服装とトランスすること
あるFTMの場合、あるMTFの場合

井上 裕 & まきこ

井上:何から話そうか。
まきこ:今着てる革ジャンとか、すごく着込んでるけど、いつ頃買ったん?
井上:僕がアメリカに留学したときやから、20歳の時。セカンドハンドのショップで見つけたんやけど、なんとこれ、型落ち品で、ほとんど新品に近い状態で並んでたんやん。日本円で2万円程で買ったんやけど、ショットていうブランドのやつで、日本でも結構人気があるやつやんか。僕、フライトジャケットにすごく憧れてたけど、日本のやつって手が届かへんかってん。だから、アメリカで思い切って買ったんやんか。
 僕は、何ていうんかな、服を着るということは、自分を演出することと思ってるから。今日はこの革ジャン着て、靴はブーツなんかはいてんねんけど、ちょっといかついライダー系みたいな、登山系というか、というな感じで売ってて。下にはウィンドブレーカー着てるから、ジャンパー脱ぐときはスポーツ系とか。
まきこ:体育会系?。でも、何かすごく着込んでて、しぶいから、その辺やっぱりすごいこだわりあるのね、と思って。
井上:そうやね、これは着てない冬も何回かあって、捨てようかなとも思ってんけど、やっぱりアメリカにいてた時の記憶やから、どうしても捨てきられへんかったんやんか。で、今も生きてはんねんけど。
 まきこさん今日は何か、赤のタートルみたいやねんけど。
まきこ:赤はね、流行色という点ではね、2年ぐらい前になるんだけど。今日はなぜかこれを着て来たかった、そんな気分。流行色的には、今年はパープルとか、ベージュとかが多いのかな。
井上:やっぱり流行色着るわけ? 着たいと思うわけ?
まきこ:うん、着たいと思うわ。
井上:前、靴の仕事やってた時に、女の人の場合、春はこの色、夏はこの色、というふうに、靴の色でも流行色ってあるじゃない。そやけど、男ってそれはないねん。
まきこ:ないよね。服だったら紺とグレーと…
井上:そうそう、定番なんやんか。冬になったら黒やろ、それから茶、ベージュ、その三つ以外にないねん。で、男はそんなに流行に敏感じゃなくっても、ずっと定番で全然OKなんやんか。その点は、僕みたいな、あまり着回すのが上手じゃない人なんかにとっては、3年ぐらい前のチノパンでも、サイズ変わってへんかったらはけたりして、結構便利なんやんか。
まきこ:その点、女性って、絶えず流行追ってなかったらさ、ちょっと前の着ていたら、それだけで異様な感じになってしまうやん。
井上:やっぱり女性の目ってそうなんかなあ。
まきこ:そうそう。街中とか歩いてても、「あ、あの人3年前のじゃない」とか、そういう風にこっちも見てるし、人も見てるし、駅とか街とかで視線が飛び交っていて…。
井上:そうなんや。
 デパート業界に行ってた頃に思ってたことなんやけど、例えばね、女の人やったらさっき言ったように流行によって服を変えないといけないやんか。それに便乗してなんやけど、よくセールがあるやん。それが無茶苦茶安いねん。何でこんなもんがってやつが、すごい手頃な値段で。
まきこ:だって、やっぱりセール以降のこと考えたら、賞味期限何ヶ月というのがあってさ。男物の定番って何年も着れるやん。でも女物ってその季節終わったら、もう価値がなくなるの。物質としての価値がなくなってしまうの。情報って言った方がいいのかな。情報を身にまとっているというか。だからやっぱり出始めは高くて、セールになるとその何分の1になるというのは当然そうであって。
井上:女性の場合3分の1になるよね。
まきこ:冬物だったらもう1月になったら始まるけど、ニットとか1000円とか。スカートとか1900円とかなるしさ。
井上:うらやましいと思うんやけど。
まきこ:着られないの、ほんとに。次の年になったら。
井上:そうなんや。僕が紳士物とか買いに行ったとき思うのは、「高っけえ」と思うねん。だって、Tシャツ1枚3000円とか5000円やで。Tシャツ1枚に3000円なんか、よう払わんわ。ちょっといかすな、と思ったブランドのやつなんか、5000円とか6000円とかするもん。それが、下がれへんねん。バーゲンの時でも、紳士物は3分の2にしかなれへんねん。その分何年とかわたって着れるけどね。結局元とってることにはなるねんけど。


