出その他これに準ずる確実な方法によって本人確認する旨を定めている。
しかし、すでに昭和40年代頃に、印鑑証明書は、印鑑登録時と印鑑証明書発行時に本人確認をしていた直接証明方式から、本人確認は印鑑登録時だけである間接証明方式に変わった。すなわち、印鑑証明書の交付に本人確認の機能をもたせることはやめて、印鑑証明書の機能を本人の実印が登録された印鑑であることを証明することに限定している。したがって、印鑑証明書の提出は必ずしも確実な本人確認の方法ではなくなったのであるから、公証人法も改正されるべきであった。
フランスの公証人の当事者の同一性の確認義務は、公証人が作成する証書に関するデクレ第5条により、「当事者の同一性、身分、住所は、公証人の面識がないときは、証明するすべての証拠書類の提示により確認される。例外的に、当事者の同一性、身分、住所は、第4条に規定された資格を有する二人の証人により、公証人に対し証言されることができる」と規定されている。
したがって、フランスの公証人は、一般的には、「証明するすべての証拠書類」(写真付身分証書、パスポート等)の提示により、当事者の同一性の確認を行わなければならない。
司法書士の民事責任は、印鑑証明書だけで本人確認しても必ずしも免責されないため、それとともに公的な身分証明書によって本人確認をしているのが、司法書士実務である。
6.委任状
公証人法第32条では、代理人の権限の証明は、私署証書の委任状と印鑑証明書で足りるとしている。代理人が白紙委任状に加筆し、公正証書が本人の意思に基づかず作成される事件が絶えない。そのため、貸金業の規制等に関する法律第20条では、貸金業者が公正証書作成の白紙委任状を取得することを禁じている。しかし、そのようなことは、本来公証人制度で防止されるべきである。
フランスの公証人の契約の有効性に関する助言義務は、代理人の代理権を調査することにも及ぶとされている。そのため、フランスの公証人は、代理人が公署証書かサイン証明の付された私署証書の委任状を提出しないと証書を作成しない。
他方、フランスの公証人が契約当事者から、私署証書の委任状のサイン証明を依頼された場合には、当事者の同一性を証明する書類により本人確認をし、委任状に面前で署名されたサインの真正さを証明する。よって、代理人が委任状に加筆する余地がない。
司法書士の民事責任の判例では、司法書士は、代理人の代理権授与に疑わしき特段の事情があるときは、直接当事者にそれを確認する義務があるとされている。
戻る![]()