ファッションへの関心度

まきこ:ファッションへの関心という点について、FTMとMTFは違うところがあると思うけど、トランスするにあたって、服装というものが占めるウェイトというか、そういうのって、かなり違いがあるのかな。MTFについて言えば、多くの場合やっぱり服を着たいというのが先にあって、身体違和が強い人だったら先ホルモン、手術という話にはなると思うけど、服装というのはかなり中心になってくると思うんですよ。これはTVだとかTSだとかいう話でなくて、ある程度共通の話だと思うんですよ。
井上:言うたらぱっと見、第一印象やからね。
まきこ:だから、まずスカートはくか、とかいう点が関心になってくる。その辺FTMの人は、まずこの服を着たいとか、そういうのはあんまりないわけ?
井上:人によりけりやと思うねん。ホルモンとかしていない、過渡期の子は、服装こだわってるというような気はする。
まきこ:逆に、FTMの人は、X系というか、中間的な服装でいる人が多いような気がするけど。G−FRONTのTGブランチが特殊なんかも知れないけど。
井上:そういう人もいるし、一概にどうとは言えない。
まきこ:それについて言えばね、MTFも一概に言えなくて、服装にこだわりがあるというのはある意味バイアスがかかったものの見方であって、そうでない人もいっぱいいるけどね。服にこだわりがあるという見方をするのは、ある意味いわゆる女装系の方から入った人に固有の物の見方かも知れない、という気もしますけどね。
 ただ、ファッションへの関心度という点で、ネイティブの男性と女性でもかなり差があるよね。
井上:そうそう、制服がないところの、スーツで行っているところのOLさん。あんた何着買ったらええねん、っていうくらい買うよね。
まきこ:私、フルタイムでトランスやってるわけではないけど、フルタイムでやるんやったらどれだけいるかというか。MTFってそんなにお金ある訳じゃないから、結構大変なん違うかな、って思ったりする。
井上:逆に、FTMなんかは、冠婚葬祭のやつ一着揃えて、あと普通のやつ一着持ってたらそれでええかなあ。あとはネクタイ変えるだけやん。それ以外何もあれへんねんやんか。
まきこ:その辺ってやっぱり、MTFとFTMのファッションへの関心度についても、ネイティブの世界を反映しての差があるんかな。
井上:みたいやね。話聞いているとそんな感じやね。

井上:僕はといえば、ほんとに自分のことしか語られへんねんけど、僕自身についていえば、別にホルモンしているわけではないし、ましてや服なんていうのは自分を演出するものやと思ってるから、服に対するこだわりはすごい。だから、例えば、女ボタンと男ボタンって位置が違うでしょう。あれ一つでも許されへん。もちろん、ジーパンは絶対メンズ。
 僕は、FTMTGとか、ノンオペ・トランスセクシュアルとか、言ってるんやけど、時々自分がTVじゃないかと思うのは、服装がね、すごくマニアックなんですよ。なんか、駅員さんの格好してみたいと思ったりとか、はっきりと役職のわかる服、例えば警備員やってた時なんか、他の人は警備服着て電車乗って行かへんねんけど、僕は警備服で行くんやんか、家から現場まで、帽子こそかぶらへんけど。
まきこ:服は現場で着るよね、普通は。
井上:そやねんけど、僕はちょっとそこオタク系なんで、そういうのにすごく憧れるとか、好きで。今日はライダー風やったり、スポーツマン系やったりするんやけど。やんちゃ系、チンピラ系ね。僕がやるとチンピラなんやけど。スーツ着ているときはビジネスマン系。そんな仕事もしてへんのに、あたかもそうですよ、というカバン持って、そういう出で立ちで、そういった顔立ちで本読むのが好きやねん。
まきこ:それって、FTM一般から見たら、やっぱり少数派になるの?。
井上:かなり特殊なんちゃうか。僕マニアックやと思ってる、その点。
まきこ:MTFについていえば、特にTVの人はそっちの方が主流といえなくもないわけで。まずコスプレ系というカテゴリーの人がいるし、女装クラブとか、そういうところでも女学生の格好してみたりとか、あるいは看護婦さんの格好してみたりとか、水商売のオミズ系とかの派手なドレス着てみたりとかさ、何か役割があってそれになりきるというのが、商業的なコミュニティではごく当たり前だし。
井上:うわー、TVなのかしら(笑)。でも僕な、仮にTVやとしたら、フルタイムTVやわ(笑)。
まきこ:そうなんだ。
井上:でもな、男装しているという気持ちはないねん。男のモードの中でいろいろ着るのが好きやねん。
井上:もう一つね、僕がマニアックやなあと思うのは、つなぎの服とか昔持ってたんやんか。
まきこ:自動車整備士の。
井上:そうそう。あの格好して、スパナとかドライバーとか持って歩くのが好きやってん。
まきこ:あんた何してまんねん(笑)。
井上:ああいうのぶら下げて歩くのが好きやねん。それがいかにも男性を象徴しているようで。そんな姿で出没したこともあったよ。
まきこ:それはね、私、男性としても生きてるわけやけど、男性ってそういうとこってあるのかな、って思う。服がロール(役割)を規定するというのは、むしろ女性より男性の方が意識強いかなっていう気がする。テレビ番組の「ここが変だよ日本人」で、キャンディミルキィさんとかと一緒に出てたけど、軍服マニアとか、制服マニアとか、トランスでなくてもそういう人はいっぱいいるわけだし。
 その点、女性の方が役割と服装という点は、一概に言えないけど、若干意識が希薄なのかなあ。それより自分がいかにおしゃれするかという方に関心が向かってて。もちろんそれも細かく見ていくと、例えば男性とデートするときの勝負服とかね、いろいろあるとは思いますけどね。でも、社会的な役割という点に関しては、男性の方がこだわり強い気がする。
井上:そうなんや。僕がネクタイつけて背広着て、という時は、イベントでしょ、講演会でしょ、公の場でしょ、僕にとっては戦闘服でしかないねん。それ着ているときは戦いモードやと思ってくれたら。
まきこ:それはネイティブ男性もそうで、やっぱり商談とかのときの戦闘服な訳で、いかに自分とこの会社に有利な取引をするかという戦闘服な訳だし。男性というのはやっぱりそうなん違うかなって。
 でも逆に女性でも企業社会で活躍する人にとっては、そういう意識というのはあるやろうし、ピンストライプのスーツで交渉に臨むとか、そういう意識、キャリア系の人にはあるし。何かジェンダーというよりは社会構造の問題が先にあって、そこにジェンダーの問題が絡んできて、複雑な様相を呈してるんだろうけど。
 私の個人的な話を言うとね、MTFのTGに関して言えば、さっきも言ったように看護婦さんとかそういう役割にこだわる人はかなりいるわけだけど、私自身はナチュラル系、と業界では言うみたいだけど、普通の女性になりたい、そこら歩いている女性みたいになりたいというか、そういう意識がすごく強くて。その点特殊なのかもしれないんだけど。私はごく普通のファッション誌読んで、普通に街歩いている人の服チェックして、普通の店で服とか買って、という感じなんだけどね。そういう意味で二人ともちょっとメインストリームからは外れているのかな(苦笑)。
井上:我が道を行くというか。
まきこ:好きなことやるのがトランスなんやし
井上:それでええんやろね。


FTM/MTFとフェティシズム

まきこ:MTFの場合、フェティシズムが強いと言われてて、女性の服自体にこだわりがあって、例えばセーラー服とか和服とか、あるいは下着とかににはまりこむ、という人がいるのだけど、FTMの場合はそういうことはないわけ? 一般には男性に多くて、女性には少ないともいわれてるけど、その辺はどうなんだろう。
井上:はあ? 実はそんなこと考えてもみなくて、単に自分はめっちゃ変態やと思ってる。変態やと自覚してます。これは悪い意味じゃなくて、マニアックな人々に対して変態といってるんじゃなくて、自分がちょっと変わってると思ってるんで。
まきこ:フェティシズムといっても二通りあって、制服とかにみられるように役割と結びついている場合と、肌触りとか触覚に結びついている場合とがあって。メンズの服って、綿とかでできていて、ごわごわしてるでしょ。レディスの服って化繊でできてて、すべすべしてて、着心地も違う。メンズの服はだぼっとしてて、着ていることを意識させないけど、レディースの服はニットとかワンピースとかでもぴちっとしていて、着ていることを意識させる服が多いような気がする。その辺の感覚ってすごく違うように思うけど。
井上:僕はその辺に関しては、フェティッシュなところがあると思う。
まきこ:FTMにもそういう人はかなりいるということね。
井上:いや、僕に関して言えば、男物の服のごわごわ感という感覚がたまらなく好き。というのはね、そこの想起させるものが、男やからやねん。
まきこ:それってフェティシズムそのもの違う? だから、すべすべの肌着から、女性がつけるものだと体感するわけだし、その辺すごく私も意識するの。
井上:僕に関して言えば、肌触りというのは、男の肌を触っているという感覚ではなく、肌を通る感じが、あ、男物を着てんねん、というようなことだよね。
まきこ:ネイティブ女性で、好きな男性のだぼだぼの下着とかに対して感じるフェティシズムというのはあるみたいなんやけど、それとは違って、自分が男性であるというということを感じるという意味ね。
井上:そうそう。で、下着でブリーフ派とトランクス派に分かれるところがあるんやけど、僕は当然トランクス派やねん。
まきこ:そうやろね。
井上:というのは、ブリーフというのは、前は開いていても、女性のものを着る感覚やんか。
まきこ:私の場合は男性モードでもブリーフ派で。女性用のパンストとかパンティとかでも、肌にぴたっとしてすべすべする感じだからね。それで、そういうのが好きだというようなところからTGだということを自覚していったというところがあるんですよ。だから、最初は男性で単にフェチだけなんかな、と思ってたのだけど、それでは満足できなくなって、トランスするようになったというところがあって。やっぱりそういう触覚的なものって、服装を考える上で重要だと思う。それで、FTMの人にもそういう感覚があるというのが発見できたのはすごくおもしろいと思う。

井上:それから、余談だけど、なぜ女の人があんなに頻繁にバックを持ち歩くのか、という点について、わかってん。ポケットがないねん。
まきこ:そうそうそう。
井上:だから、女性のピーの日とかもあれをバックに入れて、持ち歩いてんねんなと思って。
まきこ:パンツルックとかでポケットついてるけど、ほとんど実用に耐えなくできてるんですよ。飾りだから、財布とか携帯とか入れるようにはできてないから、だからバックにそういうもの入っていて、ひったくりという犯罪も起きるんだけどね。
井上:男の場合はポケットだらけやから、ありとあらゆるところにポケットがついてて、カーゴパンツなんかは太股の横とかにもいれられるからな。背広とかも内ポケットついてるし。
まきこ:コートでさえもポケットないのよ、レディースだったら。
井上:ひとつだけ助かってるのは、ここだけの話やけど、ピーの日とかあるやんか、でも僕は捨てへんねん。男子トイレ入るから。作業の時はカーゴパンツはいてんねんけど、どこにでも隠せるねん。僕なんか男性として働いてるから、女性みたいにポーチを持ち歩くわけいかへんやんか。だから、男性特有のポケットを有効活用するねん。まず尻ポケットにその日に必要な分二、三枚入れといて、使用済みのは横のポケットの、ちゃんと閉じれるようになってて一番負担にならないところに入れたりするんやんか。それで、トイレの個室に入るんやけど、アレって、はがすときバリバリって音がするんやけど、出る前に水を流すのに合わせてバリバリってやるねん。
まきこ:テクニックがあるんやね。
井上:男はまさかそういう物やってるとは思わへんから、ばれることはない。
まきこ:トイレについて言えば、MTFの場合和式の便器でそのまましゃがんでやったら、ジョボジョボって音がしてまずいから、その辺気を使ったりする。
井上:男性はジョボジョボって音がするというのがあったけど、実はFTMでもその音させることはできて、ちょっと中腰になって水のとこめがけてやんねん。
まきこ:MTFの場合向きかえるのでいくらでもできるけどね。


トランスとお買い物

井上:話変わるけど、FTMの人がメンズ買いに行っても、周りそんなにびびらへんやんか。その点MTFって勇気あるよね。
まきこ:そうね。「プレゼントですか」と言われるのは別として。
井上:それきついよね(苦笑)。
まきこ:でも最近はね、ここ一年くらいは廃れつつあるのかもしれないけど、若い男の子でレディスの服着るのが普通になってきてるから、そういう意味でそんなに違和感ないかな。
井上:芸能界なんやけど、だいぶん前、藤井フミヤが全部自分の服は女性物や、って言ったように思う。あの人小柄やから、へえ、そうなんや、って見てて、そういう男の人もいるんやなって見ててんけど。
 でもね、足のサイズなんとかしてほしいよね。ちょっとショックなのは、僕はまだ足大きいからいいねんけど、25.5やねん。26も物によっては入るねん。だからまだ普通の紳士靴買えるねんけど、それより足の小さい子は、靴どないすんねん。たまに24やったらあるよ。でもそれ以下はないねん。
まきこ:MTFに関して言えば、普通の店では大きい方が24までなんですよ。よくあって25まで。私は27だから、靴は私、全部通販なの。ただ靴下の差というのがあって、メンズの靴下って分厚いやん。レディスのストッキングって薄いから、その分小さいのも履けるというのはあるけど、それでも26が限度だから、辛うじてあるかないかというところで。
井上:どっちもどっちやね。

井上:で、あとは下着。僕はメンズやったら、最初はわからへんかって、それでもMかLやろうと、自分の体格からして。ひょっとしてインナーやったらMかな、と思ったりして買っていくんやんか、試着でけへんからな。でも腰回りが表示されるので、それでMかLかというので買ってるねんけど、MTFの人の場合はどんな風になってんの。
まきこ:サイズ表示は女性用の場合すごく細かいから。特にファンデーション、つまり身体を補整するガードルやボディスーツとかはすごく細かいから。それは結局何度も試して自分に合ったの見つけて行くしかないん違うかな。
井上:やっぱりそうなんや。
まきこ:メンズの場合は大きいのでもそれはそれでいいわけだけど、でもレディスの下着はそうはいかないの。一個間違ったらお肉が段々になったり、ガードルからお尻の肉がはみ出したり(苦笑)。
井上:悲しい…。
まきこ:それで余談を言えば、小さい服を買ってしまったら、それが着れるようにダイエットに励むというのもあるのね。
 下着に話を戻したら、下着を買いに行けるようになったらパスが進んだということになるんかな、と思う。外に着る服ならともかく、下着ショップとなるとちょっとね。
井上:勇気いるよね。でもな、男の人が女の人の下着買いに行くのって平気なんかな。
まきこ:平気なこともある。プレゼントということもあるし。完全に男装してプレゼントだと割り切れば、それはそれで認められる。
井上:でもFTMも勇気いるんやんか。完璧にパスしてたらOKでしょ、で、完璧にパスしてなかったらそれもOKやねん。
まきこ:というと?
井上:女の人って、夫のパンツとか買ったりするやんか。パスしてるかパスしていないか危うい人、ぎりぎりの線の人は、すっごい変な目で見られるねん。というか、これはこの人がはくのかあげるものか、というのを考えられてしまうから。
まきこ:それはMTFについてもいえて、やっぱりどっちかわからないというのが一番怪しく見える、というのはあるのね。
 街とかで、アルバイトでテレクラのティッシュ配ってる人なんか、男性用か女性用かどっち出していいかわからんとき一番困りはる。駅とかで電車待ってても、どっちかわからない格好しているときが一番変な目で見られるから、トランスするときもちゃんと女性に見えるようにする、というのがあるかな。


男らしく? 女らしく?

まきこ:で、MTFの人だったらスカートはいてドレッシーな格好する人が多くて、FTMだったら、井上さんもそうだけど、いわゆるストリート系の、着崩して着る人が多くて、いわゆるモード系の、デザインが洒落てて細身の服を着ている人が少ないのはどうしてかなあ。メンズでもレディースに近いような服があるにはあるんだけど。
井上:だからFTMにとっては、僕なんかについていえば、ぴしっと身体に合うのを着ようとすると、ひよわに見えるねん。首筋とか細いし、胸のこととかあるしね。どっちかというとだぼだぼっとした方が、いい加減とか、きたないとか、そういうのがついて回ると男っぽく見えるんやんか。だらしないとかね。
まきこ:なるほどね。だから、FTMでぴしっとしたものを着ないというのは、やっぱり身体の問題があるからであって、関心がないわけではないという。
井上:それは人によって違うやろうね。
まきこ:でもどっちかといえば男らしい格好の方が多いのは、実用目的もあるし好みの問題もあるし。
井上:断定はできない。僕個人の意見でしかないから。
 だぼだぼっとしたものを着るというのは、冬もそうなんだけど、特に夏、FTMにとってもMTFにとっても恐い夏がそうやね。
まきこ:キャミソールとか流行ったときも着られなかった
井上:FTMの場合はね、胸のことあるやんか。Tシャツ一丁になったら、無地はだめなのよ。丁度胸のとこにすごい柄とか文字が入った、柄つきの派手なやつを着るのね。
まきこ:へえー、そんなこともあるんだ。
井上:もっと胸の大きな人はね、上から柄シャツを羽織るの。それは無地では目立ってしまうねん。柄の服着ることによってカモフラージュするねん。そうすると、ちょっと暑いけど、胸締めんでいいし。胸締めるとしんどいんやんか。ファッション的に変でないし、言うたらむしろ、おしゃれに見られるやん。
まきこ:その点MTFもすごく気を使ってて、ちょっと前に横縞のボーダーシャツというのが流行ったことがあるんやけど、横縞って肩幅を強調するやん。だから、肩幅を強調する横縞は着ないというのが鉄則としてあって。だから逆に、ワンピースとかで縦に線が入ってたりとかして、肩幅をカモフラージュするようにするとかは、誰でも考えてるのと違うかなあ。でも、レディースの服って身体にぴったりしているのが多いから、どうしても体の線が出てしまうのが多いからね。その点、パスするためにホルモンとか行く人がいるのかな、という気がする。パートタイムの人も含めて。
井上:あと、ガードルにパッドを入れる、というのも聞くよね。
まきこ:うんうん。それに補正下着で締めるとこは締めないと、お腹出てる人もいるし、ウェストニッパーとか使って整えるというのは必要ね。
井上:しんどいなあ。
まきこ:でも、FTMもナベシャツとかいって、胸締め上げるのとかあるんでしょ。
井上:そうやね。
まきこ:それで、だぼっとしているのを着るのは、実用目的もあるわけね。
井上:だぼっとしたの着てたら、尻のライン隠せるねん。FTMってお尻気にするところってあるねん。
まきこ:それはMTFもガードルはいてパッド入れて、お尻は膨らまして股間は押さえ込むけど、パンツルックというのはすごく難しい。MTFでパンツルック着こなせるというのはすごく上級者で、初心者ほどスカートはきたがっているというのも、その辺かも知れない。スカートの方がパスしやすいから。
 それから、これはちょっと言っていいことかどうかわからないんですけど、スカートはくのはTVだというのがあって、TSの人とかフルタイムの人ほどスカートはかない、というふうに言う人もいるんですよ。私は必ずしもそう思わないけど、その辺、もともとは技術的な難しさから来た話、と思ったりして。
 加えて言えばね、MTFのはフェミニストの人から、女性特有の服を着たがって、ステレオタイプを強化している、という攻撃をされるわけだけど、
井上:かまへんやんなあ(笑)
まきこ:でもスカートとかで女らしく作っていかないと、典型的な女性に見えず怪しまれるというのがあるし、どっちかわからないというのが見る人にとって一番不安なわけで。その辺って難しく言えば性別二元論というんだろうけど、男性か女性かどっちかになりきらなあかん、という点ではしんどい思いしてるわ。

まきこ:ところで、最近ユニクロってあるでしょ。フリースとかすごく流行ってるけど、あそこが「ノンエイジ、ノンセックス」とかいうコンセプトで売っていて、男性か女性か区別しない服装って出てきてるやん。それはなぜかといえば大量生産・大量販売のためで、ジェンダーフリーみたいなのとは全然関係ないと思うんだけど、そういうものに対して、トランスする上でどういう風に思うかな。避けるのか、着るのか、井上さんの場合はどうかな。
井上:僕はユニクロって店、近くにないから行ったことがなくて。無印良品とかGAPとかみたいな?
まきこ:そうそう。ユニクロはGAP真似してるからね。
井上:GAPの丈夫で天然素材で、というのがすごく好きで、そういうのはOK。特に、男性とか女性とか問うてなかったらOK。でも、ボタンの付け方が女ボタンやったら、絶対着ない。女性型やったらとまどう。
まきこ:私について言えば、女物でも右前の男ボタンの服というのはあるわけで、そういうのを着てる女性もいるわけだけど、その辺は私もこだわりもってるかな。で、ズボンとかも?
井上:違うよね、ジーパンのメンズとレディス。形のつくりが違う。この頃立体裁断方式になってるから、女性のものはお尻に丸みが出るし、男性には男性の骨格に合ったような。
まきこ:素材からして違う。女性のものはストレッチ素材とか入ってて。
井上:違う。柔らかさが違う。
井上:でも、思うんやけど、みなさんパンツのはき方って間違ってらっしゃるんやないかなって。
まきこ:それ、MTFについて?
井上:両方。わかってる人もいると思うんやけど、パンツはな、男は骨盤で、女はウェストではくねん。
まきこ:そうそう。サイズの取り方も違うもんね。
井上:だから、女性ものはすごく丈が深いねん。男性ものは丈が短いねん。そこを一番最初の頃、僕は間違ってはいてて、思い切り上まではいてたから、Yの字型が見えててん。で、いとこの兄貴が、男は腰でズボンはくからな、と言われて、あ、そうか、と思ったんやんか。だから、ペニぐるみ(ペニスの模型)とか使うのもいいんやけど、ちょっとずらしてはくと、股間にゆとりができるねん。その点、MTFの人に関しては、やっぱり腰ではくべきやね。
まきこ:一番初心者の頃だけど、レディスのパンツって何でこんなにサイズ小さいんやろうって思ったんやけど、女物は腰で測って、男物は骨盤で測るから、10cmくらい差があるわけね。男物の80が、女物の70なんですよ。
井上:それにガードルとかで締めてしたらもう少し小さいのはけるし、女性特有のY字型ができるし。それにさ、人っていろんな細かいとこ見ていくやん。その人が男の人か女の人かわからへんかったら、特徴的なもの見つけようとするやんか。そういうところでボロを出さないため、必要なことってあるよね。
まきこ:話を元に戻して、ユニクロとかのカジュアルね、入門したての時って、そういうところから恐る恐るレディースのセーター着てみるとかさ、私自身そうだったし、そういう人多いと思うけど。
井上:今やったらそういう風なのが、逆にナチュラルかもね。
まきこ:それで、ある程度進んできたらいかにも女性的なものを着て、逆にもっと進んでフルタイムになると女性としてそういう中間的なものを着るというか、ユニクロに始まってユニクロに終わるというか。
 ただ、ジェンダーフリーだから着るとか、そういう意識はとりたててなくて、やっぱり個人の好みとして、似合うか似合わないかかな、とも思う。


ファッションとコミュニティ

井上:ところで、MTFの場合、いわゆる女装への入り方ってどんな感じなんかな。
まきこ:どうかな。でも私の入り方って、今でもかなり特殊だと思うんですよ。というのは、MTFの場合はコミュニティが確固としてあるわけで。「エリザベス」とかの商業的な女装クラブというのがあって、以前はほとんどがそうだったし、今でも過半数の人がそうだと思うし。そういうところで恐る恐るデビューするのが普通じゃないかなあ。ある程度年いって、20代後半過ぎてからトランスしようとする人は、そういうところから始めるのがほとんどだから。
 ただ、今は通信販売もあるし、最初に言ったとおり普通の店でも比較的自由に服を買えるようになってきてるから、女装クラブからデビューするという人はだんだん減りつつあるのかな、という気がする。コミュニティについても、女装クラブに行かなくてもインターネットとかのメディアで情報交換とかできるし、直接ネイティブ女性のコミュニティに入っていくという人さえいるしね。
井上:僕もぱらぱらって立ち読みするけど、ファッション雑誌って強いやん。そういうのを参考にして?
まきこ:そうそう。昔は「くいーん」とかの雑誌からしか情報が得られなくて。今でもある程度の人はそうなんだけど。ただ、今は一般の女性向けの雑誌で勉強している人が増えてきてるから。そういう意味で、一般の女性向けの店で服買えたりとかは、ここ10年くらいの変化で、蔦森さんの「男だってきれいになりたい」あたりからの変化かな、と思う。コミュニティ自体もオープンな感じになってきているし。
 逆にちょっと上の世代の女装コミュニティにいる人からは、逆に女装クラブ固有の文化がなくなりつつある、という嘆きも聞こえるの。最近の若いMTFはナチュラルすぎて、おもしろくないって。もう少し言えばね、オミズ系とか、女学生とか、和服とか、女装コミュニティにはそういう定番の服装というのが延々と受け継がれていて、一般のネイティブの女性の流行というのとは独立した世界だったんですよ。流行で着飾るという人はもちろんいるわけだけど、そういう自足した文化があって、それがだんだんなくなりつつあるのかな。
井上:なるほどね。で、FTMの場合は、そういうコミュニティなんかは、僕の知る限りないんやんか。僕初めてスーツ着たの、オナベバーでやったんやけれども、日常の服の隠し方とか学ばへんかったし、ナベシャツこそはもらったけれども、でも全部あげてしもた。それ以前から僕は男性もの着てて、男性ものの専門店に買い物に行ってたから、自分なりに考えたよね。お手本はネイティブ男性。
まきこ:FTMの場合、ほとんどがインディーズというか、自分で試行錯誤しながらやってるの?
井上:それぐらいしかないんちゃうの。ないもん、ほんとにそんなの。
まきこ:MTFについても、もっと中学生くらいからトランスし始めたような人はね、普通の女の子と同じように生活したいというのが先にあるだろうし。女装クラブってすごくお金かかるわけで、そういう人は行くわけないから。今言ったのは、ある程度収入ができてからトランスしようとするMTFについて言ってるわけで。


TV/TG/TSの境界線−服装をめぐって

井上:今まで話聞いてて思ったことは、TV・TG・TSという分け方ってすごくあいまいやと思って。だって、TSの人でもTV的要素を持ってたりとか、TVの人でもTS的要素を持ってたりとか、TGの人でもTV・TS的なところがあったりとか、いろんな要素の相互関係でアイデンティティが作られていて、ひとつの分類では割り切られへんようになっている。ジェンダー・アイデンティティレスという状態は既に起こっていると確信したんやけどね。
まきこ:そうね。TSの人、つまり身体違和が強くて手術まで考えている人でも服装にこだわりを持っていて、TV的な要素のある人というのはいっぱいいるし、TGでも服装自体にはこだわりなくて、社会的役割に違和感が強い人というのもいるし。だから、ほんとにその人のアイデンティティというのは、服装とか、身体違和とか、社会的性別違和とか、いろんな要素を変数にした連立方程式を解くようにして決まっていると。
井上:フェチから入ってTSまでトランジットする人と、逆にTSになろうと思っててホルモン投与まで受けたけど、結局トランスせずにゲイ男性に戻ったりとか、そういう人もいるし、また、いろんなものを複合的に持っていて、一言で何といえない人もいるし。
まきこ:それは服装に対する態度にも現れていて、MTFだから服装にこだわりがあるとも一概に言えないし、MTFがフェティッシュだということも一概に言えないし、FTMが服装に関心ないとも言えないし。それにFTMが男らしさを強調してMTFが女らしさを強調しているというのにも、実は実用目的からであって、必ずしも傾向とはいえなかったり。
井上:男らしさを強調する、という意味もないとは言えないと思うんやけど、でもそれって過渡期やと思う。過渡期の人って、男らしさとか女らしさとか強調するやん。普通の若い子とかもいろいろ体験したいし、トランスも一緒だと思うんですよ。一部の人はそれをすごく悪く言うでしょう。僕はそれはおかしいと思う。だって、ネイティブ男性でも女性でも、過度に男性的または女性的なふるまいをして、イニシエーション的なことを体験する、そういうのを経験して男性または女性になっていく、ということがね、まさにトランスの中でも起こりうるんだ、ということ。だから、それを特別視しないで欲しいということ。
 で、100人データとって集めたとしても、何にもおもしろくないと思うねん。それは、統計としてこういう傾向がある、ということはいえると思うけども、僕はもっと個人のバリエーションを大事にしたいと思ってて、服装についていえば、10人いたら10人ばらばらの服装をするのと同じように、性同一性障害も10人いたら10通りの性同一性障害があるんですよ、と言いたいです。それはネイティブ女性にもネイティブ男性にも言えることだと思います。
まきこ:裁判所に改名申請に行くとき、デマかもしれないけど、MTFでミニスカはいて女らしくして行った方が通りやすいと、まことしやかに噂が流れているけど、そういうのはやめてほしいね、と思う。
井上:でもさ、裁判官をこちらの術にはめてしまうのには、有効なやり方ではないの? 政治的にはあんまりよろしくないことだけど。
まきこ:まあ、そうだけど。でも、社会全体を見渡してみても、アイデンティティの揺らぎというのが感じられてて、ネイティブ男性とかでもひたすら髪の毛を短くしたりして、自分の男性アイデンティティを守ろうとしている人もいるし。フェミ男君とか出てきた反動として、そういうのが出てるでしょう。トランスでなくても、服装というものを通してみただけでも、みんなアイデンティティを模索しているんだな、というのがわかる気がするね。その中でユニクロのジェンダーレス・ファッションみたいな逃げ場というのがあって、ブレークしているのかもしれない。みんなが自分の服を着るだけの情報量も持っていないし、服を着るということはある意味、自己表現としてすごく決断力がいることだから、それをしないという選択もあるのかな、と思う。
井上:ぜーんぜん服装に関心ない人もいるよね。どうでもええみたいな。
まきこ:そういうのネイティブ女性で増えてへんかなあ? ネイティブ男性はもともとそうやけど、おっちゃんとか。
井上:おっちゃんとか何とかしろよ、って感じよなあ(笑)。自分で洋服選べへんやつおるやん。でもわかるねん。今、情けないと言ってやろうと思ってんけど、自分を振り返ったらそうやねん。僕なんかボロボロのシャツとか着てんねんけど、それをオカンが気を使って、新しいの買ってきたりするねんけど、人のこと言われへん。
まきこ:おっちゃんなんや(笑)。
 セクシュアルマイノリティに戻るけど、ドラアグ・クイーンの人とか気合い入ってるよね。
井上:あの華やかさね、服がすごいやんか。僕もいっぺんあれやりたいねん。
まきこ:ドラアグ・キング?
井上:クイーンの方。ドラアグ・キングなんかしてもおもろない。あんな豪華なことやりたいわよ(笑)。僕がもしホルモンもやって手術とかもしてしたら、MTFTV(?)になると思うわ。FTMTSになって、そこからMTFTV(?)に戻っていくという。
まきこ:ますますわからなくなる。
井上:だから、僕はいろんな人と話ができるというところがあると思う。
まきこ:私も最近自分にTS的なところがあることに気づいて、いろんな人と話ができるようになったな、と思ってるの。自分にもいろんな面があるんだということがわかってきて、これからそういう面をもっともっと大切にして行けたらと思います。
では、最後に一言。
井上:そやな、まず経済的に向上しないと。一旗あげるで。ただいま西暦2000年12月23日、イブイブですね。21世紀に向かって、やはり経済力が必要でございます。
まきこ:私もキャリア・スーツに身を包んで、東京の街を闊歩したいと思っています。
井上:やっぱり夢かなえようね。21世紀、やっぱりやりたいことやらなね。
まきこ:本日はお疲れさまでした。

2000,12,13 大阪市内某所にて
編集:まきこ

初出:『ぽこあぽこ』16号 (G-FRONT関西)

2003年6月追記:この時からお互いの生き方も立場も大きく変わりました。もう軌跡は交わることはないかも知れないけど、ひとつの時に生を同じくしたトランスジェンダーの証として再掲します。

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